「オリンパスで終わりではない」---あのFACTA発行人阿部重夫氏が警鐘を鳴らす日本企業にはびこる「損失先送りの遺伝子」

オリンパスをスクープしたFACTA発行人の阿部重夫さんは私の古巣、日本経済新聞証券部の尊敬する先輩のひとりです。日本のジャーナリズム界きってのインテリでありながら、最も過激な調査報道記者でもあります。オリンパス問題を発掘した山口義正氏も日経証券部の後輩です。公社債研究所から出向で証券記者となったのが病み付きとなり、帰任辞令が出てジャーナリズムに留まる決心をしフリーになった筋金入りです。その山口氏と阿部氏をつないだのも、やはり日経証券部の先輩で現在はフリーの町田徹氏でした。私も今年4月から独立、フリーとなり、自由な立場で発信できるようになりましたが、まさか阿部さんをインタビューして記事にすることになるとは思ってもいませんでした。以下のインタビューは一読の価値あり、と思います。
オリジナルページ 現代ビジネス→ http://gendai.ismedia.jp/articles/-/28194


 新聞・テレビなど居並ぶ大メディアを尻目に、発行部数2万部に満たない月刊誌がぶっちぎりの独走を続けている。オリンパスの巨額損失隠し事件である。粘り強い取材を続けてきたフリージャーナリストの山口義正氏(http://gendai.ismedia.jp/articles/-/23598)に、当代随一の金融通である阿部重夫FACTA発行人が加勢。わずか2人で掘り起こしたFACTA(http://facta.co.jp/)のスクープに世界の主要メディアの記者たちも舌を巻いている。

「どうせすべて内部告発だろう」と事情通はしたり顔で言う。だが現実は大きく違う。日本企業に脈々と流れる損失先送りの"文化"に目を凝らし続け、企業に巣食う金融界の悪しき遺伝子を追い続けてきたジャーナリストの継続性と粘り強さの賜物なのだ。それは近年、霞が関や捜査当局のリークへの依存度を高めている大メディアの取材力の劇的な低下と裏腹でもある。

オリンパスで終わりではない」と断言する阿部氏は、オリンパス事件が発する日本企業や大手メディアに対する警鐘に耳を傾けるべきだ、と語る。

 FACTAの12月号で、オリンパス事件の全容がほぼ解き明かされています。

阿部 1990年代始めの、特定金銭信託(当時の代表的な運用商品)で抱えた損失を今まで抱え続けていたというのは驚きですが、この20年間に企業や金融機関が引き起こした金融がらみの不祥事とまったく同じ構図です。デジャヴですね。

 根っこが一緒だと。

阿部 すべては1992年8月に宮澤喜一首相の下で発表された「金融行政の当面の運営方針」が始まりでした。バブルの崩壊で金融機関や企業は多額の損失を抱え込んだわけですが、宮澤首相は事態を重く見て、金融機関に6000億円の公的資金を注入することを検討しました。一気に処理をしようとしたわけです。

 ところが当時の三菱銀行の幹部など大手金融機関がこぞって反対し、この案はひっくり返ってしまいます。この瞬間、金融機関の損失処理は先のばしとなり、相手先である企業は含み損を抱えたままになったのです。


 損失処理の先送りの始まりですね。

阿部 不動産や株式などで抱え込んだ含み損を表面化させずに持っていれば、何年かすれば価格が上がって損が消えるのではないか、と淡い期待を抱いたわけです。しかし、1994年、95年と時を経ても、地価は戻らず、株価も一向に上がらなかった。96年の住専(住宅専門金融会社)国会あたりから、ようやく損失の処理が動き出します。


 ところが、さらに処理を先送りした企業もあった。
阿部 含み損の金額が膨れ上がり、処理する決断ができなかった会社は、損失の「飛ばし」に動いたわけです。当初は国内外の子会社などに移していましたが、会計基準が連結決算重視へと変わる過程でこれもできなくなり、どんどん複雑化していきます。そこに暗躍したのが証券界の不良グループとでも言える面々でした。


