市民のための名古屋市会を! Ver.3.0

一人の名古屋市民が「地域委員会制度」「減税日本」に対する疑問をまとめるサイトです。(since 2011/3/3)

真・庶民革命(1)革命の鳴動

 (この文章は創作です。創作ですが出来うる限り事実に即して描いております)


 平成23年(2011年)4月25日午後11時すぎ、名古屋市東庁舎2階にある会議室から2人の男が退室してきた。会議室の重厚な扉を閉めると、廊下は人影もなく静まり返っている。二人を照らすのは足元の常夜灯だけ。それでも内一人の人物の顔色が悪い事は見て取れるかのようだった。減税日本ゴヤ団長、則竹勅仁市議である。もう一人は減税日本ゴヤの幹事長、舟橋猛市議。則竹団長は力なく舟橋幹事長に切り出した。
「どうしたら良いですか?」
 舟橋は一瞬たじろいだ。先ほどの則竹団長の発言は、落としどころの準備も無い発言だと理解したからだ。この期に及んでそんな不用意な発言を団長として語ったのかと、いささか呆れ気味に則竹団長の顔を見据えていた。


 遡る事約一か月前、名古屋市会はいわゆる「リコール解散」に伴う出直し選挙によって新たな議会が構成された。リコールを唱導した河村市長の率いる「減税日本」は名古屋市会全75議席の内、28議席を獲得し、単独過半数には届かなかったものの、堂々第一会派の地位を占めた。

 改選時の各会派の議席数は、自民党:19、公明党:12、民主党:11、共産党:5となった。

 3月24日に召集される市議会は異例の日程で組まれていた。
 というのも、従来、名古屋市会と愛知県議会は同時に選挙が行われていたが、リコールによって名古屋市会だけ先行して選挙が実施された事で、名古屋市会の選挙後、初の議会の日程中に愛知県議会議員選挙が行われる事となったからだ。(4月1日告示、10日投開票)その為、3月25日に市長所信表明が行われるものの、代表質問は県議選終了後の4月12日まで先延ばしされた。


 減税日本の市会における新会派「減税日本ゴヤ」は、この期間を利用して、自らの「3大公約」の一つである「議員報酬半減(800万円)」の実現に向けて、条例案を作る事となった。

 減税日本ゴヤは団長である則竹市議を除いて27名が全て一年生議員である。

 既存政党はこの素人集団がどのような条例案を提出してくるか、手ぐすねを引いて待っていた。

 この出直し選挙において、選挙の争点は議員報酬になってしまっていた。そのため選挙期間中、既存政党の議員の中にも「市民がそのように望むのであれば私は報酬800万円でも結構だ」と「公約」してしまった者も散見された。その上、その議員報酬半減を公約として掲げた減税日本が第一党となるに及んで、議会全体に「どのような形になるにせよ、一旦は議員報酬を半減、800万円にしなければ市民の理解を得られないのではないか」という空気が支配していた。
 とはいっても既存議員にとって議員報酬半減、800万円という数字は現実的な数字ではない。とても真面目に算出した数字とは考えられなかった。既存政党の会派内には、この非現実的な800万円という報酬額に対する強硬な反対意見も根強くあった。
 年間報酬額が800万円となると、条件にもよるが手取り月額は30万円を切る事となり、家賃や人件費を払って事務所を開設している議員などにとっては、その事務所費にも満たない金額になりかねない。本音で言えばここで減税日本ゴヤ条例案作成に手間取ったり、法的手続きで失敗してくれれば「減税日本ゴヤの所為で議員報酬半減が実現できなかった」ことになる。

 こうした背景から、既存政党にとって、減税日本ゴヤの提出する条例案への注目度は、いやがうえにも高まった。

 この条例案作成を担当したのが、一年生議員の中でも変わり種。現役大学生だった玉置市議(市議団幹事)だった。玉置市議は近畿大学から名古屋大学法学部に編入して、市議当選時には現役の名古屋大学4年生だった。彼は市会事務局の法制係と打ち合わせを重ね、既存の条例に対する「一部改正」案を作成した。

 既存政党の各会派はこの「改正案」に驚いた。

 この「改正案」であれば、このまま成立しかねない。思った以上にちゃんとしたものが出来上がってしまったからである。そして成立してしまえば「議員報酬800万円」が現実のものとなってしまう。


 既存政党は揺れた。既存政党の中には選挙の際に「私は議員報酬半減、800万円でも結構です」と明言してしまった者もいる。そう明言した以上、減税日本ゴヤが議員報酬改正案を提出した際に、それを無碍に否決できない。否決すれば「選挙の時には報酬半減を飲むと言っておいて、いざ改正案が出れば否決に回った。二枚舌だ」と言われかねない。
 また一方、一部議員は「私は選挙の時にはそんな約束はしていない、そもそも議員報酬800万円で活動が出来るわけがないじゃないか」と猛烈に反発し激論となった。
 素人集団である減税日本ゴヤの作成した改正案「どこかに齟齬でもあれば、それを理由に否決してやる」とまじまじと眺めながら知恵を絞っていた。



