想像力はベッドルームと路上から RSSフィード Twitter

2009-11-08

“ロックと女の子”を巡るもうひとつの視点〜Riot Grrrlというムーブメント “ロックと女の子”を巡るもうひとつの視点〜Riot Grrrlというムーブメント〜を含むブックマーク

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「すいませーん、ここは女性専用のエリアになってますので〜」


は?


一瞬、耳を疑った。つーよりも爆音だから疑わざるを得ない状況であった、と思った矢先に腕をつかまれ前の方から引きずり出された。その後も数人の男どもが、前の方からずるずると引きずり出されていた。


[中略]


確かに、ぼくは友人からも殺人者みたいだと言われたり、職務質問もされやすい。ましてや客層もほとんどが女性、男一人で来ていて、女の山にたたずんでいたら、怪しく思われても不思議じゃない。だからと言って、ライブだぞ!ライブ!!しかもスタンディングでロックのライブだぞ!!人までぎゅう詰めにして、もみくちゃになるのは当然であって、ライブハウスに来てる女の人はそれくらいのことは百も承知のはずなのだ。だから汗だくになるの分かって、タオルも持って来てるし、Tシャツだったりするんだろうが!


[中略]


最近、スタンディングライブでモッシュやダイブが禁止と言われ、主催者が口うるさくなったりしている。確かに過度なモッシュで失神する人も居るし、ダイブされてケガしたなんてこともあるだろう、ぼくもダイブされてメガネがひんまがったことがあるが、ぶっちゃけ、それを含めて、スタンディングのライブだとぼくは思っている。ぼくはロックのリズムにあわせて体を動かしたい。飛び跳ねたい。もっと言えば、全員でそのビートを共有しモッシュしたいのだ。もちろん周りの空気に合わせ、ある程度の節度を守るし、誰かが上から飛んできたら、優しく前方へ投げ飛ばしてやる。それがぼくの考える「ライブハウスでのライブ」だし、ステージから下はぼくらのモノだ。その中で楽しむ権利はある。


モッシュやダイブが禁止されるのは百歩譲って理解するとしても、「女の人が多いから男は前方に行ってはならない」という考えは絶対に許さない。もちろん他のアーティストでは起こらない現象かもしれないが、もし、これから女子がライブハウスに詰め掛けて、男子禁制になりだしたら、ライブなんて行く価値などない。


木村カエラのライブに行ってきたのだが… - くりごはんが嫌い


木村カエラがロックかどうかは知らないけど、多分これに対する最も有効な反論は「Riot Grrrl」を巡る言説だと思います。少し長いけど、最適だと思われるものを引用。


パンクハードコアといったバンドのライブで慣習的に行われていたのがモッシュである。モッシュとは簡単に言うと、激しく狂乱して暴れまくることである。ライブ中、ステージ前方の密集したところで、他人とぶつかり合ったり、殴り合ったり、サーフ(人を持ち上げ、皆の腕を使ってその体を支え、波に流されるように頭上で人間が流されること)やダイブ(ステージの上など、ちょっと高い場所から密集した人ごみの中に飛び込むこと)をするのが慣例となったいた。90年代初期にはメイン・ストリームにまで広がり、大きな会場でもモッシュが見受けられるようになった。コートニー・ラヴがおもしろがってダイブしたところ、洋服を剥ぎ取られ結局彼女は下着なしでステージに戻ってきたということもあった。


モッシュでは、汗まみれの乱闘、鼻血、捻挫などは日常的なことである。サンフランシスコにはそのようなモッシュ病専門のロック・メディシン・プログラムを持つ無料のクリニックがあるほどだ。しかし94年に、ロンドンで21歳の青年がステージからダイブし頭部を怪我して死亡、ニューヨークでも17歳の高校生がライブ中に死亡。同じ年、あちこちのライブで死亡者が続出。その後も犠牲者は後を絶たなかった。


そんな中、観客に向かって、モッシュを止めるよう注意を呼び掛けるバンドもいくつかあったが、それら全てが完全に止めさせることは出来なかった。


女の子の場合、男の子同様、危険に晒されるのももちろんだが、体を性的に触られることも頻繁である。さらに服を脱がされたりレイプされるといったこともある。激しく熱狂した男達にとって、それはステージの前方に限らず、どこでもいいのだ。事実、フェスティバルでのレイプも報告されている。「愛と平和」を掲げたロックコンサート、ウッドストックでの暴力事件やレイプ事件をはじめ、ライブやフェスティバルで女性が暴力やレイプに遭うことは現実に多発している。


女の子はいくら音楽が好きでも、そういった危険な目に遭いたくないがためにライブへ行くことを断念しなくてはならなかったり、あるいは危険を覚悟したところで親は自分の娘に対して簡単に承諾するはずもなかった。こうして女の子にとって、さらにライブに行きにくい状況になってくると、ライブは男達に占領されるようになり、同時にマッチョ・カルチャーが助長されることになる。


つまり、激しい音楽である「パンクロック」「ハードコア」と「男性性」「マッチョ」という関係性がより強化されることで、結果的に「パンクロックハードコアは男のもの、男の音楽」という風潮に拍車をかけることになるのだ。言い換えれば、「パンクロックハードコアは女の聴く/やる音楽ではない」「女は引っ込んでろ」等々、シーンにおける性差別的な傾向は強まる一方となるのである。


このように暴力やレイプの横行をはじめ女性を排除しようとするシーンの状況は、現在でも無くなってはいない。シーンにおけるこうした性差別をキャスリーン・ハナは一部で次のようにも捉えている。


「(略)フェミニズム女性嫌悪の大きなコンテクストでいうと、ロック・ショーにおける性差別は、私達を家の中に閉じ込めておくことを意味するまさに別の方法である。それは公的な空間が男性のものであることの維持のためであることを意味し、私達が恐怖感を抱くことの維持のためであることを意味する(略)」


つまり「男は外、女は内」という構造を維持するものの1つに、ロック・ショーでの性差別も含まれるということである。女の子達は「外」つまり「ロック・ショー」に行きたくても、そこで起こる性差別-つまり暴力やレイプ女性嫌悪といった態度などの「恐怖感」によって、「内」つまり「家の中」へと追いやられてしまうのだ。


第1章 "Riot Grrrl"ムーブメントの生まれた背景 : P.W.A.

