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2012-10-02

日系子会社で不正経理が横行!? アジア拠点の拡充には経理や財務・税務といった専門職人材の確保が急務

| 17:07

 「アジア子会社を舞台にした不正がもの凄いそうです。それも日本企業の子会社だけがカモだというから驚きます」

 日本CFO協会の谷口宏専務理事は舌を巻く。大手会計事務所のアジアの責任者に会った際、そんな話を聞かされたのだという。

 経済がグローバル化すれば、好むと好まざるとにかかわらず、日本企業は海外展開せざるを得ない。中でも成長著しいアジア市場を抜きにして、大半の企業の将来ビジョンは語れないだろう。そんなアジアに進出した日本企業の子会社で不正が横行しているという。

 アジア子会社へ日本の本社から派遣されて来る社長や幹部に経理や財務など内部管理のプロは少ない。営業畑を歩いた人が付け焼刃で経理書類を見ているケースが意外と多いのだ。そうなると、現実の管理は現地で採用した社員任せとなりかねない。

 もちろん数字には目を光らせる。だが、在庫の把握や現地代理店との決済など具体的なやり取りと数字の整合性となると現場任せ。そこに、商品の横流しや経費の流用などが起きる素地がある、という。無条件に現場を信用する"日本流経営"の裏をかかれているのだ。

日本企業の子会社だけが"カモ"になっている

 本社から来たエリートは数年で帰国するが、現地採用の中堅幹部は何十年のベテラン。そんな現場に任せているため、不正の実態はなかなか発覚しない。ゆえに、アジア子会社で不正が横行しているという事実にすら気付かない。

 本国以外での子会社管理に歴史を持つ欧米企業や、その国の企業では、まずそうした不正は起きない。日本企業の子会社だけが"カモ"になっているのだが、欧米の会計事務所の幹部ぐらいしか、その実態に気付いてもいない、というのだ。

 原因は明らかに、「経理や財務など経営管理の専門知識を持った人材が日本企業の子会社に圧倒的に不足しているからだ」と谷口氏は言う。

 その傍証とも言える結果が、CFO協会が行った実務検定で明らかになった、という。CFO協会は国内の経理・財務部門などの社員の知識レベルを計る「経理・財務スキル検定FASS」を実施している。これまでにのべ2万5000人以上の大手企業の社員が受験してきた実績がある試験だ。

 その試験を日本企業のアジア子会社の社員を対象に実験的に実施したのだ。対象は中国インドネシアなどアジア5ヵ国。試験は現地語で、試験内容も現地の商習慣などを反映させて見直した。日本企業のアジア子会社で、経理・財務などに従事する現地人社員1386人が受験した。

 試験結果はA〜Eの5段階で評価しているが、これまでに日本国内で受験した2万5327人の分布は、A=11%、B=16%、C=30%、D=31%、E=12%だ。

 アジアでの結果はどうだったか。中国子会社の社員は総じて優秀だったが、Aレベルが極端に少なかった。谷口氏は、「中国にAレベルの人材がいないのではなく、日本企業がAレベルの人を採用できていないのではないか」と分析する。


世界統一FASS検定のパイロット・テストの成績分布(人)

 中国では欧米企業の子会社のCFO(最高財務責任者)などに就く中国人の給与は、当然のことながら欧米水準。日本のメーカーなどではとても支払うことができない高水準になっている、という。

 インドネシアはC以上がゼロという惨憺たる結果だったが、同国内に経理・財務の専門家が圧倒的に少ないであろうことを示している。ベトナムフィリピンも同様だ。

余剰人員対策や人件費の圧縮につながる試み

 日本企業が雇用している経理・財務人材がレベルとしては不十分であることが鮮明になった。しかもこのテストを利用したのは、日本を代表する大企業ばかりだ。中小・零細企業のアジア子会社ではない。

 谷口氏は、こうしたアジア子会社に会計の専門家である公認会計士を派遣する仕組みができないか、検討している。すでに中国の大手会計事務所などとも接触。仕組みづくりを模索し始めた。

 会計士を企業に送り込む制度に谷口氏が着目したのは、実は国内で同様の取り組みを成功させた経験があるからだ。

 今、日本では会計士の就職難が問題になっている。会計士試験の合格者を大幅に増やしたものの、リーマンショックなどもあって景気が大幅に減速。大手監査法人が新規採用を絞り込んだからだ。さらに大量採用した監査法人は社内に余剰人員も抱え込んだ。一方で、企業には会計専門人材が不足している。これをマッチングできるのではないか、と考えたわけだ。

 そして2010年に始めたのが監査法人から企業への会計士の「出向研修制度」。当初、企業側は「会計士資格を持っているからといって実戦で使える人材は少ないのではないか」と懐疑的だった、というが、監査法人側が5年ほど実績を積んだ次世代のパートナー候補者を送り込むことを請合ったことで、話がトントン拍子に進んだ。監査法人側も経営の現場に通じた幹部会計士が少なくなっていることに危機感を覚えていたところだった。

 2010年春に49人の会計士が企業に出向。基本は3年の契約で、会計士には監査法人並みの給与が企業から支払われる。もっとも企業側は同年齢の社員の給与分のみを負担。差額は監査法人が研修費として企業に支払う。監査法人も全体としてみれば余剰人員対策や人件費の圧縮につながるわけだ。

 2011年には32人、2012年には35人がこの制度を利用して出向中。来年春には1期生が満3年の任期を終える。受け入れた企業の反応は予想以上で、企業からは「期間を延長できないか」「このまま転籍してもらえないか」と言った声が出ているという。

中国社会では今も会計士の絶対数不足が続く

 総合商社の一部には会計士を中途採用するケースも出始めている。だが、欧米のように会計専門職の転職が日常化し人材が流動化しているのとは状況が違う。日本企業も専門家を中途で雇いたいと思う半面、「ハズレ」の人材を引いた場合でも解雇が難しいという実情がある。

 会計士も監査法人からは希望退職を打診されたりする環境とはいえ、退職して自らの力で企業に就職できるかどうか保証はない。期限付きの出向という形をとったことで、企業にも、会計士にも、監査法人にも「一歩踏み出す」チャンスが生まれたわけだ。

 専門人材の流動化が、日本企業の会計・財務力の底上げにつながるのは間違いないだろう。では、話を戻してアジアで同様の試みは可能なのか。アジアの公認会計士を日本企業に派遣する仕組みを作ることはできるのだろうか。

 谷口氏はある意味当然とも言える現実にぶつかった。中国で会った会計事務所のトップに、「会計士を出向させられるほど、人的に余裕がない」と一蹴されたのだ、という。中国経済の成長鈍化が懸念されているとはいえ、経済成長自体は続いている。中国社会では今も会計士の絶対数不足が続いているのだ。会計士余剰に悩む日本とは百八十度逆の状況だったのだ。

 日本企業がアジアの成長を取り込んで行こうと考えれば、今後もアジア拠点の拡充は欠かせない。そのためには経理や財務・税務といった専門職人材はますます必要になるだろう。そうした人材をどう育てていくか。企業だけでなく、会計士業界や日本政府も真剣に議論する時だろう。