2011-11-03
年金改革案:高所得者200万人の保険料アップ
厚生年金保険料見直し案のイメージ 厚生労働省は31日の社会保障審議会年金部会に、給与が高い人の厚生年金保険料をアップする案を示した。現在は月収60万5000円以上の人はいくら収入が高くても保険料は一律だが、この上限を健康保険と同じ117万5000円に引き上げる。現在上限にいる人は全体の6.2%、約213万人。保険料増となる人は200万人程度とみられ、本人負担分は最大月に5万円近く上がる。負担に応じて増える将来の年金額は、給付抑制策も併せて検討する。
また同省は、産休中の女性の厚生年金保険料を免除する案も提示した。現在は子どもが3歳になるまでの育児休業期間中を免除しているが、これを産前・産後の休業中にも拡大する。ともに来年の通常国会への関連法案提出を目指す。
厚生年金の保険料は、月収とみなす30段階の「標準報酬月額」に保険料率(現在16.412%、労使折半)を掛けて算定する。月収23万〜25万円の人の標準報酬月額は「24万円」。一方、月収60万5000円以上はすべて「62万円」とみなし、本人負担の保険料は5万877円となる。
上限の収入を117万5000円に引き上げると標準報酬月額は「121万円」となり、保険料は9万9293円にアップする。これにより保険料収入は将来3000億円程度増えるといい、増収分を年金財政立て直しなどに充てる。
上限額の保険料を40年間納めた人の受給額(単身者)は、今の月23万9000円から40万4000円に増える。ただし、「現役時代の所得差が老後に引き継がれる」として、負担増に応じてアップする給付分は増加幅を抑えることを検討する。
一方で、同省は厚生年金の適用をパート労働者にも広げ、月収の下限10万1000円未満を8万3000円未満に下げることも検討している。
このほか、遺族基礎年金を父子家庭にも支給する案も検討課題に挙げた。【鈴木直】
毎日新聞 2011年10月31日 20時25分 更新:11月1日 1時52分
厚生労働省:標準報酬上限の引上げについて(第5回社会保障審議会年金部会 資料2)
年金保険料負担について標準報酬月額引き上げが検討されています。社会保障審議会年金部会の資料では次のような論点が上げられています。
・標準報酬月額の上限を引き上げることで、負担能力に応じた保険料負担を求めるという応能負担の考え方を強めることについて、どう考えるか。
・厚生年金における標準報酬月額の上限が健康保険より低いのは、厚生年金の場合は、納付された保険料に応じて将来給付が決まることから、現役時代の所得格差を年金支給にそのまま持ち込まないようにするとともに、公的年金として過剰な給付水準にならないようにするという目的もあることを、どう考えるか。
・後世代の負担が可能な、公的年金としての適正な給付水準とすることを一つの目的として標準報酬月額に一定の上限を設けているが、標準報酬月額の上限を引き上げる際に、米国の年金制度のように、高所得に対応する部分(引き上げ対象部分)について、給付への反映を小さいものとすることについてどう考えるか。
これらは、標準報酬月額上限引上げの「論点」というよりも厚生労働省が実現したがっている政策願望というべきものです。したがって、次のように言い換えることも可能です。
・標準報酬月額の上限を引き上げることで、負担能力に応じた保険料負担を求めるという応能負担の考え方を導入したい。
・厚生年金の標準報酬月額の上限を健康保険と同等にするが、現役時代の所得格差を年金支給にそのまま持ち込まないようにするとともに、公的年金として過剰な給付水準にならない ようにしたい。
・標準報酬の上限は引き上げるが、米国の年金制度のように、高所得に対応する部分(引き上げ対象部分)について、給付への反映を小さくしたい。
・標準報酬月額の上限引き上げる際に、金額は給付に反映しない方法をとるようにして、年金財政にとって増収効果を大きくしたい。
要するに、標準報酬月額の上限を引き上げて保険料の増収を図り、給付はできるだけ抑えるようにしていきたいという厚生労働省の願望を「どう考えるか」と言い換えて表現しているわけです。
厚生年金の保険料について、標準報酬月額の上限設定は、負担の逆進性を強める要因になっていたことはしばしば指摘されてきたことです。現在の標準報酬月額の上限は62万円に設定(平成12年に59万円より引き上げ)されており、それ以上の所得がある人でも62万円を超える所得については保険料を徴収しないという仕組みになっています。この意味での逆進性をなくすには、標準報酬の上限を撤廃するしかありませんが、社会保険方式をとる限りそれは極めて困難です。この保険料の上限は、同時に年金給付額の上限に連動するからです。
公的年金制度である以上、受け取る年金額が現役世代の所得の程度によって無制限に高くなるというのは一般的に支持されるものではありません。豊かな老後を享受したければ、一定以上の給付は私的な年金保険に任せるべきだというのが常識的な意見でしょう。したがって、標準報酬月額の上限設定は、所得の再分配機能を前提とする社会保障の一つである公的年金制度には必要なものだと考えることができます。しかし、すでに述べたように標準報酬月額の上限設定は、保険料負担の逆進性を強めるということになり、そもそも公的年金制度を社会保険方式で運営することは矛盾をはらんでいたということでもあります。*1
厚生年金を社会保険方式で運営することはこのような矛盾があり、これを是正するには公的年金制度を社会保険方式ではなく税方式に改めることですが、これは厚生、共済、国民の公的三年金制度の一元化とセットにして構想するべきことで大改革につながります。しかしながら、厚生労働省も政権政党である民主党も、今そのような大改革に踏み切るエネルギーも考えもなさそうです。だから、年金財政を少しでもマシな状態にするために標準報酬月額上限の引き上げを主張しつつ、引き上げ対象部分については年金給付に反映させないようにしたいと保険料負担の引き上げと給付抑制を厚生労働省は提案してきたのです。標準報酬月額上限の引き上げについては公的年金制度の抜本改革の先送り策と評価しておきましょう。*2
*1:社会保険方式は医療保険のようにリスクの分散には適合性はありますが、年金のように負担と(長期間の)給付が連動する制度には本来的に不向きだと見るべきでしょう。ただ、医療(健康)保険のような短期給付については上限を撤廃して医療保険の財源を集めても差し支えないように思われます。
*2:標準報酬月額の引き上げについて付け加えておきます。厚生労働省が提案している標準報酬月額を健康保険並みに引き上げ、その引き上げ対象部分に関しては給付の反映を小さくすることは、社会保険方式の矛盾をできるだけ小さくする工夫でもあります。厚生労働省の提案は社会保険方式のもとで所得再分配に最大限に配慮したものでもあります。無論、厚生労働省の意図は保険料の引き上げと給付抑制に集中していると思いますが・・・。
