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2013-01-28

対人関係療法による摂食障害の治療4〜治療の実際

さて、摂食障害治療はどう行われているのでしょうか。

多くの場合は、抗うつ薬抗不安薬を中心とした
薬物療法しか行われていないようですが、
拒食症」の場合は身体管理、
過食症」の場合は自己不全感に対する精神療法(心理療法)が
必要になります。

それでは実際に、どのように心理療法を適用すればよいのだろうか。
CBT(認知行動療法)やIPT(対人関係療法)といった構造化された治療手段を複数持ち合わせている医療機関は多くはなく、実際にはそれぞれの医療機関で得意とする治療を行っているのが現実だろう。
ただし、マニュアル通りでなくても、各心理療法のエッセンスを通常診療に応用することは可能であり、その方が現実的と思われる。

摂食障害に対し、さまざまな心理的治療をどう選択するか』野間俊一, 精神科治療学27(11); 1435-1439, 2012

前半はまさに野間先生のおっしゃる通りなのですが、
後半の心理療法のエッセンスを応用するためには、
正規の心理療法(精神療法)ができることが大前提

ということは、あまり知られていません。

でも良く考えると当たり前のことなのですが、
たとえば、映画や小説を見た・読んだことがあれば、
「あらすじ」をまとめることが可能ですが、
予告編や「はじめに」を見た・読んだからといって
映画や小説の全部がわかっているわけではない
ということなのです。

精神療法や心理療法をある種のテクニックとして捉えると
このようなエッセンス論が出てくるので注意して下さいね。

まず、食行動を悪化させないという治療の枠組みを形成するためにも、CBT(認知行動療法)が治療の基本になる。
食事記録をチェックするだけでも、疾患の嗜癖性を改善させる効果がある。
IPT(対人関係療法)を簡略化し、決めたテーマについて短時間の診察で話すことで、自己愛的対人関係への内省が可能になることがある。
CBTとIPTの併用は原理上できないことになっているが、CBTを治療の枠組みとして用いながら対人関係を話題にすることは、実際上では不可能ではない。
(中略)
摂食障害治療に対して「食行動を悪化させない」という観点はBruch(ブルック)が見出した「コントロールへのあがき」という特徴は、その過剰が拒食、その挫折が過食とみれば理解しやすい。
その背景には、Bruchの指摘する「無力感」あるいは「自己評価の低さ」があると推定される。

摂食障害に対し、さまざまな心理的治療をどう選択するか』野間俊一, 精神科治療学27(11); 1435-1439, 2012

「コントロールへのあがき」という理解から
コントロール不能なものを可能にしていくという考えから
認知行動療法治療の中心にするという考えが出て来ます。

しかし『対人関係療法による摂食障害の治療3〜拒食の要素と過食の要素
でも触れたように、対人関係療法では
食行動や体型の認知などには焦点を当てません。
過食はストレスマーカーと認識し、コントロールの対象としない
ですから、
認知行動療法対人関係療法の併用は、原理上できないことになっている
のです。
もし行うとすれば、どちらを優先させるかというと、
「思い込み」や「should(…すべき) / must(…ねばならない)」など
思考が有意な場合は認知行動療法を、
情緒的な場合は対人関係療法
を適応した方がいいようです。

しかし、野間先生が考えられている対人関係療法
どうも「苦手な対人関係を何とかする」という
認知療法的なコントロール観に基づくもののようですので、
「対人関係を話題にする」程度のことを
対人関係療法とおっしゃっているのかもしれませんよね。

実は、オーストラリア・メルボルン大学のコクランらは、
プライマリケア向けのうつ病治療プログラムとして
対人関係カウンセリング(IPC)と認知行動療法的な要素を組み合わせた
FEPP(Focused Education and Psychotherapy Program;心理教育と心理療法に焦点化したプログラム)
を開発しています。

対人関係カウンセリング(IPC)では、ストレスのきっかけと考えられるものと、
現在のストレス症状との関連に焦点を当て、
認知行動療法的要素では再発防止に焦点を当てたネガティブな自動思考を問い直すこと
日常活動を増やすような行動的な課題を設定すること(行動活性化)、
などが含まれています。
どちらも構造化されており、期間限定(全12回)ですから
野間先生がおっしゃるようにまぜこぜで適応されるものではないですよね。