ここでは主に「パンクロックハードコア」のライブにおける現状が報告されているけれど、所為「ロック」と呼ばれる類のライブでもこの傾向は変わらないと思っていいです。例えば“ピースでクリーン”なことで有名な日本の某ロックフェスでも、モッシュピットでの痴漢被害は後を絶ちません。

この件に関する明確は結論は今のところ出せません。今回の措置は単なる興業上の要請に過ぎないのかも知れない。ただ、“ライブ中にお行儀の良さを求められること”と“ライブ中に女の子がセーフティゾーンで守られること”を単純に結びつけるべきではないと思います。もしそれを批判したいのなら、少なくとも上で書かれているような文脈を一度考慮した上で行われるべきではないでしょうか。“僕らのもの”であるということは同時に“彼女たちのもの”でもあるわけだから。


ちなみに、今回の件に関する僕のざっくばらんな感想はこんな感じ。

  • 00:44  これなぁ。そう単純な話でもないと思うんだよねぇ。女の子は別にもみくちゃになりたくてライブに行ってるわけじゃないと思うんだ。肉体的なハンディキャップもあるし性的なリスクもあるわけで。『木村カエラのライブに行ってきたのだが…』http://bit.ly/f9vZB
  • 00:49  多分「女は前、男は後ろ」ってのが不公平感の要因になってると思うんだけど、ライブ行く女の子って普段そういう状況に置かれてるんだろうし。まあそういう状況でも「モッシュしたい!」「前で見たい」って子は自己責任で前に行くんだろうけど、そこに手心を加えるのはそう悪いことじゃないと思う。
  • 00:53  たとえばホルモンのライブとかでモッシュピットに特攻して終わったあとボロボロになりながら出てきて「楽しかったぁ!」とか言ってる子には「バカだなぁw」とか思いつつに暖かい視線を向ける感じなんだけど、そういう子ばっかじゃないだろうし。
  • 01:03  @haineken その辺は正直結論は出ないなぁ。ポルノにおけるゾーニングの有効性を支持する人間としては、“女性専用エリア”の存在もありではないかと思ってしまうんだよね。
  • 01:13  @haineken 逆差別等々に関しては配置の仕方にもよると思う。いや、本当は分けたくなんてないんだけどね。何せBECKが言った「モッシュコミュニケーションなんだ」って言葉を信奉してる人間だから。
  • 01:22  @moriken0206 ただはっきりと言えるのは、「ロック」は性差別的側面を多分に含んだカルチャーであり、外部からも内部からもその批判は行われてきた、ということ。もし「ロック」って文化を真摯に語るのなら、そのことにも目を向けるべきだと思う。

ついでに。

Riot Grrrl」はメディアによって歪められたイメージが流布されたこともあり、結局ムーブメントとしてはすぐに萎んでしまいますが、しかし“直系”のべス・ディットー(The Gossip)はもちろんのこと、「Riot Grrrl」の影響を直に受けていたり、あるいはその失敗から学習しより効果的なアプローチを模索するなど、現在“アイコン”となっている女性アーティストへの影響は決して無視できるものではありません。

ですが、この思想を巡るまとまった言説はこの国ではほとんどお目にかかれません。“グランジオルタナ期の派生ムーブメント”という扱いがせいぜいで、その意義や価値は半分も伝えられていないのが現状です。

僕の知る限り、現在読めるものでこの思想に関するもっとも良くまとまっている言説は上で引用したvegangrrrlさん(大垣有香さん)の文章(卒論とのこと)ですので、一通りリンクを貼っておきます。めちゃくちゃ面白いのでロック好き/ガールズ・カルチャー好きやポップ・カルチャーにおけるフェミニズムに興味のある人は必読のこと。

はじめに : P.W.A.

第1章 "Riot Grrrl"ムーブメントの生まれた背景 : P.W.A.

P.W.A. : 第2章 ”Riot Grrrl”ムーブメントのはじまり

第3章 "Riot Grrrl"論争 3-4 : P.W.A.

第4章 "Riot Grrrl"がもたらしたもの : P.W.A.

第5章 多様化する"Riot Grrrl" 3 : P.W.A.

おわりに : P.W.A.

notes! notes! notes! 2 : P.W.A.

この内容を再編したZINEも売ってるので興味のある人は是非に。ZINEも「Riot Grrrl」を構成する上で欠かすことのできない重要なアイテムなんですよね。

あと、id:katokitizさんは「これから女子がライブハウスに詰め掛けて、男子禁制になりだしたら、ライブなんて行く価値などない。」と言ってるけど僕は逆に大喝采を叫ぶと思うなぁ。それって最高に“ロック”だもの。入れてもらえないだろうけど。

Revolution Girl Style Now!

Bikini Kill - Rebel Girl

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