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2012-03-28

「主要国でカジノがないのは日本だけ。観光立国へカジノ解禁法案提出へ」田村謙治・衆議院議員に聞く

| 10:06

私はギャンブルはやりませんが、日本にカジノがあってもいいのではないか、と考えています。禁止していることで、海外のカジノに出かけて大負けする御仁が後をたちませんし、アングラ化して暴力団の資金源になっているとも聞きます。どうせならきちんと管理されたカジノを設置すべきだというのが1つの理由です。日本では観光立国の目玉という位置づけですが、私は別の意味もあるのではないかと考えています。金融業が栄えているところには必ずカジノがあるのは偶然ではないでしょう。私がかつて赴任していてスイスも大議論の末2000年代初めに解禁しました。ヒト・モノ・カネを集めるツールとしてカジノは意味があると言うことです。講談社の現代ビジネスに原稿をアップしました。編集部のご厚意で以下に再掲します。

オリジナルページには資料も掲載しています。是非ご覧下さい。→ http://gendai.ismedia.jp/articles/-/32146


 子会社などから巨額の資金を借り入れて私的に流用したとして特別背任に問われている大王製紙の前会長。その借入金総額は165億円(起訴対象額は55億3000万円)に達し、マカオカジノに100億円以上をつぎ込んだとされる。どうせなら日本国内で使ってくれれば景気浮揚にも役立ったのに、と思っていたら、ようやく日本にもカジノを作ろうという機運が盛り上がり、国会での議論が始まろうとしているのだそうだ。

 カジノによって、日本のリゾート地に外国人を誘致し、国庫納付で厳しい国の財政の一助にもしようという思惑という。根強い反対論もあるが、今後の議論や法案の行方はどうなるのか。民主党の総合型リゾート・カジノ検討ワーキングチームの座長を務める田村謙治・衆議院議員に聞いた。

 ---いまなぜ、カジノなのでしょうか。

田村 世界の主要国でカジノを禁止しているのは日本ぐらいなもなんです。アジアでも観光の1つの目玉としてカジノを設置する動きが加速しています。日本は、国際的な「ハブ」を作ることに出遅れました。港湾でも空港でも、他のアジア諸国に後れをとった。ヒト・モノ・カネが集まる観光ハブを目指す意味でも、カジノのような集客力、収益力のあるものを日本も持たなければ、アジアの他の国々と競争するうえでマイナスになってしまいます。条件を同じにするという意味でも、カジノ解禁は必要だと思います。

 ---観光の拠点となる「総合型リゾート」の一環としてカジノ解禁を位置づけているようですね。

田村 私は民主党政策調査会内閣部門会議の座長をしていますが、その中に昨年11月に「総合型リゾート・カジノ検討ワーキングチーム」を作り、座長をお引き受けしました。日本では国際会議場や展示場と併設する形でカジノを認める方向です。こうした会議場などは多額の設備投資が必要ですが、カジノの収益で短期に回収できるメリットは大きい。基本的に設置も運営も民間に任せることを考えていますので、収益性の確保は重要です。

 ---シンガポールもベイエリア開発の中核施設として巨大なカジノを作りました。

田村 シンガポールカジノによって観光客を大きく増やしました。2010年の第1四半期から第3四半期までの数字が手元にありますが、外国人観光客が前年同期比20.2%も増えていますね。マカオのほか韓国も力を入れていますし、台湾ベトナムなども前向きだと聞いています。

 ---観光客が集まることで経済的にプラスになるということですね。

田村 観光によって地域経済が活性化し、雇用も生まれます。さらに税収には間違いなくプラスだと思います。単なる事業税だけでなく、収入の何割といった形で国庫納付を課すこともできます。事業の赤字黒字は関係ありませんから、安定的な収入になります。

 ---カジノ解禁には根強い反対があるようですが。

田村 ともかく博打は良くないと、最初から反対という人たちもいます。子どもの教育上良くないといった議論ですね。しかし、これだけ全国いたるところにパチンコホールは広がっています。カジノを全国どこにでも作れるようにしようと言っている人は誰もいません。地域を限定して解禁しようとしているんです。

 ---何ヵ所ぐらいできるようにするのですか。

田村 現在、特定複合観光施設(IR)推進法案というのを準備していますが、この法律の段階では詳細は決めません。法律では公布後3ヵ月以内に内閣に「IR区域整備推進本部」というのを設置することになっていて、2年以内にこの本部で具体的な内容を詰め「IR実施法案」を国会に出します。ワーキングチームの議論の初期段階には全国に8ヵ所という意見もありましたが、これは東京大阪沖縄に加えて全国主要5ヵ所というイメージだったと思います。この点も含めて、推進本部が決めていきます。

 ---他に反対論はないのですか。

田村 一部にパチンコの客がカジノに食われるという主張もありましたが、ごく限られた地域ということで、パチンコ業界も反対していません。

 ---具体的な規制方法はどうするのですか。

田村 これも推進本部で決めていきます。実施法のイメージとしては「カジノ管理委員会」を国家行政組織法に基づく「3条委員会」などの形で設置し、カジノ事業者への許認可や監視・監督を行います。カジノが公に認められることになれば、闇カジノに対する抑制効果もあるのではないでしょうか。ですから、警察にも目立った反対論はないようで、原則、静観しているということでしょう。

