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2012-04-13 Fri

2012年ヒューゴー賞候補作を読む:短篇部門の場合

おととしおよび昨年にひきつづき、今年も何事もなかったかのように候補作レビューをおおくりします(ただし短編および中篇部門のみ)。今年のワールドコン Chicon 7 はシカゴで8/30〜9/3開催、ヒューゴー賞セレモニーは9/2の予定です(現地時間)。

で、短篇(ショートストーリー)部門の候補作は以下のとおり。このうちスコルジーとレズニック以外の3作はネビュラ賞とのダブルノミネート。原文はすべてウェブ上で無料公開されています。

作品名著者名初出
MovementNancy Fulda
ナンシー・フルダ
Asimov's
Mar 2011
The Paper Menagerie *PDFKen Liu
ケン・リュウ
F&SF
Mar-Apr 2011
The Homecoming *PDFMike Resnick
マイク・レズニック
Asimov's
Apr-May 2011
Shadow War of the Night Dragons, Book One: The Dead City (Prologue)John Scalzi
ジョン・スコルジー
Tor.com
1 Apr, 2011
The Cartographer Wasps and the Anarchist BeesE. Lily Yu
E・リリー・ユー
Clarkesworld
Apr 2011

ナンシー・フルダ Movement

バレエと数字記憶の天才だが会話能力に問題を抱えるサヴァン症候群の少女ハンナ。自閉症を「治療」する新しい外科手術をハンナに受けさせるべきかどうか、父親と母親は口論している。ある晩、ハンナはこっそり家を抜け出していつもの教会へと踊りに出かける。約3900語。

ハンナの一人称で語られるあたりもふくめて、ちと『アルジャーノンに花束を』を連想する話。「世代間の断絶と家族のすれちがい」や「自分らしさ」といったテーマっぽい比喩をごろんと放り出してしまうあたり、あからさますぎて図式的に感じてしまって残念だったけれど、この感覚がほかのひととちょっとずれた語り手による一人称というのは、着眼点はよかったと思う。

ケン・リュウ The Paper Menagerie

「僕」ことジャックの母親は、国際お見合いサービスによってアメリカ人の父親と結婚した中国人女性だった。経緯はともかく、幸せに過ごしていた家族3人。英語を話せない母は、折り紙の動物に命を吹き込む魔法を使うことができた。しかし、学校に通うようになったジャックは母親のことで周囲からいじめにあい、そのために母とのあいだに溝をつくってしまう。ジャックが大学生のとき、母はガンで亡くなる。約5000語。

これもせつない話。幸福な子供時代とその後まで、母子の心理的距離の描きかたはいい感じ。ただ、最後にでてくる手紙の泣かせがあざとすぎるのがどうかなーと。もちろん、そこを気に入る人も多いとは思うんだけどね。タイトルは「紙の動物園」という意味。


マイク・レズニック The Homecoming

人類が銀河系のさまざまな惑星に進出しているくらいの未来。アルツハイマーが進行し余命いくばくもない妻を自宅で看護している老人。ある朝、11年ぶりに息子が帰ってくる。地球外生物を研究していた息子は、未調査の惑星を探査するために自らの肉体を異星人のものにつくりかえ、化け物のような外見になっている。それが原因で親子は絶縁していたのだった。せめて死ぬ前に母を見たいという息子に対し、父はかつての彼の決断を強くなじるが。

父子の対立と和解の話だが、陳腐な未来設定で中途半端に誇張しているがためにかえって筆の凡庸さがきわだってしまうたぐいの、どうにも見るべきところのない作品(未来社会を印象づけるガジェットとしてDNA認識で鍵が開きまーす、てのをことさらに書いたりとか、ボケた人物が一瞬だけ正気を取り戻して大切なことを言う、とか、今時それはないわー、という感じだ)。そもそも候補にいれちゃダメでしょこれ。

ジョン・スコルジー Shadow War of the Night Dragons, Book One: The Dead City (Prologue)

Tor.com のエイプリルフール企画、実在しない長篇ファンタジーの冒頭部、という体裁で書かれたパロディ短篇。そもそもこのタイトル自体、同サイトの「ここ10年のファンタジー作品でタイトルによく使われた単語を数えてみたよ」という冗談企画のなかで「単純に頻度の高い順に単語を並べるだけでいかにもなファンタジー作品3部作のタイトルができちゃうよね」というネタだったものを、スコルジーがそのまま使って本作を書いたのであった。ちなみに2作目のタイトルは Dark Blood Magic、3作目のタイトルは Dream World of the Fire Wolf となる。候補に選出されたと聞いたスコルジーさんはブログで大笑いとのこと。*1

