Born In The U.K./Badly Drawn Boy

Born in the UK

Born in the UK

1stアルバムの個人的で濃密な空気は薄れたものの、そこに漂う親密さはかわらない。EMI移籍第一弾となる新作は、Badly Drawn Boyことデーモン・ゴフの名を広く知らしめた名作「About a boy」のサントラあたりと地続きにある、甘く、柔らかな影のあるポップソング集。彼が良質のメロディ・メイカーであることを再確認できる。
もちろん、タイトルを見れば、ブルース・スプリングスティーンの『Born In The U.S.A.』へのなんらかの思いが込められているらしいことがわかる、し、実際BDBスプリングスティーンのファンなのだそうだ。が、私は恥ずかしながら未だにスプリングスティーンの音楽を聞いたことがない(どこかで耳にしてはいるだろうけど)。世代の問題かもしれないし、ただたんに盲点だったのかもしれないけど、これはなんというか、いち音楽好きとしては、世界史未履修とかいうくらいの空白なのかもしれない。ボスと呼ばれてるらしいというのは知ってるけど。そんくらいだ。すみません。
なのでそことの関連性についてはわからないのだけど、この「Born In The U.K.」というタイトルを冠し、青空よりも曇り空の似合うアルバムに込められているのは、彼の中に連なるイギリス的なる音の系譜、なのだと思う。タイトル曲「Born In The U.K.」のイントロにエルガー「威風堂々」が使われてるところからしても。*1
とはいえ「The Long Way Round」とかを聞くと、カート・ベッチャーやLeft Bankeなどアメリカのソフト・ロックを彷佛とさせるし、それはつまり、こういうことなのかなだと思う。

Then you see the union jack
and it means nothing
but somehow you know
that you will find your own way
it's a small reminder every day
that I was born in the UK
「Born In The U.K.」

ちょっとコステロっぽい「Degrees Of Separation」とか、リフレインが美しい「Without A Kiss」とか、すきだ。

*1:ところで「威風堂々」は、昔「小公子セディ」の中の悲しい場面で使用されていたのを切っ掛けに、私にとって泣きのスイッチを入れる曲になってしまった/悲しい曲ではないんだと思うんだけど/でもどんなシーンだったか思い出せない

 食べる幸福

私にとっての幸福は、満ち足りる状態の、一歩手前にあるような気がする。もしくは、幸せだということに気付かない状態。
食事の準備が楽しい、食事中も楽しい、食べ終わってからもまだ楽しい気分は続いている、が、数時間もたてば忘れたり、もの足りなくなったりする。
食事の幸福は、目の前の幸せに夢中になっているからこそ、「今幸せか?」という自問なんて行わない状態のことだと思う。終わる、と意識したときから、それは過去の幸福になって、また次のそれを待つニュートラル状態に入る。
その「夢中」を幸福とするのなら、空腹か満腹かはただ通過する状態でしかなく、その間にある漠とした状態の中の、食材を手に入れたり、おいしそうな匂いを嗅いだり、最初の一口を切り分けるときの、なんかこう可能性のようなものが見えた瞬間が、もっとも幸福の感じに近いんじゃないかなと思う。
もちろん「○○に比べたら、よっぽど幸福だ」なんていう言葉は、不幸(もしくは幸せではない状態)と比較してどうかという話なので、私自身の幸福と重ねて語るべきではない。不幸が「幸福でない状態」だとしても、幸福は「不幸ではない状態」ではないのだから、自分は自分の知っている幸せ以外について語ることはできないのだと思う。

参考:(http://d.hatena.ne.jp/./michiaki/20061126#1164517162