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2012-02-11

「会社法改正」はどこへ。懲りない経営者たちが抵抗する「社外取締役1人義務化」も雲散霧消?

| 21:53

会社法の改正というのは世の中の株式会社に大きな影響を与えるものですが、世間では余り関心を呼ばないのが実情です。経団連などの財界団体や商法学者など「身内の議論」でルールが決まっているような感じがあります。今回の中間試案では、法務省パブリックコメントの募集を行いました。以下の記事の中にも出てきますが、商社OBやジャーナリストが設立した「実践コーポレートガバナンス研究会」という団体が、意見書を出していました。多くの人たちが、様々な声を上げることが、制度改正には必要だと思います。

現代ビジネスにアップされた記事を編集部のご厚意で再掲させていただきます。

オリジナル → http://gendai.ismedia.jp/articles/-/31750

 法務大臣の諮問機関である法制審議会の会社法制部会が昨年12月に公表した「会社法改正案・中間試案」に対するパブリックコメントの提出期間が1月31日で終了した。試案では社外取締役1人の義務付けや、「監査・監督委員会設置会社」というまったく新しい形をの創設などが盛り込まれた。会社法に関係する各種団体などがこぞって意見書を提出。法制審は今後、その意見を踏まえて会社法改正案をまとめることになる。

 試案には「社外取締役」の義務付けが盛り込まれているが、(A)監査役設置会社のうちの大会社に1人以上の社外取締役を義務付ける(B)有価証券報告書を提出している会社に1人以上の社外取締役を義務付ける(C)現行法のまま見直さない---の3案が示されていた。

 これに対して意見書を提出した経団連や全国銀行協会などは、C案を主張。東京証券取引所や日本公認会計士協会、日弁連などはB案に賛成している。企業経営者が義務付けに反対する一方で、コーポレート・ガバナンスの制度を支えている人たちは、義務付けに賛成という、真っ向から対立する結果になった。

 もともと法制審ではA案とB案だけがあったが、経済界の猛烈な反発に尻込みした法務省が後からC案を付け加えたという解説が流れていたが、案の定というか、経営者の抵抗は相当に強い。

 ちなみに、経済同友会も義務付けには反対してC案を支持する立場だが、社外取締役は積極的に導入するべきだ、という主張を展開している。また、日本取締役協会はソニーの中鉢良治副会長が委員長を務める「会社法制委員会」で議論をまとめて意見書を提出したが、義務付けは1人ではなく、2人以上にすべきだと主張している。

 もう1つの柱である「監査・監督委員会設置会社」はまったく新しい制度だ。現在の会社法では、「監査役設置会社」と欧米型の「委員会等設置会社」が認められているが、上場企業の98%が監査役設置会社で、欧米型の導入はごく少数にとどまっている。委員会等設置会社では、取締役会の中に指名委員会、監査委員会、報酬委員会の3つの委員会を最低限設置しなければならない。

 さらに、その3委員会は3人以上の取締役で構成され、過半数が社外取締役である必要がある。つまり3人だったら2人は社外取締役でなければいけない、ということだ。

 指名委員会は株主総会に出す取締役候補者名簿を決める権限を持つが、その過半数が社外取締役となると、社長を選ぶ権限を最終的に社外取締役に委ねることになる。社長が強力な権限を握っている今の日本の会社では、その導入に躊躇するところが多いのは当然だろう。

 中間試案で出てきたのは、従来の監査役会に代わる「監査・監督委員会」だけの設置で済む、いわば監査役設置会社と委員会等設置会社の中間的な存在だ。監査役会という日本独特の制度を廃止し、少しでも欧米型に近づけたいという意識が滲み出ている。

 この世界に例のない「監査・監督委員会設置会社」について、意見書を出した団体の反応はさまざま。経団連は「試案の考え方を支持する」として賛成しているほか、全銀協は「反対しない」とした。また、東証や会計士協会、取締役協会も賛成している。反対したのは経済同友会や日弁連などだ。日本のコーポレート・ガバナンスの強化に役立つなら、とりあえず新しい制度でもやってみるべきだ、という意見がある一方で、そんな機能しない新しい仕組みを作っても意味がないとする意見も存在するわけだ。

 三菱商事OBの門多丈氏や元日経ビジネス編集長の大谷清氏らが理事を務める「実践コーポレート・ガバナンス研究会」の理事会が出した意見書はユニークだ。新しい仕組みの創設には「反対」としたうえで、むしろ「指名委員会」を義務付けよと主張している。経営者が嫌がる「指名委員会」こそがガバナンスの要だと喝破しているわけだ。

 果たして、この意見を、法制審はどう集約するのだろうか。

 いま、企業経営者による不正に対する世の中の目は一段と厳しくなっている。オリンパスの巨額損失隠し事件や、大王製紙前会長の巨額借り入れ事件などによって、日本のコーポレート・ガバナンス(企業統治)のあり方が問われているのだ。

 もっとも、今回の見直しと相次ぐ不祥事は偶然の一致に過ぎない。オリンパス事件が起きたから法務省が法律改正に動いたわけではないのである。だが、オリンパス事件が国際的にも関心を呼ぶ大事件となった今、それと無関係に法改正を終えることは難しいだろう。

 法制審は「社外取締役1人の義務付け」でお茶を濁したいというムードがある。経営者も本音では1人義務付けで終わってくれれば問題はない、と思っている。多くの上場企業にすでに社外取締役がおり、1人なら義務付けられても現状のままで対応できるところが少なくないからだ。だが、早い段階で「義務付け反対」の旗を降ろせば、複数必要だ、いや欧米のように過半数は社外にしろ、という話になりかねない。そう怖れているのだ。

 法案が国会に提出されれば、与野党協議の場面で、「修正」が加えられる可能性もある。オリンパス問題では上場維持を決めた東証などの対応が甘いと言った指摘や、公認会計士が行う監査の仕組みに問題があるといった声も出ている。会社法改正の中で、経営者にとってより厳しい方向への修正が加えられるムードが漂っている。

 民主党も昨年11月から党内に「資本市場・企業統治改革ワーキングチーム」を設置。座長に党政調査副会長の大久保勉・参議院議員を据えて、オリンパス問題などについて、ヒヤリングなどを繰り返している。大久保氏は東京銀行やモルガン・スタンレー証券での勤務経験を持つ金融・経済通で、コーポレート・ガバナンスについで一家言持つ議員だ。

 また、自民党も「企業・資本市場法制プロジェクトチーム」がオリンパスのマイケル・ウッドフォード前社長を呼んで事情を聞くなど、調査に乗り出している。オリンパス問題のような不正の再発防止に向けた「対策」が与野党から出てくるのは間違いがない。すでに「社外取締役1人の義務付けでは生ぬるい」といった声が議員の間からも聞こえてくる。

 コーポレート・ガバナンスの要諦は、社長ら取締役に経営に当たる緊張感を持たせ続けることができるかどうかだ。不祥事が起きるたびに、全権力を一手に握る社長への権限集中が問題だと指摘される。果たしてオールマイティの社長の首に鈴を付けることができるのか。会社法改正の行方に注目したい。