- 作者: 天祢涼
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2010/02/05
- メディア: 新書
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2010年、第43回メフィスト賞受賞。同年2月、刊行。
“共感覚”とは初めて聞いた言葉だったが、文字に色が見えたり、音に匂いを感じたりする特殊な知覚現象のことを言う。主人公である音宮美夜は、音を聞くと色や形が見える「色聴」と呼ばれる現象の持ち主で、声の色で何をしようとしているかがわかってしまう。美夜は推定年齢19歳、良家の子女を思わせる雰囲気の美女で、普段の態度もお嬢様らしさが表れている。ただし髪は透き通った銀色で、眉毛も銀色。元超々々エリート官僚だったのに今はその地位を放り出し、全国の捜査に口出しする権限を持った警察庁の矢萩より依頼を受け、私立探偵もどきの仕事をしている。
本作品では、女性を殺して焼却する「フレイム」とマスコミに名づけられた凶悪犯を、幼馴染みをフレイムに殺された高校生とともに追うストーリー。いかにも次の作品がありますよ、といったエキセントリックな探偵を配置するあたりはあざとさを感じるが、その能力が事件の謎に絡んでくるのだから、逆に言えば本格ミステリにもこういう手法を使えばまだまだ色々なパターンを生み出すことはできる、という可能性を見出したところが勝利か。登場人物が少ないため、誰が犯人かという点については面白みに欠けるが、それなりにトリックも使われており、また事件の動機についても聞いたことのないもの、かつ、この探偵役がいたからならではの動機については、よく考えられている。そういう意味では、読んでいる途中は続きが気になる作品である。
正直言って二作目を読みたいかと聞かれると、あまり……と答えたくなるところはある。探偵役の美夜にしろ、矢萩にしろ、わざとらしさが目立つ。もうちょっとすんなりと世界観に溶け込むことができるように書くことができれば、変わった本格ミステリという位置付けを獲得することも可能だろう。