 ---IR推進法案は今国会に提出するのですか。

田村 カジノ解禁はもともと自民党政権時代から議論があって、自民党にも政調の中に「カジノ・エンターテイメント検討小委員会」があります。また、2010年4月には超党派で「国際観光産業振興議員連盟(IR議連)」ができました。民主党は現在の前原誠司政調会長が推進派で、党内の議論はまとまると思います。自民党執行部も推進派が多く、公明党などの他の野党が強硬に反対しなければ、今国会に提出できると思います。



田村謙治(たむら・けんじ)氏

1968年生まれ。東京大学法学部卒。1991年大蔵省(現財務省)入省。1993年ミシガン大学大学院に留学。2002年財務省を退官し山村健衆議院議員の政策秘書に。2003年の総選挙出馬、落選したが、2004年11月に繰り上げ当選。2009年9月政権交代内閣府大臣政務官(金融庁など担当)に就任。2010年9月民主党総括副幹事長を経て、2011年1月から民主党政策調査会副会長。静岡県選出、当選3回。

2012-03-26

東電と政府は何を隠したいのか。国会事故調に立ちはだかる「隠蔽」

| 13:52

政府は新設する「原子力規制庁」の4月1日発足を断念しました。東京電力福島第一原子力発電所の事故で、機能不全が明らかになった「原子力・安全保安院」を解体し、他の規制組織と統合することは必要です。しかし、政府の対応をみていると、とにかく「4月1日」に発足させることばかりにこだわり、問題点の整理を棚上げにして、野党との議論を尽くすことも避けてきたように思います。結局は、霞が関主導の改革に“乗った”風にしか見えないわけです。難産の末に国会に誕生した事故調査委員会国会事故調)は、規制の問題点についても調査中で、いずれ、あるべき規制のあり方についても報告することになっています。政府はこの結論を待つのが嫌でたまらなかったのかもしれません。現代ビジネスにアップした拙稿を編集部のご厚意で以下に再掲します。

オリジナル→http://gendai.ismedia.jp/articles/-/32095

 国会が設置した「東京電力福島第一原発事故調査委員会」(委員長、黒川清・元日本学術会議会長)の調査が本格化している。3月14日の第6回委員会に続い19日にも第7回委員会を開催。政府検証委員会や東電自身の調査とは違った独立した立場で、事故の原因や原子力規制の問題点などについて関係者の聞き取り調査などを行っている。

 国会が持つ国政調査権を後ろ盾にした比較的強い権限を持っているものの、委員の多くが「壁」を感じ始めている。政府や東電の「隠蔽」体質が立ちはだかっているのだ。東日本大震災から一年が過ぎたにもかかわらず、いまだに何を隠そうというのだろうか。委員たちは不信感を募らせている、という。

「記録がどんどん抹消されているという話が聞こえて来たので、かなり焦っているんです」

 国会事故調の関係者は委員会の開催頻度を上げている理由をこう話す。震災後に開かれた政府原子力災害対策本部などの会議の議事録が作られていなかったことが明らかになったが、議事録が作られなかったからと言って記録がないことと同義ではない。会議に参加する多くの官僚がICレコーダーなどを持ち込んでいるからだ。「親元(出身官庁)に報告するのが官僚の仕事だから、記録していないことなどあり得ない」(事故調設置に関わった国会議員)。

 国会事故調の 黒川委員長が原災本部の議事録がなかったことについて会見で「全く信じられない。理解不可能だ」と述べる一方で、閣僚のメモや“資料"の提出を引き続き求めたのも、音声記録を残す官僚の“慣習"を知っていたからに他ならない。その記録が「どんどん抹消されている」というわけだ。

 3月14日の第6回委員会でも、こうした“隠蔽作業"の傍証が明らかになった。

 国会事故調のメンバーは東電本社や福島第一原発などにも出向いて調査している。

 その際、震災直後の昨年3月15日の早朝、菅直人首相(当時)が東電本社に乗り込み、大演説を行った。その際の映像が東電本社や各原発を結ぶテレビ会議システムに録画されて残っており、それを見せられたのだという。ところがその会議だけ画像だけで音声は無し。14日の委員会でも委員の野村修也弁護士が「聞いたところ家庭用のDVDと変わらないシステムだそうで、なぜ音声だけ無いのか。他の会議の音声はあるのに」と疑問を呈した。

 委員会に参考人として呼ばれた武藤栄・東電顧問(事故当時は副社長)は「(音声がないのは)どうしてなのか承知していません」と淡々と答えた。音声が消えていることに何ら驚きも疑問も感じていない様子だった。

「まるでロッキード事件の証人喚問みたいだった。誰かに余計な事は言うなと言われているんじゃないか」と国会事故調の関係者は訝る。ロッキード事件では国会に証人として呼ばれた商社の副社長が、宣誓書へのサインでは手が震え、肝心な点になると「記憶にございません」と逃げた。武藤・元副社長は、菅首相の大演説をすぐそばで聞いていたにもかかわらず、肝心の中味になると、急に口数が減った。

「大変厳しい口調で『全員撤退はあり得ない』と仰った。大変厳しく叱責されたと記憶している」とか細い声で言うに留まった。国会事故調の場での委員の発言によると、会議はおよそ50分間。この間、ほとんど菅首相の独演状態だったが、途中、テレビ会議の画像に映っていた福島第一原発の吉田昌郎所長が、何かの報告を受け、その後、ヘルメットをかぶった、というのだ。委員はこの時点で原子炉建屋で爆発が起きたのではないかと質問したが、武藤氏は話をそらして答えなかった。