 3月17日、名古屋市東庁舎4階、減税日本ゴヤ臨時控室。市議会開催に向けて団会議が開かれる。一面をしめる窓からは太陽の光がいっぱいに差し込み、軽く汗ばむほどの暖かさだった。重厚なつくりの事務机が楕円に並べられている。A(架空の減税日本の市議)は机の上に自分の名札を発見すると、供えられた椅子に深々と腰を掛けた。椅子は少々使い込まれているものの体を自然に包むように違和感がなく、その重厚な革張りの感触とも相俟って座っているだけで心を浮き立たせる。事務机の上には革製の書類マットが敷かれている。Aはその表面をなぞってみた。しっとりと滑らかな肌触り。ここに座っているだけで市会議員という仕事の重さと、その地位の高さが判るような気がしてくる。
 全員が席について思い思い談笑している。数人の記者が一人の議員を囲んでなにやら話し込んでいる。議会事務局の職員が忙しげに歩き回ってなにかの書類に確認を求めている。それだけではない、開かれた市会を標榜して、傍聴を自由にした減税日本ゴヤの団会議には、Aもリコール運動などで顔を見知っている一般の市民、支援者が傍聴に訪れている。

 「はい、時間も過ぎましたので、団会議をはじめたいと思います」楕円の一番奥まった席に座っている則竹市議が声をかけた。背広を脱いで白いシャツになっている。議員と話し込んでいた記者や支援者たちが会話を打ち切り壁際に移る。一通り則竹市議から挨拶や当選のお祝いなどの話があって、団としての役員を選ぶという議題が出された。「それで、この中の団長はこの僕にお任せいただきたいとお願いしたいのですけどよろしいでしょうか」座がざわついた。「投票じゃないの?」「代表が・・・」ざわつきの中でもこういった単語が耳に入る。「わたくしとしては、よろしいんじゃないかと思います。一年生議員ばかりの中で、議員経験をお持ちなのは則竹さんだけなのですから、則竹さんに団長をお願いする事は順当な事だと思います」突然ひときわ通る声で発言があった。Aの位置からでは発言者の顔は判らなかった。しばらく間をおいて則竹市議が「如何でしょうか、特に異論がなければ、よろしいですか」パラパラと賛同の拍手らしきものが起こり、なんとなく則竹市議の団長就任が承認された形となった。「つきましては」則竹団長が発言を続ける。「他の役員に関しましても、団長一任という事で決めたいと思います、が・・」これにはよりいっそう座がざわついた。一人の議員が手を上げている、則竹団長が議員の名を呼び、発言を促した「私は則竹団長には賛成ですが、すべての役員を団長一任で決定するというのはいかがなものかと思います。他薦、自薦による投票を提案します」発言につづいて「そうですよ」「投票にしましょう」などと声が上がる。
 Aの隣に座っていた議員がAに話しかけてきた「Aさん、則竹さん、団長を押し付けられたって知ってます?」Aは興味深げにどういうことか聞いた。「則竹さんね、本当は議長をやりたかったらしいんですよ。議長は第一会派から出すのが慣例だそうで。議長というのは外遊するときなんて、国賓級の扱いらしいですよ。ファーストクラスでね。それに議長だと給料も違うそうで」「それで代表におねだりしたらしいんですよ。議長にしてくれって、そうしたらダメだって。議長というのは公式行事も多いので、団になかなか居られないそうなんですよ。議長室、2階にあるんですけど。そこにこもっていなくちゃいけないんだそうで。代表としては則竹さんに一年生議員の面倒を見させたいから、議長はダメだって。否定されちゃったそうですよ」
 会議はそれぞれが思い思いに勝手に話し始めて進行しない、則竹団長まで隣の議員となにやら話し始めている。やがて則竹団長が立ち上がった「わかりました、わかりました。すいません。ちょっとよろしいですか」ざわめきが収まる「皆さんがおっしゃることはよくわかります。ただ、今回当選した皆さんは、まだお互いをご存じない方が多い」なにやら野次が飛んだ「そりゃ、確かにそうですけど。みんながみんなではありませんから。あまりご存じの無いどうしで投票とかやってもむつかしいのではと思います。それに僕も、団を引っ張るという経験も初めての事ですので不安です。せめて主な役員は僕に選ばせてください。それ以外は投票という事にしましょう」一人の議員が立ち上がって発言した「それで、どういった役員があるのですか?」

 Aも、言われてみれば、そもそもどんな役員があるのか判っていなかった事に気が付いた。




 さあさあ、平成は23年。庶民革命を標榜し、議員報酬半減という、未曽有の大難題に立ち向かった素人集団。

 この議員報酬半減条例を成立させることができるのか。
 果たして、庶民革命は成立するのか。

 この大難題の行く手を阻む、最大の障害とはなんであったのか。

 次回、「真・庶民革命」第二回「幹事長、辞表提出!」にご期待ください!