平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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笹本稜平『危険領域 所轄魂』(徳間書店)

危険領域: 所轄魂 (文芸書)

危険領域: 所轄魂 (文芸書)

マンションで転落死と思われる男性の死体が発見された。死亡した男は、大物政治家が絡む贈収賄事件の重要参考人であるという。さらには政治家の公設第一秘書、私設秘書も変死。自殺として処理するように圧力がかかる中、葛木が極秘裏に捜査を開始すると、とある黒幕が浮かび上がってきて……。葛木父子の所轄魂が真実を炙り出す!(帯より引用)

『読楽』2015年6月号〜2016年6月号連載。加筆修正後、2017年6月、単行本刊行。



城東署刑事組織犯罪対策課の父・葛木邦彦と、キャリア警察官である息子・俊史が事件に挑む「所轄魂」シリーズ第4作。本作では、俊史が警視庁刑事部捜査第二課理事官に着任し、大物政治家が絡む贈収賄事件を追う。

互いを信頼し合っている二人が頼もしい所轄魂シリーズだが、本作品では贈収賄事件が絡むということもあり、事故や自殺に見せかけた連続殺人事件が起きても捜査本部を開けず、城東署は極秘の捜査を強いられる。毎度おなじみ勝沼刑事局長の要請とはいえ、ここまで権限があるのか、正直疑問なところもある。そのため、捜査が進まず、しかも報告が主体の内容となっており、物語のテンポはだいぶ悪い。その後、捜査一課や福井県警も捜査に加わるものの、県警のやる気のなさが露骨。いくら地元の政治家や企業が絡むとはいえ、ここまで態度に出していいのか、不思議に思えてくる。気骨のある刑事が2人いたからよかったものの、逆にもう少し保身のために警視庁の面々に従うような刑事がいてもおかしくはないと思うのだが。

大物政治家どころか、総理大臣まで手が届くかも、という事件のわりに、携わる人たちが少なすぎる。もちろん二課も捜査しているのだろうが、こちらは全然役に立たない状況。所轄の数人でどんどん事件の真相に迫っていくというというのは、あまりにも都合がよすぎる。もう少し事件の規模を考えてほしいところである。

「所轄魂」という言葉が出てくるが、別に「刑事魂」と置き換えても何の問題がないような内容では、タイトルが泣く。もっと所轄ならでは、という事件にすべきではないか、本シリーズは。