 菅首相が早暁の大演説で「全員撤退はあり得ない」と叱責したのは本人も周囲も認めた事実だ。現在は、東電は全員撤退を考えていなかったにもかかわらず、首相がそう発言した、ということになっている。国会事故調の委員会でも武藤氏はそう証言した。だが、この段階で東電が全員撤退を主張していたのではないか、という疑念は完全には払拭できていない。

 官邸菅首相近くに仕えた人物が、菅内閣が総辞職した後、こう漏らしたことがある。「早朝に東電に乗り込んで全員撤退を止めさせた事だけは、菅さんを評価できる」。この人物は東電が全員撤退を官邸に打診したことは事実だと、少なくとも昨年秋の段階では証言していた。おそらく「音声が消えた」会議システムの映像に音声が戻ってくれば、真実が明らかになるのだろう。

 もう1つ、国会事故調の委員会で驚くべきことが明らかになった。菅氏が事故発生翌日、第一原発を視察した際、吉田所長から携帯電話番号を聞いていたと武藤氏が説明したのだ。ところが武藤氏は、菅氏から吉田氏への電話での指示内容については「知らない」と述べた。これは東電という会社の社風を知っている者には極めて不自然に感じる。武藤氏は「現場の判断が第一」と繰り返したが、それは現場に決定権限が移譲されている、という意味ではない。物事の決定には何段階もの決済を必要とするという東電の社風の中で、首相の指示を吉田所長が東電幹部に報告せずに実行することなどあり得ないと考えるのが普通だ。

 大震災から一年がたって、なぜ真実を残そうという姿勢が政府にも東電にも出て来ないのか。個人が責任を追及されることを恐れているのか。東電は、国会事故調に見せた音声なし画像について「プライバシーの観点から公開できない」として、一般には明らかにしてこなかった。原発事故という危機に直面しての首相や東電幹部の会議がプライベートなことなのか、大いに疑問だ。

 今、政府は、行政機関が保有する重要な秘密を漏らした公務員などに対する罰則を強化することを狙った秘密保全法案の国会への提出を準備している。国会での説明では、外交上、防衛上の秘密などが主な対象になるとされているが、「秘密」の範囲は明確ではない。今も官僚のポケットに眠るであろうICレコーダーの会議音声や、東電が持つであろう首相の大演説録画も、公表すれば守秘義務違反に問われかねない。そんな法律が通れば、心ある官僚にしても、大きなリスクを負ってまで、事実を明らかにしようとは思わなくなるだろう。

 ちなみに、秘密保全法制の整備を提言した政府の有識者会議でも、またしても議事録が作成されていなかったことが明らかになった。もはや記録を残さないことは明確な意図に基づいていると勘ぐりたくなる事態だ。

 国会事故調の黒川委員長は14日の委員会の冒頭、武藤・元副社長に対して、組織を守るという態度ではなく、歴史の検証に資するという姿勢で証言して欲しいという発言をわざわざしていた。歴史の検証に耐える資料を残すというのは、政策決定やその遂行など公益に携わる者の基本だろう。

2012-03-15

「お上頼み」はもうやめよう」 フジサンケイビジネスアイ1面コラム

| 00:14

企業がらみの不祥事など事件が次々に起きるので、大きな問題も検証されないままにどんどん風化していくように思います。製造業で最大となる負債総額で破綻したエルピーダ・メモリーは、公的資金を中心していたことなど、様々な検証すべき問題を抱えています。単に「お上」を責めるばかりでなく、「お上依存」になっている日本の経営者マインドを省みるチャンスではないでしょうか。フジサンケイビジネスアイの14日付け1面に以下のようなコラムを掲載しました。

オリジナル→産経新聞フジサンケイビジネスアイ

http://www.sankeibiz.jp/macro/news/120314/mca1203140505010-n1.htm


 2月末に破綻した半導体製造会社エルピーダメモリの生産拠点がある広島秋田の両県知事が7日、枝野幸男経済産業相を訪ね、同社の「再建に国も全力を尽くしてほしい」と要望した。地元の雇用を守りたい切実な思いは分かる。だがこれ以上、国に何をせよと言うのか。一私企業を助けろと県知事が要望するのは、果たして正しいことなのか。

 エルピーダには公的資金300億円(現在は284億円)が投入された。2009年に経産省が主導、産活法(産業活力再生特別措置法)による一般企業への公的資金の注入第1号として注目された。当時から賛否両論あったが、結局、お上お声がかりの「日の丸半導体」会社となった。それが2年半で失敗に終わったのだ。

 会社更生法の適用を東京地裁に申請して破綻した同社の負債総額は約4480億円と製造業で過去最大。300億円の公的資金が回収できる見込みは薄く、最終的に国民負担となりかねない。産活法のスキームでは政府系の日本政策投資銀行の出資分の8割と、危機対応融資(100億円が貸し出されていた)の5割は、同じ政府系の日本政策金融公庫に損失補填(ほてん)を求めることができる。277億円が国民負担になる可能性があるのだ。

 日の丸半導体を守る理由は何だったのか。エルピーダは日立製作所と日本電気のDRAM事業を統合して誕生。その後、三菱電機の事業も譲り受け、わが国唯一のDRAM専業メーカーとなった。半導体は「産業のコメ」だからと国産に固執したのだろうか。

