2009-10-18
センコロール・supercell・新海誠――商業作品と個人制作作品をめぐって
どうも、またまた久し振りの更新です。
いやはや、しかし、ぼくが夏アニメも碌に消化できていないでいるというのに、世間ではもうすでに秋アニメも2週目、3週目に突入しようとしているんですね、怖……。
もうほんと、多忙ゆえにほとんどアニメも観れていない生活を送っているのですが、ただ、忙しいのは皆同じなわけですし、更新できない理由を忙しさのせいになどしないという健気な人物を演出するため、当ブログではその事実を伏せておくことにします。
そんなわけで、皆が新作アニメのレヴューで盛り上がっている中、その話題に乗ることができないわれわれは、代わりにほとんど話題にもなっていない、そのうえ既に公開が終わってまでいる劇場公開アニメの話でもしてみようと思います。
といっても、何もわざわざマイナーな作品を選ぶことで、「われわれは周りとは目の付けどころが違うのですよ(笑)」、という中二アピールをしては冷笑を買おうとしているわけではありません。このアニメ作品の存在が、どうにも、「個人制作・インディー・同人作品」らと「商業作品」との間の微妙な関係性とその隘路を象徴してしまっているように見えるからです。
……『エヴァ破』語りブームにもすっかり乗り遅れたわれわれによって、今語られようとしている劇場公開作品の名は『センコロール』。
ほとんどの方が観ていらしゃらないだろうこの作品ですが、しかしご安心ください、われわれは、読み手の方々に対して、この作品を観ているか否かなどと一切問うことはありません。何の前情報もいりません。実際ここでは、この作品が批評的にどうだったかという話はもちろん、その面白さ/つまらなさ、あるいは本編におけるパイロット版からの効率性を重視した劣化に関して、または、『エヴァンゲリオン』や『寄生獣』、『エイリアン』、村上隆、大友克洋の名前などを出しながら、そのかわいらしいセンコの造形・デザインに関して論じることなどもするつもりはありません。
代わりに議論の前提知識として、ほとんどの方が名前すら知らないかもしれないこの作品に関して説明をはじめてみるとすれば、2年半ほど前に個人制作された、この作品のパイロット版が話題になり、
それを元に、「動画革命東京」による(経済的)支援によって本編の制作が開始されては、今年、ようやくの作品の完成とともに、アニプレックスのバックアップで、(東京では)池袋テアトルダイヤという小さな小屋での単館、それもモーニングショーとレイトショーのみという形で、8月22日から9月18日までひっそりと、しかし連日満席という盛況の中、上映されていた作品ということができます。
そして何にも増して、この『センコロール』が注目を集めた最大の理由とは、本作が、アフタヌーンでの四季賞受賞経験もある、クリエーター「宇木敦哉」(ほぼ)一人の手によって完成された個人制作アニメであるという点が挙げられるでしょう。
制作期間は2年半。
作品の上映時間は30分。
この情報からわれわれが真っ先に思い起こすのは、同じく個人制作アニメとして話題を呼んだ『ほしのこえ』(2002年)、およびその監督である「新海誠」の名前でしょう。
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ここでわれわれは、『センコロール』/宇木敦哉と『ほしのこえ』/新海誠を並べた時に見えてくる皮肉な現象に関して語りだすことになります。
どうもここには二つの皮肉が存在するように見える。
ここでとりあえず、2002年当時のことを軽くおさらいをしておけば、フルデジタルアニメ作品『ほしのこえ』が話題になった際のアニメ界隈における論調としては、PCの性能の向上、CG技術の発達、映像ソフトの大衆化、そうした社会全体のIT化によって、ついに個人でもアニメ制作が可能が時代が来たのだ!といったものが主流だったように記憶しています。
確かに『ほしのこえ』のそうした制作スタイルは(あるいは物語内容/形式まで含め)、当時としては極めてアクチュアルだったように見えます。
ただ、そうした語りの一方で、実際に蓋を開けてみると、フルデジタルアニメ『ほしのこえ』から既に7年以上が経過しているにも関わらず、その間、どこからも影響力のある個人制作アニメ作家など現れることはなく、結局現実には、デジタル技術や制作環境がどうこうという問題とは無関係に、「新海誠」という突出した才能がたまたまその時期に発掘されただけ、という、そのこと自体には何の目新しさもないありふれた事実だけしか残らないのでないかと囁かれもしていたわけですが、そんな中、ここに満を持して現れた新しい個人制作アニメ『センコロール』/宇木敦哉は、しかし、まるでそうしたデジタル化による個人制作アニメの可能性に対して痛烈な「皮肉」を浴びせるかのように、作品を構成する動画13000枚、全て「手書き」によって制作してしまっていたわけです(紙に鉛筆で書いたものをスキャン、Photoshopで彩色、After Effectsで合成、Premiereで編集という手順)。
