機動戦士ガンダムNT ―戦乱の予兆― 1

 漆黒に包まれ、音もない真空の宇宙《そら》に、ひとつの光が迸《ほとばし》る。その光はまっすぐに白い閃光を走らせ、遠く離れた位置にあるモノを貫く。バーニアを噴かせ、加速を続けていた筈のモノは、内部から一気に爆散――瞬間的な眩しい輝きに包まれた。
 一瞬にして収まった爆発の光は見る影もなく、ただそこに残ったのは爆砕したモノの破片だけ。中には人もいたのだろうが、これだけ派手に発破してしまったとなると、その生存確率は極めて低いだろう。
 爆破されたモノ――通称『モビルスーツ』と呼ばれる、人型機動兵器――その機体を遠くから貫いた光の発射源、それもまた別のモビルスーツが所有する『ビームライフル』と言う名称の武器である。
 ビームライフルを構えていたモビルスーツ――その内部に乗り込んでいるパイロットは、目標への直撃を確認し、ほっと一息、肩にかかっていた緊迫感を解いた。しかし、身体の緊張を緩めても、その思考は鋭く研ぎ澄ませたまま、目線だけを目先にある中央のレーダーシステムへと向け、周囲に他のモビルスーツの反応がない事を確認する。
「周囲に熱源反応なし、機体状況オールグリーン、と。良し、なんとか追っ手は全て撃破したようね」
 そうパイロットが発した声色は女性のそれだった。彼女がヘルメットを外すと、黒く艶やかな長髪が無重力コクピット内を靡《なび》くように広がり、同時にヘルメットの中で溜まっていた汗が飛び散った。
 肌は白く、瞳は髪と同じ黒。見る限り、東洋系の綺麗な顔付きをした女性――その名を戒桐《かいどう》レイカと言う。レイカは機体内部に取り付けられたポシェットを開き、その中からチューブ型のドリンクを取り出した。それを一気に飲み干すと、無重力状態のコクピット内へとがさつに放り捨てる。
連邦軍の進めている極秘プロジェクト……その一角を担う、核融合炉搭載型モビルスーツ――コードネーム『GUNDAM《ガンダム》』、その二号機。まさか、これほどの性能を持っているだなんて……」
 彼女、戒桐レイカは生粋のプロの傭兵である。とある組織からレイカが受けた依頼は『連邦軍・新型モビルスーツの奪取』であり、今この瞬間、彼女はその依頼を遂行している真っ最中であった。
 月面に存在する連邦軍の兵器工場に偽装・侵入し、見事モビルスーツを奪取する事に成功したレイカは、逃走しながらも追跡してくるモビルスーツを全て撃退。時間にして六時間半にも及ぶ単独航行の末、ようやく連邦軍の追っ手を撒く事に成功した。
 しかし、彼女が何より驚くのは、この新型モビルスーツの性能である――勿論、初見でここまで機体を動かす事のできたレイカ自身にも目を見張るべきところはあるのだろうが、彼女にとってそんなものは些細な事でしかない。本来、六時間半もの間、戦闘行動を行いながら機体を稼動させ続けると言うのは、モビルスーツにとって到底不可能な話なのである。
 だが、それをこの機体――『ガンダム』はやり遂げてしまった。核融合炉の開発は耳にしていたし、それがどれ程の結果をもたらすのか大体の予測ができていたレイカにとっても、それを実感するとしないのとではまるで違う。長年――と言っても、まだ彼女は二十代なのだが――培ってきた経験、自分の持っていた常識をぼろぼろに覆された感触。それと同時に、このような機体が世に生まれ出でてしまった事への恐怖感が、レイカの手を小刻みに震わせた。
「……まったく、怖いわね。三号機は破壊してきたけれど、まだ一号機が残ってる。それに、もしかしたら四、五号機と後続機が存在するかも知れない。こんな馬鹿げた性能を持った機体を、連邦軍が本格的に実戦投入したらどうなるか……考えるだけで寒気がしてくるわ」
 自動操縦モードで、目的地である合流ポイントまで向かう『ガンダム』。そのコクピットの中で、無限に広がる暗黒の空をモニター越しに見つめながら――レイカは呟き、深い溜め息を吐く。
 この仕事が終われば、レイカは晴れて傭兵を引退できる。もう二度とこんな危険な目に合わなくて済む。戦争とは縁の薄い遠く離れたコロニーに移住し、平和な毎日を送れるようになるくらいの報奨金が、この依頼には懸けられているのだ。
 当たり前と言えばそうだが、連邦軍の軍事工場から最新鋭のモビルスーツを盗み出すなんて行為、普通の人間には到底できやしない芸当である。そんな無理難題でさえやり遂げてしまえる程、戒桐レイカと言う傭兵の持つ能力はズバ抜けていた。
 今日――この六時間半だけで、恐らく三十以上のモビルスーツパイロットの命を奪ってきただろう。だが、その事にレイカは何も感じたりはしない。戦争と言う世界に、傭兵と言う存在として身を置いてきた彼女の感覚など、とうの昔に麻痺していた。
「合流ポイントまではまだ遠い……計画では半日かけるつもりだったから、これでも速い方ではあるけれど。今のペースで航行していれば……あと二時間と言ったところかしら」
 全ては確かに計画通り――レイカにしてみれば少し順調過ぎたのだが、仕事が上手く進んでいる事に対しての懸念は特にない。この『ガンダム』と呼ばれる機体性能への驚きは隠せないが、これも想定の範囲内ではある。元々、輸送艦なしでのモビルスーツによる単独航行でこれだけの距離を移動するのは無謀だが、横流しされている――不確定ではあるが――数の多さから信憑性の高い情報と、信頼できる情報屋からの提供されたデータを眼光紙背に徹する限り、『ガンダム』と言う機体の持つスペックならば、こんな無茶も平気で成し遂げてしまえると思わしき結果には事前に至っている。
 だが、それは核融合炉と呼ばれるエンジンを搭載していると言う結果から来る「長時間の単独行動を可能とする」部分に目を見張る事で得た結論であって、レイカは『ガンダム』単体の戦闘能力を注視してはいなかった。武装も、他の機体でさえ滅多にお目にかかれない『ビーム兵器』を装備している事も情報にはないものだった。
 モビルスーツは戦争におけるただの消耗品だと言うのがレイカにおける常識であったが、今の彼女にとって、この『ガンダム』はそんな常識をも覆してしまう驚異的なスペックを持ったモビルスーツだと確信していた。量産こそ安易にはできないだろうが、今日だけで三十以上ものモビルスーツを単機で撃墜したこの機体――それが実戦投入されれば、間違いなく連邦はこの戦争の終幕を勝利で飾ってしまうだろう――あまり考えたくはないが、そう予測せざるを得ないと言うのがレイカの正直な心境であった。
 レイカはそんな事しか考えられない自分の思考が嫌になりながら、その細い眉をひそめた。溜め息を吐きながら首を回し、その両手で長い艶やかな黒髪を纏め、膝の上でふわふわと浮いているヘルメットを取って被った。
「……ハイ、いやな考察タイムは終了。この機体なら多少無理しても問題ないだろうし、さっさと合流地点まで加速して―――」
 途端、レイカが戯言のように呟いていた言葉が途切れる。
 その原因は、コクピット内部に設置されている索敵レーダーに映し出された一つの赤い光――。
「なっ……、敵? うそ、一応こっちだって自動操縦でもそれなりの速度で航行してるはずなのに……!」
 レイカは声を荒げながら、点滅する赤いマークを凝視する。そこには識別の為の文字が映し出され、『G』と言うアルファベットに『1』と言う数字が並んでいた。
「『G』……『1』……。まさか、このスピード……ガンダム!?」

