チーム・バカスタの栄光

外科病棟っていう命の最前線にいるんですけど、
一日の半分くらいを、モタつきながら過ごしてます。

すげー もたもたするー。


「メスー」つわれても、
「あれー?メスー?あれー?
 確かさっきまでそこに置いたのにー、
 あれー、しばしお待ちをー」
ってなる。

「クーパー」とか言われても、
「オーケー、クーパー。(ど、どれのことだっけ・・?)
 クーパー・・クーパー・・。(クーってなって、パーっぽい形のものって・・)」

で、丸っこい大きめの綿棒っぽいものを勘で渡して、
すげぇ雷落ちた。

正解、ハサミだった。

ハサミにはね、子供からお年寄りまで超 親しまれた「ハサミ」っつー
素晴らしい名前があるっつーの。
どうぞ、お見知りおきをー。

なのにだ、気を許すとドクターのやつ、今度は
「コッヘル」
とかね、言い出すの。

コッヘ(る)!?
・・・パン屋さんのことですか?
パン、ぱくついちゃう?いっとく?

って思ったんですけど、えっと、ドクターが思いの外 真顔でしたので、
今度こそ!
つって、綿棒渡しました。
綿棒に続く、綿棒の応酬。


セカンド・オブ・雷。


(怖かった・・。マリオだったら、確実にイッキ減ってた・・)


つーか、正解ね、ちっちゃめのハサミだった。

コッヘルっつー人が、自分の名前、付けちゃってた。
パンの名前とか言って、ごめん。

でも、おめぇの「俺の名前うふふ」っつー茶目っ気で、
何千、何万というナース達が、多分、時代を超えてモタついてっから。

あー、日本人がもっと頑張ってくれれば・・今頃、医療ドラマでは
「シゲル」
「はい」
「タケオ」
「はい」
「マサオ」
っつー息を呑むオペシーンが見られたのに。

なんて、思ってる間も、ドクターは
「コッヘル」つって、
「コッヘル」つって、
おいおいコッヘル大人気だなあ、なんつって感心してると
「ぺアン」
とかね、言うから。

もーね、ペアンって何?
一個もねぇの、日本語の名前?

んで、案の定、モタついてると
「もー綿棒やめてね」
っつー的確なアドバイスが。
危なかった、ちょっと綿棒かなって思ってた。

で、まぁ、探すんですけど。
処置用カートをガサゴソするフリすんですけどね、
心当たり、全然ないわけです。

で、イチかバチか

「あのー・・ペアン・・無いです」

無いです、つってみた。
(私のイメージする)ペアンは無いですって。
パスしてみた。

「ペアン、無いわけ無いでしょ!」

パス、無しだった。

「あれだよ!鉤(こう)が無いやつ!」

思わぬヒントがね、飛び出したんですけどねー、
いやー、盲点。
待ちに待った日本語なんですけど、
「鉤」に対するイメージがね、ほんとね、案外ね、ふんわりしてた。

ここ28年生きてきて、鉤の有る無しをね、判断したこと無いのね。
鉤に触れ合わず生きてきた。

で、まあすげぇガサゴソってたら、ドクターが諦めたように

「じゃあ、もう、コッヘルでいいよー」つって。

いいのー!?
コッヘル先輩、すげー。
コッヘといて間違いねぇー。

つって、渡したんですが、

「あれ、ペアンじゃん、あったの?」

つってね、ペアンね、すげぇ、コッヘル先輩に似てた。双子。


んで、何だかんだで処置も佳境。

「ガーゼ、8つ」

つわれて、

「まかせて」

なんつって、ガーゼをね8つ渡したんですけど。
もうね、渡す早さ風の如し ですよ。
さっきまでのモタつきが嘘のよう。

えっとね、「8つ」ってね、「八折り」のことだった。
「八つに折られた」ガーゼを「一枚」のことだった。

もうね、ドクターの手元、ガーゼ 山盛り。

途中、ドクター「ちょちょちょちょ・・」つってたけど、
私のスゴイ早さに対する賞賛の声だと思ってた。

八枚のガーゼをこんもりさせて、満足げな私に、
ドクターは諦めたように「バブルの頃を思い出した」つってた。

んで、まあ、そのあと、
「セッシ」つって
「セッシ」つって
はいはいはいはい つって気を許してたら、
「ゾンデ」
つった。


ゾンデ――――――!!!


ゾンデっちゃったー!
ゾンデは ねぇよ、ゾンデは。
ぜってぇ、ねぇ。騙されねぇ。
ゾンデは、ひどい。ひどすぎる。やりすぎ。


ゾンデ、あった。普通に。

長細い棒みたいなヤツだった。



で、まぁ、どうにか日々を乗り切ってるんですけど、
右往左往しつつもね、だいぶね、認められてきてると思う今日この頃。

で、今日も、器具を片付けながら思ったんですけど、

コッヘルとペアンはソックリだなあと。

でもね、よくみると、コッヘルには先に爪みたいのがあって、
ペアンにはそれが無いのを発見しました。

あ、鉤ってコレ?

もうね、日々発見、日々レベルアップしちゃってます。

「ペアンは鉤がないから、ほんとハサミにそっくりー。」
なんつー、ツウっぽい発言もね、どんどん後輩に言える。

したら、後輩が
「ほんと、加藤先輩がこの前、婦長さんに、
 『このハサミ切れないですよ、不良品ですよ!全く!』つって
 ペアンを持ってってた時にはヒヤヒヤしましたよ」
と言ってました。

あー・・・。
あの不良バサミもペアンだったの・・?
へー・・。
そっかそっか。
ペアンって、この世界では、結構有名なんだ。そっか。

あ、じゃあ、あの時婦長の言ってた
「ほんと、バカとハサミは使いようねー」
って言葉もね、

バカにされてたのは、ハサミの方では、なかったと。うん。