タイトルは以前から知っていましたし、もしかしたら読んだこともあるかもしれませんが、昨年のクリスマスに友人が話題にしていて、今年のクリスマスはあたらしい絵とあたらしい文の絵本も出版予定とのことなので、この旧版を読んでみることにしました。
作者は画家のアンソニー・ヴァン・ダイクとは別人です。
「最悪にあまんじているよりは、せめて最善の影でも追うほうがましだ。不思議を見ようとのぞむ者は、しばしば、ただひとりで旅する覚悟をしなければならない」(p.24)。
拝火教の高僧が主人公に語った言葉。たとえ影であろうと幻であろうと、最善を追い求め、世界の根底にあるもの、すなわち、真理を求める旅は、わたしたちにも求められていると思います。影には、陰だけでなく、光の意味もあるのですから。
「信仰と愛情とのいたばさみになったときの、あの困惑」(p.53)。主人公は、探し求めているものに出会えば奉げようと、全財産を三つの宝石にして携えますが、道中出会った苦しむ人びとを支えるために費やしてしまいます。
それは、けっして「愛」「慈しみ」という言葉の表面にあるうつくしさだけではありません。自分の一部を削って人を支えようとするとき、わたしたちには「いたばさみ」や「困惑」がつきものなのです。言い換えれば、愛情とは、喜びやきれいな心だけでなく、このふたつをも含むものなのです。それが語られているように感じ、かえっておだやかな気持ちになりました。
なお、一緒に収められている「最初のクリスマス・ツリー」では、キリスト教以前のヨーロッパの宗教への蔑視が見られ、残念です。「もう一人の博士」では、反対に、(ユダヤから見て)東方の宗教への敬意を示しているように感じたのですが。