ちなみに。
対人関係療法のエッセンスは、
「フォーミュレーション(診立て・位置づけ)」
ですから
対人関係を話題にするということではないのですよね。

以下に、著者が望ましいと考える心理療法の選択手順を記す。
まず、AN(拒食症)、BN(過食症)に関わらず、初期の患者にはCBT(認知行動療法)の第1ステージの課題を与える。
(CBTの第1ステージ(7セッション)では、食行動とその際の状況や気分を記録してセッションでそれをふり返る。)

若年の反応群やパーソナリティ障害群は導入困難なことが多く、その場合は無理に課題を促さない。
反応群なら一般的な(支持的あるいは指示的な)心理療法的面接のみで改善する可能性がある。
パーソナリティ障害群なら、支持的心理療法をベースにまずは経過をみることになる。
家族療法はCBT、IPTが困難な若年のAN症例に対して、第1ステージを試みるべきである。
(家族療法の第1ステージでは、食事量の回復と体重増加を目指し、家族への疾患教育が中心となる。)

長期型の場合、現在の食行動から抜けることへの抵抗が強いため、往々にしてCBTが続かない。
その場合や、明らかに対人関係の悩みを自覚している場合は、IPT(対人関係療法)を試みる。
摂食障害に対し、さまざまな心理的治療をどう選択するか』野間俊一, 精神科治療学27(11); 1435-1439, 2012

今回は、引用内に出て来た「疾患の嗜癖性」や「衝動性」
「若年の反応群」「パーソナリティ障害群」については触れていませんが、
摂食障害の中核群と辺縁群の分類は、野間先生がおっしゃるように
「さまざまな心理的治療をどう選択するか」に直接関わってくる問題ですから、
いずれ改めて取り上げることになると思いますので
お楽しみに♪。

ちなみに。
水島先生の厚生労働科学研究のお手伝いで患者統計を行った、
三田こころの健康クリニック対人関係療法による治療を行った
摂食障害の患者さんの治療終結時の改善率(改善・軽快以上)

拒食症・制限型       50%
拒食症・むちゃ食い/排出型  50%
過食症・排出型       64.7%
過食症・非排出型      62.5%
むちゃ食い障害       75%

でした。
対人関係療法はすべての人に向いている万能の治療ではないとしても、
やはり、過食症やむちゃ食い障害に対しては、治療効果が高いようですし、
治療終結後も効果が伸び続ける治療法であることを考えると
摂食障害に対しての対人関係療法が適応になる場合は、かなり有望と言えますよね。
注:有効性が明確に確立された治療薬でも、臨床試験(RCT)における不変・悪化率は20〜30%であることを考慮すると、
精神療法での改善率としては申し分ないといえると思います。


また気分変調性障害や社交不安障害などの合併症の有無とは関連がないようでした。
摂食障害・中核群か、特定不能の摂食障害(辺縁群)か、がさほど問題にならないということは、
対人関係療法の適合性や対人関係文脈が明確なのかどうかという判断が重要
対人関係療法の適応になると判断されたケースでは
それなりの治療効果が得られているということですよね。

ちなみに。
心理療法でいう「文脈(コンテクスト、コンテキスト)」とは
一般にいう普遍的、客観的な論理的関係、たとえば
筋道とか、物事の背景とか、話の流れというようなことではなく、
さまざまな事象の相互作用から織りなされる多様性をもつ背景の要因のことであり、
「出来事(外的環境)をどう体験したか」という主観的な意味(心的(内的)現実)の関係
のことであり、それをどう読み解くか(位置づけるか)ということです。

ところで。
三田こころの健康クリニック公式ブログ『聴心記』では
摂食障害の病理〜自分隠しと対人過敏』という記事をアップしています。

上記の野間先生も言及されている「自己愛的対人関係」、
摂食障害の背景にある「他人の評価を気にする」という
「過敏型自己愛」について触れています。
「過敏型自己愛」は、摂食障害だけではなく
性格と間違われやすい慢性うつ病性障害(気分変調性障害)
双極II型障害、愛着の問題(不安定型愛着スタイル)でもみられますよね。

こちらもぜひ読んでくださいね。

パーソナリティ障害とは何か (講談社現代新書)

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対人関係療法とは編集

  • 対人関係療法とは 対人関係療法(Interpersonal Psychotherapy: IPT)は、期間限定の精神療法であり、もともとは非双極性・非精神病性のうつ病外来通院患者の治療法として、1960年代末からクラーマンやワイスマンによって開発され、1984年に出版されたマニュ.. 続きを読む
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