内容はベタなジャンルファンタジーにありそうなネタをさんざんパロったもの(冒頭が「暗い嵐の夜だった」で、いかに暗いのかいかに嵐なのか延々とこけおどしな描写がつづいたりする)。もしこのまんま縦横無尽に言葉あそびで脱線に脱線を重ねつづけたら初期日本ファンタジーノベル大賞受賞作みたいな奇想小説になるかもしれないなーと思ったけれど、そこまで考えてないんでただのパロディどまりです。これが候補に選出されたことを内輪の洒落ととるか、それともレズニックの件(後述)をみこしての高度な抗議活動だったのだと考えるべきか。ま、どっちでもいいや。でも俺、スコルジーさんのこと嫌いになれない。

E・リリー・ユー The Cartographer Wasps and the Anarchist Bees

中国のとある農村に住むスズメバチたちは、美しく精緻な近隣地図を巣の中に織り込むことができた。しかし偶然その美しさが人間に知られてしまい、いくつもあったハチの巣はつぎつぎと壊されてしまう。唯一助かった巣は近くの川を流れくだり、下流であらたな大帝国を建設し、近くにあったミツバチの巣を征服して奴隷とする。しかしミツバチの一部は機会をうかがい、安全な地で女王のいない平等なあたらしい巣を建設すべく脱走を図る。約3400語。

というふうにあらすじを書くと、なんとなく童話っぽい話や説教くさい寓話を想像するかもしれないが、そうではないところがポイント。妙にグロかったり妖しく美しかったりとっぽいドタバタがあったり、なかなかにヘンな幻想小説です。タイトルは直訳すると「地図を描くスズメバチと無政府主義のミツバチ」というような意味。

総評

手放しで傑作と呼ぶほどではないが、内容的にはE・リリー・ユーのものが頭ひとつ抜けている印象。彼女は今年のキャンベル新人賞候補にも挙がっていて、今後ちょっと注目してみたい若手作家。ただ、ケン・リュウ作品も泣かせる話としてはよくできていて捨てがたい。ちなみにケン・リュウは去年ものすごいペースで中短篇を量産していて、ノヴェラ部門のヒューゴー・ネビュラ候補にも作品が挙がっているし、短篇の Tying Knots などは見事なアイデアストーリーなので、こちらも今後伸びていったらおもしろい作家だと思う*2

が、こと賞の予想という意味では、マイク・レズニックの受賞でほぼ鉄板なんだろうなあと思うのであった。なぜかというと、レズニックは今年のワールドコンのゲスト・オブ・オナーだから。しかしいくらなんでも、この程度の作品が候補になっちゃうのはなんだかなー。まあヒューゴーだし仕方がない、といつもの文句で〆。

*1http://twitter.com/#!/ymgsm/status/189222380068016128 より。

*2:ちなみにケン・リュウさんはTwitterでなんどかやり取りしたことがあるのですが、地震のとき気遣うメッセージをいただいたり、とてもいいひとです。奥さんが日本語を少し読めるそうなので、本ブログも読まれるやもしれず。でも作品は正直に評価いたしましたよー。

2012-03-27 Tue

デイヴィッド・ラングフォード "Graffiti in the Library of Babel" (2010)

ひさびさにかんそー文でも、といってもショートショート的な短編1本だけですが、ツイッターに書くには長いのだ。ハートウェル編2010年ベストSF選より。下記の冒頭部を読めばわかるように、初出はファースト・コンタクトもののテーマアンソロジーでした。さて、「地球外生命体との初遭遇」という定番ネタをどう料理してきたのかな。

あらすじ

あらゆる書物を電子化して保存しようという〈トータル・ライブラリー〉プロジェクト。ここの蔵書(電子データ)はハッキングなどの被害を防ぐため、インターネットからは完全に遮断された施設に置かれている。ところがある日、収蔵した電子書籍に「ラクガキ」がされているのが発見される。所長のジョセフに呼びつけられた物理学者ケリーは、犯人と動機を調べることになる。たぶん3000語くらい。

 情報量が最大の(つまり最大限に多義的な)メッセージと、情報をまったく含まないメッセージ(つまりノイズ)には、まったくちがいがないように見える。

    ――ジョン・スラデック "The Communicants"


