6年前

昨日Fiona Appleの新譜について書いた時に、6年前に「真実」が発売された時のことをまざまざと思いだしたと書いたけれど、思いだしついでにちょっとその頃のことを書いてみたくなった。ので書く。
その頃、私はある町のレコード屋さんで働いていた。レコード屋といっても、中古レコードから新譜CDまで扱っている店だ(といえばだいたい限られてしまうけど)。
「真実」が入荷された日の朝、友人の1人がふらりと店にやってきた。東京のアパートを引き払ってこれから実家に帰るということで、最後の挨拶に顔を見せてくれたのだった。文明の利器を毛嫌いしていた人で、携帯もパソコンも持っていなかったから、住所を聞こうとメモを取り出したら、島の名前と名字を書いて送れば届くから、と言う。
「ほんとに?」「ほんとに」「じゃあ手紙書くよ」「うん」「最後に何か買ってけば?」「おすすめある?」「じゃあこれは」そんな感じの会話をかわして、結局私が無理矢理プレゼントする形で渡したのがあの赤いジャケットの「真実」だった。
そしてそれきり、その人はどこかへ行ってしまった。実家には帰らなかったらしい。別の町で見かけた、という話を聞いたことがあるけれど、それも本人かどうかわからない。
誰にも行き先を告げないで、人がいなくなるということが、どのくらい起こりうることなのかはよく分からないけれど、何かトラブルがあった訳ではなさそうなので、無事でいるならいいなと思う。

しかしあれからもう6年も経ったんだ。あの人も今頃は文明の利器に抵抗もなくなり、パソコンや携帯を使ってるかもしれない。そしたら、何かを検索したついでに、私の書いた文章を目にすることもあるかもしれない。6年ぶりの新譜を聞きながらそんなことを考えてたら、なんか不思議だけど、面白いなと思った。