 今回のオリンパスでも登場しますね。
阿部 オリンパスは、菊川剛・元社長、森久志・前副社長、山田秀雄・前常勤監査役の「3人だけしか知らなかった」という筋書きで事を終えようとしています。大手メディアの報道を見ていると、当局もそれで事を収めようとしているように見えました。そんな事では許さないというのが、FACTAが実名の人脈相関図を掲載した理由です。もちろんオリンパス社内にも3人以外に責任を負うべき人たちがいるのは明らかです。


 人脈相関図から読み取れることは。

阿部 オリンパスという一企業にだけ起きた特異なケースではないということです。オリンパスが続けてきた損失先送りの"遺伝子"は、バブル崩壊の過程で多くの日本企業にばら撒かれてきました。20年間も抱え続けた企業はオリンパスぐらいかもしれませんが、2000年ごろのITバブルの崩壊や、2008年のリーマンショックで抱え込んだ損失を飛ばしている日本企業があるというのはほぼ確実だと思います。彼らはいま内心びくびくしているのでは・・・。

 またしてもスキャンダルが表面化しているBNPパリバ証券など多くの外資系証券会社が、デリバティブ(金融派生商品)や証券化などで儲けているのはその傍証と言えのではないでしょうか。オリンパスで登場する連中も、飛ばしのスキームを他の企業にも「売っていた」可能性は十分にあります。まさに「浜の真砂は尽きるとも(世に盗人の種は尽きまじ)」ですね。


 日本企業の中に損失先送り"文化"のようなものがあるということでしょうか。

阿部 はい。90年代の失われた10年にしても、今失われた20年になろうとしているのも、実態を表に出して処理をしなかったことが一因だと思います。不良債権を処理せず飛ばし続けることで、企業が積極的に投資するという姿勢も萎縮させてきたのではないでしょうか。


 オリンパス問題はディスクロージャー(情報開示)やコーポレートガバナンス(企業統治)の制度や仕組みの欠陥を露呈しました。

阿部 不祥事が起きるたびに日本ではコーポレートガバナンスの強化が言われ、監査役社外取締役の強化などがルール化されてきました。ところが、今回のオリンパス事件では、すべてを知っていた森氏が監査役で、主導的な役回り担ってきた証券マンの林純一氏が社外取締役でした。悪い冗談でしょうと言いたいですね。

 また、資本市場を活性化するために制度化されたSPCや匿名組合、LLPといったものが、不正の道具と化している。SPCが間に入ったら、どんなに追求しようとしても、そこから先が見えなくなってしまう。こうした仕組みの情報開示を義務化するなど透明性を高める努力をなぜ当局はしないのか。企業をチェックしているはずの監査法人も実態を恐らく実態をつかめていないのに、適正意見を出している。責任重大です。


 またここへ来て時価会計反対論が出ています。

阿部 先日、国際会計基準IFRSに反対している自見庄三郎・金融担当大臣の記者会見に出席して、質問しました。オリンパスのような問題が起きているのに、なぜ損失先送りができない時価会計に反対なのか、と。オリンパスと株式持合いをして同じように巨額の企業買収をしているテルモの会長が、IFRS問題を議論する企業会計審議会のメンバーなのは、不適格なのではないか、と指摘しておきました。


 日本の資本市場全体の質が問われています。

阿部 監査役社外取締役は社長と一心同体なうえに、株式持ち合いで物言わぬ株主で固めていては、経営者に対するチェックなど働くはずがありません。海外ファンドがモノを言った時にハゲタカだと大騒ぎして追い返し、国内のアクティビストは問題はあったとは言え、みな犯罪者になった。

 その結果、誰も経営者にモノを言わない社会に戻ってしまいました。東京証券取引所大阪証券取引所と合併するのもいいが、もっと自らの市場の浄化、質の向上に取り組むべきでしょう。このままでは市場丸ごと管理ポスト入りです。


