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如実知自心〜三田こころの健康クリニック新宿〜 このページをアンテナに追加 RSSフィード

2018-07-17

対人関係での感情制御は安心感の提供ではない

情動知能(自分や他者の感情を理解・表現したり、感情をコントロールする能力)」は、主に、対人コミュニケーション場面で用いられます。これはメンタライゼーションと同じような意味と考えていいでしょう。

フランスの精神分析家であるルクールとブシャールは、メンタライゼーションを「身体的な欲動-感情の興奮を、象徴化された心的内容(イメージや言葉などの表象)に変容させ、これらの興奮を象徴的な形で維持する活動(心的体験)」と位置づけ、メンタライゼーションが「感情耐性」と「感情調節」に重要な役割を持つことを強調しています。

愛着のパラドックスと重要な他者』で、感情調節のプロセスには個人内(自分自身との関係)と個人間(二者関係)の2つがあり、個人間(二者関係)だけに感情調節を頼ってしまうことが「愛着のパラドックス」につながることを説明しましたよね。

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個人間(二者関係)での葛藤や問題解決場面では、対人関係と抑うつ症状は双方向性に影響を与え合うとされています。
そのため主にコミュニケーションによる影響が研究されて、コミュニケーションパターンの改善が試みられてきましたが、期待通りの効果が得られていないのです。

個人間の感情制御という視点に立った場合、異なる介入のターゲットが考えられる。

たとえば、夫の援助行動は、抑うつ症状を有する妻にとっては、あまりポジティブに評価されないことが示されてきた。
同様に、不適応的なコミュニケーションは、一貫して抑うつと関連するわけではなく、妻の感情状態に依存するという。

要するに、抑うつ症状があるとき、またネガティブな気分を経験しているときに限って、妻は問題解決の場面において、夫とよりネガティブなコミュニケーションをとっていたのである。


ホフマン『心の治療における感情』北大路書房


抑うつ症状のある妻の感情状態が、夫婦間(個人間)の葛藤だけでなく妻自身の抑うつ症状をもコントロールしているということです。

たとえば、夫の中性的な些細な一言(例:今週は忙しかったから、あまり話ができなくてゴメン)を、「何もしないで家にいる私への当てつけ」とか「夫は話をする気がないことの言い訳をしている」などとネガティブに解釈し、そのまま(怒りを含んだ言い方で)夫に伝えた場合を考えてみるとわかりやすいと思います。

重要な他者が症状を維持させている?』で引用したように、「家族は、患者の要求どおりに巻き込まれなければ、患者が攻撃的になったり、患者から質問攻めがいつまでも続いたりするといった状況に陥り、このような状況にどのように対処したらいいか分からない、あるいはそれに対応する自信がないために巻き込まれてしまう。巻き込まれてしまえば、家族は対応困難な状況事態には直面せずにすむため、患者からの要求にますます応えようとしてしまう」のです。

つまり、個人間(二者関係)での感情制御方略がうまく機能していない場合、患者さんの側は安心・慰めだけを相手(パートナー)に求めて「愛着のパラドックス」に陥り、一方パートナーの側は患者さんの感情状態に「巻き込まれ」、それらが症状の維持・遷延因子になっているということなのです。

言い換えれば、夫婦間の葛藤と抑うつの関連を妻の感情状態が調節するということである。
そのため、パートナーの行動と患者の感情の間の機能的関係に着目しなければ、コミュニケーショントレーニングは奏効しないと考えられる(患者の不適応的な感情制御方略は、パートナーによっていかにもたらされるのか、など)。

(中略)

こうした個人間の感情制御プロセスを考慮せず、コミュニケーションや問題解決のトレーニングを行わせてしまうと、患者がすでに抱えている問題を悪化させてしまうことすらあり得る。


ホフマン『心の治療における感情』北大路書房


先の「個人間の感情制御の例」で考えると、仕事で満足な評価を受けていない夫が、自分の存在意義を満たすために妻(キャスリーン)に献身的に尽くそうとしているのかもしれません。
あるいは、妻(キャスリーン)が自分の助けを借りずに一人でショッピングモールに行けるようになると、自分は不要になるのではないかという不安を打ち消すために妻(キャスリーン)の依存を強化している可能性も考えられますよね。

つまり、コミュニケーション分析で行うようなコミュニケーション問題の改善だけでは片手落ちなのです。
相手(この場合は夫)の視点を考慮することと、その過程で妻(キャスリーン)が、自分がその出来事をどう解釈し(思考)、そのとき身体にはどんな感覚(情動)が生じて、その情動に何と名前を付け(感情)、どのような反応(行動)を引き起こしたかの自己認識(メンタライゼーション)を促進する必要があります。

そのプロセスで、患者さんには感情を抱えたままでいる(受容)や、感情が穏やかになるまで表出を遅らせる(耐性)、情動のメンタライジングをすすめていきます。

個人間(二者関係)での感情制御プロセスは、同時に対人関係の文脈にそって、不安や症状の維持・遷延がどのようになっているかの理解をもとに、サポーターであるパートナーには感情体験の回避と行動の回避をブロックするために担う役割を教育していく必要があるのです。

三田こころの健康クリニック新宿の専門外来で行っている対人関係療法による治療で、「他人との関係を改善する(自己概念あるいは関係の中における役割についての気づき)」の個人間(二者関係)の感情制御プロセスの土台として、「自分との関係を改善するこころの状態の変化についての気づき)」「行動の仕方を改善する(思考・感情・情動のコントロールについての気づき)」など個人内の感情制御を重視しているのは、このような理論背景があるからなのですよ。



三田こころの健康クリニック新宿「専門外来」の『聴心記』では『摂食障害から回復するために自分自身との対人関係に取り組む』というタイトルで、専門外来で指導している個人内感情制御のプロセスを理解するための取り組み(自己内対話)について解説しています。

自己内対話には、『8つの秘訣』ではノートに書くやり方ですが、それ以外にも「二つの椅子の対話(エンプティ・チェア)」や、気持ち(感情)を身体感覚として捉えなおすボディスキャン、『デーモン・ワーク』などがあります。
摂食障害の部分と健康な部分の対話」「歪んだ思考との対話」が難しいときには、実際に2つの椅子を向き合わせて「二つの椅子の対話(エンプティ・チェア)」をやってみることを患者さんに勧めていますよね。

専門外来で行っている摂食障害対人関係療法による治療で「自己内対話(考え・感情・情動のコントロールに対する気づき(自分との関係を改善する))」を勧めるのは、思春期から青年期中期にかけて、パートナーや配偶者がいらっしゃらない場合の「重要な他者(アタッチメント対象:セーフティ・パーソン)」は治療者や自分自身になり、この取り組みは思春期の発達課題であるアイデンティティ(自我同一性)の確立とも密接に関係するからなのです。
(思春期までは両親ですが、青年期以降はパートナーや配偶者が「重要な他者(アタッチメント対象:セーフティ・パーソン)」になります。)

三田こころの健康クリニック新宿「専門外来」での摂食障害治療は、愛着(アタッチメント)や発達課題をアセスメントして、「考え・感情・情動のコントロールに対する気づき(自分との関係を改善する)」「心の状態の変化についての気づき(行動の仕方を改善する)」「自己概念あるいは関係の中における役割についての気づき(他人との関係を改善する)」などの対人関係療法の課題に取り組んでいきます。

学生さんはそろそろ夏休みが始まりますね。
夏休みの間に集中的に治療に取り組むことで、ある程度回復への道のりを進んでおくことが可能です。

クセになったと感じられる過食や過食嘔吐から本気で回復したいと思っていらっしゃる方は、『摂食障害の謎を解き明かす素敵な物語』と『摂食障害から回復するための8つの秘訣』をお読みになった上で、三田こころの健康クリニック新宿の専門外来に申し込んでくださいね。

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2018-07-09

重要な他者が症状を維持させている?

愛着のパラドックスと重要な他者』で、「重要な他者(アタッチメント対象:セーフティ・パーソン)」が、拒食症の患者さんのために食べ物を計ってあげたり、過食症の娘のために過食食材の買い出しをしてあげたりすると、容易に「愛着のパラドックス」(問題の維持・遷延)につながってしまうことを説明しました。

このことは、強迫性障害(強迫症)にともなう「巻き込み」として理解することも可能です。
強迫性障害は、強迫観念によって引き起こされた「不安」を受け容れたり、耐えることができないため、「自己強化的な回避や逃避」といった強迫症状をつかって不安を低減しようとしたり、強迫観念を引き起こすような状況(先行刺激)を避けようとする特徴があります。

例えば、ドアノブを直接触らないで済むように手袋をして触る、できるだけ外出をしないといった行動が『回避』にあたる。
これにより、先行刺激への曝露を回避でき、強迫観念や強迫行為に直面せずに済むと、余計に回避行動が増えてしまうという悪循環を招いてしまう。


渡辺杏里・中前貴『強迫症と対人関係』精神科治療学 33(4):427-433, 2018


患者さんは「体重が増えるかもしれない」という不安を回避するために、食べ物の量を厳密に計ったり、体重計に乗ったりする行動が、どんどんエスカレートしていきますよね。

いずれにせよ、重要な特徴は、自己強化的な回避や逃避行動によって、恐怖が維持されるということである。恐怖はある出来事から始まるかもしれないが、回避と逃避によって維持される。

ほとんどの不安症に見られる中核的な問題は、不安を感じることや個人的出来事を体験することを回避することである。


サイズモア『セラピストのためのエクスポージャー療法ガイドブック創元社


そして、自己完結型の「自己強化的な回避や逃避行動」では満足できなくなり、膨れ上がった不安を何とかするために、「重要な他者(アタッチメント対象:セーフティ・パーソン)」に安心と慰めを求めます。
これは、強迫性障害の「巻き込み」としてよく知られています。

