鎖国を選べば未来はない

7月から産経新聞社が発行する「フジサンケイビジネスアイ」の1面にコラムを頂戴した。ほぼ月に1回のペースで書かせていただけることになっている。初回、紙面改革後のトップバッターだった。ウェブにも掲載されていたのを見つけたので、リンクを張らせていただくことにします。→http://www.sankeibiz.jp/macro/news/110725/mca1107250503004-n1.htm


 ビジネス界の競争のルールである会計基準をめぐって、鎖国か開国かの“内戦”が繰り広げられている。

 世界的には上場企業が使う会計基準をIFRS(イファース、国際財務報告基準)に統一していく流れにあり、既に欧州は導入。韓国などでも採用の流れが強まっている。日本も全上場企業に義務付けるかどうか2012年までに結論を出し、早ければ2015年から実施すると決めていた。開国の方向性を示していたわけだ。

 ところがここへ来て、鎖国派が巻き返しに出た。自見庄三郎・金融担当相を動かし「政治主導」で導入先延ばしを決めたのである。この間、金融相はIFRSに反対する一部の製造業経営者の話だけを聞き、いさめようとする現場の官僚は怒鳴り付けて黙らせた。

 対応を議論してきた金融庁企業会計審議会には、鎖国派を10人も追加した。1年以上の時間をかけて出した結論を議論なしにひっくり返すやり方は、政治主導という名の言論封殺だった。

 金融相は「私の決断が日本の製造業を守った」と得意満面だったという。国際ルールを受け入れたくない一部の経営者は、日本基準に比べてIFRSは質が低いと主張する。日本だけで事業をしている企業は日本基準で十分だというのだ。だが現実には、事業はグローバルでなくとも株主や債権者はどんどん国際化している。偏狭な鎖国論で乗り切れる状況ではないのだ。

 金融に通じた政治家が自らの信念に従って政治決断したというのならまだ分かる。自見氏は医師で、政治家としては郵政族。金融や会計については素人同然の大臣が専門家の意見も聞かずに暴走すれば、国益を危うくするのは明らかだろう。

 自見氏が所属する国民新党は金融のグローバル化に背を向け、郵便貯金を守ることを旨とする。会計の国際化に反対するのも筋が通っているといえば通っている。だが、国民が政権を託したわけではない小党に、日本の金融・経済の行方を決める政治決断を許していいのか。

 責任は民主党にある。民主党はもともと、金融の自由化や経済のグローバル化には前向きで、開国姿勢を取っていた。今も環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)は推進する姿勢を見せている。菅直人首相も「国を開く」と宣言している。

 日々熾烈(しれつ)さを増すグローバル競争で、国際ルールに背を向けることは許されない。

 ところが金融分野では、政権交代以降、国民新党に丸投げの状態が続いている。IFRS導入の先延ばしについて国会で、民主党がどんな議論をしたのかと質問された玄葉光一郎政調会長(国家戦略相)は、まともに答弁できなかった。

 グローバル競争は日々、熾烈さを増している。日本企業が勝ち残るには、国際ルールに背を向けることは許されない。鎖国して未来がないのは明らかだ。政治の停滞は問題だが、政治主導で方向を誤れば、取り返しのつかないことになる。(ジャーナリスト)