機動戦士ガンダムNT―覚醒の宇宙― プロローグ

 これはあくまで、例えばの話に過ぎないけれど。
 人間の思考、想像、感情といった物理的ではなく精神的なものを、自分を自分で感じるのではなく、他人を自分で感じることができるのだとしたら。
 テレパシー、なんて大層なものを取り上げるわけではない――それはあくまでオカルトの専門分野だし、別にそういった話を取り上げるつもりなんてないのだ。ただ一種の感覚として、他人の意思を受け止められるということ――人間同士が触れ合い、同じ空気を得ている時の、ある感触。張り詰めたような重いものや、なんとなく相手が何を考えているのかわかる――そんな、物理ではなく精神で語るべき状況と言うものは、少なからず誰しもが幾度となく経験しているはずである。
 だが、それは、あくまでその人物の近くにいることで感じるものだ。遠く離れていれば、そういったものを感じ得ることはできない。これだけの数の人々が存在する世界で、自分の周りには限りなく色々な人間がいることだろう。そんな、いわばどこの誰とも知らない相手に囲まれた孤独な世界で、触れ合えるほどの距離にいない相手の気持ちなど、誰が感じ取れるというのだろうか。
 しかし、そんな時代はもはや過ぎ去った。
 人類は、狭い世界に囚われ続けることを拒否するかのように、その身を押さえ込む重力という名の抑止力を突破した。それこそが新しい進化の兆しになることなど、誰も想像さえしなかったが――理論における結果というものは、行程なんて些細な問題に過ぎず、誰が何と言おうと勝手に訪れるひとつの結末でしかない。
 例え、それが初めから想定さえされなかった事柄なのだとしても、である。
 ――世界は広い。
 恐らく、人間程度の知能しか持たない存在では測り得ない、無限の領域がそこにある。
 宇宙《そら》とは、そういった世界なのだ。その場所に進出することがどれだけの苦難を強いるのか、人々は未だ気付かない。そのまま自らの故郷である地球を中心に、自分達の世界を広げていくことに執心し続ける。
 そして、それはやがて破滅を招くことになった。
 戦争――人間同士がいがみ、争い合う。彼らは、自ら作り上げたちっぽけな世界の中で、その命を次々と失っていく。
 狭い空間で生きてきた人類にとって、その空間の増長は、決して安易なものではなかったのだ。近くで触れ合わなければ少しでさえ通じ合うことのできない心――脆弱で感度の低い人間に、広がっていく世界に耐え切られるだけの精神力などあるはずがなかった。
 宇宙に作られた人々の居住空間である「コロニー」へと移住した人間達と、
 地球の重力を振り切れず、権力をかざして故郷の大地に囚われ続ける人間達。
 二者は互いに歩み寄れなかった――それは言わせて貰えば必然であったとも言えるが――為に起きた争い。距離を起きすぎた人間同士の心は、当然のように通じ合うことができずに反発し、激突したのだった。
 戦争が終わり、宇宙に住まう人類は、より立場が弱くなった。
 元々、宇宙移民計画といったプランは、増えすぎた人口のはけ口を探した結論から生まれたものに過ぎない。地球を飛び出し、宇宙で暮らすといった生活は、実用化に至るや否や、あっという間に異物を吐き出すかのごとく、人々を宇宙へと駆り立てた。
 それは結果として、地球という名の故郷から見放されることになったのである。
 宇宙に暮らす人類は、やがて「スペースノイド」と呼ばれるようになり、地球人とは別の存在とまで扱われることになる。戦争によってできた互いの間を遮る壁は、決して崩れることのない鉄壁と化していく。
 そうして、人類が宇宙へと進出してから、かれこれ十七年の時が過ぎた。
 未だ変わることない地球とコロニーの勢力争い――戦争によって生み出された膿は消えることなく、次々と悪化の道を辿っているのであった。

桜と琥珀(とその他大勢)のLycee講座 第一回

前作「いぬの妄想日記」は、いぬとか言う人がいなくなってさくらさんに変わったので、アレで最終回です!<なんと
てなわけで新しく始めるのは「Lycee講座」!
TCG「Lycee(リセ)」の色んなプレイングやテクニック、カードについてなどを、桜と琥珀さんの対戦をその他大勢のサーヴァント達による解説付きでお送りするこの意味わからんノリと勢いだけのコーナー!