巻き込まれる家族側からみると、家族は、患者の要求どおりに巻き込まれなければ、患者が攻撃的になったり、患者から質問攻めがいつまでも続いたりするといった状況に陥り、このような状況にどのように対処したらいいか分からない、あるいはそれに対応する自信がないために巻き込まれてしまう。
巻き込まれてしまえば、家族は対応困難な状況事態には直面せずにすむため、患者からの要求にますます応えようとしてしまうのである。

このように、患者は不安や労力を回避しようとして家族を巻き込み、家族は対処能力の低さから患者に巻き込まれるという構造になっており、これらが相まって、巻き込みが増悪していく。

(中略)

家族は、患者本人の状態を精神症状ではなく本人の性格やわがままと捉えて患者の苦しみを正しく理解していなかったり、強迫行為を手伝うことが患者の病気そのものを悪くさせることを知らずに、良かれと思って強迫行為を手伝ってしまっている場合がある。


渡辺杏里・中前貴『強迫症と対人関係』精神科治療学 33(4):427-433, 2018


巻き込みは、「再保証を与える」「強迫行為に参加させる」「回避を手伝わせる」に分類されます。
たとえば、「この量なら太らないから大丈夫よ」が再保証で、母親にたくさんの量の食べ物を食べさせることは強迫行為への参加、食べ物の量をグラム単位で計らせるのが回避の手伝いですよね。

一般向けの摂食障害の本には、「親が自分のために食べ物を計ってくれている」ことで安心を感じられるとか、食事のたびに「お母さん、今回もちゃんと計ってね」と思いださせる役割分担など、強迫症状への巻き込みを推奨している本もありますよね。

しかし、家族が症状に巻き込まれてしまう程度が強いほど、治療成績が低下する(治りにくくなる)ことがくり返し警告されています。

また、巻き込まれてしまった家族は、だんだんと負担が大きくなり疲弊してくるのですが、サポートの意味をはき違えている治療者から「一番苦しんでいるのは患者さんであることを忘れないように」の一言で、家族はますます巻き込まれて強迫症状の手助けをしてしまうようになるのです。

親密な関係の中では、いかなる時も、感情制御は個人内だけでなく、個人間においても行われるものである。
しかし、慢性的な精神疾患を抱えている者の場合、こうした個人間の感情制御は、ときに不適応的なものとなり、症状の持続・遷延へとつながってしまう。
不安症の場合、回避行動は、症状の持続・遷延を招く主要な要因である。
特に、セーフティ・パーソンの存在は、こうした回避行動の形成につながる。


ホフマン『心の治療における感情』北大路書房


患者さんの不安を低減するために「重要な他者(アタッチメント対象:セーフティ・パーソン)」が安心を提供するやり方では、「重要な他者(アタッチメント対象:セーフティ・パーソン)」の存在が不安の受容や耐性につながらずに不適応的に機能してしまい、症状の維持・遷延に結びついてしまいます。
このことをアディクションの領域では「イネイブリング(嗜癖その他の問題行動を陰で助長している)」と呼ぶのです。

三田こころの健康クリニック新宿の専門外来で行っている『摂食障害のお子さんをお持ちの家族のための摂食障害サポート面接(ケア・カウンセリング)』では、疾患教育や、巻き込みに対する家族の対処能力を上げること、患者さんのサポーターとして担う役割の教育、そして家族が「情動知能(自分や他者の感情を理解・表現したり、感情をコントロールする能力)」の見本となっていただくことを行っているんですよ。

人間関係 境界線(バウンダリー)の上手な引き方 (DOBOOKS)

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三田こころの健康クリニック新宿「専門外来」の『聴心記』では『摂食障害からの回復に必要な体験の仕方の選択』というタイトルで、「何が起きたのか?」という出来事の内容ではなく、「その出来事をどう体験したのか?」という体験の仕方を自覚することが重要であること解説しています。

専門外来で行っている摂食障害対人関係療法による治療で最初に取り組む「考え・感情・情動のコントロールに対する気づき(自分との関係を改善する)」で「気づき」という言葉を使っているのは、「内省(メンタライズ)する」ことの重要性を表しているのです。

また、「感情のコントロール」について、専門外来で体験的に教えている抑制・受容・再評価という心の使い方の違いについても、ほんのさわりの部分を簡単に説明しました。

これだけではよくわからないと思われる方は、今現在、治療に取り組んでいらっしゃるAkoさんの「摂食障害が教えてくれることを読んでみてくださいね。また、治療が終結した梅こんぶさんの「梅こんぶの幸せごちそうさま」も参考になるかもしれません。

摂食障害は回復することが可能な病気です。回復するためには○○療法を型通り行うのではなく、対人関係療法で推奨されているように患者さんに合わせて臨床家が自分の臨床判断を用いて治療に修正を加える必要があります。

過食症や過食嘔吐、あるいは、むちゃ食い障害から本気で回復したいと思っていらっしゃる方は、『摂食障害の謎を解き明かす素敵な物語』と『摂食障害から回復するための8つの秘訣』をお読みになった上で、三田こころの健康クリニック新宿の専門外来に申し込んでくださいね。

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2018-07-02

愛着のパラドックスと重要な他者

愛着(アタッチメント)の治療』や『愛着の問題と過食症を根底から理解する』で、精神療法あるいは心理療法での「愛着のパラドックス(承認欲求」の問題について触れたことがあります。

ただし、愛着がメンタライジングを妨げるという「愛着のパラドックス」が生じることがあります。クライエントが愛着関係およびそれによって得られる安心・慰めだけを心理療法に求め始め、苦痛を伴うメンタライジングを回避するようになる場合がそれです。

クライエントに対する支持的対応が必要な局面ではそれでもかまわないでしょうが、メンタライジングの回避がずっと続くのでは、メンタライジング能力の増進という目標は達成できなくなります。


上地『メンタライジング・アプローチ入門——愛着理論を生かす心理療法』北大路書房


メンタライジングとは、自分と他者の行動の背景にある精神状態に注意を向け、それを認識すること(心で心を思うこと)ということです。他にも、自分自身をその外側からながめること、他者をその内側からながめること、という言い方もあります。

本来、精神療法が困難な精神病の急性期に用いられる支持的精神療法を不適切に使ってしまう治療者と愛着(アタッチメント)関係が培われるとき、患者(クライエント)が自分の心の中の嫌な部分、ネガティブな気持ちを振り返ることを回避してしまうことが起きがちなのです。

クライエントの思考や感情を、判断せずに正確に反射しながら、その思考や感情を共有することで、無条件の受容と関心を向けている。この感情の一致は疑いもなく、クライエントに支持と安心を与えるが、なぜこのアプローチが不安症に役立つのかという説明に関しては、理論的にも経験的にも裏づけがない。

後述するように、再保証を求めることは、しばしば不安を悪化させる。このタイプのアプローチによって、クライエントは来談し続けるが、不安は軽減しない。

正確な共感は、確かに良い治療を行うための基礎である。ほとんどのセラピストは大学院でこのモデルの訓練を受けており、セラピストも同様に心地よくなるために、このアプローチにひかれるのかもしれない。しかし、正確な共感スキルは必要ではあっても、不安を軽減させるにはほど遠い。


サイズモア『セラピストのためのエクスポージャー療法ガイドブック創元社


愛着(アタッチメント)とは、不安、恐怖、病気、疲労などの苦痛の状態のときに安心と慰めを与えてくれる絆ですから、「愛着のパラドックス」は、治療者-患者関係、あるいは、セラピスト-クライエント関係だけでなく、「重要な他者(アタッチメント対象:セーフティ・パーソン)」との間でも頻繁に起きる可能性があるのです。

二者間(対人関係)での感情制御のプロセスは、他者の助けを借りて自分の内部で感情を制御する「内的な」プロセスと、他者の感情を制御する「外的な」プロセスの2つがあります。
三田こころの健康クリニック新宿の専門外来では、内的なプロセスを「自分自身との対人関係(感情・考え・情動のコントロールについての気づき・行動の仕方を改善する)」、外的なプロセスを「二者関係で他人との関係を改善する(自己概念あるいは関係のなかにおける役割についての気づき)」と説明していますよね。

たとえば、患者さんは、「あなたがそばにいてくれる」「あなたが助けてくれる」ことで感情をコントロールします。これが内的なプロセスです。
「重要な他者(アタッチメント対象:セーフティ・パーソン)」は、「彼女を安心させたい」「彼女を助けなければ」と彼女(患者さん)の感情をコントロールしてくれます。これが外的なプロセスです。

個人内の感情制御と同様に、個人間の感情制御もまた、適応的(感情面でのストレスの軽減)にも、不適応的(問題の持続・遷延)にもなりうるが、安心感を与えてくれる人物、すなわちセーフティ・パーソンの存在は、不適応的な感情制御の例と言える。

頻繁かつ習慣的に個人間の感情制御を用いることにより、「感情はコントロール可能である」という感覚が低下してしまうと考えられる。
そのため、患者が自身の感情を制御するために、特定の人物や社会集団に依存している場合、個人間の感情制御は不適切な方略となりうる。


ホフマン『心の治療における感情』北大路書房


彼女(患者さん)の「重要な他者(アタッチメント対象:セーフティ・パーソン)」であるパートナーは、彼女(患者さん)に安心感を与え、不安や恐怖が軽くなりますから、感情制御の手段として機能しています。

しかし、「重要な他者(アタッチメント対象:セーフティ・パーソン)」であるパートナーがいないと不安や恐怖が続き、彼女(患者さん)だけで感情を持ちこたえられないのであれば、臨床的には不適応的とみなされるのです。

このように助けを求めるアタッチメント希求行動と、その結果、安心と慰めが体験されることだけを繰り返していると、自分の心の中で生まれた感情を耐えがたく、受容できないものとして回避してしまうようになります。
そして、その感情を感じないようにする(抑制)、あるいは、抑圧することに躍起になってしまいます。

そうなると「重要な他者(アタッチメント対象:セーフティ・パーソン)」に依存が生じ、自分の中で感情を制御する感覚が低下してしまうのです。
このことを「愛着のパラドックス」と呼ぶのです。いわゆる、人に頼りすぎて、自分では何もできなくなった状態ですよね。