 のちにわかったように、連中は演出センスというものをまったく持ち合わせていなかった。光り輝く円盤に乗ってやってくるどころか、あまり使われていない通信帯域を選んで素数列を送ってよこす、といったことさえできなかったのだから。そう、連中はスプレー缶と非実在ペンを手に、われらが貴重な文化遺産にきたならしい落書きを描きつけてきたのだった。

 別の言い方をすればこうだ――第一報をもたらしたのは〈トータル・ライブラリー〉の、どうして僕がこんな役目を押しつけられて、という顔をしたインターンだった。「所長、だれかがジェイン・オースティンの本にいたずらをしたみたいなんですが」


(冒頭試訳*1

さて電子書籍に「ラクガキ」ってどういうことかというと、書籍のところどころに勝手にHTMLみたいな文字修飾タグを入れられてしまう――つまり、街なかの壁に描くほうの「タグ」と掛けたダジャレなのであった。

で、所長のジョセフというのが妙につかみどころのないアフリカンのおっちゃんで、ケリーのほうはちゃんと書いた論文をイグノーベル物理学賞にされちゃった――この研究内容がアイデアの論理部分に関わるんですが――バカ生真面目なウェールズ人女性であり(ときどきウェールズ語で悪態をつく)、小説はこのふたりの妙なテンポの会話を中心として、なんだかとっても軽い感じに語られていく。

しかしそういうバカ話っぽい展開でありつつ、落書き犯の正体とその動機は意外にもしっかり設定されている(まあ目新しくはないけど)ことが徐々に明らかになっていく。ほとんど会話だけで進むベタなスタイルのわりに、軽妙な語り口と随所に盛り込まれた場面転換のおかげで説明くささもさほど感じない、読んでいて楽しいアイデアストーリー。このくらい語りを意識しつつアイデアの細部も詰められた作品だったら、とりあえず年刊SF傑作選のアクセントとしては十分かなと思いました。あと某短編賞の応募作(以下自粛)

Year's Best SF 16

Year's Best SF 16

*1スラデックの引用元短編は「使徒たち 経営の冒険」という題で邦訳があるそうで(未読ですが)。

2011-10-10 Mon

京都SFフェスティバル2011に参加してきました

10月8日〜9日、京大SF研が主催中心となって開催している一泊二日のイベント「京都SFフェスティバル2011」に参加してきました。昼の本会のみ参加も可能ですが、参加者同士で酒を飲みつつだべったりする、適度にゆるくて適度にまじめな夜の部がとくに楽しいお祭りでした。この手のイベントに参加するのは今年5月のSFセミナー、9月の日本SF大会につづいて3回目(昨年のAussiecon4を入れたら4回目)ですが、ふだん会えないような人と、ふだんは相手がいなくてできないような本についての話ができるのがいいですね。

なお今回は昼の本会で海外未訳小説紹介企画に、夜の合宿でバチガルピ『ねじまき少女』企画に出演しましたが、昼のほうは時間配分に失敗して最後までまとめられずじまい。大変申し訳ありませんでした。つぎの機会がもしあればもっとうまく進行をやりたいものです。本会企画で使用したスライドを公開しておきますので、興味がありましたらご覧ください*1

ところで本会でも述べたようにちかぢか編集者に転職しますが、このブログはじめウェブ上での発言を今後どうするかというのと、翻訳関連のお仕事をどうするのかは現在検討ちゅう。

*1:紹介している作品はすべてが「おすすめ」というわけではありませんので、興味がありましたらくわしくはGoogle+あたりでご質問ください。

2011-09-11 Sun

ポスト・ゾンビ社会を見てある記:ミラ・グラント "Feed" (2010)

告知し忘れたのだけど9月3-4日の第50回日本SF大会(ドンブラコンL)に参加しまして、ヒューゴー賞解説企画に出演してきました。その関係もあって、事前に長篇候補作のうちせめて一本だけでも読んでおこう、と思って選んだのがこの一冊*1

実際の投票では受賞を逃したものの、1位投票だけなら受賞作のコニー・ウィリス Black Out/All Clear を抑えてトップに立ちました(ちなみに広義のホラーを主な対象としたシャーリイ・ジャクスン賞の長篇部門候補にもなりました)。前情報としては「ゾンビもの」ということだけ仕入れて読みはじめたのですが、はてさて。

Feed (Newsflesh Trilogy)

Feed (Newsflesh Trilogy)

あらすじ

2014年、エコテロリズムの結果として偶然誕生したゾンビ化ウイルスが世界中に拡散し、全人類の3割が犠牲となる。しかし文明社会じたいが崩壊することはなく、アメリカもアラスカ州など一部地域の放棄を強いられながらも、なんとか封じ込めに成功した。

