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如実知自心〜三田こころの健康クリニック新宿〜 このページをアンテナに追加 RSSフィード

2013-01-21

対人関係療法による摂食障害の治療3〜「拒食」と「過食」の要素

このところ何がなんでも認知行動療法が流行りですよね。

実際、間近で認知行動療法を見てみると
焦点の当て方は異なるものの
治療関係の構築は対人関係療法と似たような雰囲気を感じます

精神科治療学』という学術雑誌
摂食障害治療に取り組むI・II」という特集が組まれていました。
身体の時間』『解離する生命』などの著者でもある野間俊一先生が
摂食障害に対し、さまざまな心理療法をどう選択するか
精神科治療学 27(11): 1435-1439, 2012)
という小論を掲載しておられたので、
摂食障害治療法としての対人関係療法
という切り口で読んでみたいと思います。


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野間先生は

実証性が確認されているからといって、同じ治療法をすべての患者さんに適応してうまくいくとは限らない。
どんな治療法も、どのような患者のどのような病態にどのように効果があるのかを明確にして、より適切に施行されるべきである。

摂食障害に対し、さまざまな心理的治療をどう選択するか』野間俊一, 精神科治療学27(11); 1435-1439, 2012

と述べておられます。

まさにその通りで、例えば認知行動療法では
体重や体型への認知、食行動のコントロールを中心に
BMI17.5以上の場合は20セッション(BMI15〜17.5では40セッションまで)
治療を行っていく事になっており、
過食症」や「むちゃ食い性障害」の過食症状に対して
最も有効な治療法とされています。

確かに、体重や体型への認知、食行動異常が摂食障害の中心病理であり、
食行動を悪化させないことが摂食障害からの回復の第一歩だとしても、
食行動とその際の状況や気分を記録して、セッションで振り返る
という認知行動療法の課題は、困難な場合もあるのですよね。

認知行動療法と違い、対人関係療法では、
食行動や(過食はストレスマーカーと認識し、コントロールの対象としないこと)
体型の認知などには焦点を当てません。

その上での治療ですから、対人関係療法を行う上で重要な点は、
対人関係療法の短期治療では過食がなくなることを目指さないこと
つまり、
「こういうふうにしていけば病気が治っていく」という見通しが立てられること
というスキルを身につけていく治療ということになります。
ですから、治療終結後も改善が続くのですよね。

ところが、中には16回の治療で治してもらえるなど、
とくに拒食症の患者さんのペースを考慮せずに
過大な期待をされるご家族もいらっしゃいます。
摂食障害の不安に向き合う』の中の
「第4章 症状を位置づける──患者の症状に干渉しないことの意味」
をもう一度、じっくり読んでいただきたいと思います。

摂食障害の不安に向き合う―対人関係療法によるアプローチ

摂食障害の不安に向き合う―対人関係療法によるアプローチ



対人関係療法では、摂食障害を「拒食の要素」と「過食の要素」に分け、
「拒食の要素」に対しては、発症プロセスの「役割の変化」に焦点を当て、
「過食の要素」に対しては維持因子である現在の対人関係の中での
「対人関係上の役割をめぐる不和(期待のズレ)」あるいは
「対人関係の欠如(表面的な対人関係で、我慢を抱え込み、自己主張が出来ない)」

に焦点を当てますよね。

ちなみに。
過食の要素で焦点を当てる維持因子としての「対人関係の欠如」は
引きこもりや人付き合いが苦手という親しい対人関係がないという意味ではなく、
他人の評価を気にして、対人関係の範囲や質が表面的という「対人過敏」の意味です。
時々、対人関係療法を謳っている治療者?でも間違っていることがありますので
注意してくださいね。

さて、この際、症状のあり方を拒食や過食の「要素」と見て、
発症因子と維持因子を区別して診ていくところがポイントで、
例えば、「過食嘔吐を伴う拒食症(AN-BP)」という診断であっても
ある患者さんでは、「役割の変化」としての治療焦点がメインになり、
別の患者さんでは「役割期待のズレ」を焦点とするなど
個々の状況によって焦点の当て方は変わってくるのです。

