写真にこだわる

写真の楽しみ方それぞれ。デジタルからフィルムまで、さまざまな話題を提供します。市川泰憲

リコーGRを使ってみました

 「リコーGR」が5月24日に発売となりました。リコーGRシリーズが、28mmレンズを搭載したフィルムカメラの“GR1”として発売されたのは1996年のことでした。それまでのコンパクトカメラは広角レンズを付けると売れないというジンクスありましたがそれを破り、さらに作品が撮れる高級コンパクトカメラとして人気を得ました。さまざまなバリエーションを経て、超広角21mmレンズ搭載の“GR21”が発売されたのは2001年です。超広角という特異性もあり、作家性のある写真家に使われましたが、時すでにデジタル時代に突入しており、惜しまれつつも短命に終わりました。それから、4年の空白を経て2005年に登場したのが“GRデジタル”です。GRデジタルは、II(2007)、III(2009)、IV(2011)と進化を遂げてきましたが、基本的には高画質レンズを搭載し、同デザインのカメラボディ、1/1.8〜1.7型の1,000万画素近辺の小型CCDを搭載と変わらずにきました。この変わらないデザインはデザイナーに人気を博し、小型撮像素子の1,000万画素というあたりは、画素数とレンズの適切化により高画質を得て、ここでも作品が造れるカメラとして人気を博しました。とくにリコーGRシリーズは、フィルムカメラの時代から、ほとんど宣伝もしないのに、口コミで徐々に使えるカメラとして認知されてきたのです。そして2008年には、自社ビルとはいえ銀座4丁目交差点角三愛ドリームセンターに「リングキューブ」というショールーム兼ギャラリーを開設するまでになり、さらに2011年にはその勢いでペンタックスを傘下にし「ペンタックスリコーイメージング」を設立したのはご存じの通りです。もともとリコーの製品はユニークでファンも多く、カメラユニット交換式のGXR、28mm広角から高倍率で1cmマクロのCXシリーズなどが、ペンタックスとのカメラ事業統合後リコーブランド製品はどのようになるのかリコーファンのみならず、写真業界人にとっては関心事であったわけです。そこで新GRシリーズが登場したことは、まずまずですが、すでにCXシリーズはHP上からは消えていますし、残るGXRはこれからどうなるのかなども大いに気になるわけです。
 ずいぶんと長くなりました。前述のような歩みをしてきたGRデジタルですが、この時期の新製品である“GR”は小型CCDでなく、APS-Cと大型のCMOSを使い、約1,620万画素なのです。もともとGRデジタルは、小型撮像素子を使って高画質というあたりが売りであったわけですが、世の中高級コンパクトの流れは大型撮像素子へと向かっているのも事実で、“GR”のAPS-C撮像素子採用は時代の流れであり、要請でもあったわけです。一般的には、撮像素子が大型になると、高感度に強い、アウトフォーカス部のボケ描写をだしやすいなどが、考えられるわけです。そんなことを念頭に置いて、まずは使ってみた印象をレポートしましょう。

<英国大使館正面玄関>絞り優先AE、F5.6・1/640秒、ISO100。いつもの僕のテストチャート画面です。掲載にあたっては左右640ピクセルにリサイズしていますが、周辺光量の低下は目立たないのがわかります。リサイズ前の元データを見ると、28mm相当と撮影倍率が低いので、それだけハンディはありますが、周辺部まで均質感ある画質で、APS-C判1,600万画素を満足させるに十分な解像性です。発色傾向は、過去に京都ライカブティックのサイトで紹介した、ソニーNEX-5に近似した感じです。撮影は、内蔵の水準器のおかげで簡単に水平だしができ楽でした。いつもは三脚に据えての撮影ですが、今回は手持ちです。