とはいえ、このゾンビ化ウイルスはきわめて症状の進行が速く、治療は事実上不可能。また感染力も強く(空気感染はしないが、噛まれたり引っ掻かれたりするとほぼ確実に感染。しかもヒトだけでなく、他のほ乳類や鳥類も感染経路になる)、さらにイヌ程度の大きさ以上の生き物に感染すると活性化してしまうため、その後は小規模なアウトブレイクやゾンビ襲撃が日常茶飯事となる。アメリカ国民はゾンビ化/ゾンビ襲撃という恐怖と隣り合わせの生活を強いられる、新たな時代を迎えることとなった。

作品の舞台は最初のゾンビ・アウトブレイクから25年後、2039年のアメリカ。ゾンビ発生の危険がある地域は「ハザードゾーン」に指定され、危険度に応じて立ち入り資格がきびしく制限されている。一般市民が生活を営む街中でさえ、安心して出歩くことはできないほどの危険にさらされているため、あるていど収入のある人々はみなゲーテッド・コミュニティ化した住宅地に閉じこもり、他人とあまり交流せずに暮らしている。ショッピングモールやホテルなど不特定多数が利用する施設は衰退するか、入念なゾンビ侵入対策を施し、利用者にも出入りのたびに厳しい血液検査を義務づけるなどしている。

一方で、世界的アウトブレイク初期にまともに危険性を伝えなかったテレビ・新聞などの既存マスコミは大きく信用を失い、かわりに活躍した個人ニュース・ブログ群が産業として大きく成長。ブロガーたちは組織化と分業体制を確立し、ニュースから娯楽までを網羅する一大産業となって、従来型メディアを脅かすほどの影響力を持つようになっている(Feedというタイトルは「食餌」とともにこの設定にかけてある)。

ティーンエイジャーである主人公姉弟と友人は、ハザードゾーンへの潜入突撃取材などでそこそこ評判を得ている新進のプロ・ブロガー・チーム。彼ら3人が、共和党大統領候補指名レースに立候補したリベラルな若手上院議員から予備選の公式帯同ブロガーに選ばれて全国を回りはじめるのだが、その最中に上院議員に対する(ゾンビを使った)暗殺未遂事件が起こる。

現代アメリカの問題をあぶり出す「ポスト・ゾンビ社会観光ガイド」

読めばわかるけどこれ、いわゆるパニック・ホラーものではなくて、はっきり大統領選挙ものなんですな。現代アメリカが抱えるいろんな社会問題(テロリズムに対する恐怖、社会の階層化と分断、宗教右派の台頭と非寛容化、人間関係の希薄化などなど)を、ゾンビという要素を導入することで拡大してみせる、という趣向。一人称の語り手が、現代とは違う要素と遭遇するたびにいちいち「ゾンビ・アウトブレイク以降で社会は/常識はこう変わった」と親切にも説明するのは正直うっとうしいが、ポスト・ゾンビ社会の観光ガイドだと思えばこれはこれでアリ、というか、そこがある意味、最大の読みどころではある。

単純なサスペンス的プロットではあるが、要所要所の大立ち回りやショッキングな展開はそれなりに楽しめる。人物造型や設定も過度に単純化・類型化されているものの、これもそういうものだと思えばじゅうぶん。(しかしまあこのヒロイン造型は映像化をめっちゃ意識してるんじゃなかろうか。取材から帰宅するたびに消毒薬を浴びるので短い髪は脱色でブロンドになってて、ゾンビ化ウイルスの部分感染で瞳孔が開いちゃってるから昼でもつねにサングラスかゴーグル、でちょうタフ。あれかミラ・ジョヴォヴィッチのイメージか。)

設定などは特殊アメリカ的事情に寄っかかってる面もあって、日本には紹介しにくいかもしれない。でも、現代社会の暗い側面をあからさまなホラー的ガジェット&プロットにわかりやすく置き換えたこういう話が支持を集めるのって、「アメリカっていまほんとに戦時下で大変なんだなー」というのがよくわかる、という意味において、なかなかに興味深い小説でした。なお本作は三部作の一作目。続篇 Deadline はすでに出版されていて、いちおう購入済み。時間があれば読むかも。

