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半可思惟 このページをアンテナに追加 RSSフィード

2009-11-13-Fri

「SARVHvs東芝」をよく知るための番外編:「SARVHに勝ち目はあるか」について

前回前々回と「SARVHvs東芝」をよく知るための私的録音録画補償金FAQを書いてきました。予告している発展編の前に、番外編です。

本件紛争について「政令を変えたもの勝ち」であるという見方があります。本稿ではこの見解を検討していきます。


行政活動の限界

bn2islanderさんは「権利者がメーカーを訴えた場合、裁判所が著作権法の条文だけを読んで判断するのであれば、権利者側が勝つ可能性が五分以上はあると考える」とおっしゃっていますが、このへんのところを一般論として*1捉えるとどうなるかということを考えてみましょう。

仮に「著作権法に『対象機器は政令によって決定される』と書いてある以上、施行通知で何を書こうが、政令が全てである。裁判所は該当の機器を政令と照らし合わせて、録音録画保証金の対象かどうかを判断する」という見解を採用すれば、行政庁は概ねフリーハンドの公権力行使が可能となってしまい、法律が実質的に上書きされたり、恣意的な政省令でも通ってしまうことになり、一般論として妥当ではないとも思えます。

このような問題意識は行政法学において常に意識されてきました。そして行政法学はその所産として、行政活動を国民の代表者により制定された法律に従わせることで、公権力の恣意的介入を防ぎ、国民の自由・権利の保護を図るとともに、行政活動を法律によって統制することで、民主的コントロールの下に置くことが望ましいとの総論を導いたのです。


法律による行政

上述のような行政活動一般が国会の制定する法律の定めるところにより、法律によって行わなければならないという原理を「法律による行政の原理」といいます。

法律による行政の原理をもう少し具体化したものとして、法律優位の原則と法律留保の原則があります。法律の優位とは、行政活動が法律の定めに違反して行われてはならないとする原則を指し、法律の留保とは、行政活動にはその根拠となる法律の存在が必要であるという原則をいいます*2

では、政省令や施行規則はどのように考えるべきでしょうか。この問題について、行政機関も法律による授権があれば法規を定立することができますが、その内容は法律による委任の範囲を超えてはならないと考えられています。


実際に法律による委任の範囲を超え違法無効とされた事案

例えば、拘置所に未決勾留中であったAが、当時10歳の義理の姪との面接許可申請をしたところ、拘置所長が監獄法施行規則120条により不許可とする旨の決定をした事案について、最高裁は、監獄法施行規則(平成3年法務省令第22号による改正前のもの)120条及び124条の各規定は、未決勾留により拘禁された者と14歳未満の者との接見を許さないとする限度において、監獄法50条*3の委任の範囲を超え、無効であるとしました*4 *5

最高裁は、被勾留者は逃亡または罪証隠滅の防止という目的のために必要かつ合理的範囲において権利の制約を受け、また監獄内の規律・秩序を維持するために必要な限度で合理的な制限を受けますが、それ以外の範囲については原則として一般市民としての自由を保障されているとした上で、「これらの規定は、たとえ事物を弁別する能力の未発達な幼年者の心情を害することがないようにという配慮の下に設けられたものであるとしても、それ自体、法律によらないで、被勾留者の接見の自由を著しく制限するものであって、法50条の委任の範囲を超える」ものであり「法が一律に幼年者との接見を禁止することを予定し、容認しているものと解することは、困難」であるのだから、委任の範囲を超えて無効であるとしています。

参照

監獄法第50条 (平成17年法律第50号で「刑事施設ニ於ケル刑事被告人ノ収容等ニ関スル法律」へ改題)

接見ノ立会、信書ノ検閲其他接見及ヒ信書ニ関スル制限ハ法務省令ヲ以テ之ヲ定ム


監獄法施行規則(平成3年法務省令第22号による改正前のもの)

第120条

14歳未満ノ者ハ在監者ト接見ヲナスコトヲ許サス

第124条

所長ニ於テ処遇上其他必要アリト認ムルトキハ前四条ノ制限ニ依ラサルコトヲ得


また、婚姻によらないで懐胎・出産し、児童扶養手当法施行令1条の2第3号に該当する児童を監護する母として児童扶養手当の支給を受けていたBが、子がその父から認知されたことより児童扶養手当の受給資格が消滅したとして受給資格喪失処分の取消しを求めた事案について、最高裁は児童扶養手当法4条1項5号の委任に基づき児童扶養手当の支給対象児童を定める児童扶養手当法施行令(平成10年政令第224号による改正前のもの)1条の2第3号のうち、「母が婚姻(婚姻の届出をしていないが事実上婚姻関係と同様の事情にある場合を含む。)によらないで懐胎した児童」から「父から認知された児童」を除外している括弧書部分は、同法の委任の範囲を逸脱した違法な規定として無効であるとました*6

これは、児童扶養手当法が父と生計を同じくしていない児童が育成される家庭の生活の安定と自立の促進に寄与するため、当該児童について児童扶養手当を支給し、もって児童の福祉の増進を図ることを法の目的としているところ、「施行令1条の2第3号が本件括弧書を除いた本文において、法4条1項1号ないし4号に準ずる状態にある婚姻外懐胎児童を支給対象児童としながら、本件括弧書により父から認知された婚姻外児童を除外することは、法の趣旨、目的に照らし両者の均衡を欠き、法の委任の趣旨に反する」ため、違法な規定として無効と解すべきと考えたからです。

