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2012-12-03

「分厚い中間層」「一億総中流」の復活はもはや幻想。次の政権には"三角形"の階層分布を前提にした教育改革を期待したい---冨山和彦・経営共創基盤代表取締役に訊く

| 11:45

現代ビジネスに掲載した冨山和彦さんのインタビューを編集部のご厚意で以下に再掲します。オリジナル→http://gendai.ismedia.jp/articles/-/34177


 安倍晋三総裁率いる自民党が「政権公約(マニフェスト)」を発表するなど、総選挙に向けた動きが本格化してきた。経済のグローバル化が進む中で、日本はどこへ進もうとしているのか。総選挙を経て生まれる"次の政権"の役割を、企業再生の現場で活躍する冨山和彦・経営共創基盤代表取締役に訊いた。聞き手: 磯山友幸(ジャーナリスト


 問 今度の政権はどんな政権になるのが好ましいと思いますか?

安倍晋三さんは経済をあまり分かっていないのではないでしょうか。もっとも政治家に、経済情勢を皮膚感覚として分かる人はいません。麻生太郎さんですらそうです。みな学者から聞いた話のパッチワークか、経団連の主張の受け売りです。最近の政権について言えば、「成長戦略」を作成するという時点で経済をわかっていないのではと感じます。

 マクロ経済政策を唱える学者はおしなべて、政府のなし得る事や日銀のなし得ることを過大評価しがちです。経済政策なるものが実体経済に影響を与える事を前提としている学問ですから無理もないのですが。それは竹中平蔵さんでさえそうだと思います。

 問 安倍氏の周辺は、日銀国債を買い入れるなど大胆な金融緩和を行えば経済が動き出すという主張をしていますね。

 ええ。でも、政策的介入によって経済を良くするという点について、政府がなし得ることは極めて限定的です。政治的なアリバイ作りのために政策を実行するのはともかく、余計な事をすると経済を壊してしまいます。そういう場合が殆どだと言っていいと思いますね。

 問 自民党は、これまで3年間、民主党がやってきた政策を方向転換すると言っています。

民主党は、所得の再分配に関しては直接現金給付型を志向していて、経済政策に関してはやや計画経済、ターゲット戦略的な指向性が強かった。いずれにせよ政府がなし得ることを大きく見ていた、ということです。

 安倍自民党は「国土強靭化」という古い形で支持者の期待に応えるのか、あるいは新しい形で応えるか。どちらにも行く可能性があります。ですが、閉塞感の打開を政府に期待すると、結果的に閉塞は深まります。結局は、規制を緩和して、基本的に民間に任せる。それが答えだと感じます。

 問 政府が何かをする必要はない、と。

 米大統領に再選されたバラク・オバマ氏にしても、面白い事に選挙戦では一言も「グリーン・イノベーション」について言及しませんでした。4年前はあれほど声高に言っていたのにです。それは「シェール革命」が起きたからです。

 では、シェール革命はオバマ政権が何かやった結果かというと、そうではない。むしろオバマ政権の政策は二酸化炭素削減などを促進し、旧来の化石燃料産業を追い詰めていた。その結果、彼ら自身が革命を起こしたのです。追い詰められたから、必死になってイノベーションを起こしたということです。

 問 追い詰められた民間の力だ、と。

そうです。グリーン・イノベーションに食い殺されると危機感を抱いて革命を起こした。政府の政策でシェール革命が起きたわけではないのです。民間が勝手にやったわけです。

 問 シェール革命は世界に大きなインパクトを与えるでしょうか?

