2011年、印象に残った本10冊

2008年
2009年
2010年

以下、順不同(今年読んだ本で、今年出た本ではありません)。

どうして羽生さんだけが、そんなに強いんですか?

タイトルからしてよく許されるなという感じで、棋士たちが梅田望夫さんをここまで受け入れて率直に本音を吐露していることに驚いた。

ウェブ時代をゆく』でVantage point(その分野の最先端で何が起きているのかを一望できる場所)に立てと説いた、まさに将棋におけるVantage pointに立って、その光景をキャッチーに一般の人に翻訳する梅田さん文章は、力強く魅力的だった。

深浦さんが語っている研究の弊害という話を始めとして、『ウェブ進化論』から一貫したテーマのその先も語られている。


『どうして羽生さんだけが、そんなに強いんですか?』を読んだ。 - あいうえおかの日記

FREEDOM フットマークデイズ

FREEDOM フットマークデイズ 1 (1) (ガガガ文庫)

FREEDOM フットマークデイズ 1 (1) (ガガガ文庫)

タマフル構成作家でおなじみ古川耕さんによる全3巻のジュヴナイル(日清カップヌードルCM「FREEDOM」のアナザーストーリーということらしい)。

後書きに書いている「あらゆる可能性を否定しないという態度」「年を取るのも案外、悪くないものよ!」という古川さんの暖かい目線がにじみ出ていて、最高だった。

個人の自由と社会の利益が対立するときに、正面から正義を競うだけでなくてハックするという道があるというメッセージがぐっときた。

主人公の恋人が声を出すことができない設定なのだけど、男にとって女の子とはつまりそういう存在で、ほんとうのところ何を考えているのか、一緒にいて自分が楽しかったり安らぐのと同じように感じてくれているのか、つかめなくて勝手にオロオロさせられてしまう存在だと思う。

パニッシュメント

パニッシュメント (ガガガ文庫)

パニッシュメント (ガガガ文庫)

文化系トークラジオlifeでも紹介され話題を呼んだらしいライトノベル

信じるとかすがるということについて、とことん突き詰めて露わにしている。

同時に登場人物たちが生き生きした甘酸っぱい青春小説で、ラストは甘すぎる着地ともメタ構造とも読めると思うけど、おれは単純に感動した。

それが何でかは分からないし、中二病的だという自覚はあるけれど、自分にとって代替不能で、その人がいないと/それがなくなると生きていけないような存在を作ってしまうのがすごく恐い。夢でも仕事でも好きなミュージシャンでも。

だから実生活では手にすることのない瞬間だと思うんだけど、だからこそかこの小説のラストみたいな終わり方は好き。

自由を考える

自由を考える―9・11以降の現代思想 (NHKブックス)

自由を考える―9・11以降の現代思想 (NHKブックス)

2003年に出版されている東浩紀さんと大澤真幸さんの対談本。

たとえば大学構内に監視カメラを設置してほしいということを学生が訴えて、大学側がそのことを嘆いているという話が、大学時代にあった。

「自由」とは、まず最初にそれが奪われているという感覚があって、その反対物として想定される概念

大学構内で監視カメラに常に監視されているなんてことほど閉塞感を感じることはない。

だけど、監視カメラによって奪われる自由とは何だろうか?

実際のところ今の日本で、監視カメラの設置によって学問の自由が奪われる事態は考えにくい。

構内でセックスする自由か、就職活動のときに実態の学生生活とは異なることをESに書く自由か。それが奪われるというなら、監視カメラの録画は暗号化されていて犯罪が起こったとき以外は誰も見ることができない仕組みにしよう。

それでは教室で飲酒喫煙する自由か、はたまたノートパソコンを盗む自由か。そんな自由は禁止されて当たり前である。

そんなふうにどんな自由が奪われているのか?と考えると禁止されるのが当たり前のことしか挙げられないような、単にセキュリティ強化のための(多くの場合情報処理技術を活用した)管理を「空間管理型権力」と呼ぶらしい。

そんな権力に対してどう違和感を表明することができるか、そんなことが書かれている本。

哲学の誤読

哲学の誤読 ―入試現代文で哲学する! (ちくま新書)

哲学の誤読 ―入試現代文で哲学する! (ちくま新書)

大学入試の現国の問題で扱われた哲学の文章を丁寧に読み解き設問を改めて考えてみる本。

出題者、解説者、この本の著者自身、そして取り扱っている文章の執筆者の誤読に焦点を当てながら、時間論や実在論反実在論という視点を紹介している。

2〜4章での時間論と実在論の説明や各文章の対照が極めて分かりやすく、知らなかった考え方を明確に獲得したような読後感だった。特に永井均「解釈学・系譜学・考古学」の解説は圧巻。

アンアンのセックスできれいになれた?