たとえば、「重要な他者(アタッチメント対象:セーフティ・パーソン)」が、拒食症の患者さんのために食べ物を計ってあげたり、過食症の娘のために過食食材の買い出しをしてあげたりすると、容易に「愛着のパラドックス」(問題の維持・遷延)につながってしまうのです。



三田こころの健康クリニック新宿「専門外来」の『聴心記』では『摂食障害から回復するために回避されてきた気持ちに向き合う』というタイトルで、出来事と回避されてきた感情に向き合うことは、その奥に追いやられていた健康的な感情に接近することでもあることを説明しています。

以前は、ストレス(ストレッサー)やネガティブな感情(ストレス反応としての苦痛を伴う感情)が摂食障害症状(とくに過食や過食嘔吐)の直接の引き金になると考えられていました。
最近の研究では摂食障害は「自身の感情や苦悩から注意を食行動に向ける試み」であることがわかってきています。そして、注意を食行動に向ける試みは、「内的感覚への気づき困難」と「感情調節スキル不足」によって促進されます。

三田こころの健康クリニック新宿の専門外来で行っている対人関係療法による過食症治療は、「乱れた食行動(摂食障害症状)」を使わなくても、自分の気持ちをしっかり感じることができて(感情受容)、耐えられるのだという実感(感情耐性)を体験することからはじまります。

具体的にどういうことに取り組んでいくかは人それぞれなのですが、治療が終結した梅こんぶさんの「梅こんぶの幸せごちそうさま」や、現在、頑張って治療に取り組んでいらっしゃるAkoさんの「摂食障害が教えてくれることを参照してみてくださいね。

そして、ずいぶん長いこと通院しているけど摂食障害が治らない、薬を出されるだけで治る感じがしない、と感じられていらっしゃる方は、三田こころの健康クリニック新宿の専門外来に申し込んでくださいね。

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2018-06-25

愛着(アタッチメント)と思春期以降の対人関係

DSM-IV-TRで、社会的ネグレクト(養育の剥奪)に起因する「反応性愛着(アタッチメント)障害」は抑制型と脱抑制型に分けられていました。

そもそも養育者(主に母親)と子ども(12〜18ヵ月の乳幼児)のアタッチメント・パターンを評価するストレンジ・シチュエーション法(SSP)は、母子分離場面でアタッチメント関係が成立していることが前提で、養育者の情緒的応答性と子どものアタッチメント希求行動を観察します。

「反応性愛着(アタッチメント)障害」は、そもそものアタッチメント関係が成立しない(選択的なアタッチメントの欠如)ため、評定不能で「無秩序・無方向型(Dタイプ)」に分類されます。

「反応性愛着障害」の脱抑制型は、近接へのためらいや分離の不安のなさなど、対人交流での行動の無差別性とされ、診断名からもアタッチメントが除かれ、「反応性愛着(アタッチメント)障害」から「脱抑制型対人交流障害」として独立されました。

ジーナ(Zeanah)らの研究グループは里親ケアプログラムを受けたルーマニアの難民の子ども達の縦発達的転帰を検討し、認知機能の改善や抑制的なアタッチメント障害行動には明らかな改善がみられたものの、脱抑制的なアタッチメント行動—無差別な親密さには改善がみられなかったこと、および他の大人には無差別的な親密さを示しながらも、主な養育者とは安全型のアタッチメントを形成している例があることから、「脱抑制的な対人交流パターンの形成メカニズムは、アタッチメントの形成過程とは異なる発達経路の上にある」と述べています。

このように「反応性愛着(アタッチメント)障害」でもアタッチメント行動は変化しうることから、古典的なアタッチメント理論で考えられていたようにアタッチメントスタイルは乳幼児期に決定されるのではなく、発達に伴って変化する(アタッチメントの不連続性)と考えられるようになっています。
さらに愛着(アタッチメント)の不安定性には、自閉症スペクトラムASD)など生物学的要因が寄与している知見も示されるようになってきました。

双生児における発達早期から思春期さらには成人期までのアタッチメントを追跡した報告でも、アタッチメントのパターンに縦断的な変化がみられることが示された。

さらに遺伝環境相互作用の枠組みで解析を行うと、乳児期にはアタッチメントは双生児間で高い相関を示し、その大半は遺伝率よりも共有環境が寄与していた一方で、思春期では遺伝率が35〜38%と遺伝要因の方が相当な割合で寄与しているという結果となった。


山下洋『小児期のアタッチメント/トラウマと成人期の対人関係』精神科治療学 33(4):410-427, 2018


以前『思春期・青年期のアタッチメント』で紹介したクルンプ(Klump)らの摂食障害の双生児研究でも、思春期を過ぎると生育環境要因の関与が減ってきて、個別環境要因(学校や交友関係など外の世界との関係)や遺伝的要因の関与が大きくなる(50〜80%)ことと一致しますよね。

成長過程で遭遇するさまざまな出来事や対人関係は成長の糧になるのですが、幼児期から学童期にかけてなんとか適応できていても、小学校中学年以降の思春期、あるいは卒業や進学、就職といった人生の節目で不適応を起こすのは生得的な遺伝的要因の関与が大きいということなのです。

そこではアタッチメント表象のパターンは、小児期の分類はそのまま成人期につながる直線的な因果論ではなく、成熟の過程で直面する脅威となる状況に対して組織化されていく、より複雑でダイナミックな自己防衛—適応過程として理解することができる。

(中略)

親密な関係性における危機—脅威の水準は変動し、それに応じてアタッチメントの適応水準も変化し、パターンの再組織化が生じる。
そのなかでも、ライフステージの後期において“獲得された”安定型が多くみられることは、アタッチメント/トラウマへの適応過程のダイナミックな不連続性を示すとともに、アタッチメントに基づく臨床的介入の可能性を示唆している。


山下洋『小児期のアタッチメント/トラウマと成人期の対人関係』精神科治療学 33(4):410-427, 2018


何がアタッチメント・パターンの適応的な再組織化を促進し、あるいは逆に幼少期のアタッチメント・パターンの変化を阻害するのでしょうか。

世間一般には、幼少期に親との関係がよくなかったからとか、親に発達障害があるから、不安定(非安心)型アタッチメントになった云々、と誤った理解が蔓延しています。また、そう説明してある一般向けの本もたくさん出回っていますよね。

幼少期の体験がどうであれ、思春期以降に親や生育環境に生きづらさの原因を求めるのではなく、対人関係定の出来事をどう体験したか?という「振り返り(内省)」と「ナラティブ(ものがたり)の生成」がアタッチメントの変化につながるのです。

対人関係にかかわる重要な概念としてのメンタライジング—反映的内省機能がある。
他者の感情を読み取り映し返すことは、メンタライジング(心理化)という対人交流における重要な要素であり、アタッチメント関係の中で形成される。


山下洋『小児期のアタッチメント/トラウマと成人期の対人関係』精神科治療学 33(4):410-427, 2018


自分と他者の行為を、心理状態にもとづいた意味あるものとして理解することをメンタライゼーションと呼びます。
メンタライズすること(メンタライジング)は、例えば過食症対人関係療法で「衝動の波に乗る」として取り組む「私が無性に食べたいと考えてしまうきっかけになった出来事は何だろう」など、誰もが日常的に行っている心の作業のことです。

メンタライズする能力は、一般的に4〜6歳頃(自主性を発達課題とする幼児期後期)には育ってくると言われ、養育者との情緒的交流や、養育者以外の他者との対人関係(二者関係)によって成長していきます。

すなわち、現実の安全性の確保や予測性を高める環境を提供することのニーズや、用いられている方略にマッチする治療的アプローチのタイプが明らかになり、事例ごとにアタッチメントの観点に基づくフォーミュレーション選択できる。
(中略)
そのなかでも、支援者や治療者との関係性の維持と連続性は重要な要素である。


山下洋『小児期のアタッチメント/トラウマと成人期の対人関係』精神科治療学 33(4):410-427, 2018


次回以降、精神療法や心理療法で重視される治療者-患者(セラピスト-クライエント)関係の中で、アタッチメントがどう関与しているのかを見ていきましょう。



三田こころの健康クリニック新宿「専門外来」の『聴心記』では『摂食障害からの回復に愛着(アタッチメント)関係を活用する』というタイトルで、三田こころの健康クリニック新宿の専門外来で行っている対人関係療法による治療面接では、どんなことをやっているのかを説明しています。

アタッチメント関係としての治療関係の中で、「感情言語」と「エピソード言語」を治療者とともに振り返りながら、身体反応から「感情の名前」を一緒に探す作業を行い、歩き始めの子どもがお母さんの元を離れて外の世界探究し始めるように、面接室の中で学んだことを少しずつ外の世界(生活環境)で試してもらいます。

もちろん、そのプロセスでは「不便さや煩わしさ、下手をすると人から傷つけられるリスク」を伴いますよね。そのときに役に立つのが『セルフ・コンパッション』です。

治療者以外に、たとえば親友やパートナー、あるいは配偶者など、に助けを求められるようになること、摂食障害にではなく人々に助けを求められるようになることは、青年期から成人期のアタッチメント対象を拡大していくプロセスでもあるのです。

「乱れた食行動で悩む女性たち」は、このように求めても得られない源泉にはもう賠償を求めず、「自分自身との関係」「周囲の人たちとの二者関係」など、新たなアタッチメント対象とのつながりの中で回復していくのです。

ずいぶん通院しているけど摂食障害が治らない、薬を出されるだけで治った感じがしない、と感じられていらっしゃる方は、Akoさんの「摂食障害が教えてくれること」や、梅こんぶさんの「梅こんぶの幸せごちそうさま」を参照して、三田こころの健康クリニック新宿の専門外来に申し込んでくださいね。