このようなやり方は、対人関係療法
患者さんへの適合性に応じてエビデンスに基づく精神療法を選ぶという
「鑑別治療学」を重視しているからなのです。

野間先生も

発症当初にはなんらかの心理的要因があったとしても、いったん疾患が形成されると、初期の心因とは無関係に症状が習慣的に持続することが特徴である。
長期化すれば、二次的にさまざまな社会問題も生じる。

摂食障害に対し、さまざまな心理的治療をどう選択するか』野間俊一, 精神科治療学27(11); 1435-1439, 2012

と述べておられるとおり、
水島先生も、たとえば「拒食の要素」について、
達成感・安心感のための拒食」が本格化する中で
身体が覚えてしまった「恐怖症としての拒食
ということをおっしゃってますよね。

そのような個々の状況を理解するために、摂食障害そのものを

・神経性無食欲症(拒食症):AN
  制限型:AN-R
  排出型:AN-BP(過食嘔吐をともなう)
・神経性大食症(過食症):BN
  排出型:BN-P(排出行為をともなう過食・拒食症から移行した過食症も含む)
  非排出型:BN-NP
・むちゃ食い性障害:BED
・特定不能の摂食障害ED-NOS

という症状の表現型で分類します。
対人関係療法治療を進めていく時には
背景にある本質的な病理(やせ願望・肥満恐怖・ボディーイメージの障害)の有無により
摂食障害の病型分類を行った上で
「拒食の要素」と「過食の要素」のバランスを見極め、
発症のプロセスを扱うのか、維持因子に重点的に焦点を当てるかという
一人ひとりの病理に応じたオーダーメイドな治療を行っていくことになります。

たとえば、対人関係療法による治療では
過食は我慢しない(コントロールの対象としない)
ということで進めていきます。
摂食障害、とくに過食症では過食という症状は
コントロールしようとしても出来ないため
出来ないことでさらに罪悪感が強まるという悪循環を形成しています。

この悪循環のループを切断すること
そして罪悪感や無力感を減じ
自尊心を回復に取り組むという対人関係療法による治療の考え方は、
解決のための努力そのものが問題の維持に関与している
とみなし、円環的思考でパラドキシカルな解法を目指す
ブリーフ・セラピー(『変化の技法』参照)に似ているところですよね。

拒食症・過食症を対人関係療法で治す

拒食症・過食症を対人関係療法で治す



ちなみに。
精神疾患の分類と診断の手引き(DSM)」が
現行のDSM-IV-TRからDSM-5に2013年5月下旬には改訂されます。
摂食障害についてDSM-IV-TRとDSM-5の対比は
2013年に三田こころの健康クリニック『聴心記』で書いていく予定なので
お楽しみに。

さて。
三田こころの健康クリニック公式ブログ『聴心記』では
刹那の反転7〜 トラウマと愛着障害の彼方へ』という記事をアップしています。
愛着障害からトラウマへ到達したこのシリーズも、いよいよ最終回です。

愛着障害や愛着(アタッチメント)の傷つき、トラウマからの回復のプロセスは
安全基地の確保(家族の支えや治療者の存在)によってなされるのですね。

この中で2人の患者さんからいただいた手紙を紹介しています。
治療者(セラピスト)が暖かいまなざしでまなざすことにより
セラピストの心がクライエントにコピーされ、
患者(クライエント)の心は動態化し、
受動から能動への反転により外傷体験の無効化が可能になるということを
お二人とも同じ言葉でおっしゃっているんですよね。
是非、こちらも読んでくださいね。


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摂食障害 治療 対人関係療法 双極性障害対人関係-社会リズム療法 の 病院 なら 三田こころの健康クリニック
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摂食障害とは編集

  • 体重に対する過度のこだわりがあることや、自己評価への体重・体形の過剰な影響が存在するといった、心理的要因に基づく食行動の重篤な障害。概要 主にアノレキシア・ネルボーザ(anorexia nervosa:拒食症、神経性食思不振症、神経性食欲不振症、神経性無食.. 続きを読む
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