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2011-11-01

カルロス・ゴーンは45歳で日産のCEOになった。「70歳まで働ける社会」と「定年70歳」はまったく意味が違う

| 15:13

オリジナルページ→ http://gendai.ismedia.jp/articles/-/24196

 最近「老害」という言葉を余り聞かなくなった。老人ということば自体が一種の差別語扱いされていることもあるが、高齢者が会社や政府組織の中に居座るケースが増えていることと無関係ではないだろう。

 未曾有の原子力発電所事故の収束に向けて奮闘している東京電力の勝俣恒久会長は71歳の老人だし、やらせメール事件でいったん辞意を表明した後、それを撤回した九州電力の真部利応社長も66歳の高齢者だが、まだまだ社長の椅子にしがみつきたい様子だ。電力以外にも、とっくに年金受給年齢に達していながら、職を離れない上場企業のトップが少なくない。

 欧米では65歳を過ぎた人がCEO(最高経営責任者)をやっている上場企業は、一部のオーナー企業を除いてほとんどない。企業トップの激務に高齢者ではまず体力が持たない。何せ、時差の壁を超えて世界を自ら飛び歩くのが欧米のCEOの仕事だからだ。

 1999年に経営危機が表面化した日産自動車に乗り込んできたカルロス・ゴーン氏は当時45歳。ゴーン効果もあって、日本の社長就任年齢は若返る傾向を見せた。

 ところがこの数年、再び上昇傾向にある。会長・社長が高齢化すれば、当然、役員も高齢化し、部長も高齢化する。日本企業の活力がどんどん失われていっていることと、幹部の高齢化は無関係ではないだろう。

 そんな企業経営者の高齢化の流れを決定付ける方針が厚生労働省から打ち出された。厚生年金の受給年齢の引き上げである。

年金の支給年齢引き上げとワンセット

 現在60歳からの厚生年金の支給開始は、男性の場合、2013年から61歳となり、以降3年ごとに1歳ずつ引き上げられ2025年からは65歳とすることが決まっている。この65歳への引き上げを大幅に前倒しすることや、支給開始を68歳〜70歳にさらに引き上げる案が厚労省から社会保障審議会年金部会に示されたのだ。国民からすれば、掛け金を支払い続けたのに突然支払いが延期される「契約不履行」で、猛烈な反発を呼んでいる。

 一見、この年金支給開始年齢の引き上げと、企業経営者の高齢化は関係ないように思われるだろう。だが、支給年齢引き上げに合わせて厚労省は別のルール作りを進めている。

 今年6月に厚労省の「今後の高年齢者雇用に関する研究会」がまとめた報告書では、年金の支給開始年齢の引き上げに伴って、企業に義務付けている定年を現在の60歳から65歳に延ばすよう求めている。

 年金支給開始の引き上げが始まると、無年金・無収入の期間が生じてしまうため、企業にその間の雇用を義務付けようという発想だ。さらに、支給年齢を70歳に引き上げることを視野に、定年の延期や定年制度の廃止を企業に義務付けることを検討している。

 すでに厚労省は「70歳まで働ける企業」をキャッチフレーズに定年の延長や廃止を企業に働きかけている。中小企業に対しては定年を65歳以上に延長したり、制度を廃止した場合、政府が企業に給付金を支払う制度も運用している。

若年齢層の失業率は10%

 「70歳まで働ける企業」というキャッチフレーズは、高齢化が進む中で誰しも賛同する麗しい文句だ。本来ならば、60歳で定年を迎えた企業人が、別の会社に就職したり、起業したりすることを想定すべきだろう。

 実際、このキャッチフレーズを提言した研究会などでは、別の会社で再就職することを前提に議論が進んでいた。定年を迎えた人材の能力を生かす、という誰もが反対しない主張と、企業に70歳まで雇用を義務付けるというのは、明らかに意味が違う。

 ところが現在は、不景気で極度の就職難。大学新卒者の就職すらままならない中で、60歳以上の退職者をすべて受け入れられる労働市場は存在しない。無収入期間を作らないためには、企業に継続して雇用を求めるしかない、というのが今の厚労省の本音なのだ。

 年金という国家債務を、企業という民間に移転しようということに他ならないのだ。「70歳まで働ける」という政策と、「年金支給年齢の70歳引き上げ」はワンセットなのだ。

 問題は企業活力への影響だ。最高齢の社員が70歳となった場合、年功序列という日本の人事慣行のままでいけば、取締役就任は65歳ぐらいになり、社長就任は軒並み75歳になるだろう。現役の代表取締役会長が81歳ということになりかねない。

 高齢者が会社組織に居座ることで、シワ寄せは若い世代に行く。15歳から24歳の若年層の完全失業率は7・9%に及ぶ。アルバイトやフリーターとして食いつないでいる若者を含めれば、実質は10%近い可能性もある。企業の付加価値が増えない中で、定年の引き上げは、若年層の雇用機会縮小に直結するだろう。

 多くの大企業の中堅幹部と話をすると、「最近は誰も事業リスクを取ろうとせず、事なかれ主義で済ませる風潮が蔓延している」と異口同音に言う。日本経済の成長が止まり、デフレが進む中で、ビジネスチャンスが減っていることも確かにあるが、経営幹部の高齢化で新しい事に挑戦する気概が失われている面も否定できない。

 さらに定年が延びれば、日本企業の活力は一段と失われ、国際競争力は大きく削がれることになるだろう。年金財政の辻褄合わせのツケを安易に企業に回せば、その副作用は予想以上に大きい。