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磯山友幸のブログ RSSフィード Twitter

2012-08-29

会計基準でも懸念されるガラパゴス化  「IFRS反対」で失われる日本の国益

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国際会計基準IFRSは、私が経済ジャーナリストとして20年近くにわたってフォローし続けているテーマです。日本は国際基準のヘゲモニーを握るのは、外交力の弱さなどと相まって苦手なのですが、この会計基準分野では国際的な発言力をかろうじて保っています。IFRSを決めるIASBという団体の理事を1人、その理事を選ぶ評議員を2人送り込んでいるのです。ところが日本の経済力の低下と他のアジア諸国の勃興で、このポストを明け渡せ、という要求が強まっています。虎視眈々と狙っているのは、韓国シンガポール中国などです。日本は今のポジションを守るためにも、IFRSを積極的に導入していく立場なのですが、昨年来、急速に国内で反対派が、反IFRSキャンペーンを展開しています。国際基準に背を向け日本基準を守るのが国益だという主張は、まるで幕末の攘夷論のようです。月刊エルネオスの連載でも、この話を書きました。会計基準に関心のないビジネスマンにも読んでいただけるように配慮したつもりです。以下、編集部のご厚意で再掲します。

エルネオス→http://www.elneos.co.jp/

8月号

反対派と推進派が不毛の争い

「国際会計基準IFRS」をご存じだろうか。大企業の経理担当者などを除けば、その内容を詳しく知っている人は稀ではないか。だが、企業がどうIFRSに向き合うかは、今後の日本の針路を左右しかねないほどの大きな問題をはらんでいる。

 会計基準はいうまでもなく、企業が決算書を作る際のルールである。企業取引のグローバル化が進み、企業への投資マネーも国境を越えて動き回るようになる中で、この会計ルールを世界的に統一しようという動きが強まった。その中で登場してきたのがIFRSである。実は日本はこれを全上場企業に義務付けるかどうか、結論を迫られている。

 英国に本部を置く国際会計基準審議会という国際組織がつくるIFRSは欧州諸国を中心に広がり、二〇〇五年以降は欧州連合(EU)の上場企業に義務付けられた。一方で、米国は長年、「US・GAAP」あるいは「SEC基準」と呼ばれる自国基準こそが世界で最も優れた事実上の世界基準だという立場を貫いてきたが、長年の交渉の末、IFRSと一本化する方針を掲げ、作業を進めている。

 わが国は「日本基準」を国際的なルールに調和させる努力をする一方で、長年、国際会計基準審議会に代表を送り、IFRSの基準づくりにも関与してきた。さらに、日本の上場企業米国基準を使うことも認めてきた。最近では上場企業が任意にIFRSを使うことも認めたため、現在は、日本の上場企業の使う会計基準が「日本基準」「米国基準」「IFRS」の三つも並存するという異常な状態になっている。会計基準が違えば、同業同士でも決算比較が簡単にはできないのだ。

 日本の会計基準の方向性を決める金融庁の企業会計審議会は〇九年に報告書をまとめ、IFRSを全上場企業に義務付けるか一二年に結論を出すとした。一五年頃には義務付けられるのではないかという見方が広がり、IFRS解説本などが書店に並ぶほどだった。

 ところが昨年六月に状況が一変する。金融担当大臣だった自見庄三郎氏が突然、「政治主導だ」として、一二年中に結論を出すのを先送りすると宣言したのだ。もともと会計基準の設定は政治や官僚機構からの独立性が重要だとされ、日本も会計基準の設定を民間組織が行うように変更されていた。国の財政や政策を遂行するために、ルールを恣意的に変更することがないようにしようという国際的な合意が背景にあった。日本でも国債が大幅に下落した時に、保有している銀行や企業に会計上の損失が出ないよう、大蔵省が主導して会計基準を変えたりした前例があったが、会計基準には政治が口を出さないという大前提を自見氏は堂々と破ったわけだ。

 自見氏はもともと金融には素人で、大臣就任まで会計基準について関心があったわけではない。背後に反IFRS派の企業経営者らがいた。自見氏は大臣の権限で、企業会計審議会に十人もの反IFRS派を臨時委員として送り込んだ。これまでの議論を数でひっくり返そうとしたのだ。

 反IFRS派はIFRSの会計基準としての問題点をあげつらい、日本基準が優れていると主張した。「IFRSを導入すれば日本の製造業が滅びる」とし、IFRSは欧米の陰謀だといった荒唐無稽な主張を繰り返した。IFRSを採用したドイツ韓国の輸出製造業がむしろ隆盛を極めていることを見ても、まったく根拠がない話だった。また、反IFRS派の経営者らの属する会社の多くが米国基準を使っているなど、矛盾点もあった。

 反IFRS派はIFRS導入は日本の国益を損ねるという論陣を張っているが、IFRS推進派も反IFRSこそが国益を損なうという主張をしている。まるで幕末の攘夷派と開国派のような対立に発展しているのだ。

 推進派の主張は、IFRSならば会計基準をつくる過程で日本人の理事が議論に加わり、日本としての主張もできるが、米国基準では日本は一切何の主張もできないというわけだ。むしろ、積極的にIFRSを受け入れることで日本の発言権を増そうというのである。

 実際、IFRSをつくる国際会計基準審議会アジア太平洋サテライト・オフィスが年内にも東京にオープンするが、背後には誘致したい各国間のつばぜり合いがあった。日本がIFRSに積極的に取り組む姿勢を示すことで、推進派が誘致合戦に勝利したのだ。

会計基準ガラパゴス化は避けよ

 金融庁の官僚たちは、国際的な規制の面でもIFRSの重要性を痛感している。このため、自見氏の「政治主導」にも抵抗し、日本国内でIFRSの扱いが逆戻りすることだけは食い止めているが、この一年、議論は全く進んでいない。グローバル化対応で、確実に日本は時間を浪費してしまったのだ。

 この間に韓国は全上場企業にIFRSを義務付け、中国もIFRS採用に前向きな姿勢を見せている。韓国中国も、IFRSに積極的な姿勢を示すことで、基準決定に関与できる理事や理事の選任権を持つ評議員の枠を確保しようと動いている。日本は早くからIFRSづくりに参画してきたため、理事一人、評議員二人のポストを得ているが、これを虎視眈々と狙っている。日本国内での反IFRS派の動きは、結果的に韓国中国に塩を送っている格好になっているのだ。

 米国がIFRSの全面採用に慎重な姿勢を見せていることを理由に、日本もIFRSを採用すべきではないと主張する会計学者などもいる。だが米国が使う米国基準とは異なり、日本基準に国際競争力がないのは明らかだ。

 グローバル競争をしていく中で、日本の唯我独尊の体質がガラパゴス化を生じさせているが、規格化競争でも日本が破れ、ガラパゴス化している例が少なくない。

 会計基準の分野で日本がガラパゴスとなれば、結果は明白だ。日本に世界からの投資資金は集まりにくくなり、日本企業も海外での活動がやりにくくなる。つまり、日本企業の競争力が落ち、日本の資本市場が一段と先細ることになる。

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