 「日本は同業者が多過ぎて過当競争になり利益が出ない構造」というのが経産省の基本姿勢である。統合して体力を強化するために国が支援すれば国際競争力が付くという主張を今も続けている。その経産省モデルの第1号がエルピーダだったといえるのだ。

 だが、現実には「お上頼み」の経営者と、世界一優秀かもしれないがしょせん“頭でっかち”の経産官僚が一緒になった甘い経営が、世界に通じるわけはない。救済計画策定に携わっていた当時の審議官がインサイダー取引容疑で逮捕されるオマケまで付いた。

 経営破綻の一義的な責任が経営者にあるのは論をまたない。ところが坂本幸雄社長は留任して再建に当たる方向だという。経営者の責任を問えば、公的資金を使って救済した官僚の責任も問われるからだろうか。

 かつての企業経営者の多くは、国に口出しされることを嫌ったものだ。財界トップが行政改革に堂々と意見し、大なたを振るえたのも、官の関与をできるだけ小さくしようという基本姿勢に揺らぎがなかったからだ。

 それが今はどうか。家電のエコポイントやエコカー補助金など、至るところに「お上頼み」がはびこっている。「お上」というが、現実はすべては国民の税金だ。増税の前にこの「お上頼み」を一掃することが先決だろう。(ジャーナリスト

2012-03-14

AIJ問題で、なぜか追及されない「金融庁の怠慢」。不透明さの指摘にも検査は一度もなし。

| 23:53

2000億円近い年金資産が「消えていた」AIJ問題は、なぜこんな事が長年放置されたのか徹底的に検証すべきでしょう。国会でも集中審議が行われたほか、民主党自民党にもワーキングチームが発足、制度変更などの議論が始まります。規制を強化する、という役所好みの結論に陥ることなく、今まで穴の空いていた制度をきちんと整備すべき時でしょう。現代ビジネスにアップされた記事を編集部のご厚意で再掲します。

オリジナルページはhttp://gendai.ismedia.jp/articles/-/32040


 AIJ投資顧問(東京都中央区)が厚生年金基金などから預かった年金資産の大半を消失させた問題で、2005年以降、金融庁証券取引等監視委員会に同社に関する4件の情報提供があったことを、自見庄三郎金融相が記者会見で明らかにした。AIJは高い運用利回りを喧伝していたが、その運用実態についてはほとんど明らかにされず、業界内でも首をかしげる向きが多かった。

 情報は金融庁の利用者相談室と証券監視委の情報受付窓口に寄せられ、3件が匿名、1件が実名だったという。自見金融相は「個別の内容は申し上げない」としており、具体的にどんな情報がもたらされたかは不明だ。だが一方で、金融庁は今回の問題が発覚するまでAIJに対して一度も検査を行っておらず、"動きの鈍さ"が改めて明らかになった。

 AIJの"高利回り"は基金の間で高い人気を誇っていたが、その一方で情報開示については"不安"が付きまとっていた。

 格付投資情報センターが全国の基金にアンケート調査を行って実施している「年金顧客評価調査」では2008年にAIJが総合首位になっていた。その結果を報じた同センターの「年金情報」には以下のように書かれている。

 AIJの場合、運用成績の良さが全体評価での高い評価につながっている。同社の運用は株式債券先物取引オプション取引などを使い、相場の影響を受けずに収益を稼ぐ戦略だ。株式オプション取引では、株式が買われすぎと判断する局面でコールオプション(一定期間内に一定価格で買う権利)を、売られすぎと判断する局面でプットオプション(同・売る権利)をそれぞれ売り建て、オプション料収入を収益の源泉としている。

 〈 年金運用が一般にマイナス利回りだった07年度に同社の主力ファンドは8%以上の利回りを確保し、08年度も10月の運用は低迷した模様だが、上半期は約5%のプラス利回りを維持。2ケタの高利回りを得ていた05年度以前に比べると後退したが、顧客からは「安定的なパフォーマンスを継続している」(大手企業の基金型確定給付企業年金)と評価された 〉(2008年11月17日号)

 公表していた運用成績が真っ赤な嘘だと判明した今日では、何とも空しい評価だ。一方で、「年金情報」の別の号では情報開示に絞って分析しているが、AIJについては以下のような記述があった。

 〈 ただ、採用先の年金基金の間ではヘッジファンドである同社の運用成績に満足する声が多い一方、運用成績の根拠や開示内容に関する不透明さを指摘する声もある。中には不透明さを認識しつつも、運用成績の良さからあえて問題視しないという基金もある 〉(2009年1月5日号)

 ここで指摘されているように、情報開示の不透明さは当時から指摘されていたのだ。金融庁にもたらされた情報もこうした不透明さに関するものだったと思われる。だが、金融庁は動かなかった。

 定例検査は2年に一度という建前だが、実際には年間15社程度といわれる。投資顧問会社はぜんぶで263あり、単純計算しても17年に1度しか回ってこない。今回問題が発覚したのも情報提供がきっかけとされるが、過去の4件の情報提供や、業界誌の指摘はまったく生かされなかったわけだ。証券監視委の情報受付窓口には年間6000〜7000件の情報提供があるとして、いかにも4件の情報提供が「少数」かのように金融庁は言う。だが、年金という多数の資金運用を預かる投資顧問の実態把握は金融庁の最低限の仕事だろう。どうみても明らかな怠慢だ。