第一回は、普通の対戦の中で役に立つ、初心者向けの講座です。
カードのテキスト等はいちいち説明してらんないので、わからなかったら公式のリスト等で確認してくださいねwww
それでは適当にどうぞ!



琥珀さん、暇ですしリセで対戦しませんか?」



「あらあら。いいわよ、桜ちゃん。フルボッコにしてさしあげます♪」



「それじゃ、デュエルルームに行きましょう」



「む。コハクとサクラが例の競技をするようですね。ちょうど昼ご飯を食べ終わってゆっくり過ごしたかった所です。せっかくですから、少し観戦させて戴くとしましょう」



「私も行きましょう、セイバー。サクラの勇姿を見届けなくては」



「今回はアーチャーやランサーはいないようですね。まあ、普通なら彼らがここにいるコト自体がおかしいのですが。……むむ、しかしそうなると、解説役がいなくなりますね」



「その点ならば心配はないでしょう。今回は初心者講座とのコトでしたから、その程度ならこの私でも解説出来ると思いますし」



「そうですか、それは心強い。何せわたしのような素人ともなると、何が起こっているのか把握しきれませんから」


桜と琥珀、その後ろについていくように二人のサーヴァント、セイバーとライダーがデュエルルームへと移動した。



「それでは、お互いにデッキをシャッフルしましょう」



「うふふー。イカサマは許しませんよー?」



「しっ、しませんよっ! もう、琥珀さんってば……はい、わたしのデッキをカットして下さい。これでいいでしょう?」



「あう、冗談ですよー。……ハイ、できましたー」



「互いのデッキをシャッフルし合う―――これがカードゲームに置ける礼儀の基本、といった所ですか」



「ええ。何の疑念もなく試合を進めるためにも、例えフリー対戦と言えど、出来る限りこの礼儀は抑えておきたいですね。試合の途中に行われる効果等でのシャッフル時にも同様のコトが言えるでしょう」



「なるほど、どことなく武士の精神と通じるものがある。良い心がけです」



「それでは、デッキの上からカードを7枚引きます」



「最初の手札ですねー」



「初期手札は、お互いにゲームを始める前に引きます。この時、先攻後攻を決定する前に手札を見ても構わない―――というのがリセにおける気をつけておくべき点ですね」



「手札を確認してから先攻後攻を決めるわけですね?」



「基本的に先攻後攻の選択権を得たプレイヤーは、自分の手札を確認し、その内容に合わせて先攻後攻の選択をするのです」



「なるほど。しかし、それでは些か選択権を得たプレイヤーに有利ではないですか?」



「それが少しネックな部分でもあるのでしょうね」



「ふむ……」



「それじゃ、わたしの先攻で。カードを1枚ドローします」



「サクラが先手を取ったようですね」


【桜のデッキ】
花単(花属性オンリー単色デッキ)
【桜の初手(先攻1ドロー含む)】
姫百合瑠璃(敵意)×2
マルチ
間桐桜(母性本能)
姫史愛生(天衣無縫)
ナミ
ウミ
織永成瀬



姫百合瑠璃を2枚捨て、手札からナミを右AFに出します」



「オッケーですよー」



「む、同じカードを2枚捨てましたね。これは最初に行う行動としてどうなのです?」



「まあ、恐らく観ていれば解るでしょう」



「ではナミの効果で、手札からウミを中央AFに出しますね」



「はーい」



「次にマルチを捨て、姫史愛生(天衣無縫)を左AFに出します」



「どうぞー」



「これでエンドです」



「……ふむ」



「サクラが一気に攻めていますね。初手からこのような動きをすると、後が怖いのではないですか?」



「そうでもないでしょう。実質、それぞれが手札2枚で出ているコトになります。普通、手札2枚程度で場に出たカードを有利に対処は出来ませんから」



「ふむ。あの同じカードを2枚捨てたのは、初めからこうやって展開する事を決めていたからですね」



「その通りです。初手からの動きというのは重要ですから、あらかじめ最後までどうやって配置するかを考えてコストを切る必要があるわけですね。あの姫百合瑠璃(敵意)というカードは、AF3つにしか出せませんから、今は手札にあっても無駄だと踏んだのでしょう」



「なるほど」



「さらに、これでも最低限の展開のはず。アタッカーだけを並べることで、まずは相手の出方を覗っているようですね。手札に間桐桜(母性本能)を残しているのはその為でしょうし、中央にタッチを持つキャラクターを置いたのも、いつでも間桐桜を配置し、タッチを行えるようにしたという意味もあるはずです」



「思考が深いですね……本当にこれで初心者講座なのですか」



「この程度は基本ですよ、セイバー」



「わたしのターンですねー。2ドロー!」



「ん? 後攻の場合は2枚引けるわけですか。先手の場合は1枚、ということはすでにこの時点でカード1枚の差がありますね」



「ええ。しかし勘違いしてはいけませんよ、セイバー。このゲームにおいて『先に場を展開する』という事はとても重要なコトです。たとえ1枚の差が生まれようとも、相手より先に動けるコトはそれを凌駕するほどのアドバンテージを生むのですよ」



「攻撃こそが最強の防御、とは言いますが―――カードゲームにしても、それは似たような言葉で言い表せるようだ」



「結局、勝負に勝つには先に相手のデッキをなくす必要があるわけですからね。先に攻撃を行う権利がある先攻が有利だという事は、基本的に変わらないでしょう」



「むむ。さてどうしましょうかー」


琥珀のデッキ】
日単
琥珀の初手(後攻2ドロー含む)】
レイチェル・ハーベスト×2
神尾観鈴(夏やすみ)×2
雪月小夜里
柊杏璃(魔法服)
麻弓=タイム(好奇心)
時雨亜沙(魔力放出)
メカヒスイ