アンアンのセックスできれいになれた?

アンアンのセックスできれいになれた?

1970年生まれで女性のためのアダルトショップを経営する著者が、同じく1970年創刊のアンアンを読み返し、自分の半生を重ねながらその変遷を振り返っていく。

自由を希求し、自らの欲望を等身大に語る女性像を提唱してきたアンアンが、90年代後半にセックスに「愛」を求め始め、自己啓発やカレとの関係を深めるためのお仕事、「アンアンのセックス特集(笑)」に至ってしまうまで。

その変遷の理由を解き明かすことができなくても、語り合い違和感を表明することが肯定され、そのための言葉を獲得すること。3.11以降という文脈で読まれるべき本があるとするなら、『アンアンのセックスできれいになれた?』なのではないかと思った。

暇と退屈の倫理学

暇と退屈の倫理学

暇と退屈の倫理学

おれはこういう本を読みたいから本を読んでいるのだ!

退屈とは何か?

パスカルは「人間の不幸はどれも部屋にじっとしていられないがために起こる。部屋にじっとしていられないから熱中できる気晴らしをもとめる。そして、欲望の向かう対象が本当に欲しいのだと勘違いする。欲望を引き起こした原因(部屋にじっとしていられないこと)はそれとは別だというのに。」と言い、ラッセルは「事件(今日を昨日から区別してくれるものであれば不幸であっても構わない)が起こることを望む気持ちがくじかれたもの」と言ったらしい。


学生時代からご多分に漏れず「なんかおもろいことないかなー」と何をしてもいいのに何もすることを見つけらず、でも行動を起こせない自分にとって、「退屈」をはるかにくっきりした解像度で考える視点と、退屈の素晴らしさを教えてくれた。

大学院を出る時に自分の学生生活を振り返って一生懸命文章にしようとしていた問いが何だったのか、その問いにどう向きあっていくことができるかが書かれていて、『脳はなぜ「心」を作ったのか』を読んだとき以来の衝撃だった。

「退屈」を題材に様々な哲学者を紹介してくれる本でもあり、人間が定住を始めたときにゴミやトイレの問題と同じように退屈を回避するという問題が生じたというように定住革命に繋げたり、人間は環世界を相当な自由度をもって移動できるから一つの環世界にひたっていることができず退屈するという話、ハイデガーの退屈論の回収の仕方などわくわくさせられっぱなしだった。

佐々木敦さんの『未知との遭遇』ととても相性がいい本だと思う。

「批評」とは何か?

(ブレインズ叢書1) 「批評」とは何か? 批評家養成ギブス

(ブレインズ叢書1) 「批評」とは何か? 批評家養成ギブス

佐々木敦さんが行った批評家養成ギブスという全十回の講義をまるごと書籍化した本。

佐々木さんが説得的であるということをとても重視していること、『未知との遭遇』につながる問題意識が納得できた。

「書く側が「結局、読み手がどう思うかは読み手次第だから、でも俺はこう思ってるんで同意してくれなくても別にいいよ」っていうのは、これはもう最悪の独善的なあり方」として、他人に価値判断のプログラムをインプリンティングしてしまいかねない、って書いている。

たとえばわれわれがある表現と出会ったとき時に「こういうことを言おうとしてるんだな、こういう意味だったんだな」という還元を行った後に出てくるものは、ものすごくシンプルなことなのね。それはすごく単純なことなんだけど、そんな単純なことがいつのまにか色々と面倒臭いことになってゆくのが人生だったり世界だったりするのだから、それを語るために、ものすごく複雑で手の込んだ方法論が必要なってくるのだと思うのです。

ならば何故そんなにややこしい手の込んだ方法論で、それを語らなきゃいけなかったのかということの方を考えなきゃいけないと思うんです。

メタプログラミングRuby

メタプログラミングRuby

メタプログラミングRuby

今年勉強会に行くようになったきっかけになった、はじめて参加した読書会で読んだ本。

メタプログラミングのテクニックに特化しているというよりは、ベースになるRubyの理屈や思考法が中心に書かれていて、語り口もとても読みやすかった。Ruby楽しい!プログラミング楽しい!!ってなる、入門書の次に読むには最適な1冊だと思う。

フィッシュマンズ 彼と魚のブルーズ

フィッシュマンズ---彼と魚のブルーズ

フィッシュマンズ---彼と魚のブルーズ

故・佐藤伸治のいちばん間近で取材をし続けた川崎大助さんによるフィッシュマンズ評伝。

自分もフィッシュマンズを追いかけながら90年代を世田谷の喧騒の中で過ごしたような。いい映画を見た後のように、自分だけ置いていかれたように感じた。そしてやっぱりずっと音楽を聴いていたいと思った。

『フィッシュマンズ 彼と魚のブルーズ』 - あいうえおかの日記