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2018-06-18

「愛着障害(アタッチメント障害)」を問い直す

子どもの反応性愛着障害(抑制型・脱抑制型)は、DSM−IV−TRまでは、幼児期、小児期にはじめて診断される障害として、精神遅滞、学習障害広汎性発達障害、ADHD、行為障害などと同じカテゴリーで考えられていました。
DSM−5で「反応性アタッチメント障害」および「脱抑制型対人交流障害」は、「社会的ネグレクトとしての養育の欠如」が診断基準として明記されていることから、小児期に出現する他の疾患(自閉スペクトラム症やADHDなど)とは区別されることになりました。

発達の遅れ(認知および言語の遅れ)、常同症や他の重度のネグレクトの徴候(低栄養状態または不十分な養育の徴候)は、、特定の養育者と一度もアタッチメントを発達させられなかった子ども(「反応性アタッチメント障害」および「脱抑制型対人交流障害」)にみられる関連特徴とされています。

しかし、「自分は愛着障害ではないか?」「愛着障害だから対人関係がうまくいかないのではないか?」とおっしゃる方が後を絶ちません。(『愛着障害と発達障害の真の問題』参照)

反応性アタッチメント障害(以下RAD)と脱抑制型対人交流障害(以下DSED)はともに、小児期の不十分な養育体験が原因で起こる行動障害である。
RAD、DSEDの有病率は重度のネグレクトを受けた子どもの中でも少ないと言われている。つまり、RADもDSEDも稀な障害であり、診断がつく機会はそう多くないと言える。

しかし、書店に行けば愛着障害という言葉は専門書ならずとも目にする機会は多く、以前と比べるとわれわれの生活に身近になりつつあるように思われる。
日々の臨床の中ではいわゆる「愛着の問題」を抱えた子ども達に出会うことは多く、「愛着障害」と「愛着の問題」は混同されやすい。
そもそも「愛着」という概念の定義は多義的であり、「障害とは何か」についても概念化の不一致が重なることから、愛着障害には概念的な混乱が生じやすいと言える。


山口・細金「反応性愛着障害と脱抑制型対人交流障害(DSM-5)の概念と診断」 in特集「愛着障害」精神療法 vol.42 (4), 486-498, 2017


このように「愛着障害」という言葉は、精神科臨床の中でも混乱をもたらしているわけですから、一般向けの書籍では言わずもがなでしょう。「不安定型アタッチメント」は「愛着障害」ではないのです。

私たちはどうしても安定型が一番いいと考えてしまいますが、アタッチメントは今の環境に適応するためにどの攻略法を用いるかということですから、安定型がよくて不安定型はよくないと言うことではないのです。本来、不安定型は回避型(回避/軽視型)であれ、アンビヴァレント型(とらわれ型)であれ、それぞれの親に対して適応的だから発達させたということなのです。しかし他の文脈、他の対人関係では、不安定型は、もしかしたらうまくいかなくなる可能性もあるかもしれないというだけのことです。
今年10月に出る『愛着障害』の論文でも書いたのですが、ジーナーも安定型と不安定型(回避/軽視型とアンビヴァレント/とらわれ型)は適応的に分類しているのです。

そして、いまや、「愛着障害」という言葉は「発達障害」と同じように広く流布しつつある。
しかし、本特集の中で田中理香氏が指摘しているように、医療福祉や教育などの現場に携わる人たちの間でさえ、その意味を正確に理解していない可能性がある。
それには、たとえば、山口貴史氏らが指摘したように、「愛着障害」と「愛着の問題」とは、あるいは「愛着の状態」とが混同されている可能性も含まれる。


平島「特集のねらい——「愛着障害」の流布と、概念の混乱——」 in 特集「愛着障害」精神療法 vol.42 (4), 463-466, 2017


「社会的ネグレクト(養育の欠如)」の結果としての「反応性アタッチメント障害」では、「持続的な対人交流と情緒の障害」をもたらしますが、「持続的な対人交流と情緒の障害」があるからといって「愛着障害」ではないのです。
診断基準でも「持続的な対人交流と情緒の障害」が自閉スペクトラム症(いわゆる発達障害の主症状と重なり合うことが指摘されています。

私たちが愛着という言葉を使う時、多くの場合Bowlbyのいうところの愛着ではない。
多くは親子の愛情がどのように交流しているかどうかについてで、専門家でもBowlbyの名前は記憶にありつつ原著はあまり読まれていない。
専門家が愛着障害という専門用語を正確な定義より幅広く使うことにあまり躊躇しないことは、彼ら自身の投影を受けた(専門用語もどきの)『愛着障害』という用語が、専門家の数だけあるかもしれない。


田中「女性の精神科臨床における愛着の問題」 in特集「愛着障害」精神療法 vol.42 (4), 533-537, 2017


ボウルビィのいうところの《愛着(アタッチメント)》とは、「危機的状況に際し、恐れや不安といったネガティヴな感情が経験された時に、特定他者にくっつこうとする心理行動傾向、および確実にくっつき得る、保護してもらえるという主観的確信・見通しの上に成り立った、その他者に対する情緒的絆(信頼に満ちた感情的態度)」であり、あくまでもネガティヴな感情に結びついた心理行動的および神経生理学的な制御システムのことなのです。

「愛着(アタッチメント)障害」は、「社会的ネグレクト(養育の欠如)」により発症します。「愛着(アタッチメント)障害」が定義された歴史的背景を知っておくことで、「愛着(アタッチメント)障害」の症状をイメージしやすくなります。

まず、Bowlbyによるマターナルデブリべーション(註:母性剥奪)提唱以降、主要なアタッチメント対象との関係の剥奪や障害が、子どもの行動、認知情動の障害を引き起こし得ることが認められた。
剥奪については、乳幼児期に親密なアタッチメントを形成しなかったこと、応答性の悪い歪んだ世話や虐待を受けること、確立された関係を喪失すること、の3通りがあげられた。


北川恵「アタッチメントと病理・障害」in 桜井みゆき・遠藤利彦『アタッチメント——生涯にわたる絆——』pp.245-275, ミネルヴァ書房


19世紀おわりから20世紀初頭にかけて、施設(孤児院)入所している子どもの死亡率が高いことが問題になりました。これは感染症栄養の問題ではなく、施設での養育のあり方が問題であると考えられたのです。
その中には、マターナルデブリべーション(母性剥奪)による「愛情飢餓(誰からも愛情を求め、注意を求めたがる)」という脱抑制型対人交流障害と一致する状態も記載されています。

第二次世界大戦直後にはスピッツが施設の養育の違いで「発達指数」に違いがあることから、母子関係の重要性を指摘していますまた、スピッツは、養育者にケアされずに育った子どものビデオ撮影を行い、精神的な症状を説明し「依存抑うつ」として紹介しています。

スピッツは、施設という環境の中で、何もない空間をじっと見つめたり、揺れたり、左右に動いたり、長期間とろんとした表情で横たわり続けているといった、耐えがたい行動を見せる乳児を撮影した。
この乳児らは、人との接触を期待するのを諦めており、接触することが非常に困難な自己包容の世界へと退却していた。

スピッツの示した見捨てられた孤児たちは、期待される最低限の基本的インプットが届かなければ何が生じるのかという例である。
社会的インプットが全くないか非常に少ない乳児は、通常の言語や他のさまざまな能力が発達しない。彼らは期待するべきインプットの経験を受けることができていない。
(中略)
多くの子どもに深刻な認知発達の遅れが見られ、その多くは後年まで遅れが続いた。また、情動的、もしくは自己刺激的行動にふける子どももいた。


ミュージック『子どものこころの発達を支えるもの——アタッチメントと神経科学、そして精神分析の出会うところ誠信書房


「反応性アタッチメント障害」の子どもは、「自閉(自己包容の世界へと退却)」と「言語発達やさまざまな認知能力の遅れ」を引き起こすのです。「反応性アタッチメント障害」の鑑別診断として、自閉スペクトラム症ASD)、精神遅滞、学習障害などが挙げられているのは、こういう所見からなのです。

さらに、このような施設(孤児院)でも「反応性アタッチメント障害」は10%未満、「脱抑制型対人交流障害」は、20%未満にしかみられない、極めて稀な状態なのです。

いかがでしたか?
「自分は愛着障害かもしれない」と思っていらっしゃる方、あるいは「愛着障害」と診断されている方は、5歳以前に【社会的ネグレクト(養育の欠如)】があって、上記のような【自閉(自己包容の世界への退却)】や【言語発達やさまざまな認知能力の遅れ】が今現在まで続いていますか?



三田こころの健康クリニックの新宿「専門外来」『聴心記』では『摂食障害と幼少期の養育者との関係』というタイトルで、「食行動障害および摂食障害」が女性に多い理由について説明しています。

女性には、情緒的問題として自己の内的な苦痛を生じる「内在化障害」が多く、「過食症(過食嘔吐をともなう過食症)」「過食性障害(むちゃ食い症)」「大食をともなう排出性障害」などは、内在化障害に分類されます。

摂食障害などの内在化障害は、アタッチメント欲求の表現を最小化する試みと同様に「心理的孤立」と「無力感」を引き起こし、それをなだめるために「食べ物」や「食べる行動」で解消しようとする外向次元の障害(自身の感情や苦悩から注意を食行動に向ける試み)でもあるのです。

青年期から成人期の摂食障害治療では、まず治療者との関係を「安全(安心)基地」として、自分自身の心と身体とつながること(自分自身との関係の改善)、そして、その安心感は本来、パートナー関係などこの時期のアタッチメント対象によってもたらされることを実感すること(二者関係の改善)が重要なのです。

過食症や過食嘔吐で通院されていらっしゃる方の中には、うつ病とか抑うつ状態といわれて、抗うつ薬抗不安薬を服用している方も多いと思います。

しかし、過食や過食嘔吐はネガティブな感情を制御(回避)する手段であることを考えると、薬がネガティブな感情をやわらげるとしたら、摂食障害治療で必要な「自分自身との関係を改善する(ネガティブな感情を抱えておけるようになる)」といった馴化に逆行するだけでなく、薬は回避あるいは逃避の選択肢となる可能性が高いのです。