ちなみに作者ミラ・グラントは、2010年のキャンベル新人賞受賞者シーナン・マクガイアの別ペンネーム。1978年生れのアメリカ人女性作家で、ほかにも数冊の長篇や短篇集を出している。昔からホラーが大好きだったそうで、本作中にもジョージ・ロメロ絡みのちょっとしたお遊びが仕込んである(というかほぼ生で出てくる。や、生っていうか、死んでるけど)。

*1:他の候補作はすべて邦訳があるか、直近に邦訳が予定されている作家の作品だったので、どうせならと誰もイメージを持っていないであろう本作を選びました。

2011-07-31 Sun

2011年ヒューゴー賞候補作を読む:長中篇部門の場合

投票期限ぎりぎりに読み終わったので、短篇部門および中篇部門につづき、17500〜40000語の長中篇(ノヴェラ)部門レビューを。候補作のうち、Troika 以外はすべてオンラインで公開されている(URLはワールドコン公式サイトを参照のこと)。

なお今年の他の賞について、めぼしいものでは以下のとおり。世界幻想文学大賞の発表は10/31。

  • スワースキー:ネビュラ賞受賞、ローカス賞ファイナリスト、世界幻想文学大賞候補
  • チャン:ローカス賞受賞、ネビュラ賞候補
  • ハンド:世界幻想文学大賞受賞、スタージョン賞ファイナリスト
  • レナルズ:ローカス賞ファイナリスト、スタージョン賞ファイナリスト
  • ランディス:スタージョン賞受賞、ネビュラ賞候補
作品名著者名初出
The Lady Who Plucked Red Flowers beneath the Queen’s Window
女王の窓辺にて赤き花を摘みし乙女(SFマガジン'12/03〜04)
Rachel Swirsky
レイチェル・スワースキー
Subterranean Magazine
Summer 2010
(オンライン誌)
The Lifecycle of Software Objects
ソフトウェア・オブジェクトのライフサイクル(SFマガジン'11/01)
Ted Chiang
テッド・チャン
Subterranean
(単行本)
The Maiden Flight of McCauley’s BellerophonElizabeth Hand
エリザベス・ハンド
Stories: All New Tales
(アンソロジー)
The Sultan of the Clouds
雲海のスルタン(SFマガジン'12/03)
Geoffrey A. Landis
G・A・ランディス
Asimov’s
September 2010
Troika
トロイカ(SFマガジン'11/12)
Alastair Reynolds
アレステア・レナルズ
Godlike Machines
(アンソロジー)

昨年のこの部門はなかなかの力作ぞろいだったのだが、はたして今年はどうだろうか。期待しつつ読んだ。

レイチェル・スワースキー "The Lady Who Plucked Red Flowers beneath the Queen’s Window"

高名な宮廷魔術師だった主人公の女性(作品タイトルとおなじ称号で呼ばれる)は、恋人にして主人である女王を守るために命を落とすが、魂を魔法で封じられて眠りながら永遠に生きつづけることになる。最初は助言を求める女王らに呼び出されていた彼女はやがて、気の遠くなるような長い長い年月を過ごし、様々な光景を目撃する。約19000語。

一筋縄ではいかないファンタジイ/SF。前半で語られる、主人公が育った国というのがジェンダー的にきわめて厳格な階級社会をつくっていて、一部の女性だけが権力を持ち、男性はみな「地虫(worm)」、出産だけが役割の下層階級の女性は「種雌(brood)」と呼ばれて蔑まれている。このへんの独特な価値観描写もおもしろいのだが、後半がさらに苛烈。自らの生まれ育った国が滅びてだれからも忘れ去られても、彼女だけは石に封じ込められたまま、死ねない運命を負わされて様々な時代を転々とするのだ。そして(彼女にとっては)異質な世界との出会いと別れを目撃しつつ、一風変わったラストになだれこむ。プロットにしろ文章にしろ、大河な話をコンパクトにまとめつつ読ませる手腕はさすが。もうネビュラを獲ってるし、本作はどこかで訳されるんじゃないかと思うけれども、ともかく今後も注目の若手作家だと思う(まだ29歳)。

テッド・チャン "The Lifecycle of Software Objects"

SFマガジン2011年1月号に載ったからみんな読んでる「はず」、ということで紹介は割愛。個人的には、こういう話をこういう形で着実に書くという意図はわかるのだけれど……と言葉を濁す。約32000語。邦訳は約250枚だそうで。


