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2012-03-14

AIJ問題で、なぜか追及されない「金融庁の怠慢」。不透明さの指摘にも検査は一度もなし。

| 23:53

2000億円近い年金資産が「消えていた」AIJ問題は、なぜこんな事が長年放置されたのか徹底的に検証すべきでしょう。国会でも集中審議が行われたほか、民主党自民党にもワーキングチームが発足、制度変更などの議論が始まります。規制を強化する、という役所好みの結論に陥ることなく、今まで穴の空いていた制度をきちんと整備すべき時でしょう。現代ビジネスにアップされた記事を編集部のご厚意で再掲します。

オリジナルページはhttp://gendai.ismedia.jp/articles/-/32040


 AIJ投資顧問(東京都中央区)が厚生年金基金などから預かった年金資産の大半を消失させた問題で、2005年以降、金融庁証券取引等監視委員会に同社に関する4件の情報提供があったことを、自見庄三郎金融相が記者会見で明らかにした。AIJは高い運用利回りを喧伝していたが、その運用実態についてはほとんど明らかにされず、業界内でも首をかしげる向きが多かった。

 情報は金融庁の利用者相談室と証券監視委の情報受付窓口に寄せられ、3件が匿名、1件が実名だったという。自見金融相は「個別の内容は申し上げない」としており、具体的にどんな情報がもたらされたかは不明だ。だが一方で、金融庁は今回の問題が発覚するまでAIJに対して一度も検査を行っておらず、"動きの鈍さ"が改めて明らかになった。

 AIJの"高利回り"は基金の間で高い人気を誇っていたが、その一方で情報開示については"不安"が付きまとっていた。

 格付投資情報センターが全国の基金にアンケート調査を行って実施している「年金顧客評価調査」では2008年にAIJが総合首位になっていた。その結果を報じた同センターの「年金情報」には以下のように書かれている。

 AIJの場合、運用成績の良さが全体評価での高い評価につながっている。同社の運用は株式債券先物取引オプション取引などを使い、相場の影響を受けずに収益を稼ぐ戦略だ。株式オプション取引では、株式が買われすぎと判断する局面でコールオプション(一定期間内に一定価格で買う権利)を、売られすぎと判断する局面でプットオプション(同・売る権利)をそれぞれ売り建て、オプション料収入を収益の源泉としている。

 〈 年金運用が一般にマイナス利回りだった07年度に同社の主力ファンドは8%以上の利回りを確保し、08年度も10月の運用は低迷した模様だが、上半期は約5%のプラス利回りを維持。2ケタの高利回りを得ていた05年度以前に比べると後退したが、顧客からは「安定的なパフォーマンスを継続している」(大手企業の基金型確定給付企業年金)と評価された 〉(2008年11月17日号)

 公表していた運用成績が真っ赤な嘘だと判明した今日では、何とも空しい評価だ。一方で、「年金情報」の別の号では情報開示に絞って分析しているが、AIJについては以下のような記述があった。

 〈 ただ、採用先の年金基金の間ではヘッジファンドである同社の運用成績に満足する声が多い一方、運用成績の根拠や開示内容に関する不透明さを指摘する声もある。中には不透明さを認識しつつも、運用成績の良さからあえて問題視しないという基金もある 〉(2009年1月5日号)

 ここで指摘されているように、情報開示の不透明さは当時から指摘されていたのだ。金融庁にもたらされた情報もこうした不透明さに関するものだったと思われる。だが、金融庁は動かなかった。

 定例検査は2年に一度という建前だが、実際には年間15社程度といわれる。投資顧問会社はぜんぶで263あり、単純計算しても17年に1度しか回ってこない。今回問題が発覚したのも情報提供がきっかけとされるが、過去の4件の情報提供や、業界誌の指摘はまったく生かされなかったわけだ。証券監視委の情報受付窓口には年間6000〜7000件の情報提供があるとして、いかにも4件の情報提供が「少数」かのように金融庁は言う。だが、年金という多数の資金運用を預かる投資顧問の実態把握は金融庁の最低限の仕事だろう。どうみても明らかな怠慢だ。

 問題発覚後に金融庁は慌てて263の投資顧問すべてに一斉検査に入ることを表明した事が、自らの怠慢を物語っている。このところの金融庁の銀行など金融機関に対する検査は緻密さを増している。「かつては箸の上げ下ろしと言われたが、今や箸の握り方どころか手の洗い方にまで口を出す」(金融機関経営者)とまでいわれる。その金融庁がなぜ、ここまで投資顧問を放置してきたのか。

 金融庁投資顧問に問題が多いことは百も承知だった。証券監視委が2011年2月に発表した「投資助言・代理業者に対する検査結果について 」にはこう書かれている。

 〈 投資助言・代理業者に対する過去の検査において、その役職員の法令遵守意識の欠如等を原因とする重大な法令違反等が多数認められたことを踏まえ、投資助言・代理業者の法令遵守状況に重点を置いた検査を集中的に実施してきた 〉

 つまり、問題が多い業界だと認識していたわけだ。その検査結果を見ても驚く。2009年3月から2011年1月までの2年弱の間に74の投資顧問などに対する検査に着手し、11社で「重大な法令違反等」が見つかり、登録抹消や業務停止などの勧告処分を行っている。にもかかわらず、この検査対象からもAIJは漏れていた。

 金融庁関係者からは、投資顧問は2007年以降認可制から登録制に代わり、比較的簡単に業者登録ができることになったことから、検査官の手が回らなかった、という反論が聞こえてくる。規制を緩和したのが悪い、人手が足らないのが悪い、という典型的な「お役所」の言い訳である。だが、問題の根は「役所の縄張り意識にある」と官僚OBは言う。

 263の投資顧問は150兆円近い年金資産の運用を受託しているが、その基金の管轄は厚生労働省なのだ。金融庁は本来「投資家保護」を担い、その投資家には基金も入るのだが、基金に対する規制権限などは基本的に厚労省に握られている。基金のカネを守るのは金融庁の埒外だという意識がある、というのだ。直截的に言えば、基金の常務理事などの天下りポストはすべて厚労省のシマだ。かたや投資顧問の多くは零細企業で天下りなどのメリットはない。金融庁幹部からすれば、グループ企業を含めて天下りのポストが潜在的にたくさんある大金融機関に関わった方がメリットが大きいということになるのだ。

 大新聞の報道を見ていると、基金の常務理事の素人ぶりや、運用規制の甘さ、旧社会保険庁を中心とする厚労省OBの天下りなどへの批判が次々と出てくる。もちろん、巨大官僚組織に肥大した厚労省に問題が多いのは事実だし、それは正されるべきだ。だが厚労省批判の色彩ばかりで、金融庁の怠慢に矛先が向かないのはなぜか。記者クラブを通じた金融庁の情報管制が成果を上げているのだとすると情けない。