英語あそびなら天使の街

在L.A.言語オタ記。神さまのことば、天から目線の映画鑑賞日記。

映画 Civil War (2024) を見た。アレックス・ガーランド『シビル・ウォー』

内戦の影響を受けた日常を背景に、死に瀕する場でしか生きられない戦場ジャーナリストなる人たちを追う。
舞台は米国だが英国映画っぽい残酷風刺劇で、雑にくくると同監督が書いた『ザ・ビーチ』と同じ話である。

トレーラーの印象では『インデペンデンス・デイ』みたいなしょもないドラマを見せられそうな予感がするが、プロローグが終わって素朴なタイプライター風タイトルロゴにオサレシーンが重なり、「SFでもアクションでも未来パニック映画でもないのだ」とわかる。
ほどなくしてリーが押しかけルーキーのジェシーに出す"Shoot it"の指示に、「撮れ」と「撃て」は同じ言葉なのだと知らされることになる。

民間人や医療施設を標的にしてはいけないとか、降伏のサインを出した後は撃ってはいけないとか、捕虜は適切に扱わなければいけないとかいう戦時の国際ルールは、インサイダー取引の禁止と同じくらいナンセンスだと常々思っている。もちろん、ないよりあったほうがいいし、先人の努力に感謝するし、ガザでそれが平気で無視されていることに憤っているが、人殺しオッケの現場に「ルール」があるという滑稽さに脳が拒絶反応を起こす。

このジャーナリストたちのロードトリップの途上にもそういう妙なマッチポンプ的エピソードがたくさんある。

でも、兵士が市街戦の最中にもずっとPRESSを透明視せず、しきりに首ねっこをつかんでは護衛しているのを見るとつい胸が熱くなってしまった。最後にジャーナリストが報道の使命をなしとげるために兵士に司令を出す側に回ったのも受け入れそうになるしね。冷静にならなくては...。

先週、メルローズの路上で初めてサイバートラックを見かけ、その異様さに「戦争になったらこういう車両が一般道を埋め尽くすんだろうな」と思ったところだった。

平日マチネ、12.39ドルで鑑賞。観客はよく笑っていた(笑う映画なんです)

トレーラー。

映画 Wicked Little Letters (2023) を見た。『ウィキッド・リトル・レターズ』

史実に材をとったフェミニズム映画。
クリップを見てブリティッシュ作品のいつメンか...とめげてはいけない。
構造的に作られた「女の敵は女」がまた見世物にされると見せかけて、荒削りのシスターフッドで父権にF-CK OFFを突きつける。
『レ・ミゼラブル』と同様、英語の侮蔑語の豊かさ(?)に惹きつけられる。

証拠押さえに加わる町の中高年女性たちが感激しぃでなく「一丸となって!」感を出さないところが好き。ローズと娘が再会する感動シーンでも無表情だし。

この映画の体制側の枠組みは一応カトリック(箴言3章をああいうさばきに使うのよくない)。昨日、バチカンが性別適合手術に反対の立場を表明したのは心底げんなりした。人ひとりの人権の問題であって「反対」していい「立場」なんて存在し得ないのがなぜわからないんだろ...。

平日マチネ、6.5ドルで鑑賞。

トレーラー。

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映画 Problemista を見た。フリオ・トレス『プロブレミスタ』

米国就労ビザの理不尽はよく知るところなので、そこに興味を惹かれて見た。
もちろんトレス自身の身近な物語でもあるのだろうけど、作品の中ではビザスポンサーのごたごた自体はアレハンドロをエリザベスから去らせないための物語の障害にすぎない。

面白かったけれど、SNLのコメディライターによるコメディ映画として成功していたかというといまいちだったかも。どうも笑えなくて。
たとえば、ちょこっとヒットしたネタを引っ張るの寒くない...?ちょいちょいウケてる人はいたけど、半分内輪っぽかった。

何より、エピローグが惜しい。
『ショーシャンクの空に』『ノマドランド』を連想させる野暮天ぶり。
いつかどこかで再会できるにせよ、できないにせよ、アレハンドロの中にエリザベスが生きている、というある種の達成が雄弁に語られて感動したのに、全然面影のない未来のアレハンドロが出てきてまたふたりでFileMakerの話を蒸し返すのはかなり白けた。
あれは、エリザベスが眠るしょぼい冷凍保存機の車輪が外れ落ちたところでTHE ENDにすべきだった。そのほうが作品全体としてもワンランク上がったと思う。
ほんっと、アメリカンは余白を嫌ういらんことしぃだわ(主語デカ)

平日マチネ、12.39ドルで鑑賞。
今回は久しぶりのAMC。見たよ、ニコール・キッドマンの広告ムービーの新編。短くなっててよかった。
米軍のリクルート広告が流れるのはもう当たり前になっちゃったね。