薬を出されるだけで治った感じがしない、と感じられていらっしゃる方は、Akoさんの「摂食障害が教えてくれること」や、梅こんぶさんの「梅こんぶの幸せごちそうさま」で、対人関係療法による治療ではどんなことに取り組んでいくのかを参照してみてくださいね。

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摂食障害・過食症 の対人関係療法慢性のうつ病や双極性障害の リワーク(職場復帰支援) なら 心療内科専門の三田こころの健康クリニック新宿
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2018-06-11

愛着(アタッチメント)に対する理解の混乱を整理する

思春期・青年期、そして成人期のアタッチメントスタイルの測定・評価には、大きく分けて、半構造化された面接法(AAIやASI)と質問紙を用いたもの(RQやECR)があります。

それぞれ、評定している対象や評価法が異なりますから、幼少期の母親とのアタッチメントを測定するストレンジ・シチュエーション法(SSP)との一致率は60〜70%といわれています。つまり、アタッチメントスタイルは成長につれて変化していくもので、乳幼児期に決まってしまうという考えは現在では否定されているのです。

そして、その変化過程で、子どもの頃にアタッチメント対象であった養育者とは異なる、新たな対象との新たなアタッチメント関係の体験が大きな意味を持つ。
また、アタッチメントの内的作業モデルは、相手により異なることがある。
(中略)
養育者との関係と、現在のアタッチメント関係とが大きく質的に異なる例もしばしば見られる。


小林・遠藤『「甘え」とアタッチメント』遠見書房


上記のアタッチメント評定法のうち研究で多く用いられている質問紙法は、現在の一般他者もしくは恋愛関係をはじめとしたパートナーとの関係を、回答者の主観的な報告によって分類します。成人アタッチメント面接は無意識的プロセス(養育者に対する内的作業モデル)を測定しているのに対し、質問紙法は意識的評価(一部無意識的なプロセスも含むパートナー関係)とされています。

そのため、成人アタッチメント面接を初めとした面接法と、質問紙法による愛着スタイルの相関はみられないことも多く、相関が見いだされたとしても中程度であるとされています。みているものが違うのですから、これは不思議なことではありませんよね。

またアタッチメントの測定・評価法の違い(面接か質問紙か)によって、評定されるアタッチメントの分類に異なる用語が使われています。

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質問紙法では、一般的な対人態度についての記述文を3種類提示し、その中からひとつ、被調査者に、自らに最も当てはまる文を選ばせ、近接関係を享受することの快適さ(安定型 or 回避型)と、関係を維持することに対する不安(不安/アンビヴァレント型か否か)の2つの次元で成人のアタッチメントの特質を質的に表現します。

質問紙法の代表的なものが、バーソロミューらの4カテゴリー・モデルにもとづくRQ(愛着スタイル尺度:Relationship Questionnaire)やECR(成人愛着スタイル尺度:The Experiences in Close Relationship Inventory)です。

バーソロミューによる4カテゴリー・モデルでは、自己モデル(依存/見捨てられ不安)と、他者モデル(親密性の回避)の2つの次元の得点によって、4つのカテゴリーに分類します。

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質問紙法(愛着スタイル尺度)による日本人のアタッチメントスタイルは、安定型24%、軽視型(回避型)9%、とらわれ型38%、おそれ型29%とされています。

つまり、安定(安心)型と不安定(非安心)型に分けると、日本人の約3/4が現在の一般他者もしくは恋愛関係をはじめとしたパートナーとの関係で不安定(非安心)型を示すということです。

精神病理と愛着パターン4分類の関連について、安定型は抑うつや不安といった神経症水準にとどまるものとの関連があるが、重度の精神障害を患う可能性は低い。
軽視型は誇大的な自己愛、強迫性障害、心気症、摂食障害との関連、とらわれ型はヒステリー境界性パーソナリティ障害との関連が指摘されている。おそれ型は過敏型の自己愛や抑うつとの関連が想定されている。


田附『二者関係のこころ京都大学学術出版会


〔安定型〕および〔軽視型〕〔とらわれ型〕〔おそれ型〕などの不安定型は、固定化しているものではなく、環境や対人関係によって変化するものです。ですから面接法や質問紙法によって測定・評価されたアタッチメントスタイルは、今現在・当面の特徴をあらわしているととらえるのが妥当なところのようですね。

一方で、乳児期のアタッチメントが後の精神病理へのリスクとなるという過度に単純化したモデルには注意が必要である。
つまり、リスクは不安定なアタッチメントだけではなく、子どもや家族がおかれている環境に属する他の要因も含めた文脈の中で捉えられる必要がある。
(中略)
アタッチメントと精神病理との関連は、親子をとりまく環境を含めた広い文脈で理解することが必要である(Greenberg, 1999)。


北川恵「アタッチメントと病理・障害」in 桜井みゆき・遠藤利彦『アタッチメント——生涯にわたる絆——』pp.245-275, ミネルヴァ書房


一般向けの本には、アタッチメントスタイルが不安定型だから生きづらいとか対人関係に困難をきたすとか、さまざまな心の病気を発症するように書かれていることがほとんどなのですが、それは誤った理解だということです。

なぜなら、アタッチメントは幼少期の親(養育者)との関係で決まるものではなく、その後の対人関係やさまざまな環境要因の影響を受け、変化していくものだからです。
現に、養育者(親)以外、たとえば異性や教師との安定した関係性によって、不安定型から安定型へアタッチメントスタイルが変化する「獲得安定型」がよく知られていますよね。

一方、安定型のアタッチメントスタイルは盤石なのか?というと、そうでもないようです。

一方、安定型から不安定型への移行には、アタッチメント対象の喪失などの否定的な出来事が深く関与するようである。
先にも見たWaters et al.(2000)の研究では、親の死や離婚、親や自分の生死に関わる病気抑うつなど親の精神障害、18歳以前の身体的・性的虐待などのストレスフルな出来事を一度でも経験したことのあるグループにおいては乳幼児期に安定型だった子どもの約3分の2が20歳段階において不安定型に移行していた(ストレスフルな出来事のないグループでの安定型から不安定型への変化は15%のみであった)。

しかしながら、現段階において、こうした環境の変化に応じたアタッチメントの変質が生涯にわたって同水準に維持されるものなのか、それとも、あくまで青年期くらいまでの比較的まだ未成熟なタイムスパンに限定されたものなのかについては、容易に結論を下すことができない。

(中略)

もっとも、ひとつ確実に言えることは、個人が加齢に伴い成育家庭から離れるにつれて、より自律的に自らの対人関係や環境を選択肢構築するようになるということである。
見方を変えて言えば、自らの内的作業モデルにとって異質な要素を排除し、それを強化するような同質の要素を選択的に自らの周りに引き寄せることを通じて、徐々に環境の変化そのものが相対的に生じにくくなるということである。


安藤智子・遠藤利彦「青年期・成人期のアタッチメント」in 桜井みゆき・遠藤利彦『アタッチメント——生涯にわたる絆——』pp.127-173, ミネルヴァ書房


ストレスフルな出来事のないグループでも、安定型から不安定型へのアタッチメントスタイルの変化が15%にあり得ること、それはもしかすると対人関係や環境に対する「自律性(主体性)」の違いによるものかもしれないということですよね。



三田こころの健康クリニック新宿「専門外来」の『聴心記』では『摂食障害の治療で取り組む「心の状態の変化についての気づき」』というタイトルで、「食行動障害および摂食障害」の患者さんたちの心の中でなにが起きているのか、そして、どうすればその状態から抜け出せるのかについて、専門外来で行っている対人関係療法による治療の進め方を解説しています。

対人関係、つまり二者関係は、関わる二人の主観が交流することによって作り出される間主観的な場のことです。その形成には言語による表出(いわゆるコミュニケーション)以上に、非言語的なメッセージが大きな役割を果たします。

「自己を見つめること」、つまり自己内省能力が発達することで、新しい学習が起きます。
これは、乳児期に母親にまなざされることによって心が能動化したときと同じように、治療者の内省的こころによって「自分が抱えられている」と感じ、同様に自分自身と他者をこころの中に抱えることができるメンタライジング能力でもあるのです。

摂食障害対人関係療法による治療では、まず「心の状態の変化についての気づき」からスタートしていますよね。
摂食障害からの回復で必要な2つのこころの状態、つまり、食べることや食べ物で気持ちを紛らわす必要がなくなることと、心の中で気持ちを抱えておくことができるようになるために、最初は治療者との二者関係からその練習をしていくのですよ。

ずいぶん長く通院しているけど摂食障害が治らない、薬を出されるだけで治った感じがしない、と感じられていらっしゃる方は、Akoさんの「摂食障害が教えてくれること」や、梅こんぶさんの「梅こんぶの幸せごちそうさま」を参照して、三田こころの健康クリニック新宿の専門外来に申し込んでくださいね。

すぐに治療に取り組みたい方は、『摂食障害の謎を解き明かす素敵な物語』と『摂食障害から回復するための8つの秘訣』の2冊を読み込んでおいてくださいね。

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2018-06-04

自己愛の病理としての愛着回避と気分変調症および自閉症スペクトラム

苦痛な情動状態のときに安心となぐさめを求めて他者に依存することができない「愛着の回避」は、「心理的孤立と無力感」を「食べる」という単独行動で解消しようとする摂食障害(とくに過食症(過食嘔吐を伴う)や過食性障害(むちゃ食い症))でよく見られます。

その背景には、親の期待や願望に同一化した自己や、恥体験の補償として形成された到達困難な「理想自己」があって、ありのままの自分に対して常に批判的で厳しい評価を下していますよね。

さらに、期待した承認や称賛の反応が他者から返ってこないと、傷つき、自尊感情が低下し、抑うつ的になると同時に、怒りが引き起こされるなどの特徴があるため、対人関係から距離を取って安心を得ようとします(遠ざかり境界性自己障害≒対人恐怖性回避型アタッチメント)。

