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2011-11-03

このまま経済成長がなければ、 国民はどんどん貧しくなっていく

| 21:37

ビジネス情報月刊誌「エルネオス」11月号

連載──?硬派・経済ジャーナリスト 磯山友幸の≪生きてる経済解読≫


分配論重視の経済政策

 最近、何人かの政治家から、「成長などしなくても、幸せに暮らすことができればいいではないか」という発言を聞いた。日本は十分豊かになったのだから、貧しかった戦後期のようにガツガツ働くことはない。これまでに蓄えた富を分かち合えば、国民全体が十分に幸せになれるというのだ。

 いわば、パイ全体を大きくするのではなく、十分に大きくなったパイをいかに分けるかを考えれば豊かに生活できるというわけだ。分配論重視の経済政策といっていいだろう。

 社会主義者である旧社会党系の民主党議員にこうした傾向が強いのは当然として、自民党にも同じような発言をする議員が少なくない。現在の国会議員の過半数は分配論者だとみていいだろう。小泉純一郎・元首相時代の改革路線は「自分さえ豊かになれば良いと考えた市場原理主義で、格差の元凶だった」というレッテルを貼る人たちに共通している考え方だともいえる。

 政権交代以降の民主党の政策は、まさに分配論中心だ。「子ども手当」にしても「農家戸別所得補償」にしても分配政策といえる。これを自民党は「ばら撒きだ」と批判しているが、実は小泉首相までの自民党も分配政策を中心に行ってきた政党だった。分配論は国民の耳に心地よく、受け入れられやすい。つまり選挙で勝てるのだ。

 分配論中心でも、経済が自律的に成長していた頃は問題なかった。経済成長に伴って税収も自然と増えるので、財源確保を心配する必要がなかったからだ。だが、成熟社会になって低成長になれば、税収は簡単には増えない。それでも分配しようとすれば財源が必要になる。政権交代から二年たって民主党の政策がことごとく行き詰まった背景に財源問題があることは周知の通りだ。

確実に貧しくなった日本

 分配論を取る政治家の多くは、世の中に格差や不平等があるという点を問題視する。市民派の菅直人首相が「最少不幸社会」というキャッチフレーズと共に増税を掲げたのは、実は平仄が合っていたのだ。自らをドジョウにたとえて庶民派をアピールする野田佳彦首相増税に熱心なのも、ある意味、当然といえるのだ。分配するための原資を集めなければならないからだ。

 だが、残念ながら、増税では経済は成長しないことは歴史が証明している。個人の所得税消費税を上げれば、当然、消費は落ち込むし、法人税を上げれば生産活動は停滞する。東日本大震災の復興費用を賄う復興増税は、所得税が中心になる案が国会で審議される。過去十年、デフレ経済下の苦しい中で税金を負担してきた層に上乗せ徴収することになるわけで、経済成長の足を引っ張るのは確実だろう。経済が成長しなければ、結局のところ税収も増えないことになる。

 そこで必要性が叫ばれるのが成長戦略だ。もともと分配論に傾注していた民主党は、成長戦略には熱が入っていなかった。鳩山由紀夫・元首相はまったく関心がなかった。菅直人・前首相自民党から批判されて「新成長戦略」を作ったが、本腰は入らずじまいだった。野田内閣でも年末までに成長戦略を見直すと言っているが、増税にかけるほどの熱意が伝わってこない。

 世界から「ヒト・モノ・カネ」を集める明確な国家ビジョンを持つことで知られるシンガポールは、過去十年間に実質国内総生産(GDP)が一・七倍、七〇%増になった。一方で日本はたったの七%増だ。しかも、これは物価上昇分を加味した数字で、デフレが続いている日本の場合には物価下落分が成長率に加算された結果だ。これを加味しない名目成長率ベースだと、シンガポールの一・九倍(九〇%増)に対して、日本はマイナス五%だ。

 日本の名目GDPの額は二〇〇七年度の五百十五兆円がピークで、一〇年度は四百七十九兆円。一一年度はさらに減少する見込みだ。この十年間、成長しなかった日本は確実に貧しくなっており、再成長に向けた経済政策は待ったなしなのだ。

金融資産の保有は高齢世帯

 厚生労働省が十月に発表した、今年六月に生活保護を受けた人の数は、五月より約一万人増えて二百四万一千五百九十二人になった。統計が始まった一九五一年度月平均の二百四万六千六百四十六人が過去最多で、年内にもこれを更新するのが確実な勢いだ。これは日本が確実に貧しくなっている証拠だろう。

「いや、膨大な個人金融資産を考えれば、日本人はまだまだ豊かだ」という声があるだろう。たしかに日本人は一千四百兆円を超える金融資産を持っている。だが、その一千四百兆円の六割を六十五歳以上の高齢者世帯が保有しているとされ、勤労年齢世帯はもはや決してリッチではない。さらに就職難に直面し、定職に就けずにフリーターとなるケースも増えている若年層の貧困化は予想以上に進んでいると考えるべきではないか。

 そうなると分配論者は、資産を持っている人に課税して、それを貧しい人に給付せよと言うかもしれない。実際、民主党政権が今後の税制改革で資産課税の強化を打ち出す可能性は十分にある。だが、国が吸い上げて分配に回しても、経済は活性化せず、根本問題が解決しないのだ。

 本来は、高齢者が保有している金融資産を経済活動に還流させ、富を生み出す原資にすべきだろう。それによって経済を活性化させ、成長軌道に乗せることは可能なはずだ。だが、現状では個人金融資産の大半は国債に回り、低利率を甘受している。つまり、金融資産が活用されず半ば死んでしまっている。

 成長戦略というと、すぐにハコモノを建設するプロジェクトや、補助金による産業育成などのメニューが並ぶ。だが、最も大切なことは、高齢者が持つ眠れる巨額金融資産をどうやって実際の経済活動に回すか、その仕組みを考えることが成長戦略だろう。そうした資金の循環が始まれば、後は若年層が必死になって働きさえすれば、経済は着実に再び成長過程に入るにちがいない。