旅日記 豊かな、美しい町、モーリオ その1

金曜日の夜に花巻の実家に帰って、今日やっとゆっくりできる時間ができたので、昨日と一昨日、盛岡ですごした2日間のことを書きたい。まずは、16日土曜日から。

10時頃、父の運転で東北本線の最寄駅、花巻空港駅へ。45分ほどで盛岡到着。川徳デパートへ向かい、地下の県産品売り場で明けがらすを3箱購入した。遠野銘菓の明けがらすは、私イチオシの岩手銘菓。包装のデザインがレトロで可愛いので、お土産にすると喜ばれるし、素朴な美味しさは食べ出すとやめられなくなる。赤ワインにも合うと思う。花巻で唯一取り扱っていた、新幹線新花巻駅売店が閉店したのを知ったときは、ショックだった。

ランチはベルへ。今日はここで食べようと決めていた。盛岡へ遊びに来るのが一大イベントだった高校時代、ベルでハンバーグ食べるのは、盛岡通を気どれる、ちょっとしたステータスだったのだ。 バンガロー風で薄暗かった店内は改装されていた。アジアンなようで、ヨーロピアンなインテリアは、お金かけてるとは思えないし、けっして洗練されていないけど、東京でも見かけない独特のセンスで、さすがだと思った。 ベルは全国展開するびっくりドンキーの1号店なのだ。40年前、盛岡からビジネスを広げていったなんて、ちょっと元気の出る話だ。



ハンバーグライス、みそ汁付きで810円。みそ汁がちゃんと作っている感じで美味しかった。



名物のドアマン、佐々木さん。ドアマンがいるのは、もちろん、ここ1号店だけ。 快く撮影に応じてくれた。


13時から、県公会堂でナンダロウさんの『ほんほん本の旅あるき』出版記念トークトークのお相手は「てくり」の木村さん。興味深い制作裏話など。 聴衆に古本業界臭が漂ってないのが、私には居心地がよかった。


県公会堂は素敵なクラシック建築。トークの会場になった部屋は、壁紙がウィリアム・モリス! ハイカラ好きが作ったんだね。





タクシーで材木町、光源社へ。木漏れ日が降りそそぐ中庭は、大好きな場所。インド更紗のストール購入。シンプルなシャツもこれをするとお洒落になりそう。

土曜日はよ市の日。通りではぼちぼち屋台の開店準備が始まっていた。喉がかわいたのでビールを飲んだ。5月の盛岡の風に吹かれながら飲むビールは格別。

15時半頃、ふたたびタクシーで県公会堂へ。16時からの伊藤まさこトーク入場を待つ長い行列にびっくりした。入場すると、会場にはクラムボンの音楽が静かに流れ、憧れのまさこさんに会うために、お洒落して集まった、盛岡の乙女たちのワクワク感にあふれていた。私は泣きそうになってしまった。東京だったら、こんな気持ちにはならない。まさこさんへの憧れの、そのピュアさに感染してしまったのだ。

「ちびちび ごくごく お酒とごはん」というタイトルのトークは、ドリンクと、食材について書いたまさこ本の中から選んだレシピ 3品がおつまみとしてつく、というステキな企画。赤ワインを選んで、 白いクロスのかかったテーブルで待っていると、紺色のパフスリーブのワンピースのまさこさん登場。「かわいいーっ」と歓声があがった。

トークのお相手は、「てくり」でおなじみの漆職人の田代淳さん。まさこさんと同じ雑貨店で働いて以来、20年来の友人なんだそうだ。これがよかった。ヘンにもち上げることもなく、まさこさんも自然体で、リアルなまさこさんに触れられた気がした。トークは、ご自身が、仕事や旅先やプライベートで撮った写真をスライドで観ながら、お二人も飲みながら、ゆるゆるとすすんだ。

いちばん感じたのが、まさこさんが愛をもって仕事をしている、ということ。

ある映画事務所に届けたという、20食の赤がポイントのキッチュな台湾風弁当のスライド。「これは、仕事だよね?」と、思わず聞いた田代さんに、「前に撮影で残った料理をスタッフが美味しい、美味しいって食べるから、おだてられちゃって」。どうも、お金もらってないみたい。「映画事務所って、撮影始まると、徹夜つづきでごはんもロクに食べられないのよ」と照れ隠しするまさこさん。

「仕事もプライベートも、あんまり区別ないの。出張の前後にいつも遊びくっつけちゃうの」というまさこさんは、暮らしや食を心から愛していて、誰かとシェアしたいと思うから、忙しいのに、こんなことまでしてしまうのだろう。

「忙しいのによくできるねって、よく言われるけど、自分が本当に好きなことだから」とも。

こういう人だから、一緒にいて気持ちがいいし、アイディアが豊富だから、仕事したいと周囲も思うのだろう。

まさこさんには中学生になる娘さんがいて、噂によると最近4度目の結婚したらしい。「大人に囲まれて、こまっしゃくれそうなのに、小春ちゃん、ホントよくあんな素直に育ったよね」と田代さん。お父さん3度も変わってたら、友だちじゃなくても心配になるもの。

まさこさんがもともと恋多き女で、毎回毎回真剣で、小春ちゃんもそれを理解しているからだろうか。

トークが終わると、まさこセレクトのワインとフードも楽しめる「スナックまさこ」タイム。ブースで買った『ちびちび ごくごく お酒のはなし』にサインしてもらおうと私も行列に並んだ。トークを聴いてたら、まさこさんに明けがらすを知ってもらいたくなり、「これ、遠野のお菓子です、知ってますか」と1箱プレゼントした。恐縮してくださった。どこかで紹介してもらえたらいいな。笑顔で握手。

まさこさん、大人になっても可愛い女性としてはもちろん、プロとしても、尊敬できる人だった。愛をもって仕事してる人だから、 人気者にもなるのだろう。

まだ外は明るいし、もっと楽しみたかったけど、明日の準備もある。後ろ髪引かれる思いで、県公会堂を後にした。盛岡、またね。明日もまた来る。