愛着回避は、肝心の問題に触れない表面的語り、弱い自分と関連する情動(感情)に触れない語り、知性化された理屈っぽい語り、茶化したような深刻さのない語り、「〜べきである」という当為にこだわる語りなどとして出現します。

上地『メンタライジング・アプローチ入門——愛着理論を生かす心理療法』北大路書房


対人関係から距離を取る対処方略は、愛着回避だけでなく、自閉症スペクトラム(ASD)でもみられますし、上記の語りも似てきます。

自閉症スペクトラムの子どもたちは、相手の気持ちの理解が難しく、場の空気を読むことができないために、幼少期から仲間集団の中に入っていくことに困難をきたすことも多い。

青年期になると、同世代の仲間の関心は、友達関係や恋愛など対人関係の領域に移っていくので、同世代の仲間との交流はさらに困難になる。

このような発達上の問題を抱えながら青年期の発達課題に直面した自閉症スペクトラムの若者は挫折を経験することも多く、それを契機にさまざまな精神症状や行動上の問題を示すことも少なくないのである。

不登校になることも多く、家庭で親に暴力を振るう場合もある。神経性食欲不振症(現在は神経性やせ症と呼ぶ)の状態になる場合もあるし、自傷行為を繰り返すようになる場合もある。すでに述べてきた青年期に多く診られる病態の頻度は、自閉症スペクトラムの若者では特に高いと考えられる。


生地「思春期・青年期」 in 小林・遠藤『「甘え」とアタッチメント』遠見書房


自閉症スペクトラムの人たちは、他者意識が生まれにくい(心の中に他者がいない)ため、自分の心と相手のこころが地続きだと捉えてしまいがちです(想像力の障害)。

相手の立場に立って、相手が理解できるように言葉で伝えていない、あるいは相手に言葉で質問していないにもかかわらず(コミュニケーションの障害)、なぜ相手は自分のことを理解しないのか!、普通はわかるだろう!、理解しない相手が悪い!と憤慨してしまいます(自己愛忿怒)。

アスペルガー症候群の夫をもつ妻(カサンドラ症候群)の面接のときによく聞くパターンで、夫の憤慨(不機嫌)による恐怖から夫のこだわりに支配されてしまうのです。

あるいは、気分変調症の人のように、「自分はダメだと思われていると感じたから、周りの人は自分をダメだと思っているに違いない」という確信を抱いていたりします。

心理学的にはメンタライゼーション(自己・他者の行動の背景にある心理〔考え、感情、欲求、願望、信念〕を理解しようとすること)の機能不全によって、他者の意図を誤解する状態であり、自分を客観視、相対化できなくなっていると考えます。
心理療法的なアプローチを行うときには、メンタライゼーション機能の獲得が目的になります。

自己対象転移または愛着による安全基地がないと、クライエントは自分の心に対する探索を安心して行うことができません。自己対象転移または愛着による安全基地は、心理療法的作業が行われるための前提条件です。

この前提条件を実現するためには、まずセラピストがクライエントの心をメンタライズすることから始めるしかありません。
クライエントの精神状態を取り出すことができる状況的出来事に焦点を合わせ、とくに、その中でクライエントが体験したこと(感情)を丹念に聞いていくことが必要です。


上地『メンタライジング・アプローチ入門——愛着理論を生かす心理療法』北大路書房


しかし、回避型の人が獲得安定型に移行する際に、回避型愛着パターンによって覆い隠されていた愛着欲求と不満・怒りとの葛藤が表面化し、一時的におそれ型(未解決−無秩序型)やアンビヴァレント型(とらわれ型)のような状態が出現することがよくあるのです。
このような心理的な葛藤を避けるために、クライエントが愛着関係およびそれによって得られる安心・慰めだけを心理療法に求め変化を起こせなくなることも多いのです。
これを「愛着のパラドックス」と呼びます。

患者さんの代弁者と豪語される精神科医は、家族に患者さんの病的症状への協力を指示し、巻き込み型の強迫によって支配・コントロールされ、奴隷のようにこき使われている家族が相談にいらっしゃることもあるのです。
あるいは、患者さんが苦手と感じている父親あるいは過干渉な母親を強制的に別居させ、患者さんの病的自我の歓心を得るものの、病気は治らず、家族は離散したまま、すがるような思いでその治療者の元に通いつづけて、最後にもう治ったと見放され絶望の淵に追い込まれてしまったケースも見聞きしています。

また、精神病的パーソナリティ構造や自閉症スペクトラム(先天的なメンタライジングの機能不全)では、精神状態の探索が心の統合を崩壊させてしまう危険があります。
愛着回避と似た状態を呈する気分変調症自閉症スペクトラムについては、心理療法を始める前に診断ではない病態水準の診立てが必須だということですよね。



三田こころの健康クリニック新宿「専門外来」の『聴心記』では『摂食障害から回復するためにはどのような治療者を選べばいいのか』というタイトルで、摂食障害精神病理の深刻さを十分に認識していて、治療者自身が自らのアタッチメント・スタイルだけでなく、抑圧・回避などの心の蓋や、ナルシシズム(自己愛)の病理にもとづくメサイア・コンプレックス(救世主願望)に向き合った経験がある治療者を選ぶ必要があることを説明しました。

これらは、教育分析を受ける過程で克服していくプロセスですから、治療を受けるなら正式なトレーニングを積んだ治療者を選ぶことが非常に大切なことですよね。

一人前の治療者として独り立ちするまでに直面化してきたこのようなプロセスが、「乱れた食行動で悩む女性たち(摂食障害の患者さんたち)」が回復までにたどる道のりと重なりあうことで、治療者が「モデル(目標と感じることができる人)」「メンター(経験に基づき助言してくれる人)」「サポーター(アタッチメント対象としての心理的な支え手)」として機能するわけです。

長い間カウンセリングを受けているけど摂食障害が治らないと感じられていらっしゃる方は、梅こんぶさんの「梅こんぶの幸せごちそうさま」やAkoさんの「摂食障害が教えてくれること」などを参照して、三田こころの健康クリニック新宿の専門外来に申し込んでくださいね。

また、専門外来ではカサンドラ症候群かもしれないなどの「夫婦/パートナー関係の相談」も受けつけています。

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2018-05-21

アタッチメントと対人関係での「かかわり」

今現在、愛着障害についての論文を依頼されて書いている最中です。その関連で『発達心理学の新しいパラダイム』という本を読んでいて、「関係性(二者関係)」について深く考え直す機会になりました。

乳児期におけるかかわることと心への気づき』で、かかわりは「魅力(呼び込み)」/「興味(惹き入り)」がどちらの側にも必要であり、それには「応答する能力」と「相手の応答を知覚する能力」がなければならない、と説明されています。

また、『こころは孤立しているか?』の母子間のエントレインメントを、「新生児の身体運動は、オトナの語りかけに同期している。発達は孤立した状態で始まるのではなく、初めから「相互作用で構成される」と説明しています。
*相互性:母親が赤ちゃんの注意を引き影響を与え行動を変化させるだけでなく、赤ちゃんの側も母親に影響を与える

エントレインメント」は母子共感とか母子相互作用と訳されるわけですが、禅語の「啐啄同時(そったくどうじ)」とか『星の王子さま』のキツネの「飼いならす(絆を結ぶ)」と同じような意味合いのようです。

アタッチメントを「エントレインメント」や「かかわり」と考えることもできますよね。
アタッチメント・システムにより、他の個体に接近する行動をアタッチメント行動、接近する相手をアタッチメント対象と呼びます。
多くの場合、アタッチメント対象は、アタッチメント行動による接近を受けると、保護システムを活性化して、接近してきた個体に対して保護行動を行います。

青年期前期(前思春期)、青年期中期(思春期)、青年期後期(青年期〜成人期前期)に分けてそれぞれの発達課題を「かかわり」という視点でみていくと、「自分自身との関わり」と「他者との関わり」の2つの相がみえてきます。

この時期(青年期前期)には、第二次性徴や成長のラスト・スパートに伴う身体の変化を受け入れること、親への依存を減らしていくこと、同性の仲間との親密な関係を作ることなどの発達課題に直面する。
(中略)
青年期前期の発達課題における挫折や失敗は、学童期や幼児期への退行を招き、その結果、若者が親に過度に甘える態度を示すことがある。この時期の若者は、劣等感と自惚れ(自己愛)の間を揺れ動いている。適度な自惚れは、この時期の若者が不安を克服していくために必要な側面がある。

(中略)

この時期には、自分の性(ジェンダー)役割を受け入れて異性と接近すること、職業選択など自分の人生の方向性を決めること、言い換えると自我同一性を確立していくことが発達課題となる。
自我同一性の確立と平衡して、青年期前期に肥大する自己愛や劣等感は、じき解消し、等身大の自分を受け入れて自己中心性を抜け出す方向(脱中心化)へ向かう。
異性との交際は、自分の性的な欲求に動かされる部分もあるが、お互いに甘えたり、甘えられたりする相互的で対等な関係を作る方向に向かっていく。

(中略)

青年期中期に続く青年期後期は、家庭を作るためのパートナーを得ること、社会人として責任を持つ能力を身につけることが発達課題となる。
しかし、青年期中期から後期にかけて、職業同一性の獲得に失敗することで、いわゆるモラトリアムに陥る者もいる。
また、異性との親密さを持てないまま、女性としてあるいは男性としての同一化を確立できずに、親元で親に甘えたまま生活する者もいる。


生地「思春期・青年期」 in 小林・遠藤『「甘え」とアタッチメント』遠見書房


最近はアスペルガー症候群広汎性発達障害などの発達障害自閉症スペクトラム:ASD)が注目されていますよね。何でもかんでも、誰でも彼でも発達障害と診断してしまう精神科医もいらっしゃるようですが。。。

前出の本の下條先生は「症候といわれているものが相手に依存している。情動脳は他者の行動と直接リンクしているのではないか」との見方を提示されています。その観点に基づき、自閉症スペクトラムについて「関係性」の視点で考えてみましょう。

