プランBはまだ要らない

 Jリーグ第27節、浦和は柏と対戦。前節のG大阪戦、ホームでの0-5というショッキングな敗戦から切り替えるためにも大事な試合だったわけですが、ポポの劇的なロスタイム逆転弾で見事勝利。優勝戦線に踏み止まることができました。
 昨シーズンと比べ、非常に有意義なシーズンとなっている今期には非常に満足しているし、ここまで立て直したペトロビッチ監督の手腕には脱帽ものなのですが、一方で今の浦和の戦い方、守備時は5バック、攻撃時は5トップという特殊なやり方に対する懸念みたいなものを6月くらいから実は抱いていました。というのもあまりに型にハマり過ぎていると感じていたからです。今のやり方は相手チームとのフォメのかみ合わせのギャップを利用してマークのズレを生み出し、そのスキを突いてゴールを奪うことを目的としています。前の3人は比較的自由に入れ替わりながら動いてボールを受けるのですが、他の選手に関しては基本的に約束事の範疇の中での動きに限られており、動く範囲を限定することで守備時のリスクマネジメントをしているわけです。
 で、今年の浦和、特にシーズン折り返し辺りから顕著なのですが、前半に試合の主導権を握り、後半は逆に受身になってしまう試合が目に付きます。要は浦和の特殊なフォメに相手が対応しきれない前半に主導権を握り、後半になると対応されてしまい相手に主導権を渡してしまう試合が多いのです。後半になると運動量が落ちるってのもあると思いますが、前半はサイドを有効に使えていたのに、後半になると攻め手がないって試合が多いんです。というのもあって、対応された場合は攻撃時の4-1-5のような布陣に固執せずに別のやり方を模索したほうが良いのではないかと前々から思っておりました。プランBってやつですね。現代サッカーはバルサを筆頭にパスでボールを動かしてギャップを作るサッカーで、浦和もパスやポジションチェンジで相手守備網にギャップを作り、そこから崩して行くやり方も取り入れたらどうだろうか、と。柏木というパスで変化をつけられるタレントもいるしね。
 そんなわけでG大阪戦の大敗を受けて、やはりプランBは必要だろうと改めて思ったわけです。G大阪は浦和の最終ラインにプレッシャーを掛けてボールをサイドへ誘導し攻撃を遮断、あるいは何とかプレスをいなしてタテにクサビのパスを入れてもそこでしっかりと潰すという、完璧な浦和対策をやってきました。にも関わらず、浦和はいつまでたっても同じことの繰り返し。マイボール時に阿部が最終ラインに降りて、ワイドが上がって4-1-5。阿部と永田がプレスに苦しめられて効果的な配給が出来ず、槙野や坪井がサイドでボールをもらっても出しどころがなくて苦しんでいるのであれば、阿部は下がらずに最終ラインは槙野・永田・坪井でパスを回して、鈴木と阿部が中盤で動いて最終ラインからのパスの選択肢を増やしてもいいのに。タテパスが潰されるのであれば、一度中盤でボールを保持してから裏抜けする動きなどでチャンスをうかがえばいいのに。G大阪戦はそんなことを考えながら見ていたわけです。やはりプランBの準備もするべきでは、と。
 そして迎えた柏戦。前節が大敗だっただけに、何か+αが見えるかなぁとけっこう楽しみにしておりました。で、しっかりと+αが見えたんですよね、プランBではなく、今のやり方を一歩進めるやり方として。それが最終ラインからのドリブルでの持ち上がりです。DFが中央からドリブルでボールを前に運ぶことで、守備ブロックを構築しているボランチを引っ張り出し、ブロックに穴を開けるってやり方ですね。これまでも永田や阿部は、ボールを持ったときにプレスが緩いとドリブルでするするっとボールを前に運ぶプレーを時々見せていましたが、それはあくまでもボールホルダーである永田や阿部個人の判断だったと思います。ところが柏戦では明らかにチームとしてその形を意識していました。ボールホルダー個人の判断ではなく、パスの出し手がそこまで考えてパスを出すシーンが何度かあって、明らかにチームとして意識しているのが伝わってきました。坪井ですらドリブルでボールを運んでいましたからね。通常、敵の前プレに追い込まれると安全策としてタテに放り込むか、GKやボールホルダーの横〜後方に下がったDFにパスを出して逃げますが、このやり方ではDFが後方のフォローに入るのではなく、敢えて前に出ることでパスコースを作りプレスをいなし、かつチャンスを広げることを目的としています。リスクの伴うプレーだし、状況に応じた判断が必要ですが、今のサッカーを確実に一歩前に進める方法ではないかと思います。
 僕自身、今のやり方は型にはまり過ぎており、いずれ閉塞してしまうのではという危惧からプランBの用意もした方がいいのではと思っていたわけですが、今の特殊な戦術にもまだまだ伸び代はあるんですよね。つまり、まだプランBは要らないんです。今はプランAの完成度を高めることの方が重要で、プランBどうこうを言う時期ではないというペトロビッチの心の声が聞こえてくるような柏戦でした。ペトロビッチ監督がどんな完成図を描いているかは分かりませんが、監督の契約延長も発表されたわけですし、優勝争いはもちろん、戦術の熟成も含めてこれからの浦和がますます楽しみですね。