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2012-12-11

TPPからは逃げられない「貿易立国日本」 。ただし、交渉には勝つ覚悟が不可欠

| 20:37

月刊誌「エルネオス」に連載させていただいている「硬派経済ジャーナリスト磯山友幸の≪生きてる経済解読≫」も20回目を迎えました。毎回、できる限り問題の要点をやさしく解説しようと心がけています。今回はTPP。これだけ賛否両論が巻き起こりながら、議論の中味が国民に見えていない問題も珍しいでしょう。編集部のご厚意で以下に転載させていただきます。

エルネオス オリジナルページ→http://www.elneos.co.jp/


「例外品目」は認めない原則

 野田佳彦首相がついに衆議院を解散、十二月十六日の投開票に向けて本格的な選挙戦に突入した。自民党から民主党への政権交代が大きな争点だった三年四カ月前と比べても、山積する問題は相変わらずだ。にもかかわらず、選挙の争点は今ひとつはっきりしない。

 そんな中で、「争点の一つ」と目されるのがTPP(環太平洋連携協定)だ。野田首相は昨年十一月、「TPP交渉参加に向けて関係国との協議に入る」ことを宣言。解散後の今年十一月下旬にも、東アジアサミット参加のために訪問したカンボジアで、オバマ大統領と日米首脳会談に臨み、TPPの交渉参加に前向きな姿勢を改めて示した。

 経団連経済同友会といった経済団体はTPPに賛成で、「交渉参加に勇断を期待したい」(長谷川閑史・経済同友会代表幹事)といった声が多い。貿易の自由化を促進することが日本経済にとって不可欠という姿勢だ。一方で、農協など農業団体は組織を挙げて反対運動を展開。地元の農協などを通じて国会議員にも猛烈な圧力をかけている。農業分野で関税が撤廃されれば、安い外国産農産物が流入して日本の農業は壊滅するという理屈だ。

 果たしてどちらの言い分が正しいのか。それを考える前にTPPとは何かを見ておこう。

 貿易の自由化協定ではFTA(自由貿易協定)やEPA(経済連携協定)が結ばれる。これらは一般に二国間で結ばれることが多い。締結国間の関税を撤廃したり撤廃に向けて段階的に引き下げるが、お互いの合意の下に「例外品目」を認めるケースが多い。自国産業を保護するために特定の製品に対して関税を課すことを許すわけだ。

 これに対してTPPは、交渉参加の段階から原則として「例外品目」を認めず、「関税の全廃」を目指すのが前提になっている。環太平洋で、完全な自由貿易圏を目指そうというのが狙いなわけだ。農業団体が血眼になって交渉入り阻止を掲げるのは、ひとたび交渉が始まれば関税ゼロが既定路線になると考えているからだ。

米国中心の「自由貿易圏」創設

 この「例外なき関税撤廃」という前提について政府は、「あくまでテーブルにすべて載せるということで、交渉に参加しただけですべて関税ゼロを受け入れることにはならない」と説明している。だが、農協はこうした説明を信じていない。

 背後には「TPPは米国の陰謀だ」と主張する識者の声がある。私は「陰謀論」には与しないが、他の多くの外交交渉と同様、TPPにも各国の「戦略」があるのは間違いない。

 TPPはもともとは、二〇〇六年に発効したシンガポール、チリ、ニュージーランドブルネイ四カ国の自由貿易協定が土台だった。ところが一〇年になって米国ベトナムペルーオーストラリアマレーシアが加わって九カ国での交渉となり、様相が一変する。米国がTPP参加の意向を表明したのは〇八年九月。金融危機リーマン・ショックのタイミングである。

 資金の流れを単純に見れば、それまでの米国は貿易赤字や財政赤字で不足する資金を、金融産業が世界から集める資金によって賄っていた。ところが、金融危機によって世界から資金が集められなくなり、貿易赤字の削減が緊急課題になったのだ。そうなれば、輸出を増やすことが「国家戦略」となる。実際、輸出拡大に舵を切ったのだ。

 さらに、自由貿易圏として拡大を続けるEU(欧州連合)に対応するためにも、米国中心の自由貿易圏の創設が必要だ。その際、世界の成長エンジンであるアジアを取り込めるかどうかが鍵になる。オバマ政権が「アジア優先」の戦略を掲げ、TPPを進めようとしているのはこのためと考えられる。

貿易の拡大以外に道はない

 では、日本はどうするのか。陰謀ならぬ戦略をどう描くのか、である。

 政府では国家戦略室がTPPについての情報収集に当たった。そのうえでまとめた「戦略」が、FTAAP(アジア太平洋自由貿易圏)を最終目標にするというものだ。これはAPEC(アジア太平洋経済協力)に参加する二十一カ国・地域が貿易や投資の自由化を進める構想。そこへ至る道筋の一つがTPP参加だという位置付けである。東南アジア諸国連合(ASEAN)の自由貿易協定に日・中・韓FTAを加える交渉も並行して推進するという立場だ。つまり、民主党政府は基本的に自由貿易を推進するためにTPP交渉参加は必要と考えているわけだ。

 もともと民主党政府が導入した農家戸別所得補償制度は、農業保護関税の撤廃とワンセットの政策だったという。安い農産物が入って来ても戦えるように所得補償をするという発想だったというのだ。これによって農業経営の大規模化を促進し、競争に勝てる農業を実現しようという考えだ。だから本来の民主党は、農協が何と言おうとTPP推進でいくという腹積もりなわけだろう。

 では、一方の自民党はどうか。安倍晋三氏の総裁選での公約によれば、TPPについては「聖域なき関税撤廃を前提とする交渉には反対」とある。一方で、EPAやFTAは促進するともあり、玉虫色だ。ただし、民主党の農家戸別所得補償については「バラマキ」と批判してきた。「交渉の結果によっては例外もあり得る」としてTPPの交渉に参加するか、TPP参加を見送って戸別所得補償を打ち切るか、政策だけをみれば、どちらかの対応になるということなのだろうか。

 少子高齢化によって国内市場の成長力が鈍化する中で、日本が豊かさを維持しようと思えば、ヒト・モノ・カネの動きを活発にする貿易の拡大以外に道はないのは明らかだ。国内需要が減る中で、農業にしても現状のままでは自滅する。日本という国が鎖国をしては生きていけないことがはっきりしている以上、貿易交渉から逃げるわけにはいかない。ただし、参加する以上、その交渉で勝ちを収める覚悟がいるのは当然だ。