 問題発覚後に金融庁は慌てて263の投資顧問すべてに一斉検査に入ることを表明した事が、自らの怠慢を物語っている。このところの金融庁の銀行など金融機関に対する検査は緻密さを増している。「かつては箸の上げ下ろしと言われたが、今や箸の握り方どころか手の洗い方にまで口を出す」(金融機関経営者)とまでいわれる。その金融庁がなぜ、ここまで投資顧問を放置してきたのか。

 金融庁投資顧問に問題が多いことは百も承知だった。証券監視委が2011年2月に発表した「投資助言・代理業者に対する検査結果について 」にはこう書かれている。

 〈 投資助言・代理業者に対する過去の検査において、その役職員の法令遵守意識の欠如等を原因とする重大な法令違反等が多数認められたことを踏まえ、投資助言・代理業者の法令遵守状況に重点を置いた検査を集中的に実施してきた 〉

 つまり、問題が多い業界だと認識していたわけだ。その検査結果を見ても驚く。2009年3月から2011年1月までの2年弱の間に74の投資顧問などに対する検査に着手し、11社で「重大な法令違反等」が見つかり、登録抹消や業務停止などの勧告処分を行っている。にもかかわらず、この検査対象からもAIJは漏れていた。

 金融庁関係者からは、投資顧問は2007年以降認可制から登録制に代わり、比較的簡単に業者登録ができることになったことから、検査官の手が回らなかった、という反論が聞こえてくる。規制を緩和したのが悪い、人手が足らないのが悪い、という典型的な「お役所」の言い訳である。だが、問題の根は「役所の縄張り意識にある」と官僚OBは言う。

 263の投資顧問は150兆円近い年金資産の運用を受託しているが、その基金の管轄は厚生労働省なのだ。金融庁は本来「投資家保護」を担い、その投資家には基金も入るのだが、基金に対する規制権限などは基本的に厚労省に握られている。基金のカネを守るのは金融庁の埒外だという意識がある、というのだ。直截的に言えば、基金の常務理事などの天下りポストはすべて厚労省のシマだ。かたや投資顧問の多くは零細企業で天下りなどのメリットはない。金融庁幹部からすれば、グループ企業を含めて天下りのポストが潜在的にたくさんある大金融機関に関わった方がメリットが大きいということになるのだ。

 大新聞の報道を見ていると、基金の常務理事の素人ぶりや、運用規制の甘さ、旧社会保険庁を中心とする厚労省OBの天下りなどへの批判が次々と出てくる。もちろん、巨大官僚組織に肥大した厚労省に問題が多いのは事実だし、それは正されるべきだ。だが厚労省批判の色彩ばかりで、金融庁の怠慢に矛先が向かないのはなぜか。記者クラブを通じた金融庁の情報管制が成果を上げているのだとすると情けない。

2012-03-13

投資信託の「氷河期」がやってくる

| 19:26

金融庁などには投資信託を巡る苦情が数多く寄せられています。銀行の窓口で薦められて預金にあった資金を投信に移したが、解約したら元本が大幅に目減りしていた、といった苦情です。ひと昔前は投信と言えば証券会社へ行って買うものでしたが、最近は銀行の窓口で薦められます。普通預金の金利が0・03%ぐらいなのに、年4%の金利を付けますと宣伝しているので、よくよく見てみると、同額の投資信託を買う条件付きでした。知り合いの金融庁幹部に、これは独禁法が禁じる「抱き合わせ販売」ではないの?と聞くと、考え込んでいました。無理な販売はいずれ顧客にそっぽを向かれるのは、過去の証券会社が主役だった時代の投信ブームでも起きました。「売れ筋」だった毎月分配型の商品の仕組みも多くの投資家が理解していないような気がしてなりません。新潮社フォーサイトに掲載した拙稿です。


日本経済新聞が1月27日に1面トップで報じた“スクープ”に投資信託業界の関係者が色めき立った。「投信 配当しすぎ歯止め」という大見出しの焦点は、「毎月分配型」と呼ばれる投信の規制を強化するため金融庁が法改正を検討しているというもの。毎月一定額を配当(分配金)として受け取れることから人気を呼び、昨年末時点で残高が約31兆円に達している大型商品だけに、規制が実現すれば投信業界に大きな影響を与えるのは必至だからだ。記事によれば、規制強化の内容は「毎月配当の原資を運用益に限定」するというもの。現在の毎月分配型では、投信購入者が払い込んだ元本も分配の原資とすることが可能で、実際に多くの投信で元本相当部分からの配当が行なわれている。株式会社で言うところの「タコ配」だ。利益も出ていないのに配当すれば、タコが自分の足を食っているようなものだ、というので、昔から「タコ足配当」あるいは「タコ配」と呼ばれ。。。

以下はオリジナルページ(有料)で→ http://www.fsight.jp/article/11214

2012-03-12

ブータン・ブームの陰に「成長しなくていい」症候群

| 19:26

 昨年3月、ブータン王国を取材で訪れました。ブータンが標榜するGNH(国民総幸福)について取材するためです。帰国後、何本か原稿を書き、ネット検索でもヒットするようで、何件か講演依頼をいただき、お話するチャンスがありました。GDPではない幸せの指標というところに、多くの日本人が惹かれているのは間違いありません。しかし、ブータンのGNHも成長を否定しているのではありません。日本にはむしろ、持続的、安定的な成長がないことが問題だと思うのですが、いかがでしょうか。新潮社フォーサイトに書いた最近のブータン論です。


