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2012-04-29 夏目漱石の「こころ」〜三角関係の恐ろしさ

夏目漱石の「こころ」〜三角関係の恐ろしさ 19:48 夏目漱石の「こころ」〜三角関係の恐ろしさを含むブックマーク 夏目漱石の「こころ」〜三角関係の恐ろしさのブックマークコメント



 この小説夏目漱石晩年の作品で、私は高校で学びました。そしてこれは彼の作品のなかでも飛び切りの光芒を放つものであると思われます。三部構成からなります。「先生と私」「両親と私」「先生遺書」です。


 私は、大学生教養のある人物・・・「先生」と知り合い、懇意になります。私が父の病勢が改まったことを告げられ、郷里に帰っていたとき、「先生」からの分厚い手紙が届きます。それは、「先生」から私に宛てた遺書だったのです。


 以後、「私」とは「先生」のことを指します。「私」は、軍人未亡人妙齢の娘の住む家に下宿するようになりますが、いつしか娘さんを好くようになります。そこへ、世間的には超然としてはいるけど、実生活上問題を抱える親友・Kをも連れてきて、同じ下宿に住むようになります。


 無骨で女っ気のないKが、娘さんに恋心を持つようになるのですが、これは「私」には計算外でした。なんとかしてKを蹴落としたい「私」は策略を組みます。


 以前、Kは「私」に「精神的に向上心のないものは、馬鹿だ」と言ったことがあったので、娘さんに執着するKに

精神的に向上心のないものは、馬鹿だ」

精神的に向上心のないものは、馬鹿だ」


と二度も繰り返し、Kは

馬鹿だ」「僕は馬鹿だ」

もっと早く死ぬべきものを何故今迄生きてゐたのだろう」

つぶやきます。(なんと残酷な・・・)


また奥さんから娘と「私」の結婚話を聞かされたとき

「おめでとうございます」「結婚はいつですか」


・・・などとしゃべったあとのある夜、Kは頚動脈ナイフで切って自殺してしまうのです。


「塗り付けの悪人が世の中にゐるものだとはないと云ったことを。多くの善人がいざといふ場合悪人になるのだから油断しては不可ない」


元来、諸事気の利く「私」だからこそできたKの追い落とし。でもその娘さんを妻にしても一向に気が晴れません。


「妻が中間に立って、Kと私を何処までも結びつけて離さないやうとする」


「私」が自殺することは、Kを欺いたときから決定していたわけですね。それにしても、結婚後常に(その事情で)不機嫌で、妻には何を聞かれても答えないという「私」の態度は、「喜び・悲しみを分かち合う」夫婦のあり方としては常軌を逸しています。これでは「私」が自殺したあとの妻の苦労までは考え及ぶまいとも思います。


なにはともあれ、この「こころ」という作品は、アナトール・フランスの「神々は渇く」やドストエフスキーの「カラマーゾフの兄弟」などと並びうる作品かと思います。世界的な傑作です。



今日のひと言:私も以前、ある女性をめぐってある卑怯な男と三角関係になりました。私は「こころ」の中での「Kと同じ役回り」でした。でも、私は自殺はせずにその男のプライドをズタズタにしてやりました。もっとも痛手も大きく、その三角関係ののち、数年間はノイローゼ人間不信の状態からは抜け出られませんでした。(ここでの私とは筆者・森下礼のこと。)三角関係というのは、当事者の男女に激しく・壊滅的な情動を巻き起こす恐ろしいものなのです。


なお、女性の側から三角関係を清算する行為として、自ら死を選ぶというお話万葉集にあります。求愛するどちらの2人も魅力的でどちらにも靡けないので・・・「自分がいなければ争いは起きないだろう」、という気持ちで・・・

真間山の麓にいたという美少女にまつわる伝説が伝わる手児奈霊園。運命にもてあそばれた美しい娘・手児奈(てこな)は真間の入り江に身を投げたと伝えられ、万葉集にも詠われています。


http://www.plaisir-villa.jp/location/ より。


 ついでに・・・「K」という呼称は、夏目漱石本名・金之助のイニシャルからKとしたようにも思えます。同じように、梶井基次郎の「Kの昇天」に出てくるKというのも、梶井のイニシャルから採られたものかと思います。




今日の一句

f:id:iirei:20120429195250j:image

待ちわびた

今こそまさに

山笑う


山笑う」とは木々の葉や花が開いて春爛漫といった状態を言った季語です。

     (2012.04.28)



今日の愚言


女殺油地獄とは、故・橋本竜太郎さんのこと」。「女殺油地獄」とは近松門左衛門の劇ですが、生前橋本さんは毛髪にポマード(油)をテカテカ光るほど塗りたくり、女性有権者の人気が高かったのです。

     (2012.04.28)

こころ (新潮文庫)

こころ (新潮文庫)

漱石文明論集 (岩波文庫)

漱石文明論集 (岩波文庫)