「よーし。それではまず、レイチェル・ハーベストとメカヒスイちゃんを捨てて、レイチェル・ハーベストを左AFに出しますねー」



「はい」



「さらに、雪月小夜里を捨て、神尾観鈴(夏やすみ)を左DFに出します。何かありますかー?」



「う、何もないです。どうぞ」



「行動をするたびに確認をし合っていますが、これは?」



「リセでは、相手の行動に対応して、自分が何かを行うという事が可能なのですよ。いわゆる妨害行動ですね。特にあの神尾観鈴(夏やすみ)というカードは妨害の対象となりやすい強力カードなので、あえてコハクは対応宣言があるかどうかを確認したのでしょう」



「相手の対応行動があるかどうかも予測し、動かなければならないわけですか。読み合いが熱そうですね」



「では、神尾観鈴(夏やすみ)の効果で3枚ドローしますねー」


【引いたカード】
時雨亜沙(料理部部長)
シャドウムーン
高羽沙枝



「さらに、レイチェル・ハーベストの能力【看板娘】で、カードを1枚引きます」



「これはリセにおける代表的な基本コンボですね。後攻にレイチェル・ハーベストと神尾観鈴(夏やすみ)を出すと、ちょうど手札が7枚になり、レイチェル・ハーベストの能力【看板娘】により、カードを1枚引く事ができるのです」



「これで、コハクは2枚もの手札差をつけたわけですね」



「正確には、後攻ですので3枚ですが。しかし、ここで雪月小夜里からのスタートを選ばないとは、彼女もなかなか考えていますね」



「どういう事です?」



「雪月小夜里を一番初めに出してから上記の二体を出すと、同じく手札が7枚になり、レイチェル・ハーベストでの能力を使えるのですよ」



「ならば、そうするべきなのでは?」



「コハクは敢えてその選択肢を捨てたのですよ、セイバー。相手の属性は花。まだ序盤ですからなんとも言えないようですが、相手の場を見れば相手のデッキがどのようなデッキかは予測が付く。花単デッキというのは、基本的に場を固めてキャラクターで戦うデッキですから、雪月小夜里のように、キャラクターを出すと1枚ドローできる―――というような、相手にも得をさせてしまうカードは有効ではないと踏んだのでしょう」



「相手の戦略を読み、それに対応した最善の行動をした……という事ですか。なるほど、さすがはコハクですね」



「手札から柊杏璃(魔法服)と高羽沙枝を捨てて、右AFに麻弓=タイム(好奇心)を出しますよー」



「何もないです。手札を見せますね」



「はーい。……ふむふむ、なるほどなるほどー。了解です。じゃあ、麻弓=タイムを中央DFにジャンプさせ、これでエンドですねー」



「む。あのシャドウムーン、というのは、コンバージョン:レイチェル・ハーベストと書かれていますが」



「ええ。コンバージョンをすることもできますが―――よく観て御覧なさい、セイバー。コハクの手札は何枚ですか」



「5枚……ですね。それがどうしたのですか?」



「解りませんか。このままターンを返し、次のターンが回ってきたとき、コハクの手札は7枚になるのですよ?」



「7枚……そうか、レイチェル・ハーベストの能力ですね?」



「ええ、そうです。まだ試合は始まったばかり、序盤は手札の枚数がモノをいいます。コハクは敢えてコンバージョンをせず、そのままにしておいたのですよ。次のターン、もう一度【看板娘】を行うために」



「なるほど」



「さらにこの場の構築も上手いですね。神尾観鈴にサポートを二体あわせる事で、簡単には倒されないようにしている。相手の手札は、麻弓=タイムで確認しているので把握済み。間桐桜(母性本能)と織永成瀬ですね。次のターンにサクラがカードを2枚引いても、この両方は出せません。他に何かを引くかもしれませんが、それも運ですから、この場ではこれが最善の選択だったと言えるでしょう」



「初手からの展開のみでこれほどの読み合いが生まれるとは。やはり奥が深いのですね、このカードゲームは。とても初心者の思考だとは思えない」



「一応言っておきますが、あの二人は初心者ではありませんよ。今回の講座が初心者向けの内容となっているだけですから」


桜、琥珀ともに第一ターン終了―――
次回、第二ターンから始まる攻防をお楽しみに!
ここで終わるのか、という突っ込みはなしでwww

【小説】機動戦士ガンダム00S 第三話

  第三話/自らの正義


「こちらゼロワン、これより行動を開始する――」
 通信機を片手に、ユニオン兵士の格好をした一人の男が、通信機の向こう側へと呟いた。
『了解。ゼロツーと合流後、各自予定ルートより目標へと接触せよ」
 通信機の向こうから聞こえてくるのは男とも女とも取れない、機械音声。
「ゼロワン、了解」
 通信を終了する。ゼロワンと名乗った男――顔付きを見る限り、まだ若い青年のようだ――は、周囲を見回す。
 辺りに人はいない。
 この機を逃す手はない――ゼロワンは気配を押し殺しながら、誰に見つかる事のないように細心の注意を払いつつ、目的の場所まで一気に駆け出した。


