ビヨンドtheシー

ichinics2005-03-19
ケヴィン・スペイシーが監督、製作、主演すべてを勤めた入魂の作品。
50年代後半〜60年代に渡って活躍したポピュラー歌手ボビー・ダーリンの生涯をファンタジーの要素を交えて描いたミュージカル作品です。
映画のコピー?に「スタイルを変え続けるボビー」というニール・ヤングの言葉が添えられているように、ボビー・ダーリンはロック(現在で言えばオールディーズ風の)〜ジャズボーカル(ポピュラー寄り)〜スィング〜カントリー、フォークという感じに遍歴は多岐に渡っている人です。シナトラを目指していた、という描写が映画にもでてきますが、私のイメージではシナトラはアダルトなイメージなので、ボビーはそれよりもスィングが軽快で、楽しい音楽をやる人。無知を承知でいうならダンスの神様フレッド・アステアや「雨に歌えば」のジーン・ケリーみたいなイメージです。ちょっと時代がずれていますが、歌って踊れるエンターテイナーという意味では共通しているのではないでしょうか。さらにボビーは作曲もします。良い歌が多い。今回使われた音楽の中ではやはり「As long as I'm singing」が良かった。
わたしは再放送のエド・サリバンショーなんかでしか動くボビー・ダーリンを見たことは無かったのですが、この「ビヨンドtheシー」を見て、似ていない(と私は思う)はずのケヴィン・スペイシーが時折ボビー・ダーリンに見える瞬間があってどきどきしました。明らかに年齢が合っていないことも迫力で乗り越えている感じ。
ボビーの妻となるサンドラ・ディーを演じるケイト・ボスワースもとってもかわいい。ブルークラッシュの人だって気付きませんでした。
しかしとにかくケヴィン・スペイシーがすごい。歌って踊っています。長年あたため続けた企画というだけあって、全編ケヴィン尽くしの映画です。ちょっとでずっぱりすぎる感じもしないでもないけど、それより自分で歌ってるケヴィンにびっくりしました。とってもうまい。そして軽快。

自分でも変だとおもいますが、恥ずかしいことに、私はこの映画を見ながらほとんどずっと泣いてました。基本的に映画見に行くとたいてい泣いてしまうんだけど、今日は一人で見に行ったので思う存分泣いた。一般的に言えば、「ビヨンドtheシー」はいわゆる「泣ける」映画ではないと思います。ボビーの生涯にはいろいろヘビーなことも起こりますが、この映画でスポットが当てられているのはむしろ音楽の「楽しさ」。15歳までしか生きられないと言われていたボビーが音楽に目覚めるシーンは特に素晴らしかった。私が泣けたのはそのあたりの「音楽っていいよね」という描写たちです。だいたい、私は天才の自らに厳しいが故の我がまま、不遜な態度、そしてその底にある純粋さ、みたいな話にとことん弱い。昔衛星放送で見たジュディ・ガーランド物語を見た時も目がはれるくらい泣いてました。
ラスト近くに、ヒッピーのような容貌でボブ・ディラン風のフォークを演奏し、観客に受け入れられなかったボビーが、妻の「人は観たものを聴く」という言葉に啓示を受け、かつてのエンターテイナーとしての容貌のまま自らが作ったプロテストソングを歌い喝采を浴びる、というシーンがあります。「見た目が大事なんだ」と受けとりたくなる箇所ですが、監督が言いたかったこと、そしてボビー・ダーリンが目指したことは、自分の本当に伝えたいことを表現する為のプロセスとしての「見た目」だったのではないかと思いました。それをわかりやすい形でパッケージしてあげることで、その先に理解が生まれるなら小さなことにこだわらず行動してみるべきなんだ、とか。
とにかく目指す者に向かってひた走るボビー・ダーリン像はすてきでした。ちょっとわざとらしい演出も多いけど、いいや。