大分 不動産屋の弁護士法違反 最高裁

宅地建物取引業の弁護士法違反 事例

理由
被告人両名の弁護人笠原静夫の上告趣意は,憲法違反,判例違反をいう

点を含め,実質は単なる法令違反の主張であって,刑訴法405条の

上告理由に当たらない。

所論にかんがみ,職権で判断する。

原判決及びその是認する第1審判決の認定並びに記録によれば,本件の

事実関係は,次のとおりである。すなわち,不動産売買業等を営むA社

(以下「A社」という。)は,ビル及び土地の所有権を取得し,

当該ビルの賃借人らをすべて立ち退かせてビルを解体し,更地にした上

で,同社が新たに建物を建築する建築条件付で土地を売却するなどして

利益を上げるという事業を行っていた。

A社は,上記事業の一環として,本件ビルを取得して所有していたが,

同ビルには,74名の賃借人が,その立地条件等を前提に事業用に各室

を賃借して,それぞれの業務を行っていた。

土地家屋の売買業等を営む被告人B社の代表取締役である被告人Cは,

同社の業務に関し,共犯者らと共謀の上,弁護士資格等を有さず,

法定の除外事由もないのに,報酬を得る目的で,業として,A社から,

本件ビルについて,上記賃借人らとの間で,賃貸借契約の合意解除に

向けた契約締結交渉を行って合意解除契約を締結した上で各室を

明け渡させるなどの業務を行うことの委託を受けて,これを受任した。

被告人らは,A社から,被告人らの報酬に充てられる分と賃借人らに

支払われる立ち退き料等の経費に充てられる分とを合わせた多額の金員

を,その割合の明示なく一括して受領した。

そして,被告人らは,本件ビルの賃借人らに対し,被告人B社が同ビル

の所有者である旨虚偽の事実を申し向けるなどした上,賃借人らに不安

や不快感を与えるような振る舞いもしながら,約10か月にわたり,

上記74名の賃借人関係者との間で,賃貸借契約を合意解除して賃貸人

が立ち退き料の支払義務を負い,賃借人が一定期日までに部屋を

明け渡す義務を負うこと等を内容とする契約の締結に応じるよう交渉

して,合意解除契約を締結するなどした。

所論は,A社と各賃借人との間においては,法律上の権利義務に争いや

疑義が存するなどの事情はなく,被告人らが受託した業務は弁護士法

72条にいう「その他一般の法律事件」に関するものではないから,

同条違反の罪は成立しないという。

しかしながら,被告人らは,多数の賃借人が存在する本件ビルを

解体するため全賃借人の立ち退きの実現を図るという業務を,

報酬と立ち退き料等の経費を割合を明示することなく一括して受領し

受託したものであるところ,このような業務は,賃貸借契約期間中で,

現にそれぞれの業務を行っており,立ち退く意向を有していなかった

賃借人らに対し,専ら賃貸人側の都合で,同契約の合意解除と

明渡しの実現を図るべく交渉するというものであって,立ち退き

合意の成否,立ち退きの時期,立ち退き料の額をめぐって交渉において

解決しなければならない法的紛議が生ずることがほぼ不可避である案件

に係るものであったことは明らかであり,弁護士法72条にいう

「その他一般の法律事件」に関するものであったというべきである。

そして,被告人らは,報酬を得る目的で,業として,上記のような事件

に関し,賃借人らとの間に生ずる法的紛議を解決するための法律事務の

委託を受けて,前記のように賃借人らに不安や不快感を与えるような

振る舞いもしながら,これを取り扱ったのであり,被告人らの行為に

つき弁護士法72条違反の罪の成立を認めた

原判断は相当である。

よって,刑訴法414条,386条1項3号により,裁判官全員一致の

意見で,主文のとおり決定する。

裁判長裁判官宮川光治

裁判官櫻井龍子

裁判官金築誠志

裁判官横田尤孝

裁判官白木勇


東京高裁 平成19年4月26日判決 原判決取消 請求棄却

1 事案の概要

Xは、会員を募り競売物件の情報提供等を業とする会社であり、Yは

建設請負業等を営む会社である。競売の対象となった本件土地付建物

は、建物は債務者Aが所有し、土地は債務者Aと第三者Bの共有と