  ◆


『ねえクロスロード君。正義、って……何なのかな?』
『正義……?』
 カフェテラスの隅にあるテーブルで向かい合う二人――杏莉・フレデリカと沙慈・クロスロード。唐突に杏莉が放った、「仲間を探している」と言う言葉。沙慈は何の事なのかまったく分からないまま、彼女の話に耳を傾けていた。
『そう、正義。良く言うじゃん、正義の味方だとかさー。あたし的にはね、そんなのはただの個人の持つ主観だと思ってる』
『……何が言いたいの? フレデリカさん』
『例えばさ、悪い奴を倒せば正義の味方なわけ? その悪い奴が確かに悪い事をしていたとして、その悪い奴を殺せばそれで解決――そんなやり方をするのを正義の味方と認めるのなら、やっぱりそれはおかしいと思わない? だって、やってる事は結局、暴力による一方的な解決じゃない』
『フレデリカさん、君は何を……』
『それを正義と思う人もいればそうでない人もいる。結局は個人個人の主観よね。だったらこの世でもっとも正しいものって、何なんだろーね?』
『それは……』
『あの演説を行ったソレスタルビーイングって武装組織も、結局それとおんなじ。自ら正しいと思う義を行っているだけに過ぎない。正しいとも思わない人たちが、ああも動くわけはない――それぐらい、クロスロード君にも分かるでしょ?』
 そんな杏莉の問いかけに、沙慈は無言で頷いた。
 確かに、自分が正しいと思えなければ――あんな組織は成立しない。正しいと思い、実行しようとする者たちが集まって出来たのが、あのソレスタルビーイングという組織なのだろう、そこまでは沙慈にだって理解出来ている。
『あたし、仲間を探してる……って言ったよね。ここ数日間はずっとそれだけに時間を費やしてきたの。学校さえサボってさー。……うん、我ながら思い切った行動力だとは思うけど――結果、どうにかなりそうなのよね』
『え……?』
『クロスロード君は見てみたいと思わない? ソレスタルビーイングが作り出す世界――彼らの行動によって変わっていくこの世界の行く末を。少なくとも、あたしは見てみたい。
だから――どうせなら、一番間近で見たいと思ったわけ』
『……フレデリカ、さん?』
『現時点で集まった仲間は、非戦闘員含めて三十一人。モビルスーツを操縦できる戦闘員のみだと十三人。さらに軍籍を持つ人間だけだと五人。これだけの人材が、たったの三日であたしの元に集まってきた。……これは偶然なんかじゃない。この世界には、ごく僅かにでも、あたしと――あのソレスタルビーイングと同じ思想を持つ『仲間』が、確実に存在している』
『まさか……』
『そう。あたしの……ううん、あたし達の目的は――』
 杏莉は立ち上がり、沙慈を見下ろすように、


『――ソレスタルビーイングへの接触。そして……組織への参加と協力、だよ』


  ◆


「おーっす、おはようございまーす。おやっさーん、いますかぁー?」
 長い黒髪を靡かせた少女、杏莉・フレデリカは、工場地区にあるひとつの格納庫のような場所へとやってきていた。中は薄暗い――が、その空間の広さは目に見えなくとも分かる。
「……ありゃ? いるはずなんだけどなー。おーい、おやっさーん!」
 杏莉は薄暗い空間の中を手探りで歩み進む。ここへ来るのは初めてではないが、明かりがついているところを見たことが一度もない彼女にとって、それなりに慣れない場所である事に変わりはない。暗闇が怖いという感情はないが、何とも行き場のない不安感が押し寄せる。
『……ちら、……ロワ……。応……願う――』
「おっと。ワンちゃんから連絡かな?」
 杏莉は、肩に提げている鞄から、ひとつの通信機のようなものを取り出した。
「――こちらオペレーター。ゼロワン、状況を報告せよ」
『こちらゼロワン。ゼロツーと合流し、ユニオン軍基地にて各自フラッグ二機を強奪。まだ気付かれてはいないようだが、恐らくもう時間がない。ここからの作戦説明を乞う』
「順調、と言ったところか。さすがだゼロワン。……それではこれからの作戦内容について説明する。ゼロツーとの回線を開け」
『回線をつないだ場合、通信を傍受される可能性があるが?』
「構わない」
『了解。これよりゼロツーとの回線を繋ぐ――』


  ◆


「……なんだって? 第三格納庫に侵入者!?」
「フラッグ二機を強奪しやがった! 俺達にも出撃命令が出てる!」
「くそっ、こっちは忙しいってのに!」
 ユニオン軍基地――命令を受けた兵士達がそれぞれに部屋を駆け出していく。たった先程帰還したばかりであるグラハム・エーカーは、状況が掴めないまま彼らの背中を見送っている。
「……何事だ、これは?」
「どうやら侵入者が出たみたいだね。第三格納庫からフラッグが二機、奪われたらしい」
 グラハムの隣に立つ青年――ビリー・カタギリが答える。
「しかし、おかしな事もあるものだね。この基地に配備されているフラッグをこうも容易く強奪だなんて。これは……内部分裂でも起きたかな?」
「裏切り者が出たというわけか……、ふむ。誇り高きユニオンの兵士ともあろうものが、どういった理由でそのような行動に出るのかは理解に苦しむが……面白い。少し、灸をすえてやる必要がありそうだ」
「おいおい、君はさっきガンダムとやり合ったばかりだろう。あまり無茶は――」
「なに、別に大したことではない。自分のカスタマイズ機が使えないのは口惜しいが――裏切り者相手程度であれば、ノーマルで問題ないさ。ガンダムを相手にする事に比べれば、な」