少なくとも米国経済を押し上げる効果はあるでしょう。

 問 米国製造業を復活させると言っています。

 だからといって昔風な労働集約の組み立て産業には戻らない。製造業が伸びて中産階級の雇用が増えるかというと、そうはならない。所詮先進国に残る製造業の機能は、ボーイングのように非常に高付加価値なものを組み立てる知識集約度の高い製造業か、あるいは非常に設備集約的な、半導体や液晶などの無人工場のようなトップエンドの工場です。いずれにしろ平均的ブルーカラーの雇用が増えるわけではないでしょう。

 問 ではどうやって雇用を増やすのでしょう。

 一番雇用が増えるのは住宅です。住宅建設は波及効果が大きく、一番雇用を生みます。米国で住宅価格が戻りつつあることの効果は非常に大きい。シェール革命による燃料価格の下落が追い風になって企業業績を押し上げ、その資産効果で住宅需要が戻ってくる。米国は圧倒的に内需型の経済なので、外需が多少頑張っても全体を押し上げる力は乏しい。

 雇用を作るには圧倒的に住宅です。サブプライムローン問題など無理をしすぎたものの処理が4年をかけてだいぶ終わったので、新規住宅建設が増えてくるかもしれません。住宅建設に関連して家具や家電、自動車など需要が広がるので、インパクトが全然違います。日本ではなおさらそうです。日本と米国は二大内需型経済ですから。

 問 内需型経済と言いながら、円高を是正して輸出企業を復活させよ、という主張がまだまだ多いように思います。

 円が弱くなって何が起きるかというと、むしろ格差の顕在化が起きます。グローバル経済圏にいる会社やそこで働く人々は恩恵を受け、所得も増える。一方でドメスティック(国内)経済圏の人々には関係ない。むしろ円安になれば物の価格が上がるので、生活コストが上昇します。

 さらに、日本ではなぜか円安になると株が上がるので、資産効果が出ますが、それは「持てる人」が「より持てる」ようになることです。つまり、格差問題はさらに顕在化するのです。

 これは今の韓国と同じ図式です。韓国ではヒュンダイやサムスンの人々はやたらとリッチで、国内産業に居る人々は格差にあえぐ。だから皆ソウル大学を目指すわけです。それはもうイデオロギーの問題でもなければ、先進国特有の問題でもない。中国でも同じ問題は起きている。

 グローバル化によって、昔のように中産階級の厚みを作りながら順繰りに豊かになっていくというモデルが許されない。かつてのような所得の階層別分布を図式化したピラミッドがタマゴ型にならないのです。三角形のまま上がっていくしか無いわけです。

 問 それはグローバル化の影響ですか?

 今の世界経済では三角形にしていく力が自然と強烈に働くのです。産業が労働集約から設備集約、そして知識集約型に流れていく。そうなると労働集約産業は労賃の安さだけで戦うような産業になってしまう。そして世界中で安売り、低賃金競争となるので、労働集約型産業で働く人たちは三角形の底辺にいるしかなくなる。

新興国でさえそういう力が働きます。ミドルクラスの厚みが増して来たとは言いますが、これは結局三角形の底辺が、三角形の形のまま上に上がって来たという意味にすぎません。つまり格差が是正されているわけではないのです。

 問 確かにタマゴ型から三角形に変わる力が働く時、中産階級は細っていくわけですね。

 そうです。日本でさえタマゴ型が三角形に変わってきている。米国は元々放置しているから、ますます上部が細い三角形になっていくわけです。欧州では一生懸命タマゴ型を維持しようと所得再分配で頑張っていますが、その結果、財政が危うくなっています。

 問 そういった中で日本はこれからどうしていくべきでしょうか?

 もう三角形になっていくのは仕方ない。それを前提に戦略を描くことです。無理にタマゴ型に戻そうとすると、政策コストがかかる割には効果がない。政策とは逆に三角形に押し下げようとする力が自然と働くので、結局ペイしません。だから三角形になっていくんだということをある程度前提に、三角形の底辺で貧困を再生産させない方法を考えることです。

 まず1人当たり生産性を落としてしまうと、これは話にならない負けゲームです。この生産性を維持・向上させる方法が政策面であるとすれば、それは教育です。遅効性ですが確実に効果はある。それに対しては制度を整え、投資もしていくべきです。

 問 野田佳彦首相は就任演説で「分厚い中間層」の復活と言いました。そういう意味では民主党政権の3年間は、必死にタマゴ型に戻そうという努力をしていたのかもしれませんね。