 阿部さんは日本経済新聞の記者、編集委員時代から損失の飛ばしや金融不正を追いかけてきました。

阿部 日本の失われた20年にはメディアも責任があります。日本企業の損失先送りに結果的に加担してきたと言われても仕方がないからです。1990年代の新聞協会賞はその多くが金融ニュースでした。91年は「証券会社の損失補てんリスト」、95年「三菱銀行東京銀行合併」、98年「山一証券自主廃業」、1999年「富士銀行、第一勧業銀行、日本興行銀行の三行合併」などです。いずれも日本経済新聞のスクープでした。


 損失補てんリストというのは、企業に売った特金の含み損を証券会社が補填していた企業名のリストでした。

阿部 バブル崩壊直後、証券会社は企業に損失補てんをしていました。法律で禁じられていたとはいえ、裏で利回り保証して商品を売っていたのですから、企業に補填を求められるのは当然でした。実は、その事実をスッパ抜いたのは読売新聞でした。


 先日、読売巨人軍の球団代表を解任された清武英利氏のスクープでした。清武さんは本当に凄い特ダネ記者でしたね。もう証券会社が補填に応じられないとなったところで、補填リストがスクープされる。これで企業は補填を要求できなくなったのです。

 その後、実は1994年に幻の新聞協会賞特ダネがあります。

 1994年は、阿部さんが中核メンバーだった日経の「官僚」企画が受賞していますね。

阿部 いや実は金融モノで幻の特ダネがありました。当時、日経の証券部に調査報道班というのがあり、私が編集委員でキャップでした。メンバーには今フリージャーナリストになっている町田徹君がいました。その取材班で山一証券が巨額の損失を飛ばしていることを掴んだのです。最終版で版組みも終え、後は印刷する段階で社の幹部からストップがかかりました。山一のトップが日経の幹部に泣きついたのです。幹部の言葉は「4大証券の1つである山一を潰すわけにはいかない」というものでした。


 私も日経証券部の後輩ですが、初めて聞く話です。

阿部 結局、山一は98年に自主廃業し、日経はその段階で新聞協会賞をもらいました。当時は私も宮仕えですから、まあ、仕方がないかと思いました。しかし今振り返れば、結果的に大新聞が損失処理の先送りに加担したことになります。


 今、オリンパスに取り組むのはそのリベンジですか。

阿部 まあ反省と言いましょうか。


 しかし、今回のオリンパスは大新聞の取材がまったく追い付けませんでした。

阿部 悲しいことですが、大新聞は明らかに取材力が落ちていますね。そもそも金融庁や警察、検察などからのリークを取るという方法論が間違っているのです。オリンパス問題にしても、会社か警察・検察か金融庁、第三者委員会しか取材できない。だから会社が元社長ら3人で収めたいという意図が紙面にそのまま出ることになります。新聞記者がぶら下がっている霞が関や検察の能力が落ちたということもあります。


 東日本大震災以降、国民のメディア批判も強くなっています。

 原子力発電所事故の報道などで、国民の多くが大手マスメディアは大本営発表をそのまま垂れ流している、と明確に気が付きました。また、役所や東京電力との癒着の構図も明らかになり、強く批判されています。

 大手メディアが当局にぶら下がっている限り、誠に残念ながらFACTAの敵ではありません。



阿部重夫(あべ・しげお)氏
1948年東京生まれ。東京大学文学部社会学科卒。73年に日本経済新聞社入社、東京社会部、整理部、金融部、証券部を経て90年から論説委員編集委員。95〜98年欧州総局ロンドン駐在編集委員。『日経ベンチャー』編集長を経て退社し、ケンブリッジ大学客員研究員。 99〜2003年、月刊誌「選択」編集長。05年11月にファクタ出版を設立、月刊誌「FACTA」を創刊した。