2011年01月30日のツイート

『越境する労働と〈移民〉』

 昨年の暮れのことだが、五十嵐泰正さんからご本をいただいた。すぐに礼状を書いたが、公務その他がたてこんでいて、なかなかブログに書くことはできなかった。ようやく一息ついたので、なにか書いてみようと思う。
 五十嵐泰正と言えば、私のなかでは「下町研究」というイメージが強い。ネットサーフをしていて、五十嵐さんのネットサイトを見つけたときは、一つの衝撃だった。なぜなら、私は横浜の下町出身であることを自負していたし、、いずれそういうことを研究してみたいと思っていたからである。大学時代、成田空港建設や水俣病の問題と取り組んでいる友だちたちと議論をしていて、上っ面の勉学のくだらなさを痛感し、それでも本で読んだことをムキになって言い返したりしても、あまり相手にされなかった友人たちが、下町や歓楽街の話をしたときだけは、熱心に耳を傾けてくれた。
 下町概念について真剣に考えたわけではないのに、出身だという妙な思い入れだけがあった。五十嵐さんの下町論は、下町イメージを利用した観光開発や、私が抱いていたような素朴な下町感覚を痛撃するものになっていたように思う。様々なものがせめぎ合う地域としての下町を描くその学問は、非常にスケールの大きいもので、文化研究、地域社会学、都市社会学、国際社会学など様々な可能性を秘めているように思われた。一面識もないのに飛び込みで講義をお願いしたことも記憶に新しい。その後順調に学問を展開し、労働問題にまで論じ至っている。

労働再審〈2〉越境する労働と「移民」

労働再審〈2〉越境する労働と「移民」

内容

 移民労働力の本格的導入が議論される一方、大企業では外国人採用、英語公用語化など多文化社会への流れが強まる。働き手としての「人」はおろか、仕事や職場すら容易に国境を越える時代は、労働社会にいかなる変容を迫るのか。

目次

序章 「越境する労働」の見取り図(五十嵐泰正)
第1章 外国人「高度人材」の誘致をめぐる期待と現実――日本の事例分析(明石純一)
第2章 EPA看護師候補者に関する労働条件と二重労働市場形成(安里和晃)
【Note01】 地方労働市場における日系人労働者の存在と役割――日系人労働者と日本人労働者との「代替/補完」関係(大久保武)
第3章 外国人単純労働者の受け入れ方法の検討――日本の技能実習制度と西欧諸国の受け入れ制度との比較から(上林千恵子)
【Note02】 日本人とブラジル人が共闘したはじめての単組の経験――リーマン・ショック後の現場から(平野雄吾)
第4章 フィリピン人エンターテイナーの就労はなぜ拡大したのか――歓楽街のグローバリゼーション(津崎克彦)
第5章 オーストラリアのワーキングホリデー労働者――ロスジェネ世代の越境と帰還(川嶋久美子)
第6章 日本の外国人労働者政策――労働政策の否定に立脚した外国人政策の「失われた二〇年」(濱口桂一郎
http://www.otsukishoten.co.jp/book/b73914.html

 今回のご編著は、アップツゥーデートな問題と取り組んだ共同研究の成果を発表したものと拝察した。有意義な研究を続々発表されていることに表敬したい。私は労働研究についてなにかを言えるような立場の人間ではないが、第4章などのような章が入っていることによって、研究領域に新風を吹き込む結果となっているように思った。そして、それがまたこの領域の重要な問題を射貫くものになっているのではないか。臆せず、他領域との交流をすることの重要さを再確認した。次のリンクの論文などもあわせて、いろいろな思索を行った。
http://www.parc-jp.org/alter/2008/alter_2008_1_pride.html