  ◆


「……お嬢ちゃん。始まったのか」
「うわ、おやっさん! いたなら早く出てきてよぉー」
 ゼロワン、ゼロツーとの通信を終えた杏莉の元へ、一人の中年男性が姿を現した。アルベール・エイフマン。杏莉は『おやっさん』と呼ぶ――彼女の仲間として唯一のメカニック、技術提供者である。
「ギリギリまでOSの調整をしておきたくてな。出て行こうと思った時には通信中だったようだし、終わるまで待っていたのさ」
「そ。……で、どうなの?」
「ああ、問題ない。完全とはいえないが、九割は性能を発揮できるはずだぜ」
「オッケー。ありがと、おやっさん。……それじゃあ、ちょっと行ってくるよ」
「……本当に、これで良いんだな?」
「やだな、もう道を選ぶ段階は踏み越えちゃったよ。大丈夫、きっとなんとか出来る」
「そうか。……よし、こっちへ来い」
 杏莉はアルベールにつれられるように、格納庫の奥へと歩みを進めていく。薄暗い空間から真っ暗な空間へと進むにつれ、自らの身体さえ視認できなくなる。
「ここだ。止まれ」
 アルベールがそう言うと、カチリ、という音と共に格納庫がたちまち光で満たされた。
「……え?」
 そこに――何かがあるわけでは、なかった。
 杏莉は辺りを見回すが、格納庫内部はがらんとしている。
「まあ、見てな。お嬢ちゃん」
 アルベールが何かの機具のようなものを取り出し、何もないはずの空間に向けた。
「こいつが――この俺の最高傑作だ」
 瞬間、杏莉は我が目を疑った。
 何もなかったはずの空間に、突然――モビルスーツが姿を現し始めたのである。頭部から下へと、まるで最初からそこにあったかのように。その機体はどこかユニオンのフラッグに似ていたが、色は白く、形状も部分部分が違うようだった。
「これは……」
「こいつが、俺がユニオンフラッグを改良してカスタムした機体――『フラッグ・S《セラフィム》』だ。見ての通り完全にその姿を消すことの出来る機能、『MCS装甲』を搭載している。ただし装置の関係上、起動時間が他のフラッグより少ないのが問題だが――一度展開してしまえばいつでも逃げ切れるだろう」
「フラッグ、セラフィム……。すごい……、これならあたしでも――」
「ただし、あくまでこの機体に武器はないぜ、お嬢ちゃん。あんたの役目はあくまで『指揮官』だ――そいつを忘れるな」
「……うん、分かってる。ありがとう、おやっさん
 自らの専用機――『フラッグ・S』を見上げながら、杏莉は思う。
(ここまできた……あとはやるだけだよ、杏莉・フレデリカ……。今回のこの作戦の成否で、あたし達のこれからが決定するんだ……)
 杏莉は決意を固め、『フラッグ・S』のコクピットへと向かう。コクピット部分から垂れ降りた搭乗用ロープに捕まると、そのままロープが上昇を開始。コクピット外部に到達すると、杏莉はごくりと息を呑んだ。
(失敗すれば全てが終わる……。成功しても、これであたしはれっきとした犯罪者――落ち着け、落ち着け……杏莉・フレデリカ……!)
「……お嬢ちゃん、どうした?」
「な、なんでもないよ。あはは」
 杏莉はそれだけ応えて、コクピット内部へと乗り込んだ。モビルスーツの搭乗は初めてではあるものの、基本的な操縦方法などは基礎授業として受けている。それに、授業云々を抜きにしても――モビルスーツの操縦なんてものは、彼女にとってさほど難しいことではない。
 コクピット内部には、黒を基調としたパイロットスーツ一式が置いてあった。アルベールが用意したものだろう。杏莉はそれを手に取った。
(そうだ……。あたしは、あたしの信じる『正義』を行う。その為に、それだけの為にこれだけのことをしでかした……志を同じくする仲間も集まった。そうだ……あたしは何も間違ってなんかいない。これからなんだ。ここから……全てが変わる……!)
 パイロットスーツを着用し、モニターを展開。コクピット内部から周囲の景色が覗える。
 ふと見下ろすが、そこにアルベールの姿はない。
「あれ、おやっさん……?」
『開けるぞ、お嬢ちゃん! MCSを展開しろ!』
「え、あ……了解!」
 瞬間『フラッグ・S』の機体が姿を消していく。周囲の景色と同調――『MCS装甲』が展開する。同時に、格納庫の天上がゆっくりと開いていった。
『……死ぬなよお嬢ちゃん。俺達のリーダーは、あんたなんだ。あんたがいなくなれば、こんな寄せ集まりのチームなんてすぐに無くなるのは目に見えてる。だから、絶対に生きて戻って来い……!』
「あはは、責任重大だな。……うん、大丈夫。あたしは死なない。死ねないからね」
『フラッグ・S』が起動する。動力源となるプラズマジェットエンジンが唸り、背部、腰部にあるエンジンが火を噴く。
「杏莉・フレデリカ――セラフィム、行くよ!」
 杏莉は意を決し、天を見上げた。



