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2012-05-09

民主党政府「行革やる気なし」で霞が関の高笑い。私的懇談会発足で「行政刷新会議」もお払い箱に

| 16:28

現代ビジネスにアップされた原稿を編集部の御厚意で再掲します。オリジナルページ→http://gendai.ismedia.jp/articles/-/32501 


 政府が設置した「行政改革に関する懇談会」の初会合が5月7日、首相官邸で開かれた。出席した野田佳彦首相は、行政改革社会保障と税の一体改革と同じぐらい大きな課題だと述べ、「より一層、身を切る改革を行えという国民の声をしっかり受け止め、結果を出していきたい」と語ってみせた。

 メディアも、中曽根康弘内閣当時の「第2次臨時行政調査会(土光臨調)がモデル」「平成版土光臨調」と官僚受け売りの形容詞を付けて報じたが、その内実はお寒い限り。どうやら民主党政府政権交代以来掲げてきた「行革刷新」の旗を、ついに降ろしにかかっているようなのだ。

 政権交代後の民主党政府の二枚看板が「国家戦略室」と「行政刷新会議」だったのは周知の通りだ。共に国家戦略相、行政刷新相というそれまでに無かった名称の大臣を置き、政治主導で「国のかたち」を根本から作り変えるはずだった。

 ところが、国家戦略室は当初計画していた「国家戦略局」への格上げもままならず、「国家戦略の司令塔」とは程遠い存在になり果てた。

 一方の行政刷新会議はというと、「消費税増税に国民の理解を得るには今こそ行政刷新が重要」という段になって事実上消滅することとなった。行政刷新会議の役割を発展的に受け継ぐのが、この日初会合を行った懇談会という位置付けなのだ。実際、10人のメンバーのうち稲盛和夫京セラ名誉会長を除く9人は行政刷新会議の民間議員がそのまま名前を連ねている。

懇談会は行政構造改革会議の前身?

 ではなぜ、行政刷新会議ではなく、新設の懇談会なのか。

 行政刷新会議政権交代後の2009年9月18日に閣議決定され設置が決まった。閣議決定には以下のように書かれていた。

「国民的な観点から、国の予算、制度その他、国の行政全般の在り方を刷新するとともに、国、地方公共団体及び民間の役割の在り方の見直しを行うため、内閣府行政刷新会議を設置する」

 野党からは法的な設置根拠が薄弱だと批判されてきたが、まがりなりにも閣議決定されている。会議の議長は首相、副議長は行政刷新相とし、構成員は「内閣総理大臣が指名する者及び有識者」とされた。つまり、首相行政刷新相が強力なリーダーシップで行政全般のあり方を刷新する仕組みを作ったわけだ。

 その後、事業仕分け特別会計改革、独立行政法人改革などが批判はあるものの前進したのは、政治主導の受け皿として行政刷新会議があったからにほかならない。

 ところが、今年になって民主党行政刷新会議を廃止する方針を打ち出した。産経新聞によれば「消費税増税に向け、公務員人件費の削減や国有資産の売却など行政刷新会議が取り扱わなかったテーマを中心に、行政改革全般に取り組むため組織の見直しが必要と判断した」ためだという。

 この方針に従って4月13日に民主党国民新党議員立法として「行革実行法案」を国会に提出した。首相を本部長として全大臣で構成する「行政改革本部」と民間有識者による「行政構造改革会議」を設置、会議の提言を受けて本部が工程表を作り実施していく、というものだ。

 もっとも、国会が衆参ねじれ状態の中で、この法案の成立は覚束ない。今回発足した懇談会は行政構造改革会議の前身という位置付けだとされる。

霞ヶ関に"封じ込め"られた民主党内閣

 では、行政刷新会議よりも強力な推進母体ができるのか。

 懇談会の位置付けは行革担当である岡田克也副総理の「私的懇談会」である。まったく何の法的根拠もない。行政改革は法律のプロである官僚の権益に斬り込むことに他ならない。その主体が「私的懇談会」では、閣議決定を経た行政刷新会議以上の権限を持てるはずはない。

 産経の記事では、行政刷新会議では公務員の人件費削減などに取り組めないように読める。だが、すでに示したように設置根拠には「国の予算の刷新」と書かれているので、公務員人件費の削減も主導できる権限を行政刷新会議は持っている。

 全大臣が参加する行政改革本部ができるとすれば、権限強化になるのではないかと思う向きもあるだろう。だが、それはまったくの逆だ。

 首相行政刷新相が決めれば各省の権益に斬り込める行政刷新会議と違い、各省の大臣がメンバーになっていれば、役所の頭ごなしに官邸主導でいきなり物事が決まる可能性は消える。各省からすれば、これでようやく枕を高くして眠れるというわけだ。

 実は、ひと足早く国家戦略室が同じ手法によって霞が関に"封じ込め"られていた。「国家戦略会議」の創設によってだ。

 国家戦略室行政刷新会議と同じ2009年9月18日に「内閣総理大臣決定」によって設置された。その規則には「内閣官房に、税財政の骨格、経済運営の基本方針その他内閣の重要政策に関する基本的な方針等のうち内閣総理大臣から特に命ぜられたものに関する企画及び立案並びに総合調整を行うため、当分の間、国家戦略室を置く」とされている。国家戦略相は首相のリーダーシップを支える右腕になるはずだったのだ。

 2011年秋に閣議決定によって「国家戦略会議」が設置された。これによって国家戦略室の力が増すと思われたが、結果は逆になった。国家戦略会議の現在のメンバー14人のうち8人を閣僚が占める。非閣僚のうち2人は白川方明・日本銀行総裁と緒方貞子・国際協力機構前理事長。純粋民間人は古賀伸明・連合会長を含めて4人しかいない。4月の会議にはさらに2人の大臣が加わり閣僚が16人中10人を占めた。首相と国家戦略相が民間人を巻き込んでも過半数は得られない。

増税法案を通すためのポーズなのか?

 小泉純一郎首相当時、改革の司令塔となったのは「経済財政諮問会議」だった。委員11人中6人を閣僚が占めていたが、「首相と官房長官が民間人4人と連携すれば各省が反対する改革案を押し通すことができた」と当時のメンバーのひとりは語る。つまり、首相にリーダーシップを発揮させるための"仕掛け"が重要だということなのだ。

 振り替えれば、中曽根首相がフル活用した土光臨調も、首相自身がリーダーシップを発揮するための"仕掛け"だったと言える。当時の経団連会長は「財界総理」と呼ばれ、経済界に圧倒的な影響力を持っていた。

 清貧生活に甘んじた土光敏夫氏という個人の"威光"があったのも事実だが、それを活用した中曽根首相後藤田正晴官房長官の政治力の勝利だったと見ていい。そんな"仕掛け"づくりにことごとく失敗してきたのが政権交代以降の民主党内閣にほかならない。

 消費税増税に不退転の決意で臨むという野田首相行政改革に前向きな姿勢を見せるのも、増税法案を通すためのポーズに過ぎないということが透けて見える。そんな形だけを整えるために名前を持ち出された土光氏は泉下で怒りに震えているに相違ない。