エリザベス・ハンド The Maiden Flight of McCauley’s Bellerophon

30年前にスミソニアンの航空宇宙博物館で警備員として働いていた中年男ロビーは、当時いっしょに働いていた元学芸員マギーが末期がんで余命幾許もない、と同僚だった友人たちから知らされる。ロビーたちは彼女のため、ある奇妙な飛行機械による処女飛行の様子を収めた20世紀初頭のフィルム(事故で焼失してしまい、彼女の心残りになっていた)をミニチュア撮影で再現し、届けようとする。約18000語。

という風にまとめると中年おじさんたちの青春よもう一度、みたいな話に見えるかもで、まあ部分的にはそうなんだけれども、話にうちゅーじんを絡めるあたりがひと味ちがうユニークさ。がっちりと地に足をつけつつも「すこしふしぎ」をかいま見せ、余韻を残す手際がいい。さまざまな屈折をかかえた登場人物の描き方もうまいし(YouTubeで30万ヒット超、とかはたいしたことないところだけど好き)、しみじみ味わいぶかい佳品。

ジェフリー・A・ランディス "The Sultan of the Clouds"

人類が太陽系に進出した数世紀後の未来。初期のギャンブル的な宇宙入植事業に成功した一部の企業が巨大財閥となり君臨している。主人公の平凡な技師ティンカーマンは、火星テラフォーム研究の第一人者である女性科学者リーの恋人、と自分では思いたいが、ミステリアスな彼女にはどう思われているかいまいち不明な、微妙な関係。金星の大半を支配し「雲海のスルタン」と呼ばれる財閥の次期当主から謎の呼び出しを受けたリーに、ティンカーマンはむりやり一緒についていく。さて、金星で火星のテラフォーミング技術は役に立たないはずだが、財閥当主はいったい何を狙っているのだろうか。約19000語。

金星の高温高圧の大気を逆手に取り、浮遊都市を築いて入植――というアイデアは作者本人の書いた論文に基づいているらしい。非常に手堅い、というか、きわめてクラシックな感じすらある(それこそ50年代ハードSF的な)直球の宇宙SF。

とはいえ古くさいかと言うとそういうこともなく、キャラクタやプロットの作り込みは今風のエンタメ(ちとスチームパンクぽい見せ場もあったり)でふつうに読みやすく、設定と絡めたSF的仕掛けやヒネリもなかなか楽しい。昔のストレートな惑星開拓ものSFを現代的にアップデートした感じの肩の凝らない娯楽作品で、日本でもけっこう気に入る読者はいるんじゃないかな。

アレステア・レナルズ "Troika"

21世紀中盤、抑圧的な国家体制が復活したロシア。元宇宙飛行士ドミトリイは何者かに追われつつ、冷たい雪の中ある人物に会うため街をめざしていた。彼は、太陽系内に突如出現した正体不明の多層構造物「マトリョーシカ」を数年前に有人探査した3人のうち、唯一の生き残りだった。果たして彼は「マトリョーシカ」の中でなにを目撃したのか。約27000語。

エイリアンの巨大構造物*1ネタを集めたテーマ・アンソロジー Godlike Machines の収録作、というわけで、「マトリョーシカ」にまつわる謎がしだいに明かされていく話……なのだが、ある点でそうくるかー、と驚いたのだった。珍しい・凄いというわけではなく、一発ネタだろコレと言われたら返す言葉はないのだが、こういうしれっとした話は大好きなのです。テーマアンソロのテーマ殺し。

総評

わりとバラエティに富んだラインナップで、質のほうもなかなかの力作ぞろい(飛び抜けた作品はなく、読みやすい作品がそろった感はあるが)。どれが訳されても不自然ではないと思います。投票はスワースキーかハンドかなあと思ったのだけれど、けっきょく「座布団一枚」的な意味を込めてレナルズに一票。ただ予想という意味では、日本と比べたらまったく無名とはいえ、なんだかんだで書けばだいたい賞を獲るチャンが受賞するんじゃないかなーという気がする。ファン投票だからどう転ぶかはわかりませんけどね(お約束)。

しかし全体的にほんと「長めの中篇」という感じの作品がそろったなあ。長篇だけじゃなくて中篇も長く引き延ばして書くのが流行りなのかな、というのは冗談ですが、書き込みのバランスを考えるとノヴェラの長さ(ごく大雑把に言えば150〜300枚程度)は、自分にはちょうどいい感じ。

2012年1月25日追記

これまでに候補5作中4作がSFマガジンで訳載された。ノヴェラの長さでも受け入れられることが証明されて心強いですなあ。

*1:アンソロでは BDO - Big Damn Object と呼んでいるらしい。

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