再び"超難関"になった試験で、公認会計士の質は上がり、企業不祥事は防げるか。

 オリンパスの巨額損失隠し事件で、取締役や監査役などによる企業経営へのチャック機能が問われているが、外部の専門家として企業決算に目を光らせてきたはずの公認会計士の「質」が改めて問題になっている。そんな最中、金融庁公認会計士・監査審査会が11月14日、2011年(平成23年)の公認会計士試験合格者を発表した。

 それによると、合格者数は1511人と前年に比べて26%も減少。試験制度が変わった2006年以降で最低となった。合格率も6・5%と過去20年来で最も低くなり、超難関といわれた20年前に逆戻りした。

 合格者数の猛烈な絞り込みは、公認会計士の質を高めるのが狙いかというと、実はそうではない。

 ここ数年、監査法人が採用を大幅に圧縮したことから、試験に合格したものの監査法人に入れない「就職浪人」が生じていた。これに対して会計士の団体である日本公認会計士協会などが金融庁に強く"対策"を求めていたのだ。端的な話、合格者を減らすよう役所に頼み込んでいたのである。今回発表された合格者数を見る限り、その"効果"があったということだろう。

 試験制度の改革は、もともと会計士業界の要望で行われた。1990年代になると会計士の業務範囲が急速に拡大。会計監査だけでなく、M&A(合併買収)の際の企業評価や自治体などの決算書づくり、不良債権の評価といった新しい分野で会計士が求められ、深刻な会計士不足となった。構造改革の一環として弁護士など専門家を増やすという政府の方針とも一致、会計士の大量合格時代が始まった。

 旧試験制度では合格者1300人前後、合格率8%台で推移していたが、新制度になった2006年の試験では合格者3108人、合格率14・9%と一挙に増えた。大手の監査法人も、一法人で500人を超える新人会計士を採用するなど、新制度は機能するかに見えた。そこに襲ったのが2008年のリーマンショックである。

 資本市場の冷え込みと共に、新規公開する企業が激減、監査の需要が減ったほか、M&Aなどの仕事も大きく減った。一転して会計士余剰が表面化したのだ。

 そんな環境の激変を受けて会計士協会は、民主党政府や金融庁に対策を依頼。試験制度を再度変更することになったが、そのあたりから話が迷走を始める。

 現行の制度では試験に合格しても実務経験を積まなければ公認会計士となることができない。監査法人が採用しないと、会計士になれない宙ぶらりんの人が激増しかねないのだ。かといって企業が会計士試験合格者を優先して採用する仕組みにはなっていない。

 そんな中で出てきたアイデアが、「企業財務会計士」という資格の新設だった。試験に合格すればこの資格を得られるが、監査に携わるには実務経験を積んで「公認会計士」とならなければいけない、という二階建ての資格にする案だった。法案として提出されるところまで行ったが国会で廃案になってしまう。結局は、現行の試験制度の中で、合格者を絞り込まざるを得なくなり、超難関の復活となった。

 資格試験というのは本来、その人が専門家としての能力を備えているかどうかを判断するもので、受給を調整する調節弁ではない。ところが、公認会計士の場合、仕事の多寡が経済動向に大きく左右されるため、実質的に調節弁として使われてきた傾向がある。会計士協会の要望や金融庁の方針によって、合格者数や合格率が大きく動いてきたのは紛れもない事実だ。

 仕事がないから資格者を減らすという考え方は、逆に言えば資格さえ取れば全員が会計士として食べて行ける、ということだ。いわばギルド(欧州の封建制下で発達した閉鎖的な職業組合)に加盟を許されるかどうかを決める入門試験のようなものだろう。資格を得るまでは猛烈な競争に耐えなければならないが、一たん試験に合格すれば、後は既得権益に守られる。そんな仕組みに会計士試験は再び舞い戻るのだろうか。

 社会にとっての問題は、試験を厳しくすることで、会計士の「質」が高まるかどうかだ。司法試験が易しくなった法曹界と同様、大量合格時代の公認会計士は「質が下がった」という声を会計士の間では聞く。では、逆に試験を難しくし、合格者数を絞り込むことで、質は上がるのか。

 一つ言えることは、合格者を増やす方向で改革が進んでいた過去20年、会計士業界は大きく発達したことだ。監査法人の規模は大きくなって売り上げも増え、手がけるビジネスの幅も広がった。業界には多用な人材が集まり、会計士の社会的地位も高くなった。

 この20年間の公認会計士試験の受験者数にも、それは表れている。1995年には1万人そこそこだった受験者数は、合格率が6%台から8%台に上がった2000年ごろから急速に増加、2004年には1万6000人に達した。新試験制度に変わる受験者は2万人を突破、2010年には2万5648人と過去最高になった。いわゆる「人気資格」になったのである。

 一昨年まで10%を超えていた合格率が昨年は8%になると、今年の受験者は2万3151人と10%も減った。専門資格予備校の幹部は、「来年以降、公認会計士試験の受験者は激減する」と予測する。門戸を狭めた結果、人も集まらなくなるというのだ。

「合格者が増えればギリギリで通った人の水準が低くなるのは当たり前。しかし、トップはより優秀な人材が来るようになった結果、さらに優秀になった」と大手法律事務所の経営幹部は分析する。「合格者が増えて、専門家になってからの競争が激しい方が、弁護士の質は高まる」というのだ。

 試験を超難関とし、一気に人数の絞り込みを始めた会計士業界が今後どうなっていくのか。企業の不祥事が相次いでいる時だけに、議論を呼びそうだ。