/第三話・完
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【小説】機動戦士ガンダム00S 第二話

  第二話/すれ違う意思


 ソレスタルビーイングの演説から、三日が過ぎた。
 沙慈・クロスロードは、学区のとあるカフェテラスで一人の少女の到来を待っていた。ルイス・ハレヴィ――沙慈のガールフレンドである。
 約束の時間まではまだあるが、いつもの事ながら時間にルーズ――と言うよりはマイペースだと言うべきだろう――なルイスの事だ、時間通りに来るとは思えない。それまで、沙慈は特に何もすることなく一人思いにふけっていた。
 あの演説を行った、ソレスタルビーイングと名乗る私設武装組織――彼らの目的が、沙慈にはとてもではないが理解できなかった。戦争行為に武力による介入を行う――そんな行動に何か意味があるのか。自分達のメリットは考えない――そんな組織が果たして成り立つだろうか。個人で動くならばまだ解る。その思想を理解できるかどうかは別としても、個人でなら個人で勝手にやればいいが――これは個人活動ではない、組織を挙げての行動だ。組織という事は、少なからず多数の人間がその思想に賛同し、協力を行っていると言う事だ。
 ならば――それら組織に加担している人々は、その思想の意味、行動理由を理解できているのだろう。正しいかそうでないかは関係ない――あくまで自分が納得できるかどうか程度のものであったとしても、理解できるのならば、ソレスタルビーイングという組織に参加する、その意味は沙慈にだって理解できるかもしれない。
 しかし、そうではない。沙慈には理解できないのだ。そのような――武力によって戦争行動に介入すると言うような行為に、何か意味があるのか、それが――沙慈には解らない。どれだけ悩んでも、どれだけ考えても――まったく理解に及べない。自分の思慮深さは平凡なりに持ち合わせていると自負しているが、こればかりは本当に理解できなかった。
 結論なんて出ないまま、沙慈はこうして今までと変わらない生活を営んでいる。学生として、一人の少年として――この経済特区・日本で生きている。
 だが――変わらないのは自分ぐらいなのかもしれない。少なくとも、沙慈自身をとりまく環境は、何かが変わりつつある――
「……フレデリカさん、今日もいないな。もうあれから三日会ってない。どうしたんだろう……学校にも顔を見せていないみたいだし――」
 彼の学友――同じ高校に通っていた杏莉・フレデリカと言う一人の少女が、急に行方を眩ましてしまった。自分やルイスは同じ学年の友人としてたびたび――というか、ほぼ毎日のようにこのカフェテラスで一緒に食事をした。だが、どうしたのか、ここ三日間まったく姿を見なくなった。昨日の時点で少しおかしいと思った沙慈は、彼女の学区へ向かい、適当な生徒に聴いたが――行方不明。教師さえいなくなった理由が解らないらしい。これ以上詮索はしていないが、恐らく学校に連絡さえ届いていないと見て間違いない。
「お待たせ致しました、アイス・カフェオレとサンドイッチのセットでございます」
 沙慈の目の前に、唐突に食事が運ばれてくる。注文していた昼のセットだった。隣を見やると、綺麗なエプロンドレスを着たウェイターの女性が、にこりと微笑んでいた。
「ありがとうございます。……あ、もうすぐ連れが来ると思うので、これと同じやつ、あと十分後にもうひとつ、お願いできます?」
「アイス・カフェオレとサンドイッチのセットをもうひとつ、十分後でございますね。かしこまりました――では失礼致します」
 それだけ言い残し、エプロンドレスのウェイターはその場から去っていった。
「……なんていうか、時代錯誤な格好だなぁ。ここは基本的に服装は自由だし、別に文句は言われないんだろうけど――あの丁寧過ぎる応対とか、プロ……って感じ。うん、悪くはない、かな……」
「なーにが悪くはないのかなー、クロスロードくぅん?」
「え? あ、うわぁ!」
 一人呟いていた最中、突然沙慈の後ろから聞き覚えのある声が聴こえた。
 沙慈は驚いて後ろを振り返る。
 ルイス――ではない。彼女は――
「……、フレデリカ……さん?」
「ん、そうだよん。誰もが認める美少女、杏莉・フレデリカちゃんなのです」
 長い黒髪をさらりと靡かせ、いつも通りの活発そうな服装にミニスカート――間違いなく、それは沙慈の知る通りの――杏莉・フレデリカ、本人であった。
「び、びっくりしたよ……! どうしたんだいフレデリカさん、ここのところ学校ずっと休んでたみたいだったから、僕もルイスも心配して――」
「え、ホント? 心配してくれてたんだ、クロスロード君。それにルイスもねえ……ふうん。あ、サンドイッチおいしそーっ! あたしも食べたいなー」
「え? あ、うん。ひとつぐらいならいいけど……」
「やったぁ! 杏莉ちゃんは嬉しいよ。それじゃ遠慮なく、いっただっきまーす!」
 沙慈は急に現れた台風のような彼女を見つめながら、一番楽しみにしていたハムタマゴサンドを一口でパクりといかれ、思わずあっ、と声を出しそうになっていた。
 これが……杏莉・フレデリカだと言うのか。いや、確かに彼女自身に違いはないんだろうけど――何かが、変じゃないか? 沙慈はうっすらと浮かぶ疑惑の念を胸に抱きながら、しばらく様子を見る事にした。
「それにしても、あれってメイド服だよね? あはは、あたし初めてみちゃったよ。うーん、もうなくなった文化だとばっかし思ってたけど、解る人間には解る良さ――ってやつ? ねえ、クロスロード君も解るでしょ? さっき悪くはない、とかなんとか言っちゃってたし」
「えっ……いや、僕は服装の事じゃなくて、ああ言う接客態度っていうか――」
「ホラホラ言い訳しない見苦しい、そんなだからルイスの尻に敷かれちゃうんだよー。あのねー、ああ言うタイプってのはねー、もっとこう、強引にいくべきなのだよクロスロード君。解るかね?」
「は、はあ。わか……るような、解らないような」
 実際、ルイスのマイペースな性格にどれだけ振り回されているのか――沙慈自身、それとなく自分で理解はしているつもりだ。そこは特に反論する気はないけれど――だけど、今はそれどころじゃない。問題は、まったく別の部分にある。
「……そんな事より、フレデリカさん。さっきの答えを聞かせてよ。僕だって心配はしていたけれど――ルイスは凄かったんだ。本当に君の事を心配していた。だから、どうして今まで休んでいたのか、教えて欲しい」
「んー、こうして戻ってきてるんだし、もうよくない? 心配させちゃったのは悪かったよ、うん、ごめん――」
「フレデリカさん」
「……あはは。怖いねえ、クロスロード君。あたしに対してはそうやって強気になれるなんて、なんだかズルくない?」杏莉・フレデリカはとぼけたような態度から、一変――真面目な、今までに見た事もないような表情になって、「……いいよ。ちょっとばかし早すぎる気もするけど、本題に入ろっか」
「本題……?」
「うん、本題。……もう知っているとは思うけど――クロスロード君、あの演説放送は、見たよね?」
 演説放送――ソレスタルビーイングのあの声名の事だろうか。特に他に思い当たる節はない――沙慈は言葉の代わりに首を縦に振った。
「単刀直入に言うよ。あたしは今、仲間を探してる」
「仲間?」
「そう。文字通り、共に同じ道を歩む仲間を――ね」