 昨年11月、ブータン王国のジグメ・ケサル・ナムゲル・ワンチュク国王と、10月に結婚したばかりのジェツン・ペマ王妃が国賓として日本を訪れた。日本の着物に似た民族衣装に身を包んだ国王は皇居での歓迎式典や国会での演説のほか、慶應義塾大学での演説などを精力的にこなした。国交樹立以来25年に及ぶ日本の協力に感謝すると共に、東日本大震災で傷ついた日本を励まし、日本の復興に祈りを捧げた国王の実直で虚勢を張らない謙虚な姿勢に、多くの日本人が共感を覚え、国中で大きな話題となった。ブータンヒマラヤ山脈の南側に位置する。九州とほぼ同じ面積の国土に、東京都練馬区並みの70万人が住む。仏教国で、正式な国名は「ドゥック・ユル(雷竜の国)」で、国旗にもこの竜が描かれている。…

以下はオリジナルページで(有料)→ http://www.fsight.jp/article/11158 

2012-03-09

円高進行中に何故か膨らむ「円安リスク」への警戒感(2011/11/29)

| 12:35

近所のスタンドで、レギュラーガソリンが1リットル=150円前後になりました。原油価格の上昇のためでしょう。ニューヨークの原油市場の価格が末端の小売り価格に影響するまでには3カ月ぐらいのタイムスパンがあると言われますので、2月からの円高修正はまだ価格に反映されていないと見るべきでしょう。円安が進めば、さらにガソリンは高くなるということでしょう。これ以上、円安になると、むしろ円安のダメージの方が大きくなってくるように感じます。昨年11月の終わりにフォーサイトに「円安リスク」を書いた時には注目されませんでしたが。。。


 一向に収まらない円高に対して、政府日銀は円売りドル買い介入を繰り返している。10月31日には、民主党政権になって4度目となる介入を実施。8兆円規模というこれまでにない大型のものだった。昨年9月、今年3月、8月、そして10月の4回合計の介入額は15兆円を超えた。さらに政府は、2011年度の第3次補正予算で約2兆円にのぼる円高対策を盛り込んだ。具体的には生産・研究開発拠点を日本国内に置いた場合に補助金を支給する立地補助事業や、中小企業向けの緊急保証・特別貸付などだ。円高による産業空洞化や雇用喪失を防ぐとしているが、直接的に円高を止める政策というよりも、円高で苦しむ企業への“支援”といった側面が強い。…

以下はオリジナルページで(有料)→ http://www.fsight.jp/article/11003

2012-03-08

国民負担の責任は頬被り。エルピーダ破綻で明らかになった経産省「官僚たちの夏・再び」の罪

| 22:49

 わが家の近くに証券会社の社長だった方の未亡人が住んでいます。「うちの亭主は相場師だったからね」といって笑っておられますが、リターンを求めてリスクを取る昔ながらの経営者だったことがお話から分かります。最近の日本の大企業リスクを取らないことで生き残ったサラリーマンが経営者になっています。そのせいか企業は内部留保を溜め込み、雇用も減らし、身を縮めて、まったくリスクをとらなくなりました。経営者が不甲斐ないというのは疑いのない事実だと思います。だからと言って、国が資本を出し、官僚が経営に口を出すことが良い結果を生むはずはありません。エルピーダの失敗を経産官僚は猛省すべきでしょう。

以下、編集部のご厚意で拙稿を再掲させていただきます。

オリジナルページ「現代ビジネス」 →  http://gendai.ismedia.jp/articles/-/31988


 半導体製造のエルピーダメモリが2月27日、会社更生法の適用を東京地裁に申請し、破綻した。負債総額は約4480億円と、製造業としては過去最大である。同社は日立製作所と日本電気DRAM事業を統合して誕生、その後、三菱電機のDRAM事業も譲り受け、わが国唯一のDRAM専業メーカーとなっていた。シェアは世界3位だったが、サムソンなど韓国メーカーとの競合に破れた。

 2009年には経済産業省が主導して産活法(産業活力再生特別措置法)による支援を決定。公的資金300億円が投入された。政府が一般企業に公的資金を注入した第1号として注目されたが、結局、経産省お声がかりの「日の丸半導体」はわずか2年半で失敗に終わった。

 問題はこの破綻によって国民負担が生じる可能性があることだ。経産省によるエルピーダ支援スキームでは政府系の日本政策投資銀行の投資(出資)分の8割と、危機対応融資の5割については、やはり政府系の日本政策金融公庫に損失補填を求めることができる仕組みになっている。何段階も政府系金融機関が挟まることで解りにくくなっているが、この補填分が実質的な国民負担となる。

 政投銀はエルピーダの優先株284億円を保有、危機対応融資も100億円行なっている。284億円の8割に相当する227億円と100億円の5割である50億円の合計、277億円が国民負担になる可能性があるわけだ。

 新聞報道によると、安住淳財務大臣は記者会見で「何らかの形で返済を」と述べたという。当然である。いち民間企業の損失を国民の税金で穴埋めするなど前代未聞だからだ。だが、産活法という法律に従って行なった投融資だけに、そう簡単に優先的返済されるわけではない。実際、会見での発言はしどろもどろだったようだ。「(業界内で)一定のシェアは現在も持っているので、きちっと再生をしてもらい、何らかの形で、納税という形になるかもしれないが、返してもらうというか、息を吹き返してもらい、国民へ貢献してもらいたい」というのである。