TpongTpong 2012/04/29 22:49 「こころ」を手に取ったのは高校生の頃だったと思います。
ずいぶんと重く、自分には到底受けとめきれないと感じたことを思い出しました。
馬齢を重ねた今、もう一度頁を捲れば違った印象を持てるのかもしれません。

iireiiirei 2012/04/30 00:07 >Tpongさん
 「こころ」を取り上げられるのは、やはり高校生の時なのですね。確かに重い小説で、自分とは別世界の出来事だと思っていましたが、その「三角関係」の恐ろしさを体験したわが身であるなら、むしろ清々した気分で読むことが出来ました。
 それにしても、高校の教科書に載るような小説は粒揃いですね。ただドストエフスキーが取りあげられた教科書は記憶に残るかぎり皆無ですね(^^;

hatehei666hatehei666 2012/04/30 19:55  有名な「こころ」は長い小説だけあって、精読しなかったのでうろ覚えでした。この機会に図書館で借りてじっくり読んでいます。ちょうど今読み終えたのが、水村美苗著「日本語が亡びるとき」で、これは随分考えさせられるところがあり、近くブログに書こうと思っています。その中に夏目漱石の事が頻繁に出て来ます。英国留学で英語に失望したようですが、水村さんは英語学習の盛んな現在、もっと日本語を学ぶべきだと主張しています。特に「日本の国語教育はまずは日本近代文学を読み継がせるのに主眼を置くべきである」という事を、本の最後で3回も繰り返して強調しています。
 私も小学生が英語の早期教育で無理強いされている事に反対です。やはり日本語の学び(古代から現代まで)を、もっと時間を増やして教えるべきではないかと考えています。

iireiiirei 2012/04/30 20:21 >hatehei666さん
 「こころ」は、日本の小説が極めた頂点の一つと呼べる小説ですね。現代の小説は玉石混交ですが(むしろつまらない作品が多いかと)、評価の定まった作品はどんどん生徒に読ませるべきかと思います。その意味で、私も水村美奈苗さんに共感します。
 英語の早期教育の是非については、私も過去ログで取りあげています。

http://d.hatena.ne.jp/iirei/20070301
 
 なぜ英語を学ぶの?:早期英語教育

子どもに2つの言語を学ばせようとすると、しゃべることはできるようになっても、抽象思考が出来なくなると、市川力さんが力説していた本を元に書いたブログです。

てくっぺてくっぺ 2012/05/01 18:33 こんばんはです。^±^ノ
うちも高校3年の頃読みました。が、あまり好きでなかったですね。
太宰治が人のほうに、夏目漱石は自分自身にナイフを翳したのではないかと思いました。
どっちも翳してるのはナイフだろうと。
そのナイフが嫌だった頃ですね。
最初は太宰治に執心してましたが、読んでいくうちに嫌になってきたのもこの頃です。
青春の多感期でしたからね。^±^…うちにも多感期があったのよ〜
命の尊さが感じられないのが嫌になり始めた頃ですね。^±^;

iireiiirei 2012/05/01 19:23 >てくっぺさん
 なかなかリリカルでロジカルなコメントをありがとうございます。確かに、夏目漱石はロンドンで神経衰弱になるように内向的なナイフの使い方をしていましたが、太宰治は女性を心中に誘うような外向的な使い方をしていましたね。私はこのような太宰は大嫌いですが、世の中にはコアなファンが男性・女性問わずに多いというのが信じられません。どこが良いんだろう、このチンピラの・・・と思います。
 高校生から大学生教養課程の時期は確かにだれでも多感で、この時期に読む文学作品は、一生の感性を支配すると思います。

てくっぺてくっぺ 2012/05/04 02:30 再びこんばんはです。^±^ノ

そうなんですよね。^±^;
太宰は結構小説でも悪いことしてるのを悪びれずに書いてますよね。^±^
酒場で飲んでいて金がないといって仲間を肩代わりにしてそのまま逃げたり。
それを注意したら逆恨みしたりね。^±^
「親友交歓」ですが、相手は親友と思ってないと思います。^±^…思い込みも激しいから救いがないですよね

iireiiirei 2012/05/04 05:42 >てくっぺさん
 太宰といえば、こんな話もあります。左翼運動をしていた太宰、警察から「親元にばらすぞ」と恫喝されたら、一発で運動をやめたのですね。親のすねかじりだったというわけ。小林多喜二の爪の垢でも煎じて飲め、といった感じですね。わがままなボンボンという感想です。

FTGFOPFTGFOP 2012/05/08 00:01 夏目漱石さんは、あの時代の作家にしては、めっちゃ読みやすいので好きです。
でも「こころ」はどちらかというと、あまり好きなほうではないのですが。なんかこういう話が苦手で。
しかし友人「K」で押しきったというのは、ある意味すごいですね。印象的といわれればそうかもしれませんが、記号っぽい感じもして、当時の自分には微妙でした。

iireiiirei 2012/05/08 03:31 >FTGFOPさん
 私の知人の説なのですが、「文体」という意味で、夏目漱石という人の文章は、日本語に口語体を定着させた意味で、画期的だったというのです。その意味で漱石は天才だったという説です。この辺、スゴイ文体でありながら、後の作家に影響を与え得なかった宮沢賢治とは違うということでしたかね。

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