参照

児童扶養手当法第4条1項

第4条 都道府県知事、市長(特別区の区長を含む。以下同じ。)及び福祉事務所(社会福祉法(昭和26年法律第45号)に定める福祉に関する事務所をいう。以下同じ。)を管理する町村長(以下「都道府県知事等」という。)は、次の各号のいずれかに該当する児童の母がその児童を監護するとき、又は母がないか若しくは母か監護をしない場合において、当該児童の母以外の者がその児童を養育する(その児童と同居して、これを監護し、かつ、その生計を維持することをいう。以下同じ。)ときは、その母又はその養育者に対し、児童扶養手当(以下「手当」という。)を支給する。

一 父母が婚姻を解消した児童

二 父が死亡した児童

三 父が政令で定める程度の障害の状態にある児童

四 父の生死が明らかでない児童

五 その他前各号に準ずる状態にある児童で政令で定めるもの


児童扶養手当施行令第1条の2 (平成10年政令224号による改正前のもの)

法第4条第1項第5号に規定する政令で定める児童は、次の各号のいずれかに該当する児童とする。

一 父(母が児童を懐胎した当時婚姻の届出をしていないが、その母と事実上婚姻関係と同様の事情にあつた者を含む。以下次号において同じ。)が引き続き1年以上遺棄している児童

二 父が法令により引き続き1年以上拘禁されている児童

三 母が婚姻(婚姻の届出をしていないが事実上婚姻関係と同様の事情にある場合を含む。)によらないで懐胎した児童(父から認知された児童を除く。)

四 前号に該当するかどうかが明らかでない児童

つまり、行政機関が定立した法規であり、かつ一見法律による授権があるように思われる規定であっても、法律の趣旨・目的に照らして委任の範囲を超えた規定であると判断されれば違法となり、当該規定は無効となりうるのです。

もっとも、銃刀法14条1項が美術品・骨董品として価値のある古式銃砲や美術品として価値のある刀剣類につき、登録すれば所持できるものとするところ、登録対象を刀剣類について日本刀に限定する銃砲刀剣類登録規則がいずれも適法とされたケースもあります*7

結局のところ、特別法の内容をよくよく考え、法の趣旨目的に立ち返って解釈することが常に必要となると言えるでしょう。


「政令を変えたもの勝ち」とは限らない

よって、「政令を変えたもの勝ち」であるという

著作権法に「対象機器は政令によって決定される」と書いてある以上、施行通知で何を書こうが、政令が全てである。裁判所は該当の機器を政令と照らし合わせて、録音録画保証金の対象かどうかを判断する。

http://d.hatena.ne.jp/bn2islander/20091019/1255962171

との見解は、個別具体的な結論は別として、行政法上の一般論としては是認することができません。法解釈はそんなに簡単に判断できるものではなかったりします。

行政機関が定立した法規であり、かつ文理上は法律による授権に沿うように思われる規定であっても、法律の趣旨・目的に照らして委任の範囲を超えた規定であると判断されれば無効となるとした事例も現に存在していることからも、そのことが伺えます。

当事者がどのような主張立証を展開するかにもよりますが、裁判所は該当の機器を政令もさることながら、その前提となる著作権法の目的趣旨とも照らし合わせて、録音録画補償金の対象かどうかを判断するところまで行くことも十分考えられる。かならずしも政令がすべてで、政令レベルで勝負が決まるというわけではありません。

さらに、

一方、メーカー側は、法律、政令では勝負にならないから、著作権法の趣旨をふまえた上で「アナログチューナー非搭載のレコーダーを録音録画補償金の対象にする事は、著作権法の趣旨に反している。従って、違法である」事を立証しなければならないが、それは簡単なことではないと思うのである。

とありますが、確かに立証は簡単なことではないかもしれません。しかし、私的録音録画補償金の趣旨が著作権者への利益の還元が目的であり、私的使用目的での複製の自由を確保しつつ、金銭で合理的解決を図ろうとするものということは通説的立場です。

また、実情は別論として著作権法上は、著作権者が私的使用目的でデジタル録音・録画する者に補償金を請求し、その請求・受領に協力する義務を製造業者に課しているという建前を採る以上、否認・抗弁は比較的容易であると考えられます。

私見では、むしろ問題となるのは(SARVH側の請求原因の立て方にもよりますが)メーカー側はかねてより補償金を販売価格に上乗せしておらず実質上負担しているのはメーカーである旨公言してきた点が「協力義務」または「支払義務」の認定について裁判上どのような影響を与え、また、協力義務の法的性質がどう判断されるかということではないかと思われます。

制度趣旨を論じる前段階で躓くことも十分にありえますが、仮に(行政訴訟ではない)民事訴訟の本件において、ここまで私的録音録画補償金制度の趣旨に踏み込んで判断するのであれば、興味深いことになるのではないかと思います。

既に以前の記事で指摘したとおり、補償金返還請求制度(「合法性の『アリバイ』的な規定」)や徴収協力義務(「極めてもろいガラス細工のような制度」)など法理論としてはかなり無理をした制度だからです。裁判所がどう判断するか注目されます。

*1:ここでいう「一般論」とは規範の定立レベルを意味します

*2:ただし、行政活動全般に法律の根拠が必要か、学説上争いがある

*3:現在は「刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律」に改正されている

*4最判平成3・7・9民集49-6-1049

*5:ただし、拘留所長の「過失」は否定し、国家賠償は認められていない

*6最判平成14・1・31民集56-1-246

*7最判平成2・2・1民集44-2-369