プロジェクトINAZUMA BLOG

2006-10-29

[][]『西みがき 断片・夫の話』供養のいきさつ(北岡稔美)

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 先日、『Round2』上映会で、余興として『西みがき 断片・夫の話』が上映されました。これは、『西みがき』の当初考えられていたラストシーンを、独立した作品として再編集したものです。

 映画制作の編集過程では、不要と判断されたカット・あるいはシーン丸ごと、を削ってしまうことがあります。シナリオに沿って撮影はしたものの、いざ編集してみると、その映画の本質とズレてしまっていたり、全体の構成上不要となったり、理由は様々ですが、これは仕方のないことです。『夫の話』も、そういう運命のシーンでした。

 さて『西みがき』は、シナリオにして10枚・30分前後の短編映画になる予定でした。

 しかし撮影が終わり、ラッシュを観る段階になって、愕然としました。なんとラッシュが約5時間分あったのです!

 30分の映画に5時間のラッシュ! いったい何故そんなことに? それもそのはず、シナリオを読むと、ト書きがほとんど書かれていません。「だって、自分で演出するから、いらないと思って……」とは監督の弁。だってもヘチマもないっ! この膨大な量の素材を繋いで、本当に30分の短編になるのでしょうか? 一抹の不安がよぎります。

 「芝居をじっくり見せたい。」という監督の要望に従い、シナリオに忠実にカットを繋いでいきます。確かに丁寧に芝居を見せるためのカット割にはなっているのですが……結果、映画は長い短編というか、はっきり言って、なんと80分の長編作品になってしまいました。編集者、呆然。監督、思わず苦笑い。

 その後問題点を検討し、結局尺を詰める方向で編集し直すことになりました。

 いくつかのカットが削られ、長回しのカットはジャンプ・カットで繋がれ、その度に尺は2分、3分と短くなっていきました。

 そして問題のラストシーン。

 『夫の話』をご覧になっていない方のために補足しますと、当初のラストは幸子と夫・中村が会話する10分程の長いシーンでした。このシーンで、幸子は夫の優しさに癒され、日常生活に戻っていく……という筋でしたが、それまでの流れを見ていくと、どうもこの内容ではラストにふさわしくないと判断されたのです。

 しかし、このシーンの本間さんと中村君の演技は素晴らしく、非常に惹き付けられるものがありました。要するに、棄てるに惜しいシーンだったのです。一体、代わりにどのようなラストで物語をしめくくろうというのでしょう? しかも追撮せずに!

 結果は『西みがき』をご覧いただいた通りです。監督は既存のカットと字幕でラストをまとめ上げました(あのラスト案について監督「元々、いつかやりたいなあと考えていたネタだったのだ」。ホントか?!)。

 こうして『西みがき』の編集は完成し、当初のラストシーンは幻のシーンとなってしまいました。

 keepにkeepを重ね、長回しで10テイク撮ったカットも、現場で撮るのを忘れ、翌日急遽撮影した目のインサートカットも、ラストシーンをどう編集しようかと知恵を絞ったことも、みんなみんな闇の中に葬り去られてしまいました。


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 編集という作業をしていると、時々どこからともなく声が聞こえてくることがあります。それは自分にしか聴こえないテレパシーのような感じです。何かというと、使われなかったカットや削られたシーンたちの声なのだと思います。

 例えば、OKテイクがあまりよくなく他のテイクと差し替えようか迷っていると「ボクを使ってよ〜」と聞こえてきたり、編集過程で削ったカットに後で「使ったほうがいいよ〜」と囁かれたり……。

 筒井武文さんなら「映画の神様が降りてきたんですよ」とおっしゃるのでしょうが、それはフィルム編集の場合で、ノンリニア編集では降りてきてくれない気がします。しかもフィルム編集の経験の浅い私には、神様が降りてきたと実感したことがありません。なのに、ファイナル・カットで編集していると、時々声がするのです。そしてそれは、神の啓示というより、使われなかったカットたちの、墓場からの声・怨念のような気がするのです。

 思えば「仁義の墓場」も「怪獣墓場」もあるのですから、「捨てカット&シーンの墓場」があってもおかしくありません。

 とすると、『夫の話』もシーンの亡霊といえるのではないか?

 そしてその亡霊はひっそりと、井川監督にとり憑いて、日の目を見る機会を窺っていたのかもしれません。

 『Round2』上映会でオマケとして上映したいのだけれど、と提案されたとき、私は秘かに心の中でガッツポーヅをしました。

 幸運なことに、既に編集してある状態でハードディスクに残っていたので(これも亡霊の霊力か?)新たに字幕と森のカットを付け足し、一本の独立した短編として『夫の話』は公開されました。

 ああ、これでやっと、あの亡霊シーンは成仏したことでしょう。

 なぜなら私にはもう、あの声は聴こえてこないのですから。


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 ところで、『西みがき 断片・夫の話』をご覧になった方、いかがでしたか?「これをラストシーンにしなくて正解」という意見以外の感想、お待ち致しております。


北岡稔美映画美学校2期生。万田邦敏『夜の足跡』、井川耕一郎『伊藤大輔』『西みがき』の編集を担当。

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