 戻らないですよ。先ほども言ったように、政府のなし得ることにそんなに力は無いということです。「分厚い中間層」「一億総中流」の復活というのはもはや幻想です。むしろ三角形を前提として、どうすれば社会が殺伐とならずに、若い世代が実質的チャンスを与えられる社会を作るかです。

 それは教育の問題であり、さらにその背景にある家庭環境の問題です。昔のように父親が年収600万円で母親が専業主婦という姿はもはやありえません。夫婦で働いて合わせて600万〜700万円といモデルが現実的なわけです。そういった家庭環境のなかでちゃんと子供産み、育てるためにどうすれば良いかということを真面目に考えるべきです。

 問 この間お書きになった『30代が覇権を握る! 日本経済』は若者への革命教唆の本であるようにも思います。

 ただ革命というのはお腹がすかないと起きません。日本はこれから人口が減っていくので食えるとは思います。むしろ生産労働人口が不足しますから仕事はある。しかしその稼ぎの大半を税金や社会保険料で吸い上げられることになるので、ワーキングプア化が進むでしょう。その時にその世代がどう思うかですね。

 そしてインフレになれば、間違いなく急速に食べられなくなる。インフレが全てを解決するという説がありますが、それは間違いです。

 問 三角形になることが避けられないとして、日本全体の三角形を相対的に世界の上位に持っていくべきだということでしょうか?

 それがおそらく正しいでしょう。世界のミドルクラスの定義は今、年収2万ドルくらいだと思うので、そんなに高くありません。つまり世界基準でのミドルクラスを考えないともうダメなのです。そうなると夫婦で働いて5万ドルというのは「新中産階級」と考えざるを得ないわけです。そして、国内の格差を大きくしないためには、教育が重要なのです。

 問 グローバルで戦える人の数を増やさないと、皆グローバルの底辺になってしまうということでしょうか?

 その通りです。グローバルレベルの中産階級でいようと思ったらグローバルレベルの生産性を維持しないといけないわけです。なおかつ、たまたま運悪く三角形の底辺で生まれても、頑張れば真ん中くらいまでいけるという可能性が示されていないといけない。米国は「アメリカン・ドリーム」を信じる人によって保たれてきました。

 問 大学の役割が大きく変わるということでしょうか?

 従来の制度は東京大学を頂点としてきた。ですから小学校のときからそこを目指して勉強します。しかし、東大がアカデミックスクールかというと実は微妙です。近代文明の中で、もともと超職業訓練学校的な存在として生まれたわけです。

 文系は官僚をめざし、理系は軍事産業を担う。そういう非常に単一的なモデルを小学生まで広げてやってきたのですが、これは耐用期間を過ぎている。だからある意味では、東京大学が一番役割を失っているわけです。

 問 ようやく欧米と同じ9月入学という話が出ています。

 アカデミックスクールとして学問的真理を究めるというのは1%の天才たちの世界です。そういう人たちは中学や高校で選抜して、勝手にやらせておけばいい。残りの99%にとって大学は、所詮職業訓練機関なのです。

 今、そこが曖昧になっている。アカデミズムも職業訓練も両方ダメになっているのです。先進国でアカデミズムと職業訓練をないまぜにしている国はありません。アカデミズムを重視する大学では、早ければ20代で教授になってしまいますが、日本ではそんなことはあり得ません。

 問 安倍氏は教育改革も掲げています。

 会議を作って議論するということではなく、ともかく政策を実行に移すことでしょう。数少ない政府の役割は教育なのですから。


冨山和彦 (とやま・かずひこ)

1960年生まれ。東京大学法学部卒。スタンフォード大学経営学修士(MBA)。ボストンコンサルティンググループ、コーポレイトディレクション代表取締役社長を経て、2003年に産業再生機構の設立に参画、代表取締役専務兼COO(業務執行最高責任者)を務めた。2007年経営共創基盤(IGPI)を設立。数多くの企業再生や業界再編を手がける。

30代が覇権を握る! 日本経済 (PHPビジネス新書)

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