神代辰巳論1・2(井川耕一郎)


(『ユリイカ』1997年10月号(特集「日本映画 北野武以降」)に「ゴーストムービーについての六つのノート」というタイトルで掲載されたものの再録です)



 学生の頃、ひと夏、ラブホテルでバイトをしていたことがある。シーツをとりかえたり、風呂を洗ったり、ごみを捨てたり、要するにひとの情事の後始末とお膳立てだ。そのとき、コンビを組んで仕事をしていた相棒が、去年の今頃、ベッドの上に落ちていた奇妙なものの話をしてくれたことがある。それは、最初、消しゴムのカスのようにしか見えなかったそうだ。だが、やがてそれが何だか分かると、相棒はチェッと舌打ちをして、ベッドから勢いよくシーツをひきはがしたという。

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