<新発田城内階段、新潟>プログラムAE、F4・1/30秒、ISO3200。かなり暗い室内でしたが、階段の切込みが、まるで刀で切りつけたような感じでしたので撮影しました。プログラムAEの場合には、いつも絞りF4スタートでプログラムされています。この撮影ではISO3200相当に自動的に感度アップしましたが、発色、粒状感ともむりなく自然な感じで描写されています。とくに背後の床がわずかにボケていますが、このあたりが大型撮像素子ならではの描写なのでしょう。さらに、開放絞りF2.8を使いたいときには、絞り優先AEにセットすれば、F2.8開放に設定できます。
 いかがでしたでしょうか。2枚の作例からこのカメラの全性能がわかるとは思っていませんが、新型GRのだいたいの性格はわかってもらえたと思います。性能諸言にでないところでの特長として特筆すべきは、繰り返しシャッターを押した感じが、かなりクイックなのです。僕は記録メディアにはあまりお金をかけないのです。1枚500円もしない2GのSDカードでClass明記なしですが、同じメディアであれこれ使ったコンパクトカメラのなかでは特別に速いと感じました。もっともっと実写でお見せしたいのですが、内容的に公開する内容?でなかったりで、ここでは省略させていただきますが、やはり小型で高画質というのは何にも代えがたいものがあります。短い期間の撮影で、一番多かったのは、写真展などでの記念写真でした。背景に展示作品を配して手前に人物という写真なのですが、人物はピリッとピントが合い、背景がわずかにボケるという感じになるのですが、これが立体感ある描写になりなかなかいいのです。まさに大型撮像板ならではの描写特性でしょう。また、薄暗い居酒屋さんのボックスシートで対向にいる人を撮影し、画素等倍まで拡大すると毛穴までバッチリというわけで高解像性がよくわかるのですが、こちらも気持ち悪くてお見せできません。(*^_^*) 加えて料理などの近接撮影は、レンズ面から10cmというのもAPS-Cという画面サイズを考えれば立派なものでしょう。
 ところで使っていてあることに気づきました。新製品GRは、一連のGRデジタルより大きいのですが、聞くところによるとフィルム時代のGRと寸法が同じだというのです。それで撮影したのが、右の写真ですがいかがでしょうか。上に新GRを置いたので、視覚的にはGR1sより少し大きく見えますが、外形をラフに測ってみると、新GR:幅117×高61×奥行32mm、GR1s:幅117×高61×奥行33mmとまったくピッタシなのです。いろいろ世の中にはこだわりがありますが、こんなこだわりというか、エンジニアの意地があるのですね。これから見えてくることは、次の開発目標が定まったことです。当然のこととしてGR1sは35mmフルサイズでしたから、次世代GRはフルサイズに当然なるわけです。しかもフィルム時代の初代GR1と同寸法で、というわけです。すでにソニーからはレンズ非交換でフルサイズの「サイバーショットRX1」が発売されているわけですから、リコーGRシリーズがフルサイズであっても不思議ではありません。継続は力です。次も期待していますよ。
 最後に、GRシリーズの僕なりの使い方です。基本的にはネックストラップで首から提げます。そして、これぞというときにカメラを構えるのですが、背面の液晶パネルで構図・ピントを合わせるときは腕を伸ばして、ストラップをピンと張ればスローシャッターでもブレが少なくなります。さらに写真のように外付けファインダーを取り付ければしっかりと腕を引き寄せてブレないように撮影できます。僕のはコシナフォクトレンダーのミニファインダーを使用していますが、GRデジタル発売当初はこんなにカッコいいファインダーはなかったのですが、最近はGR用にも「ミニファインダーGV2」として同じようなのが発売されています。そして、一番面白いのは、首から提げたままで、お腹の上にカメラを置いた状態で、ぐっと下に引き下げ、ノーファインダーでシャッターを切るのです。人間三脚は簡単に水平だしもできますし、意外とブレません。新しい視覚が広がります。
 これで本当に最後です。簡単に済むだろうと思って書き始めましたが、書いているうちにいろいろなことが思い出されました。とくにその間かかわった、企画担当者や技術の人々の顔が浮かんでくるのです。1996年以前のフィルム時代からの先人たちが築いてきた、GRシリーズのステイタスは一朝一夕にできあがったものではありません。最初にGRの構想を聞いたのは、1995年ごろのリコーの光学事業部長・縄手さんという方でしたが、なんでもガンマニアだそうで、カメラは金属でなくてはいけないとまるで機関銃のように延々と2時間近くも、カメラに対するこだわりを聞かされたのをおぼえています。最初に井戸を掘った人たちはおぼえておきたいものです。 (-_-)/~~~