野村総一郎 メディア用語としての"新型うつ病"のその後 (特集 臨床現場から見た精神疾患の変貌) 臨床精神医学 45(1), 37-42, 2016-01
中島は日本人に備わっていた「徳」(善や正義をつらぬく人格的能力)と「仁」(おもいやり, いつくしみ)が失われたことを指摘する。幼少児期には誰でも自己愛的なものだが,大人に成長してそれを克服し,徳や仁,忍耐を身に付ける。しかし,そのプロセスが現代人に欠如し自己愛が肥大したこと,自分の外からストレスがやってくる,という外在化の考え方が強くなり,自助能力が低くなったこと,などを指摘し,総体として日本人の精神力が弱まったことを原因の1つ(後の2つは精神病理学の衰退と,SSRIを中心とした薬物療法中心主義)としている。これは非常にストレートな言い方であるが,「よく言ってくれた!」と膝を打つ人も多いのではなかろうか?
中島の「日本人の精神力が弱まった」に野村総一郎は「よく言ってくれた!」と膝を打ったようだが、これでは、100時間働いて身体の調子が悪くなった人を「心が弱い」と言っているのと同じである。あまりにもひどい言いようである。
そもそも日本人の精神力が弱まったエビデンスでもあるのだろうか。
昔の日本人には徳や仁があったというのは、近年の右翼的な言動である。徳が「善や正義をつらぬく人格的能力」であり、その能力が日本人にあったならば、昔の日本人は東アジアの国々を相手に戦争をして、人殺しなどしなかったと思うのだが。それとも東アジア人はおもいやり、いつくしむ対象ではなかったのであろか。
- 作者: 中嶋聡
- 出版社/メーカー: 新潮社
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