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2011-12-28

懲りない民主党内閣が設置を急ぐ「原子力安全庁」の独立性に疑問符。自らの公約棚上げで、またも霞が関に擦り寄り?

| 23:20

オリジナルページ → 現代ビジネス http://gendai.ismedia.jp/articles/-/31344


 東日本大震災に伴う東京電力福島第一原子力発電所の事故原因などの究明に当たる、政府の「事故調査・検証委員会」(委員長・畑村洋太郎東京大学名誉教授)が12月26日に中間報告をまとめ、野田佳彦首相に提出した。津波への対策が不十分だったことや原子炉の冷却で判断ミスがあったことは指摘したものの、事故対応を巡る東電や政府の責任は追及しておらず、案の定、政府が設置した調査委員会という立場上の限界を示す結果になった。

 案の定と書いたのは他でもない。政府の委員会の事務局員は総員41人で、8人の学者が事務局専門家として非常勤で加わっているが、残りの33人は官僚。出身省庁はほぼ全省庁にまたがり、経済産業省もいる。今回の原発問題で当事者であるはずの霞が関が、完全に事務局をコントロールしているわけだ。体制からして委員会自体の独立性が疑われる存在だったのだ。

 そんな委員会の報告書が、事故の教訓を生かした今後の改善点として提言しているのが、「政府の規制機関の対応強化」だ。具体的には来年4月の発足を目指す「原子力安全庁」である。これまでの経済産業省資源エネルギー庁原子力安全・保安院原子力安全委員会などによる規制が十分に機能してこなかったのは明らかで、組織の見直しは不可欠だろう。もっとも、従来の行政組織の責任追及には及び腰のため、問題の所在が明確になっていない。にもかかわらず、新しい組織づくりに奔走するあたりは、霞が関の"焼け太り"体質を如実に物語っている。

 新組織については報告書でも、「独立性と透明性の確保、緊急事態に対応する組織力、情報提供の役割の自覚、人材確保に留意する」ことを求めている。裏を返せば、従来の組織には独立性や透明性がなく、緊急時の組織力も、情報提供を担う自覚もなかったということだ。中でも独立性は極めて重要な論点であることは疑う余地がない。

 ところがである。現在、民主党政府が設置に向けて準備を進めている「原子力安全庁」の独立性を巡って、早くも大きく後退する動きが表面化しているのだ。政府案では原子力安全庁は環境省の外局とすることになっており、このままだと、規制権限が経産省から環境省に移っただけ、ということになりかねない。法案が通過することを前提に、すでに人員規模500人、予算規模500億円という具体的な設計が政府内で行われている。法案成立を前提に引っ越し作業に着手したいという声すら、官邸周辺から聞こえてくる。

 これに対して、自民党など野党や、民主党の内部からも反発が出ている。独立性と透明性を高めると言う以上、「三条委員会にすべきだ」という声が上がっているのだ。自民党河野太郎衆院議員らが立ち上げた「自民党エネルギー政策議員連盟」がまとめた「たたき台」にも加えられている。三条委員会とは国家行政組織法三条に基づく強い権限を持った委員会で、公正取引委員会国家公安委員会などが存在する。霞が関にとっては自らの権限を大きく限定されることになるため、三条委員会には無条件で反発する傾向が強い。

 政府の調査委員会とは別に、国会内に民間人専門家による調査委員会を立ち上げることに尽力した自民党塩崎恭久・元内閣官房長官も、三条委員会を主張する。先進各国で規制機関の独立性と言った場合、1.許認可権限が規制機関の長にある2.人事権と予算権が規制機関の長にある3.他の行政や政治から影響を受けない---という3点が条件になるとして、環境省の外局という政府案に猛然と反対しているのだ。

 原発への賛否は別として、経営者や学者の中にも、三条委員会によって原発規制の独立性を保つべきだ、という主張が多い。

 実は、驚いたことに、民主党自身もマニフェスト(政権公約)で、三条委員会を主張していた。「政策インデックス2009」の「安全を最優先した原子力行政」という項目には、以下のように記されている。

 「過去の原子力発電所事故を重く受けとめ、原子力に対する国民の信頼回復に努めます。原子力関連事業の安全確保に最優先で取り組みます。万一に備えた防災体制と実効性のある安全検査体制の確立に向け、現行制度を抜本的に見直します。安全チェック機能の強化のため、国家行政組織法第3条による独立性の高い原子力安全規制委員会を創設するとともに、住民の安全確保に関して国が責任を持って取り組む体制を確立します。また、原子力発電所の経年劣化対策などのあり方について議論を深めます」

 ここまで、明確に三条委員会と謳っておきながら、政府が作った法案が「環境省の外局」になったのはなぜか。政権を握り、しかも原発で大事故が起きた今になって、公約が大きく後退するのか多くの国民は理解に苦しむだろう。

 野田内閣の閣僚のひとりは、「三条委員会では緊急時に政治のグリップがきかなくなる」と説明する。行政官庁の一部局ならば、緊急事態に大臣として政治家が口を出すことができるが、独立性の高い三条委員会では難しいというのだ。

 政府の事故調査・検証委員会の報告には、官邸での結論が出ないために事故対応を中断するくだりが出て来る。そもそもそうした政治からのグリップを排除することが「独立性」の1つの意味のはずだろう。

 野党議員のひとりは、「三条委員会を嫌う役人のご説明が功を奏しているのだろう」と分析する。霞が関の中でも非力な環境省の軒先を借りた外局ならば、従来と変わらない影響力を経産省は持ち続けることができる、というのだ。経産省権益拡大には常に否定的な財務省も、幹部に財務省出身者を送り込んでいる環境省の権限拡大につながる改革とあって、口をつぐんでいる、との解説が流れる。要は官僚に遠慮する民主党が、もともとの主張を捻じ曲げてまで、霞が関権益を守っている、という構図に見えるのだ。

 民主党は12月26日になって、名称を「原子力安全庁」ではなく「原子力規制庁」と改め、原発への強制的な立ち入り検査権などを与えるべきだとする提言をまとめた。政府に働きかけて、法案に盛り込むことを求めるという。新組織が規制機関であることを明確にすべきだという主張だが、野党などから上がっている「三条委員会」の要求を収める妥協点を探る動きとみられる。

 また、原発事故の損害に対する賠償の指針を作る「原子力損害賠償紛争審査会」の業務は引き続き文部科学省に残ることになっているが、提言では、これも新組織に移すことを求めている。この点も野党から批判の声が上がっていた。

 現在、細野豪志環境相原発事故担当相などが中心となって、来年の通常国会に提出する政府案に賛成するよう野党議員の説得に当たっている。しかし、ねじれ国会が続く中で、難航は必至な情勢だ。

 従来の原発規制組織がどう機能しなかったのか、その責任は誰にあったのか。通常国会で「原子力安全庁」法案を審議する前提として、まず明らかにされるべきことは山ほどある。新しい官庁が増え、予算も増えるという"霞が関焼け太り"だけはゴメンだというのが国民の本音だろう。