 では私企業の破綻による損失の責任は誰が負うのか。エルピーダの救済スキームを主導したのは明らかに経産省である。経産省事務次官や担当の局長は損失の責任を負うのだろうか。それとも、政府系金融を握る財務省に泣きついて、国民負担と目に見えない格好で損失処理をするつもりだろうか。

 経営破綻の一義的な責任が経営者にあることは言うまでもない。だが、特定の企業や産業を支援するという目的で資金を提供し、陰に陽に経営に関与することを国としてやるべきだったのだろうか。

 民主党政府の成長戦略の土台となった経済産業省の産業構造改革政策は、積極的に国家が関与することで、輸出産業を伸ばすというものだ。経産省幹部は「国家が輸出産業を支える重商主義の時代が再びやってきた」と言っていた。日本で同業種の会社の数が多く、価格を叩きあっているから儲からない、というのが長年の経産省の見立てで、そのためには同業種の合併を促進しなければならない、としてきた。

 お気づきの通り、エルピーダはそんな経産省モデルの第1号といってもいい存在だったのだ。

 ここ数年、経産省の幹部の間には「民間は不甲斐ない」という思いが蔓延している。学生時代に自分より成績の悪かった同級生役員になっている企業を見れば、「あいつより俺の方ができる」と思うのは人情ではある。経産官僚の間には、日本企業を立て直すには俺たちが引っ張っていくしかない」という思いが強まっているのだ。

 まさに、高度経済成長を支えた通商産業省(現経済産業省)の官僚をモデルにした城山三郎の小説「官僚たちの夏」の世界である。2009年に再びテレビドラマ化されたこともあり、経産省内には「官僚たちの夏・再び」といったムードが広がっているのだ。

 高度経済成長期にある発展途上国ならばそれでもいいだろう。だが、資本を調達する市場も整い、金融機関も潤沢な融資資金を抱える今の日本にあって、役所が口を出せばどうなるか。過保護な政策がますます企業経営を弱体化させるだけのことだろう。

「うちの業界はお上に何の補助金ももらっていないから世界で闘えるまで強くなったんだ」---。かつて電子部品会社の創業者がそう語っていた。バブル期前の「円高不況」と呼ばれた80年代、鉄鋼各社には通産省の官僚が天下っており、見事なまでに各社の国内シェアは一定で、"業界秩序"が守られていた。その後は需給に業界再編がすすめられたが、結局は世界に伍して闘っていける十分な力が付かず、業界としては世界の成長を取り込むことができなかった。電子部品会社の創業者をそんな役所の支えに頼っている経営陣を批判したのだ。

 それから30年たって、国に頼らないと言っていた企業が軒並み政府の支援を当てにするようになった。家電に対するエコポイントやエコカー補助金も、言ってみれば国民の税金を使った支援策だ。その究極が、国による出資まで受けたエルピーダだったのである。

 担当した経産官僚たちは、「ここまで円高が進むとは想定できなかった」と言い訳するに違いない。だが、経営者の責任は外部環境の変化で免責されるものではない。すべて結果責任が問われるのが経営だ。

 財務官僚のOBは「円高が大変だと言っているが、実質実効為替レートでみれば、90年代半ばのような円高水準にあるわけではない。経営が甘いのだ」と切り捨てる。そんな甘い経営を許してきたのも、国による過保護な産業政策があったからではないのか。

 エルピーダの支援を巡っては、経産省の現役官僚で当時、計画策定に携わっていた木村雅昭・元審議官をエルピーダ株を妻名義の口座で売買したインサイダー取引容疑で東京地検特捜部が逮捕する不祥事まで明らかになった。国が私企業の支援に携わればロクな事が起きないということを、身をもって証明したとも言える。「官僚たちの夏」は百害あって一利なし。経産省の政策転換が求められるべきだろう。

2012-03-01

「31年ぶり貿易赤字」は大ごとではない。 むしろ景気回復の予兆といえるかも。

| 00:13

日銀の“インフレ・ターゲット”導入をきっかけに円高が修正され、株価も上昇しました。こんな事なら、もっと早くにやってみれば良かったのに、と思います。貿易収支が31年ぶりに赤字になったこともあり、日本経済の大きな転換点になる可能性があります。といっても、ますます悪くなるというわけではなく、ひょっとすると、国内におカネが回り始めることになるかもしれないと思うのです。大胆な推論ではありますが、以下、3月1日発売のエルネオスに掲載した連載で書いてみました。編集部のご厚意で以下に再掲します。

硬派経済ジャーナリスト

磯山友幸の≪生きてる経済解読≫連載──

「現代型の貿易立国」が進んだ

 輸出額と輸入額の差である「貿易収支」が昨年、一九八〇年以来三十一年ぶりの赤字になった。新聞には「揺らぐ輸出立国」「輸出立国の土台崩れる」といった見出しが並び、あたかも日本経済が危機に直面しているかのようなトーンで報じられた。本当に日本という国は立ちいかなくなってしまうのだろうか。

 まず、昨年が貿易赤字になった理由を見てみよう。財務省が一月三十日に発表した貿易統計の二〇一一年分によると、輸出額(確報値)は六十五兆五千五百五十一億円、輸入額(速報値)は六十八兆五百十一億円で、差し引き二兆四千九百六十億円の赤字だった。輸出立国の終焉というタッチの新聞の見出しを見ると、円高や東日本大震災の影響で、日本の輸出産業が壊滅的な打撃を受けているように思うだろう。だが、現実は大きく違う。