  ◆


 ルイス・ハレヴィは、予定より少し遅くなってしまった――と言う事を本人はあまり気にしていない――が、ほぼ予定通りと言っていいだろう、学友でありボーイフレンドである少年、沙慈・クロスロードとの待ち合わせ場所であるカフェテラスに到着していた。
「沙慈はどこにいるのかなーっと」
 辺りを見回す。ウェイターや客が大勢いるこのカフェテラスで、一人――しかも結構地味な少年とも言える沙慈を探し出すと言うのは、普通では難しいだろう。だが、ルイスは特別時間を掛ける事もなく、すぐに沙慈の姿を見つける事ができた。テーブルに肘を付き、両手を組んでそこに頭を乗せて――何かを考えているのだろうか?
 ルイスは少し不思議に思いながら、そっと、気配を隠して沙慈の後ろまで近寄った。
「――んな、有り得ない。それは違うよ、間違ってる……」
 沙慈は一人、何かを悩むかのように独り言を呟いていた。
 これまで深刻そうな彼の姿を見るのは、ルイスにとっては珍しい事だった。何があったのか気になる――だが、何故か声を掛けられない。沙慈の周りだけ、暗い空気が漂っているかのようなプレッシャーを感じる。
「無理だ……そんなの無理に決まってる。それにやったって無駄でしかない……それはただの勘違いだよ、フレデリカさん……!」
「フレデリカ……?」
 予想だにしない名前が沙慈の口から聴こえたからか、ルイスは咄嗟に声を上げていた。それに気付いた沙慈は、背後にいるルイスへと顔を向ける。
「……? ル、ルイス――いたの……いつの間に?」
「あっ……ごめん、沙慈。別に立ち聞きするつもりはなかったんだけど……それよりフレデリカって、あの杏莉の事でしょ? もしかしてあの子と会ったの?」
「ああ……」沙慈は何かを思い出したのか、顔を背けて右手を額に当てた。「うん、会ったよ。ついさっき――五分も経たないくらい前に、席を立ってどこかに行っちゃったけれど……」
「そうなんだ。あの子、何か言ってたの?」
「いや……ううん、なんでもない。でも、とても元気そうだったよ。心配していたこっちが損したって思えるくらい、凄く……」
「沙慈……?」
 いつもとは確実に様子のおかしい沙慈の姿に、ルイスはどうしていいのか解らず、ただ黙って彼の対面の席に腰掛ける。
 こんなとき、自分はどう接したらいいだろう――元々物事を深く考えない性格のルイスは、余計に解らなくて――それなら、もう悩む意味なんてない。ただ私は、いつものように振舞えばいい……そう心の中で割り切ったルイスは、ふと思いついた言葉を、まるで独り言を呟くように――言った。
「もう、杏莉ってば連絡もなしに何してたのか知らないけど――元気なら、私はそれでいいかな。だって、杏莉には杏莉の人生があるじゃない」
「人生?」
「うん。私と沙慈にもそれぞれ自分の人生があるでしょ? この世界のどこかで戦争をしてる人達にもあるし、あのボランティアの人達にだって――」
「あれはボランティアじゃない……ただのテロリストだよ、ルイス」
「うーん……でも、その人達にだってきっとそれぞれの人生があるよ。自分の人生って、自分でそうしたいって思うから作り上げられるものじゃない?」
「自分で……?」
「そっ。だから杏莉も今、きっと自分がしたいと思ってる事をやってるんじゃないかなって思うの。だから――心配はしてたけど、無事に元気でやってるんだったら私はいいかなって。沙慈も、そう思うでしょ?」
「自分で、選んだ……自分だけの人生、か――」
 ルイスが何気なく語った言葉が、少しは届いたのだろうか。
 沙慈の表情は先程よりは多少柔らかくなっていた。一人で何かを背負い込もうとするような、そんな暗い雰囲気はもうない。ルイスはほっと心の中で胸を撫で下ろす。
「――でも」
 だが、そんなルイスの心境を知らず――沙慈は、まるで何かを恐れているかのような、拒絶しようとしているような表情で、言う。
「それがもし、間違っている事だとすれば――それは、許される事なのかな? あの放送で流れてる演説を行った組織の人達だって、それが許されない事だと解っていてやってるのだとしても――理解しているのだとしても、それを実際に行うと言う事は、きっと間違ってる。それを間違っていると言って、間違いを正してくれる人間がいないなら――その間違った人間は……きっと悲しいよ」


第二話・完
>第三話に続く

とある絵札の

うpしようかと思ったけど、イラスト関連で正式申請することにしたので、当分うpはできそうにないっす。
一瞬うpしてたけどそこはご愛嬌(えー


てなわけで二次配布は自重するので詳細はメッセ勢のみでー
あ、登録とか大歓迎なんで誰でも↓のアドで登録してね><

bxgjh348@yahoo.co.jp


今日はバシいくか……

ふいー

最近朝までずっと起きていることが多いです。
ニコニコで東方の曲無限るぷしてます。
良いねー、ちょっと東方やってみたくなってきたかも。


あ、メルブラですがワルクに戻りました。
もうなんかアレだ、メインという枠を考えないようにしようかな……w
いちいち気使ってメインとか言うのめんどくなってきたし。
もうみんなメインでいいんじゃね?


そして今日は久しぶりに絵を描いて……たけど、途中で挫折して色塗りが適当もいいところに。
てかなんか俺の色塗りのやり方が根本的に間違ってる気がするんだよねー。
なんかもっと効率のいい方法とか絶対あると思うんだ……。
ちょっと調べてみようかな?


まあそんな感じで。
あ、ちなみに00Sの2話はすでに出来てます。宣言通り土曜日にうpするのでよろしくお願いしまう〜。