A24ショップのProblemistaオリジナルグッズはちょっとステキよ。
https://shop.a24films.com/collections/problemista

トレーラー。

映画 Love Lies Bleeding を見た。ローズ・グラス『ラブ・ライズ・ブリーディング』

最高の高。「いいね!」を連打強打殴打。
とにかくエンターテイニングだし、『テルマ&ルイーズ』の別のアンサーとしてもきわめてキレがいい(時代設定もほぼ同じ)。
そうそう、本来渓谷に落ちるべきはオメーだよ、よしよし、と思ったものの、「父」と男性性の呪縛から逃れるのは容易ではない。
姉妹同士で男の言うところのLoveをめぐっていがみ合い、結局はマスキュリニティによって対抗するしかなかったのは皮肉だ。

ルーの自暴自棄とは無縁の計算高さは新しいと感じた。あらゆるハプニングにおいてすぐ逃げずにいちいち始末をつけようと試みるのだ。ジャッキーや過去の逃避行の主人公たちとは一線を画すサバイバル力である。

筋肉SFも、ギャグとシリアスのどちらにもふれない絶妙のバランスでめっちゃよかったわ〜。

『関心領域』のグレイザー監督のアカデミー賞受賞スピーチに対して450名の業界人が声を揃えて非難したのはショックが大きい。あまりに理性を欠いている。
ゆえに、ガザ攻撃を批判するクリステン・スチュワートの勇気にますます驚嘆するし、観客のひとりとして断固支持する。
とはいえな...、スチュワートにだけ課金することはできないんだよな。もうハリウッドをボイコットするしかない、っていうのはわかってたつもりだけどわかってなかったな...。

ヘッドライトだけを頼りに荒野の道を走るシーンが何度かあるが、コロラド州、アリゾナ州を夜間に走る羽目になったときの窓の外そのままだった。ここでパンクしたらどうしよう、ってずーっと不安だった。

平日マチネ、10ドルで鑑賞。
この映画館は観客席の中腹に出入り口がある。したがって車いすゾーンは観客席の中央に位置する。
今日は電動車いす利用者がひとりで来場していたのだが、彼がプレッツェルに白いソースをディップして悠々と食べ始めたのを見て、先に座っていた周囲の観客2人が席を立ち、同じものを買って嬉しそうに戻ってきたのはかわいかった。
それから、上映前に流れたExpediaのCMが、車いすに乗った女性がスムーズに一人旅をするという内容だった。たまたまだろうけど。

トレーラー。

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2024年アカデミー短編映画賞ノミネート作5本を一気見した。

今年度も時間の制約を味方につけたアートがすばらしかった(アンダーソン作品を除く)。
私が気に入った作品順に。

■ Red, White and Blue
今日はスーパーチューズデー。身につまされた。
中絶を禁じることの問題点を最も効果的に見せるギミックに翻弄される。そして、自由を希求するロードトリップにはやはり「路上でカーラジオにのって絶唱する」シーンが伴うのだった。

昨日、フランスが中絶権を憲法に明記することが決まったという明るいニュースがあった。こんなふうに他の社会が焦って動いていくなら、この国の愚行にも意味があろうというものだ。失敗例としてどんどん参考にしてね泣

トレーラー。

■ The After『彼方に』
これと同じことを2時間かけてやって全然印象に残らないフィーチャーフィルム is 何。

ネトフリで公開中。

■ Knight of Fortune
都会のおとぎ話系。

The New Yorker スクリーニングルームで公開中。

■ Invincible
実在の少年がモデル。30分でここまで語り尽くせるという事実に感心してしまった。いやだって、少年の繊細さとクリエイティビティ、彼と対比される他の子たち、たまたま生まれたタイミングで決まる社会不適合の概念の理不尽、少年院の実態、愛ある家族、思い返すとあれもこれもそれもどれも書き込んであったよ。すげえよ。っていうか、これと同じことを2時間かけてやって全然印象に残らないフィーチャーフィルム is 何(2回言った)。

トレーラー。

■ The Wonderful Story of Henry Sugar『ヘンリー・シュガーのワンダフルな物語』
見てる側の呼吸が浅くなってしまう37分間のながーい紙芝居。ウェス・アンダーソン苦手。このひとの世界、チューンインするだけで数分消費するから短編に向いてないと思う。

ネトフリで公開中。

平日マチネ、14.25ドルで鑑賞。

【3/10追記】
ハイ、結果は大方の予想どおりでした。つまらなすぎ。相変わらず、アカデミー会員は候補作を全部見ずに投票してるっしょ、なんなら受賞作すら見てないっしょ(八つ当たり)。少なくとも、私が行ったスクリーニングでは、明らかにRed, White and Blueへの反応がいちばん良かったことを記録しておく。展開に息をのみ、エンドクレジットでざわめきが起きたのはこの作品だけでした。