 実は、昨年の輸出額は二・七%しか減っていない。もちろん、リーマン・ショックによる世界景気後退の影響を受けた〇九年に輸出は三三・一%も減り、一〇年に二四・四%盛り返した後だから、比較となる一〇年の輸出額の水準自体が低いという反論もあるだろう。だが、輸出額はバブルのピークだった九一年が四十二兆円、名目GDP(国内総生産)のピークだった九七年も五十兆円だったので、それをはるかに上回る輸出額なのだ。

 では、なぜ赤字になったか。答えは輸入の急増である。昨年の輸入額は一二・〇%も増えたのだ。財務省の資料には主要商品別の統計もある。それを見ると理由は一目瞭然だ。原油や液化天然ガス(LNG)など「鉱物性燃料」、つまりエネルギーの輸入額が二五・二%も増えたのだ。しかも「鉱物性燃料」は輸入全体の三二%に達している。原油価格の大幅な上昇や、原発の停止に伴うLNGの需要増などが大きいのだ。食料品の輸入も一二・四%増えているが、輸入全体に占める割合は八・六%にすぎない。

 つまり、貿易赤字になった最大の理由は、エネルギー輸入額の急増なのだ。これは第二次石油危機で貿易赤字になった七九年、八〇年と同じ構造といえる。

 だが、当時と違うことがある。三十一年前は貿易赤字になると共に、経常収支も赤字になったのだ。つまり、石油危機で価格が急騰した原油を海外から買うために資金のやり繰りが必要になったわけだが、当時の日本にはまだまだ対外純資産など取り崩せる貯蓄がなかった。街角のネオンサインを消して電力消費を抑えるなど、「省エネ」を進めざるをえなかったわけだ。

 だが、一一年は貿易赤字にはなったものの、経常赤字にはなっていない。財務省の国際収支状況の速報値では、経常収支は九兆六千億円の黒字だ。前年の十七兆一千七百六億円に比べれば四四%の減少だが、黒字を保っているのである。

 それはなぜか。海外と日本の間でやり取りされる利息や配当金などの収支である「所得収支」が黒字だからだ。つまり、海外から利息や配当が日本に入ってきているのである。

 しかも、その内容を見れば、日本の投資家が海外に株式投資して受け取る配当が増えているということもあるが、それよりも日本企業の海外子会社などが稼いだ利益を配当として本国に送金しているものなどが大きい。日本企業が生産拠点を海外につくるなど、グローバル化が進展していることで、日本からの輸出で儲けるのではなく、海外生産で儲けるように急速に変わってきているわけだ。税制を見直して海外子会社に溜まった利益を日本に還流させることを促進している面もある。

 この所得収支は九〇年代後半から増え始め、〇五年には貿易収支を上回る黒字額になった。一一年は十四兆円余りに達している。この貿易収支の黒字よりも所得収支の黒字が大きくなったことを指して「輸出から投資へ」と書く新聞もある。輸出を担うモノづくりの製造業から、投資収益を狙う金融業への転換というわけだ。そうした業態転換が進んでいる面もないわけではないが、必ずしもそればかりではない。

 すでに指摘したように、日本の製造業がグローバル化して生産拠点を海外に移していることが大きい。モノづくりのグローバル化が進んだとみるべきで、経済のグローバル化の恩恵を受けて進んだ「現代型の貿易立国」と考えることもできるだろう。

国内に回るお金が増える

 エコノミストなどの中には、貿易収支が赤字となり経常収支が十兆円を切ったことを指して日本の国力の低下であるとする指摘もある。だが、本当にそうなのか。そもそも貿易赤字は悪なのだろうか。逆に言えば、貿易黒字を山ほど稼ぐほうが良いことなのだろうか。

 八五年以降で経常収支の黒字が十兆円を切ったのは、昨年を除き四年しかない。八九、九〇、九一年と九六年である。これらの年に国民生活は疲弊したろうか。八九年から九一年はまさにバブルのピークである。不動産の高騰などを背景に国内消費に火がついた。輸入が大きく増えたほか、海外旅行など海外で使われるおカネも急増した。九六年も猛烈な円高によって輸入や海外旅行が急拡大、これによって経常収支が悪化した。

 逆に経常収支の黒字が大きく積み上がった九〇年代後半以降は、デフレが進み国内景気は悪化した時期と重なる。

 経常収支の黒字は結局のところ、米国債や海外株式などの投資に回る。貿易黒字を積み上げて“儲けて”いるつもりでいても、実際は日本国内にはおカネは流通せず、デフレが進んだのだ。ということは、貿易収支が赤字になれば、逆に国内に回るおカネが増え、消費が盛り上がる可能性があるのだ。

 輸入が増えるということは、国民が豊かな生活をエンジョイしているという見方もできる。昨年の貿易統計で面白い数字がある。自動車の輸入が二三・四%も増えたのだ。台数ベースの伸びは一八・五%なので、高級車の輸入が増えたことがうかがわれる。円高で安くなった高級外車を買う人が増えたのだろう。輸入高級車が国内で売れれば、販売代理店だけでなく、整備などのサービス業も潤う。貿易収支の赤字転落は、国内消費が動き始める予兆といえるかもしれないのだ。