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ibaibabaibaiの日記

2010-07-14

院生のための算数入門(2) 線形性

[mixi 2007-06-10]

A=Y/Xという1あたりの量を考えたときに,いちばん便利なのは,Aがいつも一定で,一般のx,yに対して.

   y = f(x)= A×x

という比例関係(正比例)にある場合である.この場合,yをxに対してプロットしたグラフは直線になり,Aはその傾きということになる.

上の式が成り立つとき,A×(x1+x2)=A×x1+A×x2だから,

f(x1+x2)=f(x1)+f(x2)

となり,xをyにうつす関数fは「入力が和になれば出力も和」という性質がある.これを線形性という.

線形性は広く成り立つ性質である.「ものの値段が同じなら,買った量と価格は比例」「速度が一定なら時間と移動した距離が比例」などの,「 」の中の文章の条件部分を仮定して計算することは,日常的に行われている.

これをもっと一般化して,「重ね合わせの原理」を自然現象を理解する手がかりにしよう,と考えたのは,ヘルムホルツだといわれている.彼は海のさざなみを眺めていて,それぞれの波が独立に振る舞い,互いに通りぬけることを見て,これに思い至ったという.

異なる向きの2本の光線がお互いに通りぬけたり,周波数の違うラジオが交じり合わないのも線形性の例である.

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線形性が強調されるのは,線形でない現象もまた日常の中に沢山あるからである.沢山まとめてものを買えば安くなるのが普通だし,品薄になるほど買えば逆に値上がりするだろう.速度はもちろん早くなったり遅くなったりする.

「波」でも,脳や心臓の細胞が興奮してできる電気的な波は,ぶつかるとそこで消えてしまったり,時には,くっついたり,跳ね返ったりして,通り抜けて何事もなく出てくるのはむしろ例外である.

* * *

線形でない現象が沢山あるのに,線形性が重要なのはなぜか.

いくつか理由があるが,まずひとつは,一般には線形ではないが,ある局所的な部分,わずかの変化に対する応答に関しては線形性が近似的になりたつことが,よくあるからだ.

価格の表は,しばしば購入量ごとに区分的に変化するように作られているし,「瞬間速度」という概念もある.

ヘルムホルツの見たさざなみは海面の僅かな上下であった.荒海の巨大な三角波はもはや線形理論では説明できない.北海油田のリグを打ち倒したのはまさにこの種の波であるという.

神経パルスの存在やその形は線形の理論では説明できないが,それに微少な外力を加えたときに安定かどうか,は線形の範囲で理解できる.

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こうしたことを議論するために作られた枠組みが「微積分」である.微分とは局所的な正比例の式(線形近似)を作るための手順であり,積分あるいは微分方程式の求解とは,それをつなげて全体像を得る手段である.

よくいわれる「微分とは接線の計算,積分は面積の計算」というのは間違いではないにしても,それだけでは十分意味がわかるとはいえない.

高校以降も勉強を続けていくうちに,明示的に,あるいは実例から,「微積分⇔線形近似」ということを学べた人はよいが,入試の「共通接線の下の面積を求めよ」で終わってしまったのでは,微積分を学んだ甲斐がなく残念である.

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線形近似,局所線形化は微積分で終わりかというと,必ずしもそうではない.

たとえば,株の値段のグラフのようなものは絶えずぎざぎざしていて,どの部分を直線で近似したらよいのかわからない.複雑な海岸線や雲の境界線なども同じである.

これらでは,特定のスケールの局所線形化だけでは不十分で,ぎざぎざの「ならし方」ごとに答えが違うことになる.こうした側面に興味を持つのが,ブラウン運動とかフラクタルとか,そういう研究である.

また,こうした例でもそうでない例でも,雑音や誤差を考慮した上で,有限個の点から良い局所線形近似を計算するのは,自明なことではない.たとえば「再生カーネルを用いてデータから微分係数を推定しました」というような研究報告は,とても最先端のように聞こえるけれど,まさにそういう問題を扱っているのである.

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算数は小学校,微積分は高校,線形性は大学教養,フラクタルは娯楽用で,データからの微分の推定は業務用,という風に分けて考えると,すべてはばらばらになってしまう.しかし,こうやってまとめて眺めれば,一貫したものがあることがわかる.