漂流日誌

札幌のNPO「訪問と居場所 漂流教室」のブログです。活動内容や教育関連の情報、スタッフの日常などを書いています。2002年より毎日更新

関係数学者

■先週の土曜日、杉本さんと二度目の対談をした。前回は自分のことばかり考えたので、今度は杉本さんについて振り返ってみる。

■杉本さんは他人との「関係」をなにより優先する。それは連立方程式を解くのに似ている。自分(x)と相手(y)の適切な関係を満たす解を求めなさい。なので、変数が増えれば増えるほど計算は困難になる。そんなときは、xとy、yとz、のように場合分けしたらいいと思うのだけど、杉本さんは自分の変数(x)が不適切なのだと判断した。自分が消えれば式が成り立つ。中学時代、大学時代の対人恐怖症のエピソードを聞くとそう思う。

■ひきこもり名人の勝山も実に他人に気を遣う。「関係」を重視するのは、ひきこもる人に共通の思考なのかもしれない。そうして増え続ける変数の無間地獄におちいる。そこで勝山は「名人」という定数を発明して、自分の位置を固定した。俺が自分を「普通」と決めたのと似ている。(勝山のもうひとつの名前が『ひきこもりブッダ』なのが面白い。逃れられぬ『関係』の輪廻から解脱したわけですよ、きっと)

■なので杉本さんも早く定数を決めたらいいのに、と思うのだけど、一向にその気配がない。相変わらず自分変数(x)を含めた連立方程式を解こうとがんばっている。不思議に思って見ていたけれど、きっとそれが好きなんだと気づいた。俺が自分のなかを掘っていくのが好きなように、杉本さんは周囲との「関係」から最適解を見つけるのが好きなんだろう。数学者だったんだな彼は。

■もしかすると、『ひきこもる心のケア』は、杉本さんが公式を得るための試みだったのかもしれない。解けなかったのは変数(x)が不適だったわけではなく、前提にある公式を知らなかったからなのじゃないか。10人の専門家からあらためて公式を学び、もう一度問題に取り組もうとしている。対談からそんなことを想像した。


■曇り空の札幌。気温が上がり、つもった雪がぐちゃぐちゃになっている。大きな通りは走れるが、路地に入ると車が埋まる。明日からはまたしばらく雪らしい。余市行きが少々大変だな。

■いつも静かな金曜日は利用者がふたり。ひとりはピアノを弾き、もうひとりはスマホでなにかを読んでいる。夜には宴会。