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2012-02-20

移民減少に危機感を抱くドイツ 議論すらできない日本

| 10:31

1月末に厚生労働省の国立社会保障・人口問題研究所が2060年までの日本の将来人口推計を発表しました。2010年で1億2806万人いる日本の総人口は50年後の2060年に8674万人に減少するとしています。少子高齢化は止まらず、世界史上に例をみない超高齢社会が訪れるとしています。少子高齢化先進国の多くが通り抜けてきた現象です。フランスドイツなど欧州諸国のほか、シンガポールなども少子高齢化に直面しました。出生率の引き上げなどにも取り組みましたが、最も効果があったのが「移民受け入れ」です。米国がいつの間にか人口2億人の国から3億人になったのも移民です。この問題には根強い反対論があるのは承知しています。もちろん民族のアイデンティティを守ることは大事ですが、移民問題の議論に蓋をすることはむしろ危険だと考えます。実際に地方都市では工場労働者として多くの外国人が働き、家族を持ち、コミュニティの一員になりつつあります。ところが居住権や社会保障などのインフラはほとんど整備されていません。そんな話をWEDGEの連載に書いたところ、やはり反響を呼んでいるようです。編集部のご厚意で以下に再掲しますが、是非オリジナルページもご覧下さい。

WEDGE2月号「復活のキーワード:移民政策の議論を尽くす」

オリジナルページ→http://wedge.ismedia.jp/articles/-/1700


 昨年7月、ノルウェー首都オスロ近郊で、残忍な乱射殺人事件が起きた。外国人移民排斥を主張する男の犯行だった。この事件を報じる日本のメディアの論調は、移民政策の負の側面を強調するものが目立った。欧州諸国ではこの事件によるショックが大きかったが、移民政策の見直しといった議論にはなっていない。

 欧州諸国の主要都市は、人口の2割が外国人というケースが多く、外国人を排斥していては、足下の経済も、国としての機能も果たせないところまできている。人口の少ない北欧諸国はなおさらだ。

 欧州の移民先進国であるドイツも、長年、移民による社会不安が声高に叫ばれてきた。1970年前後の経済成長期に工場労働やごみ収集などの単純作業の人手不足を補う目的で、トルコなどから大量の移民を受け入れたことがきっかけだった。年間に50万人以上が増加した。

 移民が増えることで外国人居住地区などが出来上がり、これが社会不安の種になった。これに対してドイツでは、政府を挙げてドイツ語教育の徹底に取り組むなど積極的な「移民統合政策」を進め、移民をドイツ人として受け入れるための社会基盤を整備していった。

 80年代後半から90年代前半にかけて、再び移民ブームが起きる。毎年60万〜80万人の移民が増える状態が続いた。EU欧州連合)の市場・通貨統合やEU圏が東欧に拡大していく時期に、ドイツが大きく輸出を増やすことができた一因が、この移民受け入れによるマンパワーの供給だったことは明らかだ。

 ドイツの人口は2009年末で8190万人だが、このうち移民系の人口は1570万人に達した。さらに外国人が669万人おり、合わせると人口の27%に及ぶ。これはドイツに限ったことではなく欧州に共通した傾向だ。 ところが、そんな移民大国のドイツで異変が起きている。移民の流入が減っているのだ。とくに、かつてドイツへの移民の中心だったトルコ人の減少が目立つ。EU統合の経済効果もあり、外縁部であるトルコなども経済が大きく成長した。01年から11年の10年間にトルコの名目GDPは1666億トルコリラから1兆1051億トルコリラへと6.6倍になった。この間、ドイツも成長したが、名目GDPは2兆475億ユーロから2兆4768億ユーロへと1.2倍に過ぎなかった。

 つまり、ドイツに来るよりも、トルコにいる方が、経済成長に乗るチャンスが大きかった、ということなのだ。移民の多くは経済的な動機や住環境など多様な理由で居住国を移すが、ドイツでの生活が外国人にとって相対的に魅力的でなくなっているということなのだろうか。

 ドイツへの移民は、トルコから、セルビアなど旧ユーゴスラビア出身者へと変わり、最近はルーマニアウクライナといったより経済力の弱い国の出身者になっている。それでも08年と09年は「入国者」よりも「出国者」の方が多い、純減状態が続いている。

 ドイツ欧州諸国の中でも、税金負担が大きいことで知られる。北欧型の高福祉高負担に近い体系となっているため、低所得者でも税負担は大きい。教育費が安いなどメリットを強調しているが、外国人移民にとって魅力的と映らなくなっているのだろう。

 高額所得者の間でもドイツでの税負担の大きさに不満が高まっている。統計によれば、スイスに移住したドイツ人は02年にはおよそ1万人だったものが、08年には3万人に達したという。

移民論議から逃げる日本の政治家たち

 さて、日本の話に移ろう。

 03年、月刊誌『VOICE』に「1000万人移民受け入れ構想〜日本を『憧れの国』にしたい。民主党若手の共同提案」という記事が載った。名前を連ねているのは、細野豪志古川元久松本剛明、大塚耕平、松井孝治、浅尾慶一郎の各氏。9年後のいま、民主党与党であり、みんなの党へと移った浅尾氏を除いて、皆、大臣や副大臣など政権の中枢を担う立場になった。

 ところが、今はだれも「移民」について口に出そうとしない。少子化問題に解決のメドが付いたわけでもなく、年金財政に支障をきたすなど、その影響は深刻さを増しているにもかかわらずだ。

 「1000万人」という数字が衝撃的だったこともあり、国民の猛烈な反発を食ったためだろう。外国人参政権問題と絡めて右翼に執拗に攻撃された議員もいる。日本では「移民論議」は事実上タブーになっている。

 政権交代で大臣となった民主党の当時の若手の1人に、なぜ移民問題を政策として掲げないのか、と聞いたことがある。すると2つの理由が返ってきた。「国民のコンセンサスが得られない」、そして「今から移民に着手しても間に合わない」というのだ。

 後者については、ドイツの例をみれば分かる通り、移民を受け入れる決断をしても、周辺国が経済的に成長を始めると、なかなか人材が移住してこない。とくに優秀な人材は自国を離れなくなる。高い成長率を誇るアジアから移民を受け入れようにも、優秀な人材は日本に見向きもしなくなる。

 前者については、政府が国民のコンセンサスを得るための努力をしているようには思えない。人口が本格的に減り始める中で、成長を諦めた国として日本国民は貧しさを共有していく、そんなコンセンサスはあるというのだろうか。

 自動車向けなど部品産業が集積したある地方都市。小さなショッピングモールにあるハンバーガーショップは、外国人が目に付く。店員ではない。客の多くが、周囲の工場で働く日系ブラジル人やその子弟、日本人とのハーフの子どもを連れたフィリピン人女性など。この地域ではもはや日常の風景になっている。いわば“内なる国際化”は先へ先へと進んでいるのだ。

 下請け工場の工員や大規模農家での農作業はもはや研修生などとして受け入れている外国人なしには成り立たない。ところが社会的なインフラは未整備のままだ。

 結婚して子どもが生まれ、就学年齢になってもなかなか日本の公立小学校に通わない。「学校側も受け入れ体制の整備に力を注いでいるが、手が回らない」と県の教育委員会関係者は言う。

 移民を受け入れる制度や社会的なインフラをきちんと整備しなければどうなるか。80年代にドイツが直面したような社会不安を経験しなければならなくなるだろう。欧州の失敗を日本で繰り返さないためにも、移民先進国の歴史と現在の取り組みを調査・分析し、移民受け入れに向けた冷静な議論を行うことが必要だろう。

                                ◆WEDGE2012年2月号より