虚虚実実――ウルトラバイバル

森下礼:環境問題研究家、詩人、エッセイスト。森羅万象、色々な事物を取り上げます。元元は災害に関するブログで、たとえば恋愛なども、広く言えば各人の存続問題であるという点から、災害の一種とも言える、と拡大解釈をする、と言った具合です。

天才作曲家は、女性にはいないのか?


ジェンダーと芸術・科学シリーズ その1(音楽)

ジェンダー:gender:社会的、文化的意味づけされた男女の差異・三回シリーズ)


女性の社会進出は、近代国家なら必須の話題ですが、天才女性小説家、天才女性詩人とかは、日本にもいました。紫式部和泉式部金子みすずなど。でも、天才女性科学者、天才女性作曲家については、ほとんど聞きません。でも天才女性科学者には、コワレフスカヤマリー・キュリーなどはいて、皆無ではありません。彼女たちは稿を改め書くことにして、この稿では天才女性作曲家をテーマにします。


 動物の世界を見渡すと、求愛のときに鳴くのは、たいていオスです。ロメオはジュリエットのために歌を歌いますが、ジュリエットはそうしません。はなはだ乱暴な論理展開ではありますが、人間も、男が鳴くのが普通なのでしょう。女性はその曲を聴いて、評価する立場なのかも知れません。


 でも、「天才女性作曲家」でググると、大物にあっさりヒットしました。

ブーランジェ,リリー (フランス)
(1893.08.21〜1918.03.15) 享年24歳 

二十世紀初めの、フランスの天才女性作曲家リリー・ブーランジェは、117年前の8月21日に
パリで生まれた。

幼いころから病弱で、主に個人レッスンで作曲を学び、十代の終りごろから作品を発表していた。

若い芸術家の登龍門のローマ大賞を受賞したのは19歳のときで、音楽部門で女性に
大賞が授けられたのはこれが最初だった。

父エルネストも1835年に受賞している。

大賞の歴代受賞者にはベルリオーズビゼードビュッシーらの名がならんでいるが、ラヴェルが、何回も落選したときは大騒ぎになっている。

リリーは2回目の挑戦で射止めた。

彼女は悪化する病気(クローン病:腸の重い病気)と闘いながら作曲活動を続けたが、快復することなく24歳という若さで世を去った。

美しく、魅力的な人柄で、自然と動物を愛し、敬虔なカトリックの信者だった。

ローマ大賞を受賞したカンタータファウストヘレネ」は彼女の代表作といえるもので、壮麗な音楽である。

遺作となった「ピエ・イェズ」は死の床で作曲し、姉ナディアが口移しに書きとったものだが、
短い曲ながら不思議な和声と神秘的な美しさをたたえた傑作である。


6歳年長の姉もすぐれた作曲家だったが、妹の死後は筆を折って、リリーの作品の紹介と
若手音楽家の教育活動につとめた。
コープランドバーンスタインピアソラら多くの音楽家が彼女のもとから育っている。

http://okamo22.ydiary1.nazca.co.jp/2010/diary_20100821_01.html


ローマ大賞というのは、芸術におけるフランスの先輩、イタリアに、フランスの有望な芸術家を4年間留学させるという制度で、はじめは、建築、彫塑、絵画が対象だったが、のちに音楽を加えた4分科において実施されたものです。有名なラヴェルでさえ、この審査に何度も落ちたことがあるほどの狭き門だったのです。ただ、これに合格したから「天才」というわけにはいきませんが、彼女の曲は際立っていたとのことです。音源が入手できないので(図書館、CDレンタルショップamazon、ユーチューブ、ニコニコ動画、等、いろいろ調べてみましたが、リリーの曲にはたどり着けませんでした)、私には彼女が天才かどうかは、解りませんが。まあ、上の引用に名の出てくる男性作曲家は、天才揃いですね。彼らに伍しているからには、才能は確かにあったのだろうと推測するのみです。


彼女の場合、一般的な女性作曲家より恵まれていた一面があります。ブーランジェ家は、まさしく音楽一家で、リリーの活動に有利なように機能し、彼女が「女性であるがための差別」を受けないで済んだということが重要です。ただ、彼女の持病は、彼女のその後の作曲家としてのキャリアを無残に奪ってしまったのです。


 今手元に「女性作曲家列伝」(小林緑:平凡社)という本がありますが、大抵の女性作曲家は、まず社会の「女性が作曲をするのは間違っている」との陋見(ろうけん:歪んだ見かた)によって差別されます。


そしてなにより家族がその音楽活動の妨げになるのです。「お前は、妻として、私の作曲家活動を支援せよ」という感じの男性作曲家が多いのです。アルマ・シントラー=マーラーの亭主グスタフ・マーラーとか、クララ・ヴィーク=シューマンの亭主ローベルト・シューマンのように。全然封建的な態度です。あるいは、ファニー・メンデルスゾーン=ヘンゼルの弟フェーリックス・メンデルスゾーンのように。ただ、家事と作曲活動を両立させたアガーテ・バッカー=グレンダールとか、遠距離恋愛(もしかして偽装結婚)して作曲活動をしたセシル・シャミナードなど、剛の女性もいましたが。この本でも、リリー・ブーランジェは取り上げられていますが、先に述べたように家庭的には作曲活動を妨げられない環境にいて、その点は有利だったかも知れません。


 実に、天才女性作曲家の出現を阻んだのは、「家族」といっても良いでしょう。



今日のひと言:・・・とはいえ、リリー・ブーランジェとかセシル・シャミナードエセル・スマイスとか、日本なら幸田延とか言った名前を知っているひとはどれだけいるでしょうか。優れていても歴史に埋もれてしまうほど、近代社会は女性作曲家に冷たいのだと思わずにはいられません。


女性作曲家列伝 (平凡社選書 (189))

女性作曲家列伝 (平凡社選書 (189))

今日の一句


ふと見るに
ラベンダー畑
ほとけのざ



ラベンダーも「ホトケノザ」もシソ科植物。通常言う「春の七草」での「ホトケノザ」とは別物です。正式な七草のメンバーは「コオニタビラコ:キク科」です。ただ、このいわゆる「ホトケノザ」には美しい花が咲きます。 (2011.04.05)