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そこにいるか - The cape of an island


THE CAPE OF AN ISLAND

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自薦エントリ : ジャイアンの歌に耐える方法


2009年-07月-20日

スフィンクスがクイズマニアの人喰い怪獣というのは地中海文明の幼稚な空想にすぎない

哲学の営みは、ギリシア人以外の異民族(バルバロイ)の間で起ったと言っている人たちがいる。

(中略)

しかしながら、たんに哲学のみならず、人間の種族そのもの*1もギリシア人から始まったものであるのに、これらの著者たちはそのことに気づかないで、ギリシア人の功業をあやまって異民族に帰しているのである。

『ギリシア哲学者列伝』序章*2 

ちょう乱暴に言うと、「現代文明人」の理性は、四大文明とやらに基づくものというよりも、ついには産業革命を達成し、大覇権体制を築きあげた地中海文明の自我の断片である。ギリシア文明から始まり、ローマの一大帝国、そしてキリスト教信仰を経て現在に至る。この「自我」の主観からすれば、確かにアメリカ大陸は「発見」されたと言ってよい。地中海文明はアメリカ大陸という「場」を組み込み、汎地球的な西欧科学文明として拡張したわけだ。

それについては日本も無関係ではない。接触をはかる欧米に呼応した日本は、明治以降、生存戦略としてアジア諸国のなかでもいち早く自ら西欧化を進めた*3。その時点で、日本もまた西欧科学文明の担い手になったのである(これは別に非難しているわけではない。またもちろん日本が「完全に」西欧化したというわけでもない)。

今や日本人のアイデンティティのウェイトとしては「西側意識」のほうが強いだろう。実際のところ、いまこうしてある日本での生活は100%日本独自の伝統に基づくものではなく、「西欧科学文明」という大きな枠組みの中に「日本的な感性」を申し訳程度ちりばめたようなもののように思う(自分たちで思っているほど独自性はない)。WindowsOSをMacOS「風」にカスタマイズしても、Windowsというカーネル自体は変わらないのと同じ。

それゆえかどうも忘れがちになる。「アメリカ大陸が発見された」のではなく、「西欧文明がアメリカ文明に接近した(そして蹂躙した)」ということを。少し見方を変えてみるだけで、支配的文明のベールに覆い隠された多様性を発見することができる。タイトルにも書いたように、スフィンクスとオイディプスの有名なエピソードは「彼女」を生んだエジプト文明の意図とは完全にかけ離れている。エジプト神話における本来のスフィンクスの姿をどれほどの人が知っているだろうか。てゆうかギザの大スフィンクス像を見て「朝は四本足、昼は二本足、夜は三本足」とかなんとかいうフレーズが頭をよぎる人は悔い改めるがよい(僕だけかな……?)。

どちらの視点に寄り添うかで見える光景が一変するのに、無意識にバイアスがかかる。複数の視点があることに思いを致すことができない。日本国というこの狭い地域においては圧倒的マジョリティとなる日本人が、自ら組み立て、疑いなく支持する(そして実はそれ自体にいいように操られてさえいる)システムの覆い隠す多様性についてあまりに無自覚にすぎるのではないかと思えるのは、はたして支配的集合の特性による普遍的な現象なのかどうか。そのあたりが気になる。

ギリシア哲学者列伝 上 (岩波文庫 青 663-1)

ギリシア哲学者列伝 上 (岩波文庫 青 663-1)

エントリの内容とはぜんっぜん関係ないけど、古代ギリシャ・ローマの本はとんでもないことがさらっと書いてあったりするので面白いですよ。

*1:訳注によれば、ゼウスの大洪水ののちにデウカリオンとピュラによってギリシア人の始祖が生み出されたという神話を想定したもの。cf. Wikipedia:デウカリオーン

*2ディオゲネス・ラエルティオス著、加来彰俊訳、1997年7月4日第13刷13頁、14頁より引用

*3明治開国以前の日本が西欧と没交渉だったわけではないが、黄河文明の傍流のようなものだったそのころのことはさておく。

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