これはいったいどういうことなのか。
確かに、個人制作でも手書きアニメが作れるという事実を示したという意味では、ある種の人々の励みにはなり得るかもしれませんし、個人制作アニメという形式で一般に最も求められるものは作家性なわけですから、手書きだろうがなんだろうが作中から宇木敦哉の魅力が見いだせればそれはそれでいいのでしょうが、かといって、どうにも、そこには刷新された現代性もなければ、本質的な意味において個人制作アニメの可能性を広げているようにも見えない。
もう一つの皮肉は、新海の経歴を追うことからも見えてきます。
個人制作によるデジタルアニメという、新しい形式で作られた作品でデビューした新海誠は、しかし、次回作『雲のむこう、約束の場所』(2004年)以後、結局は旧来の劇場公開アニメという形式で活動を続けることになる。
そしてそれはこの『センコロール』も同様で、ここでの収益モデルも、劇場における興行収入と、今月発売されるDVDパッケージ販売という一般的な形式に収まるでしょう(さらに言えば、『センコロール』の場合は加えて、花澤香菜・下野紘等、はじめからプロのアニメ声優を起用している点でも、商業作品的なベースで製・制作されています)。
そしたそうした傾向に対しては、何より、『センコロール』の音楽担当が「ryo(supercell)」であるという点が極めて象徴的に映ります(ryoを中心とするsupercellは、ニコニコ動画上で、『メルト』をはじめ、『ワールドイズマイン』、『ブラック★ロックシューター』等で人気を博した後、ソニー・ミュージックエンタテインメントからメジャーデビューしています)。
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つまりここでは、インディーなどはあくまで自身のステップアップのための踏み台か、既存の商業ルートへの参入チケット程度の存在でしかなく、「皮肉」にも個人制作作家たち自身こそが、インディーや同人なぞ、既存の商業ルートの下位区分にしか過ぎないのだ、ということを暗に体現してしまっているというわけです。
実際supercellの人気に対しても、単にニコニコ動画発という出自が目新しいというだけで、せいぜいニコニコ動画やオタク文化への帰属意識が強い人たちが「これは俺たち/私たちの文化だ!そしてその俺たち/私たちの文化がついに社会に認められたんだ!」というような、ある種無邪気な浮かれ方をしているに過ぎないだろう、などと揶揄する声もよく囁かれているでしょう。
もちろん、何も個人制作をやるからには既成のルートを超えて時代にあった新しいビジネスモデルを構築しろなどと無茶を言うつもりはありませんし、「インディーから商業」へという流れはここで挙げたアニメや音楽に限らずあらゆるジャンルで昔から起こっていた今さら言うまでもないことでもあれば、あるいは個人の処世術としてはインディーの場を自身が伸し上がるために利用すること自体も必ずしも悪いこととは思いませんが、しかしその一方、自主制作作品というからには、心のどこかで、商業的規制に縛られない表現の可能性なり、既存の商業ルートとは異なる流通の形態なり新たな資金回収のモデルなりを模索・開拓できないものかという期待を抱いてしまうことも確かです。
アニメ製・制作者、視聴者、誰もがわかっているにも関わらずどうにもできないでいる閉塞に対して、その枠の外にいるインディーこそが突破するなにものかを提示してくれないものなのかと。
しかし構造的には全く逆に、成功した個人制作作家たちこそが、インディーから商業への流れ、そしてその間の階層構造をより強固なものとしてしまっている。
そうした問題に対して、この『センコロール』は如何にも象徴的で、そして皮肉な作品だと感じたため、何も記事にアフィリエイトを張りまくりたかったからというわけではなく、問題提起の意味でも今回取り上げさせていただきましたが、はてさて、ああ、そういえば、10月28日には『センコロール』のDVDが発売されるようですので、もし興味を持った方がいましたら是非ポチっと。
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※本文では『センコロール』の上映が9月18日までだったと書いてしまいましたが、正確にはその後何度か延期され、東京では10月2日まで上映されていたようです。訂正します。
※また、コメント欄で様々な貴重なご意見をいただくことができ、それに対するぼくからのレスという形で、色々と本文に対する補足も入れておきました。
※ぼくの文章表現力の問題から、本文中にはいくつか誤解を招きやすい表現がまぎれているため、その補足資料的なものとしてご利用ください。たぶん混乱がより深まるのではないかと思います。
※あと、アフィリエイトは是非とも有効活用していってください。
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