自閉症スペクトラムの子どもたちは、生得的な要因から育てにくい特性を持っており、そのために早期の親密な親子関係が形成されにくい。
乳児期は、関わりを求めてくる力が弱いため、手のかからない子、反応のない子と思われることもある。

幼児期になると、外からの刺激に敏感で変化に弱く、好きなことをしているとおとなしいけれども、しつけのしにくい扱いにくい子になることが多い。穏やかな甘えに基づいた交流ではなく、気持ちが通じにくく、親を便利な道具のように扱ったり、小さなことでかんしゃくをおこしたりするために、親子関係はお互いにつらいものになりがちである。

彼らは、5〜6歳になってから、ようやく親に甘え始めることもある。
そして、青年期には、親に十分甘えられないまま親離れを求められることになる。


生地「思春期・青年期」 in 小林・遠藤『「甘え」とアタッチメント』遠見書房


上記を読むと、発達障害自閉症スペクトラム:ASD)の子どもの母子間のエントレインメントやかかわりが乏しいことがわかりますよね。
対象関係学派では妄想—分裂ポジションと呼び、他者意識が生まれないため、人と人とのやり取り(エントレインメント)ができないと説明されます。そのため「絆を結ぶ」歴史を築くことができないとされています。

このように母子間の共生期で発達が固着してしまったことが、後に集団との関係や二者関係をうまく構築できないことにつながっていくようです。発達障害自閉症スペクトラム:ASD)の青年や成人が、「対人関係が苦手な自分は、愛着障害ではないか?」「小さい頃の親との関係が問題ではないか?」と考えてしまう原因は、このあたりにあるようですね。

思春期・青年期の心の成長を助けるこの本⇩は、大人にも役に立ちそうですよ。



三田こころの健康クリニック新宿「専門外来」の『聴心記』では『自己欺瞞を克服して摂食障害から回復する』というタイトルで、「自己欺瞞(周囲の人々と自分への二重のウソ)」に対して、治療者が回避を適切にブロックする必要があることについて説明しています。

摂食障害から回復するために必要な最初のステップは、「食べる」という強迫的な衝動行為の背景にある一人ひとりの「乱れた食行動に悩む女性対」の固有の感情に気づいてもらうことです。

そして、心の準備状態の「熟考期」から「準備期」へのステップ・アップを通して、止まってしまっていた発達段階から成長し、新たな生き方を手に入れていくプロセスに進んでいくのです。

そのために治療者は、このブログに書いてきたように摂食障害の精神病理の深刻さを十分に理解し認識して、「自己欺瞞(周囲の人々と自分への二重のウソ)」という回避行動をブロックする必要があるのです。

この取り組み方は、「食べたいという願望のきっかけになるのが何なのかを知る」「自分の反応や気持ちをはっきりつかみ、コントロールし、表現することを学ぶ」「自分自身との関係を改善し、他人との関係を改善する」という対人関係療法での治療のすすめ方なんですよ。

過食症」「過食性障害(むちゃ食い症)」などの摂食障害から回復したいと思っていらっしゃる方は、三田こころの健康クリニック新宿の専門外来に申し込んでくださいね。
また、三田こころの健康クリニック新宿の専門外来で行っている対人関係療法による治療の内容については、Akoさんの〔摂食障害が教えてくれること〕や、梅こんぶさんの〔幸せごちそうさま〕などを参照してみてくださいね。

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摂食障害・過食症 の対人関係療法慢性のうつ病や双極性障害の リワーク(職場復帰支援) なら 心療内科専門の三田こころの健康クリニック新宿
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2018-05-14

思春期・青年期の発達課題とアタッチメント

アタッチメントは関係特異的で、また発達過程において成熟していくことが知られています。

幼年期においても成人期においても、人は、一方の親に対しては愛着が安定しているがもう一方の親に対しては不安定(回避的またはアンビヴァレント)ということがありえます。
同様に、ある異性との関係においては愛着が安定していたが、別の異性との関係では不安定になるということもありえます。

さらに、同一の愛着関係に関して、互いに相容れない複数の愛着パターンまたは内的作業モデルが存在し、どれかが防衛的に排除されたり、それぞれが分離したまま併存する場合があります。


上地『メンタライジング・アプローチ入門———愛着理論を生かす心理療法』北大路書房


幼少期のアタッチメントが不安定であったとしても、教師や近所の大人、親戚のおじさんやおばさん、あるいはパートナーとの関係の中でアタッチメントが不安定型から獲得安定型に変化することも知られています。
ただし、注意していただきたいのは、“安定”“不安定”という用語は価値判断を含んでおらず、安定安定型がよくて不安定型はよくないということではなく、環境に適応した結果、そのタイプのアタッチメントが形成されたということなのです。

現在では、アタッチメントの幼児期決定論的はほぼ否定されていて、複数の他者との関係性のあり方(それぞれの他者とのアタッチメントの経験の蓄積)が統合されて、関係特異的なアタッチメント・スタイルが形成されると考えられているのです。

アタッチメントの安定した発達を妨げる要因として、虐待(身体的・性的・心理的)とネグレクトが挙げられています。
また、子どものこころと身体の健全な成長・発達を阻む「不適切な養育」を「マルトリートメント」と呼ぶこともあります。

親子関係だけでなく対人関係はすべて相対的ですから、たとえば親にそのつもりがなくても子が傷つけられたと感じたのなら不適切な養育(マルトリートメント)に相当するのかもしれません。

被虐待児の中には、他者が示すさまざまな表情のうち(悲しみや苦痛には鈍感である一方で)怒りの表情だけには敏感であったり、また特定の表情が浮かんでいない真顔を悪意ある怒りの表情と誤って知覚してしまったりする子どもが相対的に多いということが実証的に示されている。

これが示唆するところは、たとえ自身に対して温かいケアを施してくれるような他者が眼前にいたとしても、被虐待児は、多分にその他者から歪んだ形で自身に対する無関心や悪意を読み取ってしまいがちであるということである。


遠藤「アタッチメント理論における基点と現代的展開」こころの科学 No.198 (3) 「現場から考える愛着障害」10-16, 2018


三田こころの健康クリニック新宿の専門外来で行っている対人関係療法による摂食障害治療の中で、他者の表情を読み取れない患者さんは割と多いようです。とくに、過食症や過食嘔吐の患者さんたちには、対人関係過敏があって他者(相手)の顔色を過剰に読みすぎるあまり、読み間違えてしまう、「特定の表情が浮かんでいない真顔」を怒りの表情と誤って認識されていることがわかってきました。

過食やむちゃ食い、過食嘔吐で通院していらっしゃる患者さんたちには、社会的に問題となるような虐待の既往がありませんでした。ある患者さんは、小学校低学年の時に、思春期に差しかかる姉が両親と衝突している姿を見ていて、姉も両親も怖いと感じたことがきっかけかもしれないと話してくださいました。そして自らが中学生になった時に摂食障害(神経性やせ症→過食嘔吐を伴う過食症)を発症されたのです。

このケースは虐待でもマルトリートメントでもありませんでしたが、不遇な養育環境に起因する幼少期の不安定(非安心)なアタッチメントのパターンが、その後の対人関係すべてに適用されてしまい、成人期まで維持されてしまうのはなぜなのでしょう?

それはアタッチメントの問題ではなく、発達課題の問題と考えられますよね。

青年期には、発達課題と関連して、さまざまな精神病理が発生する。
一方、さまざまな精神疾患に罹患した若者やいわゆる「発達障害」を持つ若者は、青年期の発達課題に直面したときに、困難に陥りやすい。

いずれにしても、この時期の精神病理や精神疾患は、青年期の発達を遅延させ、その結果として退行が生じることも多い。
退行は、文字通りに「甘えた声や赤ちゃん言葉で話す」「家の中で親にまとわりつく」「親と一緒のふとんで寝たがる」などの子どもっぽい行動の形で現れることもあるが、不登校や摂食障害転換性障害、自傷行為など、さまざまな臨床症状の形で現れることもある。
退行という現象は、甘えと密接に関連している。
また、反対に、親への甘えの絆を断とうとする早急な試みが、暴力や非行につながることもある。


生地「思春期・青年期」 in 小林・遠藤『「甘え」とアタッチメント』遠見書房


青年期前期の発達課題に直面して不安が高まっていることや、その課題の達成におけるささいな挫折体験が引き金になり、強い不安と絶望感(心理的孤立感と無力感)が高まる中で、さまざまな精神病理や精神疾患が現れてくるようです。

前思春期から思春期・青年期では、乳歯が永久歯に生え替わるように生得的なニューロン・ネットワークが刈り込みを受け、個特異的な神経細胞ネットワークが形成される時期に当たります。

それまでの対処法が使えなくなり、さまざまな情動の渦に呑まれて翻弄されたり、情動を抑えるのに必死で動けなくなってしまったりする疾風怒濤の時期(思春期危機)です。

多くの子どもたちは、自分や周囲の資源を使ってこの危機を乗り越え、その体験を、個性の衣として、あるいは、成長の糧として身につけていく。

一方、危機を乗り越えられなかった子どもたちは、さまざまな症状や問題行動を表して、臨床の場に現れることになる。もちろん、臨床の場に現れる子どもの中には、思春期危機以外の、内的、外的な要因から不適応になっている子どもたちもいる。


林「アタッチメントと思春期臨床」in 小林・遠藤『「甘え」とアタッチメント』遠見書房


ある精神科医は、思春期から青年期に誰しも経験する疾風怒濤を、失恋のトラウマ、受験に失敗したトラウマ、友達と喧嘩したトラウマと、何でもかんでもトラウマと位置づけて医療化しようとされます。
そのような対応は行き過ぎというか言語道断なのですが、次回は思春期危機を乗り越えることが困難な時に問題となりやすい状態を考えていこうと思います。

