虚虚実実――ウルトラバイバル

森下礼:環境問題研究家、詩人、エッセイスト。森羅万象、色々な事物を取り上げます。元元は災害に関するブログで、たとえば恋愛なども、広く言えば各人の存続問題であるという点から、災害の一種とも言える、と拡大解釈をする、と言った具合です。

日本を観光立国に!〜木村尚三郎教授の立場

私が東大教養課程の学生だったころ、一般教養ということで理科系学生は文科系の講義を、文科系学生は理科系の講義を自由に受けられたのですが、その中でも木村尚三郎教授のヨーロッパを話の中核に据えた講義は極めて興味深く、確か「文明の発達と停滞は、その時期時期の気候によって左右される」というテーゼが印象に残っています。そして、気取ったところがなく、いつか駒場キャンパスの南口の大衆食堂で夕飯を召し上がっていたのを目撃した私は、よっぽど「木村先生!」と声を掛けようかと思いましたが、邪魔しないように黙って食堂をあとにしました。


彼についてwikiでは

木村 尚三郎(きむら しょうさぶろう、1930年(昭和5年)4月1日 - 2006年(平成18年)10月17日)は西洋史学者、東京大学名誉教授、地域経済総合研究所名誉評議員。東京都杉並区出身。専門はヨーロッパ史、特に中世フランスの荘園の研究から出発した。中世史の堀米庸三の門下。


木村教授のことを思い出した私は、図書館から「ヨーロッパ思索紀行」(NHK books:2004年初版)を借りてきて読んでみました。この本は話題が豊富で、付箋を沢山貼り付けてしまいましたが、最終的に言わんとしているのは「日本よ、観光立国をせよ」という主張だな、と思いました。なお、木村教授が亡くなったのは2006年ですから、最後の仕事と言っても良いようなタイミングの本でした。


この本の前半(第1部)では、いろいろな国の評価がなされますが、それは地政学的な視点が絡む考察に満ちています。「アメリカは島国である」「イギリスは厳密にはヨーロッパではない」「島国と半島国の共通点と相違点」などなど。また、「原発は石油の代替にならない」「ITでは未来は見えない」など、現代社会の有様について正確な分析がなされています。


第2部は、木村教授みずからのヨーロッパについての見聞録を披瀝しています。観光という面から見ると、フランス、スペイン、シチリア島(イタリア)などの旅行記が展開されます。それぞれに魅力のある観光地を多く抱えたスポットです。スペインについては第3部でも特別に取り上げられています。


フランスという国は、世界の観光客がたくさん訪れるので有名で、人口5000万人強の国に、年間3500万人ほどの外国人観光客が訪れ、世界一だそうであり、そしてそのフランスでは、どんな片田舎であろうとも、美味しい料理を出すレストラン・ホテルが存在するのだそうです。フランス人は「お・も・て・な・し」の心を持っているのですね。(ちなみに、日本で有名なもてなしのお話「鉢の木」というのはほんとのホスピタリティではなく、破滅型のお話であると木村教授はしています。)日本もこの点を見習って観光立国せよ、ということなのでしょう。日本は外国人観光客でいえば年間500万人だそうです。


20世紀は、アメリカによって代表される島国、ないし男性の時代であったのに対し、21世紀はユーラシア大陸が主役になった女性の時代になるだろうと木村教授は書いています。仲良く、相互交流を盛んにして、楽しみあう時代になるだろう、との考え方をなさっています。そのような人間関係をコンヴィヴィアリテと言うらしいです。グローバルでありながら地域の特質が光るような世界。長年ライバル同士だったフランスとドイツが、双方同根のゲルマン民族であることを肝に銘じ、EUの中核をこの2国で支えるという姿が実に素晴らしいことであるというわけです。


ところで、私が初耳だったのは、木村教授は2005年、愛知県で開催された「愛・地球博」の総合プロデューサーをやっていらしたこと。この万博は、トヨタ自動車を始めとする中京地区の企業連合の自己顕示欲が具現したものだと私は理解していますが、「海処の森」という景勝地を破壊してパビリオンを建て、「環境問題を考える」という逆立ちしたようなコンセプトを持っていたように思います。木村教授は今回挙げた本のなかで、この種の環境破壊についてはなにも語っていません。(この問題に関して、森の開発絶対反対という立場で県議に立候補した女性が、いざ当選してみるや自民党に寝返り開発推進派になってしまったので、この女性を「落選させる会」が結成されたというお話もあります。また、木村教授は平城京遷都1300年記念行事の会」の理事長をするはずでしたが、その前に亡くなられたのです。平城京遷都は710年であったとして、2010年がちょうど遷都1300年だったのですね。)


今日のひと言:なんだか、立派な学者だった木村尚三郎教授も、「愛・地球博」で大きな味噌をつけるようになってしまったように思えてなりません。「先生は、イベント屋だったのですか」と。環境を破壊して、文化もなにもないのでは。彼のやったことを「日本よ、観光立国せよ」という括りで総括すると、私はまったく評価できません。「観光立国」など、国家規模の「水商売」に過ぎないと考えます。




ヨーロッパ思索紀行 (NHKブックス)

ヨーロッパ思索紀行 (NHKブックス)



今日の料理


@オカノリのゴマ和え






オカノリは、我が家の定番野菜、過去ログでも取りあげていますが、

http://d.hatena.ne.jp/iirei/20090604#1244112704

通常の野菜より、4、5倍ほどの時間をかけて茹でると、粘りが出て、お浸しなどで重宝します。今回は塩を混ぜて胡麻和えにしました。

 (2014.10.25)




鶏もも肉オイスターソース炒めシナモン風味





これは以前も掲載しましたが、http://d.hatena.ne.jp/iirei/20140811#1407753957

シナモンで香りづけするあたりが目玉です。

 (2014.10.26)



雲南百薬のケチャップ和え





なんどか取り上げている雲南百薬、弟が作り、ケチャップ、昆布だし、柚子で味付けしました。

過去ログ:http://d.hatena.ne.jp/iirei/20140816#1408185249





@トロ刺しこんにゃく





群馬県下仁田産の刺身コンニャク。一口サイズに薄く整形されたコンニャクが美味です。また、容器がコンニャクを入れる部分と、タレ(芥子酢味噌)を入れる部分に分離していて、食べる方に優しい製品になっています。有限会社 マルサ下仁田蒟蒻製。100円程度。

 (2014.10.29)





今日の二句


朝散歩
タエコにびっしり
イノコヅチ


動物の被毛に種がくっついて運ばれる植物の一つがイノコヅチ。どうやら庭に生えているイノコヅチからもらったらしいです。

 (2014.10.26)




病葉(わくらば)に
身を俏すなり(やつすなり)
雨蛙





雲南百薬の黄色くなった葉のうえに、雨蛙が一匹、その黄色に同化してじっとしていました。

 (2014.10.27)