『人間性はどこから来たか』要約
『人間性はどこから来たか サル学からのアプローチ』isbn:4876988269
- 社会・互酬性・家族・攻撃性・文化・言語・知能などはサルから起源をたどれる
- 社会
- ウィリアム・ハミルトンによれば、個体がそれぞれ別の個体を盾として利用する、利己的な対捕食者戦略をとるだけで、集団が形成されていく
- 社会を形成することにより、捕食者に食われにくくなるが、食事について損害が生じ、移動の必要性が生じる
- 互酬性
- 家族
- 攻撃性・戦争
- 文化
- 言語
- 情報伝達は利他行動であり、血縁者同士でないと成り立ちにくく、情報伝達のコストを下げつつ血縁者のみに伝達するべく声を小さくするべく適応した
- 家族や、複雑な道具使用や、右手の利き手としての確立、咽頭の位置の変化が、有節言語の出現と密接な関係がある
- 知能
- 食物獲得・道具使用などが脳の発達にかかわったという生態仮説が存在するが、霊長類を説明するには強力ではない
- 道具使用と知能は独立であり、知能は低いが道具使用する動物がいたり、多くの高等霊長類は道具使用をしないが社会的知能は優れていたりする
- 母子関係や血縁集団を概念化したり、社会的協力と駆け引きができる知能を持つという社会仮説も存在する
- 自意識の誕生を説明するには社会仮説しかない
- 美意識は性淘汰や環境の分類に起源を持つ
- 社会
さて、西田利貞の本です。
学界のことはよく知らない私でも、霊長類研究において今西錦司と密接な関係のあることは知っています。
今西錦司と言えば、霊長類研究の第一人者であり、独自の進化論を唱えて(今や分子生物学のデータと合わない)
日本の進化論論壇に禍根を残したと言われる、毀誉褒貶半ばする人物です。
今回参照するのは今西の光の部分である霊長類研究を反映した内容ですので、まあ安心です。
ヒトの要素である社会・互酬性・順位序列・家族・攻撃性・戦争・文化・教育・言語・知能・道具使用・自意識・美意識について、
サル学を通じて「ヒト固有のものか? サルに遡れるか? それぞれどういう関係か?」ということを探っています。
まあここに挙げたものは全部サル以前に遡れるわけですが、こうなるともうヒト固有の領域ってほとんどないですね。
せいぜい宗教と歴史と法くらいか?
見どころ。
- 集団は原理的には利己的な根拠によって構成されうる
- 互酬の前提には厳格でない順位序列がある
- 家族の前提には性と互酬がある
- 家族から文化・教育・言語が生じた
- 少なくとも霊長類レベルでは知能と道具使用は関係なく、むしろ知能・自意識と集団・家族との関係が深い
私が分類・体系化マニアだという話はこれまで何度かしていますが、今まで学問体系中心で分類していたので、
性や家族が意外と重要だ、というのは盲点でした。性や家族についての学問ってのは大きいものがないので。
順位序列、即ち身分制度もそうですね。(ただし社会学・歴史学・人類学で扱う領域ではあります)
この本で扱っている要素について分類・体系化すると、ザッと以下のようになります。
生物学は人文科学より科学の度合いが強いので、信頼できるでしょう。
- 生命→性→脳(動物)→集団→順位序列→互酬→家族→文化・教育・言語
- 集団・家族→自意識
- 性・脳(動物)→美意識
- 脳(動物)→道具使用
- 脳(動物)→攻撃性
今後の課題ですが、美意識と道具使用と攻撃性をどこに入れるか難しいところですね。
攻撃性は集団の前か後だと思うけど。
あと文化・教育・言語の順序も気になります(この三つは密接に関連しているので順序がつけにくいのですが、
学問体系的には別々の概念なので、何とかして順序づけられるようでなければなりません)。
あと、遠吠えという形での一対多のコミュニケーションそのものは、文化・教育・言語より古くからあるので、
それがどこに位置するかという問題があります。多分これも集団の前か後になると思うけど。