なっていた。Bの土地持分についてのAの利用権原は不明であった。

建物の占有者としては、競売による買受人に占有権原を対抗できる

賃借人C及び引渡命令の対象となる6名の者がいた。

YはXの会員となって、本件土地付建物の競売についての情報提供を

受け、平成13年2月に4億5000万円で裁判所の売却許可決定を

受けた。同月、Xとの間で、次の内容の「明渡し業務請負契約」を

締結した。

① Xは、占有権原をYに対抗できない6名の占有者と明渡し交渉を

行い、本件建物から退去させる。

② Yが本件土地の共有物分割請求訴訟を裁判所に提起するにつき、

その準備を行い、Yに訴訟代理人となる弁護士を紹介し、訴訟を円滑に

遂行させる。

③ YはXに対し報酬として2100万円(消費税込み)を支払う。

6名は平成13年7月までに退去し、Yは同年1月及び6月に、

Xに対し報酬として700万円ずつを支払った。

また、YはCとの間で「建物明渡に関する和解書」を同年10月に

締結し、Cに460万円を支払った。

他方、YはXから紹介を受けたP弁護士を訴訟代理人として本件土地の

共有物分割請求の訴え(訴訟1)を提起し、平成14年4月に本件土地

の競売を命ずる判決が確定した。

ところが、この判決に基づきYが申立てた競売手続において、

平成15年6月にDが本件土地の買受人となり、同年11月、Yを

相手取って建物収去・土地明渡を請求する訴え(訴訟2)を提起した。

YはP弁護士に訴訟2の遂行を委任し、平成16年4月、

YがDに5650万円を支払って土地を買い戻すことで解決した。

同年12月、YはXに、報酬残額700万円から、競売申立費用の一部

として69万円余、訴訟2に係る弁護士費用200万円及び本件土地の

所有権移転登記申請費用60万円を控除した残額を支払った。

Xは、Yに対し、報酬額の未払い分の支払を請求する訴えを提起した。

2 判決の要旨

第一審はXの請求を認容したが、控訴審は、次のように述べて原判決を

取り消し、Xの請求を斥けた。

①「明渡し業務請負契約」に基づくXの行為の弁護士法第72条本文

該当性Yは、Xの代理人として、本件建物の明渡しに関する交渉を

行い、明渡しを内容とする和解を成立させ、また、Yが本件土地

(共有地)の分割請求訴訟を提起する準備を行い、弁護士を紹介して

訴訟を円滑に進行させ、約定の報酬の相当部分の支払を受けたもので

あるから、Xの行為は弁護士法第72条本文にいう「報酬を得る目的で

訴訟事件、非訟事件(中略)その他一般の法律事務に関して(中略)

代理、(中略)和解その他の法律事務を取り扱い、又はこれらを

周旋すること」に当たる。

②Xの行為の業務性

Xの会員となり、Xから関東圏での競売物件の詳細記録の提供を受ける

顧客はYに限られるものではなく、複数の会員が存在する。

また、Xが提供した競売対象物件に関する情報に関し、当該物件に興味

を覚えた会員からXに対し照会があった際に、Xが自己の実績を宣伝

しつつ当該物件の占有者の排除を請け負うまでの行為の態様は、Xが

行っている会員制の競売情報提供システムと密接な関係があり、また、

Xが入手した競売対象物件に関する情報に基づき自ら買受人となって

占有者の排除を行うというXの業務とも密接な関連性、同質性がある。

よって、Xは反復の意思をもってYとの「明渡し業務請負契約」に

基づく法律事務の取扱い等をしたものであり、それゆえに業務性がある

というべきである。

③弁護士法第72条に違反する契約の無効性YがXとの間で

「明渡し業務請負契約」を締結して前記の行為を行ったことは、

弁護士でない者が、報酬を得る目的で、業として、弁護士法第72条

本文所定の法律事務を取り扱い、その周旋を行ったことに当たり、

同条本文に違反するといわざるを得ない。X−Y間の本件契約は、同条

違反の法律事務の取扱いの根拠となるものであり、本件契約を有効と

することは、同条本文に違反する行為が繰り返されることを是認する

ことに他ならない。

したがって、本件契約は、同条本文に違反する事項を目的とする契約と

して民法第90条により無効というべきである。