厚木市子ども科学館が命名権導入

7月20日のPJニュースの記事から

公共施設が大学に乗っ取られる? 命名権争奪戦へ
【PJニュース 2009年7月20日神奈川工科大学を運営する、学校法人幾徳学園(神奈川県厚木市)が厚木市子ども科学館のネーミングライツ(命名権)パートナーとなることが決まり、「神奈川工科大学厚木市子ども科学館」となることを厚木市が公表した。
 期間は2009年7月1日から3年間(最長5年)で、命名権料は90万円であるという。施設のリニューアルオープンを機会に新たな財源確保と子ども科学館の利用者サービスの向上を狙ったものだ。同館は1985年にオープン、目玉のプラネタリウムや各種展示で年間約4万人が利用している。
命名権ビジネス花盛りともいえる現在、東京都渋谷区の公衆トイレの命名権を買った企業が注目を浴びたことをおぼえている人も多いだろう。企業が公共施設の命名権を買うことは珍しくない。最近では大学が命名権を買う時代になってきた。施設によっては壮絶な争奪戦を繰り広げているらしい。
 大学が公共施設の命名権を手に入れた例を調べてみると、俣野公園横浜薬大スタジアム(横浜市)、崇城大学市民ホール(熊本市)、中京大学文化市民会館(名古屋市)などがある。
 たくさんの人が集まるスタジアムや劇場などでは宣伝効果抜群と思われるが、公立の子ども科学館に目をつけた神奈川工科大学の狙いはどこにあるのだろうか。

  • 1)公立施設で常時宣伝ができる
  • 2)利用者が子どもまたは親子連れが多い
  • 3)命名権料が比較的安い
  • 4)地元住民への知名度浸透
  • 5)社会貢献としての姿勢のアピール

このほかにも様々なねらいが考えられるが、なんといっても1)2)3)は外にないメリットだ。少子化の中にあって、将来の学生確保は大学の死活問題である。今後は公立施設の命名権争奪合戦が本格化するものと思われる。【了】

命名権(ネーミングライツ)については,このはてなダイアリーでも2007年12月12日のエントリー「博物館にネーミングライツ?」などでも触れてきました。
上記記事では,命名権を購入する大学のねらいとして,5つのポイントが掲げられているとともに,この他にも様々なねらいが考えられるとしています。大学だけでなく,企業でもほぼ同様でしょう。命名権の購入にはこれらのような狙い,またはメリットがあるということです。
このうち,5番目のポイントは両刃の刃ともなるもので,「社会貢献としての姿勢のアピール」だけでなく,「公共財産を安価で独占利用しようとする姿勢のアピール」につながる可能性もあります。このあたりは,命名権購入以前の企業・大学のイメージ,購入後のコンプライアンス遵守の姿勢,他の支援者・理解者・利用者への十分な配慮等があいまって,どちらのイメージが強くなるかが問われます。
さて,命名権を購入するメリット等は上記の通りとして,命名権という商材をひねり出し販売するメリット,デメリットとしてはどのようなものがあるでしょうか。
まず,メリットとしては明確に二つはあげられます。一つは,議会に諮ることなく新たにひねり出した命名権を販売することによる広告料収入(記事の例で言えば年間90万円)を行政は得ることができること。もう一つは,財政が厳しい状態であるということを住民等にアピールすることができること。
一方,デメリットとしてはどのようなものがあるでしょうか。

  • 住民の代表である議会で承認を得た名称を事実上廃棄せざるを得ないこと。
  • 名称が事実上変更され,企業・大学等が名付けた名称を使わざるを得ないことから,住民共有の財産であるという意識が自治体内外で減少してしまうこと。
  • 上記2点にもかかわらず,行政は直接,または機会費用として,当該名称を変更した施設に一定の支出をせざるを得ない(住民が負担せざるをえない)こと。
  • 命名権購入者のみが独占的に利益を享受することから,その他のメセナ,寄付,寄贈が減少し,または引き上げが起きるとともに,ボランティア活動等による支援・理解も減少するおそれがあること。



記事にもあるように,今後,大学や企業の命名権争奪は,より激化するかもしれません。もし,激化するのであれば,命名権販売額も上昇することが考えられます。行政は,命名権販売額の上昇というメリットも勘案しつつ,議会・住民とともに,公共施設への命名権の導入について検討していくことが必要でしょう。
ただし,もし,命名権争奪戦が激化すらしない状況であれば,命名権の導入はデメリットの方が大きすぎるだろうと推測することができます。

10月13日追記 横浜国際総合競技場の件

極めて恵まれた施設にして,なおかつ命名権争奪戦が激化すらしない状況が生まれてきています。
10月12日の神奈川新聞の記事から

日産スタジアム、改名なら市に重い負担/横浜
日産スタジアム」の愛称で親しまれている横浜市港北区横浜国際総合競技場。その命名権の契約更新期が迫り、スポンサー探しに奔走する市が、新たな「難題」に頭を悩ませている。現スポンサーの日産自動車以外の企業が命名権を購入した場合、看板や道路標識などの架け替えなどが必要となり、そのための多額の費用は原則、市の負担となるためだ。
●更新協議は不調
 国際総合競技場と、隣接する小机競技場、屋内プールの計3施設については2005年3月、日産が年間4億7千万円(5年契約で計23億5千万円)で命名権を取得している。
 しかし、来年2月末の契約期限切れを控えた市と日産の契約更新協議は、経営環境の悪化を理由に日産側が同じ条件での更新には応じないことを決め、不調に。その結果、市は現在、「年間3億円以上、期間3年以上」と条件を大幅に下げて命名権のスポンサーを再公募中。応募の締め切りが19日に迫っている。
 ここで問題となるのは、日産以外の企業が名乗りを上げ、実際に命名権の取得契約を市と結んだ場合の対応だ。05年に日産が命名権を取得した際には、競技場や最寄りの新横浜駅周辺の道路標識や案内看板など約800カ所の表記が「日産スタジアム」と改められ、当時で1億円以上かかったという費用は市側が全額負担した。
●値下げの末に…
 市の命名権に関するガイドラインでは「命名権導入時および契約期間満了時に必要となる標識類の架け替え、パンフレット等の更新などは原則として市の費用負担」と規定。この原則に従えば、市はかなりの額の市費を投じ、新スポンサーが提案する施設の愛称に沿って標識などを架け替えなければならない。
 市にとって悩ましいのは、命名権を現状より1億5千万円以上も値下げした上に、新たな市費の持ち出し問題が浮上する点だ。市の担当課は「日産以外が命名権を取得した場合は、標識の架け替えなどの費用については、取得企業と市のどちらが費用負担するかも含めて契約条件を協議したい」と話し、市側の出費を極力、回避したい意向をにじませる。
 一方、日産は新たに市が示した条件で命名権の取得に乗り出すかどうかについて現状では「検討中」(同社広報部)との立場。ただ、「厳しい経営環境の中、契約料、契約期間とも株主を納得させられる内容ではない」とする関係者もおり、応募が見送られる可能性も出ている。