思いこみやとらわれから抜け出したい人には、以下の書籍がお勧めです。



三田こころの健康クリニック新宿「専門外来」の『聴心記』では『摂食障害から回復するための治療関係』というタイトルで、人とのつながりを求め、人からの援助を期待してみたものの、拒絶され、傷ついてきた「乱れた食行動で悩む女性たち(摂食障害の患者さんたち)」は、一見〔対人恐怖的回避型アタッチメント・スタイル〕のような対人関係を作っていますが、その下には認めてもらえない恨みや不満、怒りが〔無秩序な愛着パターン〕として潜んでいることを解説しました。

〔回避型〕が〔獲得安定型〕に変容していく時には、かならず〔おそれ型/混乱型〕から〔アンビヴァレント型(とらわれ型)〕を経由することが知られています。そのため、治療者がアタッチメントの「モデル(目標と感じることができる人)」「メンター(経験に基づき助言してくれる人)」「サポーター(アタッチメント対象としての心理的な支え手)」として機能することが必要になるのです。

ですから、精神療法や心理療法のやり方を知っている、という表面的なレベルではなく、患者さんの内的体験に沿って、このような時に心はどう動くのかを実体験に基づいて示してくれる治療者が必要なのですよね。

それによって、「乱れた食行動で悩む女性たち(摂食障害の患者さんたち)」は、「心理的孤立と無力感」をなだめるための「乱れた食行動」を手放し、自分自身と他者に対する基本的信頼感を培っていくことができるのです(獲得安定型)。

三田こころの健康クリニック新宿の専門外来で行っている「過食症」「過食性障害(むちゃ食い症)」の対人関係療法による治療は、このようにアタッチメントの観点から行っています。
三田こころの健康クリニック新宿の専門外来で行っている対人関係療法による治療の内容については、Akoさんの〔摂食障害が教えてくれること〕や、梅こんぶさんの〔幸せごちそうさま〕などを参照してみてくださいね。

また、「カサンドラ症候群」や「夫婦/パートナー関係」に対しても、アタッチメント(成人期の課題であるパートナーシップ)を中心に、対人関係療法による治療を行っています。

薬を使わない摂食障害治療や、夫婦/パートナー関係の改善を希望される方は、三田こころの健康クリニック新宿の専門外来に申し込んでくださいね。

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2018-05-07

アタッチメント関係の発達

ある精神科医の先生は、口数の少ないだけの健常発達者の父親(70歳すぎ)は発達障害だから30代の娘の摂食障害治療に悪影響があるからと、父親を強制的に別居させ、母親(60代後半)は、杖をつきながら毎日何度も娘の過食のための食材の買い出しをするように医師から指示され、もう10年以上も泣く泣く従わされています。

自称・専門家(?)の指示によって、このように発達段階を無視した悪性退行を促す治療(?)が行われているのは、アタッチメントの問題と発達課題の未達成の問題が混同されているからなのかもしれません。

このような「悲しい専門家(?)」は、子どもの精神的な不調を不安定なアタッチメントだと断定し、親に発達障害がある、親が不安定な愛着スタイルである、親にうつ病などの精神疾患がある、などと親の育て方の問題だと位置づけます。
本当にそうなのでしょうか?この「専門家(?)」は、「子育ては完璧であるべきだ」との幻想を抱いているのではないでしょうか?

もう1つは完全な育児なんてものは存在しない、ということである。
70%うまくできれば上出来だと吉本は述べている。吉本は自分自身の育児を“私の育児は55%だった”と振り返っている。


宇田『吉本隆明『心的現象論』の読み方文芸社


「完全な育児なんてものは存在しない」ことは、ウィニコットのいう「ほどよい母親」ということですよね。

また最近では、自閉症スペクトラムASD)児がどのようなアタッチメントを形成するか?という研究もなされています。

アタッチメント研究では、安定したアタッチメントと親の敏感な養育行動がかかわることがわかっている。

先のオランダでの大規模研究では、子どもの信号に対する親の敏感性は、発達障害の場合でも通常発達と変わるところがなかった。しかしながら、ASDに限っては、親の敏感性は子どものアタッチメントと関連しなかった。

敏感性の評価では、子どもの発信信号に対する応答が調べられるが、ASD児ではそもそも発信をしないため、評価が厳しいことが問題となった。

最近、成人の高機能ASDにおいて、成人アタッチメント面接を行った研究が出された。
それによると、安定したアタッチメント表象を示した者は通常発達と比べて少なかったが、他の精神疾患と比べてASDがアタッチメント表象の問題を多くもたらすとはいえないという結論であった。


近藤「発達障害とアタッチメント」こころの科学 No.198 (3) 「現場から考える愛着障害」56-59, 2018


ASD児はアタッチメント希求行動を表現することが少ないため、親の情緒応答性を明確に測定できない、しかし、測定できた研究では健常発達者もASD児もアタッチメントには差がないということで、先に挙げた「専門家(?)」の先生がおっしゃるように、親に発達障害があること(毒親であること)は、子の不安定型アタッチメント・スタイルの差とは関係がないということですよね。

現今のアタッチメント研究では、アタッチメントの幼児決定論的はほぼ否定され、複数の他者との関係性のあり方(それぞれの他者とのアタッチメントの経験の蓄積)が統合されて、その子どもに固有の内的作業モデルが形成されると考えられています。

たとえ不遇な養育環境に起因する幼少期のアタッチメントが不安定であったとしても、幼少期から青年期・成人期にかけてアタッチメントが不安定型から安定型へと変化した、いわゆる獲得安定型の存在が明らかにされているのです。

つまり、子どもたちは、保育者や教師などともアタッチメント関係を構築し、人と人との“信頼”の中で成長していき、今の安定した異性等との関係性が不安定型から安定型(獲得安定型)への変化に関与している可能性も示唆されているのです。
ということは、問題は幼少期のアタッチメント・パターンが青年期・成人期まで持続すること、つまり他者との関係が構築できないことは幼少期のアタッチメントとは無関係ということですよね。


発達段階とアタッチメントの成熟を考えてみると、勤勉性を発達課題とする学童期の対人関係の発達位相はギャング・エイジとよばれ、集団との関係(集団同一性:場や行動を共にすることでつながる)がテーマになります。ギャング・エイジの対等な親友との対称的で非互恵的な関係をコンパニオンシップと呼ぶこともあります。

小学校高学年頃の前思春期から中学生頃の思春期にかけて、身体・対人関係・自他の認識などさまざまな相(Phase)が変化します。

対人関係においては、養育者との関係が依存から自立に変化したり、仲間関係も、場や行動を共にすることでつながるギャング・エイジ関係から、相互同一視により特別な絆を感じるチャム関係へと変化したりすることが多い。

さらに認知能力と知識の爆発的な増大により、世界の認識が急激に拡大し、自他が相対化されるとともに、幼児的万能感の限界を認識し、世界の中心ではなく、しかも孤独な自己の存在を抱えるという課題に直面する。

自らが何ものであるか、あろうとするかという、いわゆる自己同一性も、周囲から与えられたものがゆらぎ、周囲の価値観とか必ずしも一致しない、みずから選びとるものへと変化し始める。


林「アタッチメントと思春期臨床」in 小林・遠藤『「甘え」とアタッチメント』遠見書房


思春期には、アタッチメント対象との関係が変化してきます。
幼少期には非対称的で非互恵的であった縦の関係(両親との関係)で、まだ自立が完成していないため非互恵的であるものの、対称性をめぐる争い(いわゆる反抗期)が起きてきます。

思春期において、アタッチメント対象との関係が、縦の関係から横の関係へと変化し始める。
思春期以前におけるアタッチメント対象は、親や先生など、自分よりも身体、情報処理能力、社会的地位の上で力が優っている、文字通り目上の存在である。
それが、思春期以降になると、ほぼ対等な能力や権力を持つ友人や上級生やきょうだい、時には恋人などがアタッチメント対象として登場する。


林「アタッチメントと思春期臨床」in 小林・遠藤『「甘え」とアタッチメント』遠見書房


思春期から青年期には、対等な能力や権力を持つ友人や上級生やきょうだいなど、相互同一視により特別な絆を感じる「チャム関係」や、恋人など対称的で互恵的な「ピア関係(パートナーシップ)」が発達してきます。そして、それらの関係性が統合されることによって、青年期から成人期にかけてのアタッチメント・スタイルが確立されてくるのです。



三田こころの健康クリニック新宿「専門外来」の『聴心記』では『愛着トラウマと摂食障害』というタイトルで、「いい子」を演じてきた乱れた食行動で悩む女性たちが心の中で蓋をしている「認めてもらえなかった恨みや不満、怒り」について解説しました。

「いい子」を演じるという対人関係スタイルは、親(特に母親)との関係で培われたアタッチメント・スタイルが雛形(テンプレート)になります。
他者を遠ざけ、十分な「対人学習」がなされていないと、関係特異的なはずのアタッチメント・スタイルや対人関係のテンプレートが、アタッチメント対象ではない他者にも過剰に適用されてしまうのです。

心の中の蓋の下にあるのは、アタッチメントの傷であり、自分らしく生きられなかったインナー・チャイルドなのです。

三田こころの健康クリニック新宿の専門外来で行っている「過食症」「過食性障害(むちゃ食い症)」の対人関係療法による治療では、このようにアタッチメントの観点から「自分自身への基本的信頼感」を取りもどす治療を行っているだけでなく、そのプロセスでインナー・チャイルドのワークを取り入れることもあるのです。

また、「カサンドラ症候群」や「夫婦/パートナー関係」に対しても対人関係療法による治療も行っています。

摂食障害を本気で治したいと思っている方や、あるいは夫婦/パートナー関係の問題をなんとかしたいと考えていらっしゃる方は、akoさんの「摂食障害が教えてくれること」や、梅こんぶさんの「梅こんぶの幸せごちそうさま」を参照にして、三田こころの健康クリニック新宿の専門外来に申し込んでくださいね。

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摂食障害・過食症 の対人関係療法慢性のうつ病や双極性障害の リワーク(職場復帰支援) なら 心療内科専門の三田こころの健康クリニック新宿
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